【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

道立試験研究22機関の一元化・一般型独法化による地域への影響・問題・課題

北海道本部/全北海道庁労働組合・試験研究評議会

1. はじめに

 地方自治体財政は、バブル経済崩壊に伴う景気対策として行った度重なる財政出動と、三位一体改革により悪化する一方にある。このため、国は地方自治体が公務リストラを行い易い制度を整えてきた。その1つが「指定管理者制度」や「市場化テスト」等の公務開放、公共サービスの切り捨てや低下させ、職員を公務定数外とする「地方独立行政法人制度」である。
 これを受け、北海道は「新たな行財政改革の取り組み」と銘打って「職員数適正化」として約2万人の職員数に対して6千人の職員数削減計画を提案してきた。この中に「徹底した事務事業の見直し」「本庁・支庁、出先機関の見直し」と並んで「道立試験研究機関の地方独立行政法人化」が盛り込まれている。
 ところで国の出先機関である国立研究機関(国研)、病院、公益法人等は2001年に独立行政法人化、国立大学(国立大)は2004年に大学法人化している。これまで一般報道では、法人化後の各機関の評価はお役所的な体質が改善されたことを代表とするメリットだけが強調されてきているが、内部的には運営費不足が加速化したことに伴う事業費等の不足、契約・非常勤・任期付研究員等の増加等に代表される雇用条件悪化など様々なデメリット面が噴出してきている。
 この先例から見ても、地方自治体の出先機関法人化には多大な問題があることを示唆するものである。今回、我々は、道当局が進める独法化検討の問題点と道民に及ぼす影響等について検討したので、その内容を以下に報告する。

2. 公設試験研究機関と道立試験研究機関

 地方自治体は様々な出先機関を有しているが、都道府県と政令指定都市等に設置されている公設試験研究機関(以下公設試)もその1つである。その数は、総計500機関以上にも達すると言われている。設立目的は、先端的な研究を目指す国研や国立大と違い、地域産業の活性化、地域ニーズや首長・国の施策に直結した調査研究・技術開発を行うことが主である。近年は、海外からの研修生の受け入れ等の国際貢献も含めて広がってきている。都道府県に一様に設置されている農畜産業、水産業、林業、工業、環境衛生を対象に試験研究を行う公設試以外にも、地域の特産・特性を活性化するための目的に特化した、例えば、茶業試験場(静岡県)や薬事研究所(富山県)、地質研究所(北海道)等の地域独自の機関もある。公設試は、国研等に比して人員・財政的な規模は小さいものの、逆に地域に密着することで緊急性も含めた様々な課題に対応してきた。しかし、全国的には行財政効率化の観点から、農業試験場や畜産試験場といった支援産業が類似するような機関が統合される傾向にある。
 北海道(以下道)が設置している公設試(以下道立試)は、古くは1901年に農業試験場や水産試験場の前身が設立されているが、戦後直後に復興に合わせて地域からの要請に応じて開設されたものが多い。各機関は機能強化に伴う拡充・新設等もあるが、地域ニーズの低下等により縮小、廃止されたものもある。時代の情勢・歴代知事の政策等に合わせて改組・変革を行ってきており、行政区域が広大であることから地域に配置された結果、現在26機関に達している。
 道立試は、同じ出先機関である保健福祉事務所、土木現業所、道税事務所等と違い、実施する業務の性格上から一般道民の生活に直結していないことが多い。得られた結果を支庁や本庁を通して公開、普及センター等を介しての技術指導・普及を行ってきたことや道や国の政策と直結して試験研究を行うことが多かったため、守秘義務遵守の意味もあり宣伝・広報と言ったことを控えてきたために、その存在が道民に広く意識されることは少なかったと見られる。

<道立試験研究機関名と所在地>
原子力環境センター(泊村)、アイヌ民族文化研究センター(札幌市)、環境科学研究センター(札幌市)北海道開拓記念館(江別市)、衛生研究所(札幌市)、地質研究所(札幌市)、工業試験場(札幌市)食品加工研究センター(江別市)、中央農業試験場(長沼町)、上川農業試験場(比布町)、道南農業試験場(北斗市)、十勝農業試験場(芽室町)、根釧農業試験場(中標津町)、北見農業試験場(訓子府町)、畜産試験場(新得町)、花・野菜技術センター(滝川市)中央水産試験場(余市町)、函館水産試験(函館市)、釧路水産試験場(釧路市)、網走水産試験場(網走市)稚内水産試験場(稚内市)、栽培漁業総合センター(室蘭市)、水産孵化場(恵庭市)林業試験場(美唄市)、林産試験場(旭川市)、北方建築総合研究所(旭川市)

