【自主レポート】

私たちとアジアの架け橋:ラオスに公共図書館をつくる

愛知県本部/自治労愛知「アジア子どもの家プロジェクト」

1. はじめに

 中央本部の「アジア子どもの家」事業をきっかけに発足した自治労愛知「アジア子どもの家プロジェクト」(以下「プロジェクト」と呼ぶ)は、1996年秋以来、労働組合内のボランティア組織として、現在まで8年間の足跡を残してきた。プロジェクトは自治労名古屋市労働組合から始まり、県本部レベル、さらには東海地連へと活動の場をひろげた。
 2000年夏までのプロジェクトについては、同年の全国自治研集会でレポートしたが、この前半4年間の活動で次のような原則・スタイルを作ってきた。
 ① 動員型ではなく、組合員の自主参加型の運動を。
 ② 現地と一方通行ではなく、双方向の交流を。
 ③ 活動は「具体性」「継続性」があり、「等身大」のものを。
 後半、つまり現在までの4年間においてもこれらの原則は維持できたと考えるが、以下次項から報告したい。

2. ラオスの図書館を現地調査

 プロジェクトは2000年6月に、ラオスの図書館の状況を調査することを目的にスタディツァー(参加8名)を行った。わずか1週間の短い期間ではあったが、「子どもの家」や国立図書館の施設や活動の状況のほか、首都ヴィエンチャン近郊で移動図書館車が巡回する農村、小学校の図書室、大学図書館、さらにはラオス第二の都市ルアンパバーンの子ども文化センターなどを精力的に見て回った。見学先ではできるだけ関係者から話を聞き、国立図書館職員との意見交換の機会も持った。またこの調査の際に協力を得たシャンティ国際ボランティア会(SVA)の現地事務所に、国立図書館から全国の図書館配置の状況を聞き取るよう依頼した。

3. なぜ公共図書館が必要か

 その結果、次のようなラオスの社会・文化の現状が明らかになり、プロジェクトの活動も絵本を届ける運動や移動図書館支援だけでなく、各地方が公共図書館を設置・運営し、これを支援する重要性がいっそう感じられたのであった。
 ① 小学校の就学率に比べ修了率が大きく落ち込んでおり、成人識字率も60%程度と低い。子どもも大人も誰もが、日常に近いところで学べる場が求められているが、そのためには学校だけでなく公共図書館が必要である。
 ② 図書の出版は、全国で年間50点程度と非常に少ない。
 ③ 加えて周辺国からの文化流入が大きく、出版を含め自国語の文化を蓄積し育成する場が求められている。
 ④ 公共図書館は、首都でも国立図書館を除くとNGO運営の小規模のものしかない。ヴィエンチャン以外の地域にはほとんど設置されていない。設置されている場合でも蔵書は少なく、その内容は古い。
 ⑤ 図書館職員による全国組織(図書館協会)は存在せず、能力向上のための研修の機会もきわめて少ない。
 プロジェクトは、各地方の拠点としてモデルになる公共図書館が求められていると考え、具体化に取り組み始めた。

4. 広がる情報格差:地方へ建設

 2001年、図書館調査ツアーを踏まえ図書館建設支援の準備を始めた。
 ラオスでは、地方には図書館や書店もほとんどなく、本と出会う機会は極端に少ない。首都と地方の情報格差は拡大するばかりである。そうした現状を考慮し、地方への建設を前提に検討を進めた。また候補地の絞り込みにあたっては、行政や住民に図書館への希望や理解があること、将来的に自立した運営が可能である点を重視した。
 ラオス図書館関係者と調整の結果、ヴィエンチャンから約500キロ南に位置する「サワンナケート県」を候補地とした。県庁所在地に建物の一室を利用した40mほどの図書館があり、職員が2名いるとの情報も大きかった。また図書館建設支援を進めるにあたり、亡くなった自治労名古屋組合員の遺族からの寄付が後押しとなった。

