【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

市民と自治体、企業との協働
── NPO側から見た市民活動の推進のために ──

山梨県本部/自治労山梨市職員労働組合・乙女高原ファンクラブ・元事務局長 加々美 修

1. 取巻く情勢

(1) 「行政側からの視点で」
 『少子化・高齢化、環境問題、教育問題、コミュニティ―の崩壊、防災・防犯、魅力あるまちづくりなど、地域社会の課題はますます複雑・多岐にわたり、個別化・多様化してきています。これらの課題に、法令などに基づく公平で画一的な行政サービスだけでは十分対応できないケースが多くなっています。
 こうした中、地域社会の課題に直面し、行政の対応を待つのではなく、市民が備えている潜在能力や資源を発揮して、自主的に、課題解決に向けた多様で柔軟な取り組みが必要であり、NPO、NGOなどの活動が注目をされています。
 こうした非営利で活動を行う市民団体と行政とが対等なパートナーシップのもとに協働することにより、行政ではできなかったきめ細かで柔軟な対応、新しいサービス、課題解決に向けた有効な取り組みが可能になります。
 こうして、従来のように行政が公共サービスを一元的に担うのではなく、多様な主体の協働で担われる「新しい公共」が「多様な価値観を認め合う豊かな地域社会の創造に寄与すること」を目的として、多くの自治体が「協働」という言葉を数多く使い始めました。

(2) 「市民、NPO側からの視点で」
 特定非営利活動促進法が制定されたのをうけ、20世紀後半からNPO法人が乱立してきました。NPOの多くはそれまで純粋に、自分たちの掲げたミッションを遂行しようとしている団体であるが「NPOブーム」を受け、NPO法人を掲げていても実質は営利目的な法人や、非合法な活動を行っている団体なども見受けられるようになってきています。
 また、周囲を取り巻く環境から、「非営利=タダ」との印象が強かったり、財源的に脆弱な団体が多く、自治体や助成団体からの補助金、委託金に頼っている団体がまだまだ多いのです。

2. そもそもNPOを設立した趣旨は

【乙女高原ファンクラブの目的】

乙女高原の自然を次の世代に確実に譲り渡すために、
その自然と、人と自然の関わりを育む

 乙女高原は、牧丘町の西部にある、標高1,700mの亜高山性高茎草原を中心とした地域です。この草原が広く人々に認知されるきっかけとなったのは、1951年のことです。当時、山梨県内にはスキー場がなく、スキー選手は長野県にまで出かけて練習をしていました。県内にスキー場の候補地を探していたスキー連盟の五人がたどりついたのが乙女高原だったのです。
 乙女高原『発見』の翌々年にはスキー場用地使用協議が成立し、第1回東山梨郡下スキー大会が行われています。これより半世紀に渡って乙女高原はスキー場として利用されてきました。
 そして、スキー場として管理するために、毎年初冬、町の青年団等による草刈りが行われてきました。草刈りと同時に草原内に侵入した若木まで刈っていましたので、放置しておけば草原から森林へと遷移が進むはずなのに、遷移停滞が起こり、美しいレンゲツツジやたくさんの草花が咲き乱れる、中部地方の亜高山帯特有の美しい草原景観が永く続いています。
 ところが、涼しくて俗化していない乙女高原を訪れる人は年々増え、それに伴い、様々な問題も起きています。例えば、草原内への踏み込み、ゴミ等の放置、植物や昆虫の違法な採取、帰化植物等の非意図的搬入、遊歩道の土壌浸食などです。
 一方、人手不足によって草刈りできる面積が減少し、その結果として、草原内のいたるところで、止まっていた遷移が進みつつあります。また、雪不足や他の場所での人工スキー場の開設などにより、乙女高原のスキー場としての使命は終わり、2000年3月でスキー場用地使用協議も切れました。つまり、〔今後はスキー場として管理するための草刈りは行わない〕ということになったのです。今後も、この乙女高原の亜高山性高茎草原を保全していくのか、それとも、草原が森に飲み込まれていくのを見守るのか?……乙女高原に関わる多くの人々の間で議論し、ゆるやかな合意を得た上で、実際の作業に取り組まなければなりません。さらに、もし、草原を保全するとしたら、誰が実際の作業をしていくのか、つまり、担い手や受け皿をどうするのか。また、乙女高原で起こっている様々な問題にどう対処していくかについても現状を正確に把握し、適切な対応を取らなければなりません。
 そんな折も折、山梨県の『森林文化の森』事業の対象地域の一つに乙女高原が選ばれ、『乙女高原の森』連絡会議がスタートしました。『乙女高原の森』連絡会議では、乙女高原で行う体験プログラムの目的を『乙女高原の自然を守る』とし、様々な体験プログラムを開催すると同時に、県に対して早急に『乙女高原の森の保全および活用』計画を策定するよう提言しました。私たちは、『乙女高原の森』連絡会議での議論をふまえた上で、乙女高原の自然を守るためには、『乙女高原の森の保全および活用』計画が策定され、『乙女高原ファンクラブ』を立ち上げ、乙女高原の情報を広く発信したり、多くの人で乙女高原(の保全や活用)について議論できるような『場』を用意した上で、乙女高原インタープリターを養成したり、乙女高原ボランティア活動の計画を立てたりしていくことになりました。
 乙女高原ファンクラブの立ち上げは、今後、末永く乙女高原の自然を守り、そして活用していくための第一歩と言えるのです。