3. 道立試に対する一元・独法化の検討過程

 道立試は、その業務推進に当たっては地域住民や事業部局と一体となって行ってきた。近年は国の科学技術振興政策を反映して方向性として先端的な研究が道から要請されてきたことから、研究機能の強化・改編については、企画振興部科学技術振興課(以下科技課)が受け持った。この間、道財政が悪化の一途を辿っていることから、給与削減、業務縮小・廃止以外にも道は様々な手だてを打ち始めた。人員削減策として地方独立行政法人制度導入を進めることにし、札幌医科大学と道立試が対象とされた。
 道は2006年度に、科技課が管轄する「研究推進本部」に「地方独立行政法人制度活用検討会議」を設置して、法人化を前提とした様々な項目について検討を行った。同会議の「幹事会」(2007年4月開催)で「道立試験研究機関における地方独立行政法人制度活用に関する検討結果について(案)」が最終案として上程され、検討会議で承認された。これにより導入に向けた事務作業が科技課から総務部へ移り、事実上の実施に向けた作業が本格化した。
 これに伴い、総務部行政改革局(以下改革局)に独立行政法人担当の参事を設置した。同時に道立試の地方独立行政法人制度の導入に係る方針を検討するため、試験研究機関改革・法人化検討会議を設置した(2007年6月)。この組織内に設けるワーキンググループ(WG)で討論を行い、「道立試の改革・法人化に関する(案)」について道議会四定議会を経て、成案とする予定であることを職員に通告してきた。
 改革局は検討材料として案についての「改革のフレーム・論点」を提示し、関係部局に意見を照会した。2回目のWG開催時には「(仮称)道立試験研究機関の改革及び地方独立行政法人制度導入に関する方針(原案)」を提示し、意見照会後、9月の道議会総務委員会にて報告した。原案の概要は次の通りである。


(1) 法人の設置形態
   単一法人として設置し、複数分野の試験研究機関を一つの法人によって運営する。
(2) 地方独立行政法人制度導入の対象機関
   26の試験研究機関のうち、22機関を対象とする。
(3) 法人の区分
   地方独立行政法人法の規定に基づき、一般地方独立行政法人(非公務員型)とする。
(4) 設置時期
   2010年(平成22年)4月1日を目標とする。

 2008年4月からは改革局内に「試験研究機関改革推進室」が設置され、一元・法人化の具体検討が本格化している。今後の動きは不透明であるが、監査法人との情報交換や改革推進室による道立試の見学・意見交換が始まってきている。

4. 道立試の独法化に伴う問題点と課題

 地方独立行政法人法の条文は、制度の意義について、効率的で、質の高い行政サービス、透明性と成果の向上を、うたっている。施行(2004年)後、多くの地方自治体で導入の是非が検討され、積極的に検討している自治体(例えば、東京都、大阪府など)もあれば、導入に慎重・消極的な自治体(例えば、神奈川県、福岡県など)もあり、法人制度の評価は様々となっている。法人制度のメリットとしてうたわれていることは、あくまで可能性であり、そのことが実現される制度的保証や担保は全くないことをよく理解しておく必要がある。なお、2008年4月現在で公設試を地独法人化した自治体は、東京都、岩手県、鳥取県、大阪市でありいずれも母体は工業系の単独機関である。
 一元・法人化された道立試は、道の管轄外となるが、直営時には起こりえなかった多くの問題点が発生することが予想される。以下に制度上と地域における視点から問題点を検証する。

(1) 制度上の問題
 制度上の問題は大きく3つに分けられると考える。
 1つは理事長の資質判断の問題である。地独法人の理事長と監事は知事が、理事は理事長が任命すると法律に記載されている。任命に対して、その人物の資質や実績に基づく評価、自薦・他薦による決定といったことの取り決めごとはなく、道の特別職クラスの権限・給与相当にも関わらず就任に関しての審査はないに等しい。特に問題となるのは、科学的な高い実績を有し、道における地方産業動向を熟知し法人の経営能力も合わせて持ち合わせているかの判断基準を持たないことである。これに関した問題は経営が社会問題化した新銀行東京の経営陣の人事で起きており、「人事は経団連から推挽を受けて引き受けたが、その人の能力を審査する知識も能力も都側になかった」と知事がコメントした例がある。
 2つめは予算使途に関してのチェック体制の問題である。法人が行う事業に対しては、3~5年の中期計画を策定した上で、議会の決議を経るが、毎年の事業計画等は知事に届けて公表するだけである。また、情報開示に関する義務規定はなく、住民監査請求や住民訴訟などは必ずしも規定されていない。道に準じるとは言っても、道と法人とは別組織であり年月が経るに従い、チェック機能の形骸化や喪失する危険性は否めない。実際に、過去に設立された第三セクターのような機関において、議会や住民による監視の及ばなかった結果、法人代表者の独断先行を許し、腐敗の温床となってきたことを忘れてはいけない。
 3つめは採算性の問題である。法人化が可能な業務としては、試験研究に加えて、公設大学、病院、水道事業等がある。法人の収入構造は、設立団体からの運営費交付金と外部資金が主たるものになる。病院や水道事業の外部資金である料金収入は、交付金額を上回るだけでなく、負担者が不特定多数と幅広く、経年的な収支見通しが立てやすいことに対して、試験研究機関ではそれが限定的と考えられる。外部資金の受託方法としては試験研究費を提供する財団や機関等へ応募するか、試験検査依頼等により使用料金収入の2つの方法になる。前者は大学、国研等との競争になり受託する確率が非常に低く、後者は受益者が限られることもあり収入としては多大なものを期待できない。収入手段として外部資金獲得の努力は怠るべきでないものの、それを主たる柱とすることは経営上非常に問題がある。
 加えて、試験研究の成果は、様々な試行錯誤を経て、一つ一つ積み重ねて、時間をかけて得るものが多く、多くの成果は道民に直接還元するということではなく関係団体や利用者を介すか、道の施策を経由して反映されることから時間を要する。試みる試験研究の全てが成果となることはあり得ず、効率だけで評価できる業務ではない。