5. 公共図書館の重要性を共有

 2002年1月、会のメンバー2名がSVA図書館スタッフ、国立図書館職員と、サワンナケート県を訪問。計画具体化に必要な情報を集めるため、建設予定地、街の様子、図書館、子ども文化センター、学校図書館など関係施設を視察した。また情報文化局長など県関係者と協議を行った。協議では、公共図書館の重要性を共有、お互いに力を合わせ図書館建設にあたることを確認した。その後の事業展開を思うと、早い段階での現地訪問、関係者との協議は、大きな意味を持った。

6. 限られた資金:狭くても利用しやすい図書館

 施設の規模は、地域状況、蔵書数、活動内容、職員数などを考慮し決められるべきものである。しかし今回の図書館建設・運営支援は、その財源をカンパでまかなうために、資金から施設規模を決めざるをえなかった。力量の限界とはいえ、資金と事業のあり方についてもう少し時間をかけ検討すべきであったかもしれない。ただ、施設が大きくなれば運営費の負担が大きくなる。図書館の予算がほとんどないラオスの現状を考えると、開館後の運営費を考慮し検討することも必要ではないか。
 限られた予算をにらみながら、狭くても利用しやすく無駄のない図書館をつくるために現地と厳しい協議を重ねた。そして、大人も子どもも一緒に利用できる図書館、基本的な活動が可能な広さ、資金の限度などを考慮し、面積を220mとした。(資料

7. 図書館を一緒につくる:図書館研修受入とチャリティコンサート

 サワンナケートの図書館は、狭く資料も少ないこともあり、子どもへのサービスを実施していなかった。新館になれば子どもがドッと押し寄せることが予想されることから、職員を名古屋へ招き研修を行うこととした。併せて、支援を広く呼びかけるため、SVA図書館スタッフで歌手でもあるソムサックさんのチャリティコンサートを計画した。
 2002年10月、自治労名古屋誕生イベントに合わせて取り組まれた研修とコンサートは、組合員との友好を深めるよい機会となり、収益金も建設資金に当てることができた。終了後、サワンナケート職員アートパントーンさんは「今までできなかった子どもへの活動を大切にしたい」、ソムサックさんは「自分の歌がラオスの図書館建設に役立てることに今までにない喜びがある」と語った。
 研修とコンサートを通し、「図書館を一緒につくる」という目標に気持ちがひとつになれた。一方通行でなく双方向の交流の大切さを痛感した。

8. 共に学び合う:図書館研修と経験交流

 図書館の支援を進めるとき、施設などハード面の支援だけでなく、人との関係や活動の継続性も大切である。今回の図書館建設支援にとって、2002年1月の「ラオス図書館研修」へ講師派遣(組合員3名)、2003年12月、サワンナケート県立図書館運営支援へ2名の組合員派遣の果たした役割は大きかった。
 図書館の仕事を共通の世界としてラオスと日本の図書館員が経験を交流し学び合うことにより、一方的ではない新しい関係が生まれたように思う。また、専門家派遣や移動図書館支援など継続した活動や交流がお互いの信頼関係を深め、サワンナケート図書館支援を進めるうえで良い影響をもたらした。
 注)これらは、自治体国際化協会の専門家派遣制度と自治労本部の支援で実現した。

9. 運動の広がり:東海地連、学習会とカンパ活動に取り組む

 当初「自治労愛知アジア子どもの家プロジェクト」の活動のひとつとして始まった図書館建設支援であったが、東海地連、自治労本部の理解と協力を得ることができ、次第に運動の裾野が広がっていった。2002年秋、地連の学習会も開かれ、2003年2月~4月にかけ4県本部のカンパ活動取り組みも進められた。カンパ活動は大変であったが、予想以上のカンパに組合員の熱い気持ちが伝わってきた。(資料