(1) これまでの流れ


1998.8

乙女高原自然教育研究会執筆・写真・編集による『乙女高原フィールドガイド』発行。

1999.7-8

乙女高原自然教育研究会主催の「乙女高原毎週自然観察会」開催。

1999.9

森林文化の森「乙女高原の森」連絡会議発足。

2000.3

乙女高原スキー場用地使用協議の廃止。

2000.3

「乙女高原の森」連絡会議主催の「乙女高原を語る」パネルディスカッション開催。

2000.10

「乙女高原の森」連絡会議「乙女高原の森の保全および活用に関する提言」を県に提出。

2000.11

第1回「乙女高原の草原を守る」草刈りボランティア開催。

2000.12

設立準備会設置 設立賛同者を募る(168人)

2001.3

発起人会開催

2001.4

乙女高原ファンクラブ発足 発足記念映画会『明日は咲こう花咲こう』

2001.5

草原内の遊歩道を全面的に改定。土壌流失のひどい遊歩道は閉鎖。新遊歩道開設。

2001.11

乙女高原ファンクラブ公式ホームページ公開開始。

2002.3

第1回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは西丸震哉さん)西丸流自然とのつきあい方

2002.11

やまなし山の日イベント大賞受賞(受賞対象は乙女高原自然講座)

2003.2

第2回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは今井信五さん)インタープリテーション

2003.4

新事業・乙女高原案内人養成講座スタート

2003.6

イタドリの刈り取り実験用コドラート設置

2003.6

新事業・マルハナバチ調べ隊スタート。

2003.10

乙女高原で8月にマーキングされたアサギマダラが愛知県田原市衣笠山で再捕獲

2003.10

土壌観察会(筑波大学土壌環境化学研究室と共催)

2003.11

第4回乙女高原の草原を守る で、キッズボランティア開始

2004.1

第3回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは高橋佳孝さん)なんで草原を守るの?

