【自主レポート】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働 |
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1. はじめに 地方自治体財政は、バブル経済崩壊に伴う景気対策として行った度重なる財政出動と、三位一体改革により悪化する一方にある。このため、国は地方自治体が公務リストラを行い易い制度を整えてきた。その1つが「指定管理者制度」や「市場化テスト」等の公務開放、公共サービスの切り捨てや低下させ、職員を公務定数外とする「地方独立行政法人制度」である。 2. 公設試験研究機関と道立試験研究機関 地方自治体は様々な出先機関を有しているが、都道府県と政令指定都市等に設置されている公設試験研究機関(以下公設試)もその1つである。その数は、総計500機関以上にも達すると言われている。設立目的は、先端的な研究を目指す国研や国立大と違い、地域産業の活性化、地域ニーズや首長・国の施策に直結した調査研究・技術開発を行うことが主である。近年は、海外からの研修生の受け入れ等の国際貢献も含めて広がってきている。都道府県に一様に設置されている農畜産業、水産業、林業、工業、環境衛生を対象に試験研究を行う公設試以外にも、地域の特産・特性を活性化するための目的に特化した、例えば、茶業試験場(静岡県)や薬事研究所(富山県)、地質研究所(北海道)等の地域独自の機関もある。公設試は、国研等に比して人員・財政的な規模は小さいものの、逆に地域に密着することで緊急性も含めた様々な課題に対応してきた。しかし、全国的には行財政効率化の観点から、農業試験場や畜産試験場といった支援産業が類似するような機関が統合される傾向にある。 |
<道立試験研究機関名と所在地> 原子力環境センター(泊村)、アイヌ民族文化研究センター(札幌市)、環境科学研究センター(札幌市)北海道開拓記念館(江別市)、衛生研究所(札幌市)、地質研究所(札幌市)、工業試験場(札幌市)食品加工研究センター(江別市)、中央農業試験場(長沼町)、上川農業試験場(比布町)、道南農業試験場(北斗市)、十勝農業試験場(芽室町)、根釧農業試験場(中標津町)、北見農業試験場(訓子府町)、畜産試験場(新得町)、花・野菜技術センター(滝川市)中央水産試験場(余市町)、函館水産試験(函館市)、釧路水産試験場(釧路市)、網走水産試験場(網走市)稚内水産試験場(稚内市)、栽培漁業総合センター(室蘭市)、水産孵化場(恵庭市)林業試験場(美唄市)、林産試験場(旭川市)、北方建築総合研究所(旭川市) |
3. 道立試に対する一元・独法化の検討過程 道立試は、その業務推進に当たっては地域住民や事業部局と一体となって行ってきた。近年は国の科学技術振興政策を反映して方向性として先端的な研究が道から要請されてきたことから、研究機能の強化・改編については、企画振興部科学技術振興課(以下科技課)が受け持った。この間、道財政が悪化の一途を辿っていることから、給与削減、業務縮小・廃止以外にも道は様々な手だてを打ち始めた。人員削減策として地方独立行政法人制度導入を進めることにし、札幌医科大学と道立試が対象とされた。 |
(1) 法人の設置形態 単一法人として設置し、複数分野の試験研究機関を一つの法人によって運営する。 (2) 地方独立行政法人制度導入の対象機関 26の試験研究機関のうち、22機関を対象とする。 (3) 法人の区分 地方独立行政法人法の規定に基づき、一般地方独立行政法人(非公務員型)とする。 (4) 設置時期 2010年(平成22年)4月1日を目標とする。 |
2008年4月からは改革局内に「試験研究機関改革推進室」が設置され、一元・法人化の具体検討が本格化している。今後の動きは不透明であるが、監査法人との情報交換や改革推進室による道立試の見学・意見交換が始まってきている。 4. 道立試の独法化に伴う問題点と課題 地方独立行政法人法の条文は、制度の意義について、効率的で、質の高い行政サービス、透明性と成果の向上を、うたっている。施行(2004年)後、多くの地方自治体で導入の是非が検討され、積極的に検討している自治体(例えば、東京都、大阪府など)もあれば、導入に慎重・消極的な自治体(例えば、神奈川県、福岡県など)もあり、法人制度の評価は様々となっている。法人制度のメリットとしてうたわれていることは、あくまで可能性であり、そのことが実現される制度的保証や担保は全くないことをよく理解しておく必要がある。なお、2008年4月現在で公設試を地独法人化した自治体は、東京都、岩手県、鳥取県、大阪市でありいずれも母体は工業系の単独機関である。 (1) 制度上の問題 (2) 公共サービス・地域貢献としての問題 5. 公共サービスとしての道立試 4に上げた問題点は、安全性を担保し、公務、公共サービスの担い手機関を自治体行政の外へ出すことによって生じるものである。地方独法化により、地域住民に責任を持って実施しなくてはいけない地域共通の仕事(=公務、公共サービス業務)を自治体の外の機関へ行わせることは、自治体行政の範囲を狭め、その部分の責任を放棄することにつながるのではないか。 6. 今後の展望 道は、一元・法人化について、道民各層から多様な疑問が出ようとも、「総合力の発揮」「自律的な運営」「外部との連携」「効果的・効率的な運営」の一元・法人化の必要性とメリットのみを強調するのみで、具体的な答弁は一切していない。一方、合わせて常に「行財政改革の推進、寄与」を答弁している。このことは、道が押し進める行財政改革の本質は、道庁の企画部門中心主義(事実上の出先機関不要論)とも結うべき「コンパクト道庁」思想が背景にあることを、今一度、確認しなければならない。 |
● 利用者の負担が確実に増えます ● 公共性と中立性が損なわれます ● 住民監査請求ができません ● 研究成果の普及が非効率化します ● 道財政が厳しい中で、新たな費用負担は許されません ● 調査研究環境・雇用条件が劣悪化します |
7. まとめ 少子・高齢化の進行、地方財政の悪化、道州制への移行過程にあること、官から民へなど地方公務員を取り巻く環境は変化しており、とりわけ出先機関の存在意義が問われてきている。その中で道立試は地域に密着して産業の創出・活性化・地域環境保全に対して重要な役割を果たしてきた。 |
道議会 附帯意見 平成19年第4回予算特別委員会(12月10日提案) 1. 地方財政(略)、2. 支庁制度改革(略)、3. 医師不足等(略)、4. 原油高騰(略) 5. 道立試験研究機関の地方独立行政法人化が検討されているが、産業振興に向けて、地域や企業からの試験研究機関への期待は大きく、行革の観点のみでの検討にあっては、将来に大きな禍根を残すことが懸念される。試験研究機関の見直しは、試験研究が着実に成果を挙げ、それが道民の財産となっていくとの観点で検討すべきである。 |