10. 顔の見える関係を実感:図書館まつりと絵本贈呈式スタディツアー

 2003年9月5日、東海地連関係者も出席し開館式が開かれた。12月には、開館記念事業としてラオスで始めての「図書館まつり」に取り組んだ。東海地連としてスタディツアーを計画。19名の参加があった。今回は、「お客様」としての参加ではなく、図書館まつりを地元図書館関係者、子ども文化センターの子ども達、SVA図書館スタッフと「一緒につくる」ツアーとした。また、組合員が日本語の絵本に翻訳シールを貼った絵本約300冊の贈呈式も兼ねていた。
 まつり当日、参加者は早朝から「水風船つり」「紙おめんつくり」「似顔絵バッチ」「おりがみ」「ラオス語での大型絵本の読み聞かせ」など各コーナーを担当し、最後は全員でラオスの子ども達との劇「おおきなかぶ」を演じ、歓声につつまれた。小学校へのポスター依頼や学校訪問など事前準備が功を奏し、延べ1,500人が集まり大盛況だった。子ども達からは、「また図書館まつりをやって」との声も聞かれた。第2回を目指したい。
 ツアー参加者のひとりは「当日はたくさんの子ども達が詰めかけ、生き生きした目の輝きに包まれる中、「支援」などという堅苦しい言葉とは別の、現地を訪れることでしか得られない「顔の見える関係」を実感することができた」(機関紙『自治労三重』より)と記している。

11. 開館3ヵ月:親子で手を携えて

 図書館の利用状況は、子どもは予想通りの賑わいをみせ、心配していた高校生や成人の利用も想像以上であった。明るく入りやすい建物、土曜日開館、新しい資料の充実などが大人の利用につながったと思われる。また今回、大人と子どもが一緒に利用できる図書館を目指してきたが、いままでラオスにはそうした図書館がなく、受け入れられるか心配な面もあった。しかし、母親が小さな子どもの手を携え来館し、子どもに絵本と自分の本を借りていく姿を目にすることができ、今後への期待が膨らんだ。

12. 「図書館ができてうれしいよ」:図書館利用者にきいてみました

 12月、利用者が新しい図書館にどんな希望を持っているか、来館者に直接インタビューした。(詳細は資料参照)新しい図書館については「図書館ができてうれしいよ」「古い図書館も利用していたが全然違う」などと好意的であった。図書館への希望は、子ども達は、折り紙、工作、人形劇、図書館まつりなど多彩な活動、成人は幅広い資料や新しい資料要求が強かった。20名ほどへの簡単なインタビューであったが、住民の図書館への要求や期待の大きさを知り、図書館支援の必要性を改めて確認することができた。

13. 開館後が大切:運営支援をスタート

 図書館は開館してからが重要である。新しい資料の充実、活動の広がりなど、利用者の多様な要求に応える努力を継続しなくては、単なる本の倉庫になりかねない。サワンナケート県の自立的運営を基本としながらも、一定期間の支援が必要との判断から、東海地連は3年間の運営支援を決定し自治労本部の協力を得ながら準備を進めている。主な支援内容は、資料の充実、職員研修、建物周囲の環境整備、相互交流を考えている。

14. さいごに

 ラオスでは、10年に渡る読書推進運動などの成果を基礎に公共図書館建設への動きも広がりを見せている。サワンナケートにつづき、南部のパクセー、北部のルアンパバーンなど各地で図書館が開館した。いま、地方の図書館が相互に協力し活動経験を交流するためにも、図書館ネットワークの拠点となる首都ヴィエンチャンへの図書館建設、人材の育成、図書館協会の創設が緊急の課題となっている。
 2004年、私たちは「自治労愛知アジア子どもの家プロジェクト」発足に関わり、サワンナケート図書館建設に大きな役割を果たしながら、昨年12月病に倒れた故自治労名古屋前石田委員長の「ラオスに図書館を建設して欲しい」との遺志と親族の寄付を受け、新しい図書館建設の検討を進めてきた。それを契機に、いま自治労内部で「ヴィエンチャン市立(石田メモリアル)図書館と多目的子ども文化ホール」支援共同プロジェクトが動き始めようとしている。この新たな文化拠点の誕生を自治労アジア「子どもの家」運動、サワンナケート図書館支援の発展と位置付け、今後もラオスにおける新たな課題へ関わり続けていきたい。

(写真説明)熱気あふれる図書館まつり

資料 ラオス一口メモ・サワンナケート

資料 <自治労東海地連国際連帯カンパ>

資料 図書館平面略図・風景

資料 サワンナケート県立図書館利用者インタビュー一覧