(2) 公共サービス・地域貢献としての問題
 道が提示した、「法人化」、「一般型」、「22機関一元化」、「平成22年4月開始」とした場合の地域への影響を考える。
 第1の法人化については、問題点は先に一部上げてあるが、経営的観点・採算性重視といった方向にシフトすることから、公平・中立性、安価な公的サービスの視点ではなくなる。経営を着実に実行するため事業計画を設定し、事業終了時には経営的観点からの外部評価が待ちかまえているため、コスト削減とコストパフォーマンス最優先の運営に切り替わらざるを得なくなり、住民ニーズへの対応第一で行っていくことは非常に困難な事態になると想定される。その結果、サービスの程度に応じて利用者に対して直営時より多大な負担を求めることが予想される。
 これに対し現行の直営では、道立試が道立かつ公務員であることにより、道民全体への奉仕機関・奉仕者とされることから、資金力の有無、都市部や地方であっても一律かつ公平に公務・公共サービスとして試験研究のサービスを受益することが出来る。特に道立試の多くは一次産業創出・育成を目的としていることから、必然的に利用者の多くは地方・僻地に多く存在することからサービス格差の抑制になっている。
 第2の一般型は、地方独法では特定と一般型が規定されており、前者は公務員身分を担保し、サービスに対して公共、公平性を維持することが記載されている。後者は、母体が公的機関でありかつ設立団体が地方自治体であっても、それを放棄しても良いとされており、事実上の民営化を容認している。(1)で上げたように試験研究は、投資的機能が大きいことから経営的視点に立つと非効率的な機関である。公的機能維持が外れた場合、採算性の観点から地方に立地している機関の存続自体が危ぶまれる。
 第3の一元化は、総務部門の効率化は可能かも知れないが、農畜産、水産、工業、環境といった、幅広い分野を1つにして試験研究機能を統合することは事実上、不可能である。大学でも基礎的な学部は統合しておらず、分野を跨ぐ研究は別途、時限的な機関を設立して対応しているのが実態である。
 第4の検討期間が2年にも満たないことは、例えば国レベルの耐震を強化した建物の建て替えのみならずシステム投資の設計等など、適切な投資と検討を行う時間が保障されているかといった問題に加えて、多大な財政赤字状況下にある道に投資するゆとりがあるのか疑問である。投資せずに法人化するなら、公的機関として様々な負担が軽減されている現状の直営の方がメリットは高い。また、道民に対する報告、告知に関して十分な意見集約を行える時間があるとは考えられない。

5. 公共サービスとしての道立試

 4に上げた問題点は、安全性を担保し、公務、公共サービスの担い手機関を自治体行政の外へ出すことによって生じるものである。地方独法化により、地域住民に責任を持って実施しなくてはいけない地域共通の仕事(=公務、公共サービス業務)を自治体の外の機関へ行わせることは、自治体行政の範囲を狭め、その部分の責任を放棄することにつながるのではないか。
 現在の道立試にも改善されるべき多くの問題点があることは言うまでもないが、一方で道が主権者である道民のニーズに基づいて試験研究サービスを提供して産業振興に取り組むことは、コア業務としての公的責務である。公平に試験研究というサービスを要求し、享受できるシステム、それが公務、公共機関の存立根拠と考える。道立試は道民全体の奉仕者であり、求めに応じて公平にサービスを提供している。それが、道立試が道によって運営され、道職員がその業務を遂行する根拠である。道立試を法人化して民間経営手法に委ねることは、改革にならないばかりか、道行政の後退であり、公務サービスの縮小そのものである。法人化はこれまで地域で密着し、地域住民から得た信頼や経験、蓄積してきた財産を放棄するだけでなく、そのシステムを崩壊させるものである。
 本来、公共サービスはお金で買うものではなく、行政が保障すべきものである。利用者は「顧客」ではなく権利の主体者である。道立試の法人化は、基本的人権としての公共サービスという考えが欠落している。