2004.1

やまなし環境財団より若宮賞受賞

2004.4

(株)田丸グリーン基金より協力参加費をいただく。

2004.6

新事業・イタドリ刈り開始。

2004.7

乙女高原案内人による夏の自主インタープリテーション活動開始

2004.12

真っ赤になったグリーンロッジの屋根について町と町教育委員会に意見書提出

2005.1

第4回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは国武陽子さん)劇団マルハナバチ

2005.4

「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰受賞

2006.1

山梨市民会館ロビーにて乙女高原展開催。

2006.1

第5回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは北垣憲仁さん)乙女百名花、リレートーク

2006.5

月に一度の乙女高原案内人勉強会スタート

2006.6

山梨県観光物産連盟より感謝状をいただく。

2006.9

コカ・コーラ環境教育財団より環境教育賞主催者賞をいただく。

2006.12

山梨鈴木助成事業財団の助成により『乙女高原案内人 誕生と成長の記録』刊行。

2007.1

第6回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは南 正人さん)調べることで…

2007.3

石和サティにて「しあわせの黄色いレシートキャンペーン」に参加。

2007.6

田丸グリーン基金を活用し、マルハナバチのパンフレットを作成。

2007.10

乙女高原案内人勉強会スペシャルツアーとして霧ヶ峰のインタープリテーションを体験。

2008.1

第7回乙女高原フォーラム開催。(ゲストは近藤記巳子さん)アサギマダラ


(2) 「市民・NPOと行政が活動しやすくするためのルール」
① 市民・NPOと行政が対等な立場で活動をする。
② 協働のパートナーである相手を理解し、尊重する。
③ 協働を進める上で、行政、市民、活動団体、事業者の役割を明確にする。
④ 活動には意思の疎通が必要。
  この団体では、そのつどホームページで公開し、メールマガジンや会報で情報公開を行い、オープン性と透明性を持たせたています。自分たちの目指すもの「ミッション」を公開することで他からの情報提供や議論、意見を受けるという体制づくりをしています。

(3) 現在の取り組み
 2008年度の活動計画を掲載しました。
 協働という形を取るという事に重点をおいて活動をしていますので、だれでも参加可能な世話人会を月に1回実施。ミッション毎にも打ち合わせを行っています。また、車座座談会やフォーラムなどを開催しスキルアップや会員の勧誘なども行っています。


曜日

時間

項目

活動内容

場所

対象者

関連

11

9:30~ 14:00

第8回遊歩道づくり

草原内の遊歩道づくり

乙女高原

会員・一般

市・県

25

9:30~ 15:30

第4期乙女高原案内人養成講座①

乙女高原でインタープリテーション活動をボランティアで行う人材養成

乙女高原

会員・一般

 

15

9:30~ 15:30

第4期乙女高原案内人養成講座②

乙女高原でインタープリテーション活動をボランティアで行う人材養成

乙女高原

会員・一般

  

22

 

羊歯(シダ)類観察研修会

シダ類の分類・生態の観察方法の研修

乙女高原

会員・一般

 

29

10:00~14:30

第6期マルハナバチ調べ隊①

マルハナバチの観察・調査

乙女高原

会員・一般

 

未定

 
 

市内小学校の自然教室への支援

 

乙女高原
ほか

案内人

小学校

13

9:30~ 15:30

第4期乙女高原案内人養成講座④

乙女高原でインタープリテーション活動をボランティアで行う人材養成

乙女高原

会員・一般

 

7-8月の週末を中心に

 

乙女高原案内人自主活動

 

乙女高原

案内人

 

9:00~ 13:30

第1期 アサギマダラ調べ隊①

アサギマダラ成虫のマーキング調査

乙女高原

会員・一般

 

10

10:00~14:30

第6期マルハナバチ調べ隊②

マルハナバチの観察・調査

乙女高原

会員・一般

 

31

9:00~ 13:30

第1期 アサギマダラ調べ隊②

アサギマダラ成虫のマーキング調査

乙女高原

会員・一般

 

14

10:00~

第6期マルハナバチ調べ隊③

マルハナバチの観察・調査

乙女高原

会員・一般

 

11

23

日祝

9:30~ 15:00

第9回乙女高原の草原を守る!

草原の草刈りイベント

乙女高原

会員・一般

市・県

12

 
 

10:00~

第6回案内人意見交換会 救急法講習会

意見交換会・懇親会、AEDも含めた救命救急講習。消防署職員に講師依頼。

(温泉)

案内人ほか

 

 
 

15:30~

ようこそ乙女高原へ展Ⅳ

展示作業は世話人・案内人・会員。展示物の募集。

山梨市民会館

会員・一般

市(県)

25

13:00~16:00

第8回乙女高原フォーラム

講演等

山梨市民会館

会員・一般

市・県

15

14:00~17:00

2008年度定期総会 第7回座談会

事業・予算の承認など  懇親を兼ねた座談会

牧丘総合会館

会員ほか

 

3. 協働で活動するための課題点

 協働を掲げる自治体は全国に数多いのですが、地方部を中心に担える人材や団体が不足しているのが現状です。自治体側の多くはそのような場合に官製団体を作成し名ばかりの協働による活動を実施しています。市民やNPOも補助金や助成金を目当てに本来の団体の目的と外れた活動を時として無理に実施しています。また、自治体の下請け的に活動を行っている場合も多く見受けられます。

