【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

地域自治研センター創設のすすめ
=自治研活動で"おもい"を"かたち"に=

福井県本部/NPO法人 丹南市民自治研究センター

あれは今からちょうど8年前。
そう……2000年山形自治研集会の帰りのバスの中。
全国津々浦々、各々の地域で様々な自治研活動に取り組んでいる自治労仲間の
いずれも素晴らしい実践報告レポートに衝撃を受けた私たちは、
「自分達も自分達の地域の中で、なにかアクションを起こしたい
「市民とともに改革してみたい課題は、無尽蔵 いくらでもあるぞ
「そうだ 帰ったら仲間を募って"地域自治研センター"をつくろう」と、
極めて"ハイテンション"かつ"楽天的"に盛り上がったのでした。

―― ……あのときの……自分達のように……
"自治研"に"何か"を求めて、
本集会に参加された仲間のみなさんに、
このレポートを捧げます。

いつかきっと
『小さな"地域"の、小さな"市民自治"の積み重ねによって、
"この国のかたち"が大きく変わっていく』ことを信じて……

 

地域自治研センター創設のすすめ
=自治研活動で"おもい"を"かたち"に=

 ここは、どこにでもある地方都市の、どこにでもあるような居酒屋の一景。
 カウンターには、これまた、どこにでもいるような30歳そこそこの青年が二人酒。
 どうも仕事帰りの自治体職員らしい。
 紺のブレザーを着た青年がひとしきり愚痴をこぼしている。
 「まったく今日来た市民は最低だよ。"そういう制度は無いです"っていったら、もうボロクソ。制度が無いのは、俺のせいじゃないって言うのに……。たしかに市民の人の気持ちはわかるよ。制度の必要性もわかる。でも俺たちみたいな下っ端は、条例や制度が無い以上は何もしてあげられないんだから。それにしても何で市民は、俺たちみたいな下っ端にばかりやつあたりしてくるのかな?」
 相方の青年はグレーのスーツ、少しばかりネクタイが撚れている。
 「そうだよな。カウンターのあちら側とこちら側で、いがみ合ってばかり。俺も、自分の故郷を良くしよう 自分の頑張りで、市民の福祉を向上させよう と意欲満タンで市役所に入ったのになぁ~。上司に事業の改善策を提案しても"まあまあ、そのうち"とか"まずは国が動かなきゃ"なんて言われるだけで、ぜんぜん聞いてもらえないし。それに最近はテレビでも新聞でも公務員批判ばかり。景気の悪さのせいで、地域の寄り合いに出ても"あんちゃんは市役所でいいのぉ~"って冷やかされるし……。もうウンザリだよ。」
 さて、ここの居酒屋の親父は、苦労人の親父。とっても頑固で、怒らせたらこの上なく怖い親父だが、その実、慕ってくる若い衆の面倒見はとてもいいと評判の親父だ。
 親父、しばらく二人の会話に聞き入っていたが、ついに堰を切って一言。
 「ブレザーのにいちゃん。市民の人は、あんたらが何もできないことぐらいわかってるんだよ。でも自分の抱えている問題を聞いて欲しいんだ。そして、一緒に悩んで欲しいんだ。
 (役所の中にも)一緒に考えてくれる人がいる……市民ていうのは、ただそれだけで随分と救われるもんなんだよ。
 それに、スーツの兄ちゃん。上司に提案することが、あんたができることの全てかい?
 ダメな上司なんて、サラリーマンやってりゃ、どこにでもいるよ。
 あんちゃんの提案を実現する方法は他に無いのかい。
 どんな市民も、定年間際の部課長あたりには、なんも期待してないよ。
 あんちゃんたちみたいなやる気とアイデアのある若い職員にこそ期待してるんだ。」
 やさしく、なだめるように語る親父。
 「まあ、難しい話はこれぐらいにして、とりあえず、あんちゃんたち、この鍋、喰ってみろ これは俺のおごりだ。」
 親父は、にやっと笑いながら、グツグツいってる鍋を二人の前に差し出した。
 「これは"自治研鍋"って言うのさ。あんちゃんたちみてえなのに喰わせたくて作ってみたんだ。さあ食べてみな。ちょっと他にはないおもしれえ味だぞ。」

to be contined


 さあ、ここまで読まれ「自治研鍋(なべ)」に興味を持たれたみなさん。
 今日はみなさんに、その"レシピ"をコソッとお教えいたします。

用意する材料(1人前)
 自らの仕事に誇りとやる気を持つ行政職員の"汗"  200cc
 切なさと悔しさからこぼれ出る当事者市民の"涙"  200cc
 社会貢献活動に燃える市民活動家の"熱意"     大さじ二杯
 先駆的実践事例、調査研究データなどの"情報"   少々