6. 今後の展望

 道は、一元・法人化について、道民各層から多様な疑問が出ようとも、「総合力の発揮」「自律的な運営」「外部との連携」「効果的・効率的な運営」の一元・法人化の必要性とメリットのみを強調するのみで、具体的な答弁は一切していない。一方、合わせて常に「行財政改革の推進、寄与」を答弁している。このことは、道が押し進める行財政改革の本質は、道庁の企画部門中心主義(事実上の出先機関不要論)とも結うべき「コンパクト道庁」思想が背景にあることを、今一度、確認しなければならない。
 これまで、様々な運動を展開した結果、道立試の一元・法人化に対する問題点の理解や阻止運動への協力を得たのも事実であり、4市町で開催された地域シンポジウムでは道立試が地域に根づき、必要とされていることも改めて認識され、道議会の場においても道の一元・独法化方針に対して附帯意見が採択された。しかし、今後については舵取りが非常に難しく、将来あるべき道立試のあり方と職員自治に裁量を持たせた雇用と研究条件を勝ち取るための戦略を持つことが不可欠である。研究評としては、2つの「ものさし」(ダブルスタンダード)で、対応していくことにならざるを得ない。2つの「ものさし」とは、「阻止運動の継続」と「あるべき試験研究機関で働きやすい条件の確保」と言うことである。そのために、今一度、道立試の一元・法人化は問題点が多数あることを忘れず、道民の目線に立った視点に帰り、問題点を再認識する必要がある。
 その問題点は以下の6点に集約されると考えられる。


● 利用者の負担が確実に増えます
● 公共性と中立性が損なわれます
● 住民監査請求ができません
● 研究成果の普及が非効率化します
● 道財政が厳しい中で、新たな費用負担は許されません
● 調査研究環境・雇用条件が劣悪化します

7. まとめ

 少子・高齢化の進行、地方財政の悪化、道州制への移行過程にあること、官から民へなど地方公務員を取り巻く環境は変化しており、とりわけ出先機関の存在意義が問われてきている。その中で道立試は地域に密着して産業の創出・活性化・地域環境保全に対して重要な役割を果たしてきた。
 この地方独法という制度については、「効率化」、「透明性」、「自律性」など、響きの良い言葉ばかりが強調され、実際上の問題点についてはほとんど触れられていない。もし道立試が地独法人になれば、経営効率が優先され、それまで実施してきた公共サービスの後退等種々の利用者への悪影響が懸念される。また同時に、労働条件(身分、賃金水準など)の劣悪化も避けられない。
 そもそも地方独法自体が、地域住民に責任を持って実施しなくてはいけない地域共通の仕事(=公務、公共サービス業務)を自治体の外の機関へ行わせることで、自治体行政の範囲を狭め、その部分の責任を放棄することにつながるのではないだろうか?
 しかし一方では道民の間に、"赤字財政なので、民営化(法人化、指定管理者制度など)してもやむを得ない"とか、"試験研究は道ではなく、法人や第三セクターなどでやった方が効率的ではないか?"、"公務員は高い賃金をもらっているから、法人化で賃下げすべきだ"などと、公務や公務員に対する様々な意見がある。
 今一度、法人化の問題を通して、道が道立試を持つ意義と、現状の問題点や改革の方向について、道民や利用者と率直に意見交換の場を持ち、より魅力的な機関のあり方を一緒に考えることが必要である。同時に今後も道立試の基本的な意義は変わらないことから、あくまでも「22機関の試験研究機関の一元・一般型法人化への移行は道民に対して多大な公的サービスの低下を招き、制度上からも問題がある」と警鐘を鳴らし続けなければならない。


道議会 附帯意見 平成19年第4回予算特別委員会(12月10日提案)
1. 地方財政(略)、2. 支庁制度改革(略)、3. 医師不足等(略)、4. 原油高騰(略)
5. 道立試験研究機関の地方独立行政法人化が検討されているが、産業振興に向けて、地域や企業からの試験研究機関への期待は大きく、行革の観点のみでの検討にあっては、将来に大きな禍根を残すことが懸念される。試験研究機関の見直しは、試験研究が着実に成果を挙げ、それが道民の財産となっていくとの観点で検討すべきである。