4. 協働で活動するためには

 市民、NPO側は知識と行動量、柔軟性がある場合が多く、それを理解するためには、自治体職員のスキルアップが必要な場面も多いと思います。職員の一部には既得権益などを守る風潮がありますが、柔軟な対応をして市民活動がしやすい環境づくりや活動への理解をすることが協働で行う活動を推進するために必要なことだと感じます。共同で活動するには、市民及びNPOは行政に安心して活動する場所とギャランティを求めたいのです。


資料1


乙女高原ファンクラブ会則
(2001年4月22日施行  2005年4月1日改定)

第1条(名称)
 この会は、「乙女高原ファンクラブ」(以下「クラブ」という)と称する。なお、ここでいう乙女高原とは、乙女高原とその周辺の地域を指し、山梨県によって指定された「乙女高原の森」の範囲とほぼ一致する。
第2条(目的)
 クラブは、乙女高原の自然を次の世代に確実に譲り渡すために、その自然と、人と自然との関わりを育むことを目的とする。
 クラブは、市民・NGO・NPO・行政(山梨県、山梨市)・企業・学校等が互いに手を取り合い、パートナーシップの精神でこの目的に向かって活動を進めていくための母体および連絡調整機関として機能する。
第3条(組織)
 クラブは第2条の目的に賛同する団体および個人をもって組織する。
 個人会員には普通会員とサポーター会員の2種類があり、普通会員は総会に参加する義務を負う。会員制度の詳細については別に定める。
第4条(活動)
 クラブは第2条の目的達成のために、次の活動を行う。
1. 自然および人と自然との関わりに関する調査
  (自然環境調査、古老への聞き取り調査、文献研究など)
2. 保全目標や保全計画策定のための意見集約
  (座談会の開催、会報による意見募集など)
3. 環境教育の実践
  (自然観察会の開催、自然教室の開催、シンポジウムや講演会の開催など)
4. ボランティアによる保全活動
  (遊歩道の整備、遊歩道のロープ張り、草刈り、ごみ拾いなど)
5. ボランティア・インタープリターの養成と自然解説活動の実施
  (養成講座の開催、自然解説活動のコーディネートなど)
6. 情報交換および情報発信
  (会報の発行、ホームページの開設、メールマガジンの配信など)
7. その他、目的を達成するために必要な活動
第5条(役員)
 クラブに次の役員を置く。役員の任期は2年とするが、再任を妨げない。
1. 世 話 人……20名程度
2. 代表世話人……3名以内
3. 参 与…………若干名
第6条(世話人の選出)
 世話人は、世話人に立候補した会員の中から20名程度を総会において承認する。
第7条(代表世話人の選出)
 代表世話人は世話人の中から3名以内を互選し、総会において承認する。
第8条(参与の選出)
 参与は、会員の総意で選出する。
第9条(役員の職務)
1. 世話人は、クラブの運営にあたる。世話人の中から会計、会報編集、電子情報発信等の担当者を決めることができる。
2. 代表世話人はクラブを代表し、会を統括する。
3. 参与はクラブの運営に対して適切な助言と支援を与える。
第10条(顧 問)
 クラブには顧問を置くことができる。顧問は、会員の総意で選出する。
第11条(会計監査人)
 クラブには会計監査人を置く。会計監査人は、代表世話人が委嘱する。
第12条(総 会)
 総会は会の組織や運営を決める最高議決機関である。代表世話人が招集し、普通会員の半数以上の出席をもって成立する。議案は出席人数の過半数の賛成をもって可決される。
第13条(世話人会)
 世話人は世話人会を組織し、会の組織や活動に関して協議する。世話人会は代表世話人が招集する。
第14条(事務局)
 事務局は、事務局担当世話人宅に置く。
第15条(運 営)
 クラブの運営経費には受託金、寄付金、助成金およびその他収入を充てることができる。
第16条(補 則)
 この会則に定めるものの他、クラブの運営に関して必要な事項は、世話人会または総会を経て、代表世話人が定めるものとする。
付 則  この会則は2001年4月22日より施行する。
     2005年4月1日 改定