用意する道具
 大鍋(組織内議員が持参するなら一層good)   1個
 組織"ネットワーク"力抜群のカセットコンロ    1セット

作り方手順
1. 大なべの中に、自治体職員の"汗"と、当事者市民の"涙"、さらに市民活動家のまちづくりに寄せる"熱意"を同時に入れ、勢いよくかき混ぜる。
2. 先進的な自治体独自の制度・政策情報、先駆的な市民自治活動の実践情報、調査・研究データなどを丁寧に収集し、それらをお鍋の表面にふりかける。
3. 中火で2~3年じっくり加熱したあと、組織(自治労組織・地域のNPO)の火力をマックスに使い、一気に煮込んで完成させる。

自治研鍋の特徴
1. 元来、"食べ合わせ"として避けられてきた「市民」と「行政職員」。それが、ひとつの鍋の中で否応無く混ぜ合わされ融和することで、それぞれの素材が持っている旨みを一層引き立たせることができる。
2. 自治労は100万人の全国組織。その"全国ネット"という最大利点を活かし、全国津々浦々の"自治労"仲間から収集した"先進自治体情報"、および地域で地道に活動するNPOや当事者仲間から得たレアな"地場情報"が、次代のニーズや地域のニーズにマッチした旬の風味を醸し出す。
3. じっくり、ゆっくり時間をかけて煮詰めることで、食材固有の硬くとんがった食感も自然に緩和され、まろやかでとろけるような味わいに仕立てられる。
  なお、仲間全員で鍋を囲み、十分に仕立て上がるまで時間を共有するという行為は、せっかちな市民活動家特有の"おこげ"現象や、一人きりで燃え尽きがちな自治体職員の"空焚(からだ)き"現象を防ぐ効用もある。
4. 鍋の中で出来上がった"制度・政策提案"を、自治労単組や連合地協が、春闘や秋闘で制度政策要求として取り上げる。また同時に市民活動団体(NPO等)が市民運動の手法(=署名運動、募金活動、イベント・市民集会の開催)によって、その必要性を直接、世論に訴える。さらに組織内議員が、オフィシャルな舞台(議会)で政策提言していくことで、まさに『おなべ』という"大衆料理"の真骨頂が発揮される。

=あなたのまちでも「自治研なべ」を作ってみませんか?=

 あなたは、直接市民とふれあう現場だからこそ直面する数多市民の"不安"や"不満"に、押し潰されそうになったことはありませんか?
 あなたは、"前例"と"法令"によって雁字搦(がんじがら)めに縛られた"お役所体質"に、息も詰まる様な"閉塞感"を抱いたことはありませんか?
 あなたは、制度や政策が明らかに"不合理"であることに気づいても、個人の力ではどうすることもできない"もどかしさ"を感じたことはありませんか?
 あなたは、今、市民のために働くこと、市民のために何かをつくり出すことを諦めていませんか?
 私たち丹南市民自治研究センターの活動の出発点も、冒頭に登場した二人の青年がこぼした"愚痴"に類するものでした。
 ――目の前にある状況を「どうにかしなければ!!!」「なんとかしなければ!!!
 丹南市民自治研究センターの活動の根底に流れているのは、そんな自治体労働者たちの"自治体改革"に挑もうとする強い"おもい"なのです。
 また、市町村合併・道州制など自治基盤の変更、NPOをはじめとする市民自治活動の加速度的な展開、市民参加条例や自治基本条例の制定過程にみられる市民立法・市民協働機運の隆盛など、地方自治制度は今、その容貌を大きく変えようとしています。
 自治体職員である我々が、自ら進んで市民の中に溶け込み、市民と協働していく中で「我がまちの"スキーム"を問い直してみたい」あるいはまた「地域の現状に適った"新しい公共"を創り出してみたい」という職業人としての意欲。そんな未来志向の"おもい"も、今日の丹南市民自治研究センターが大切にしているところです
 結成から8年、いまや丹南市民自治研究センターは、200人の会員を抱える"地域唯一の学び舎(=情報交差点・架け橋・シンクタンク)"と評される存在となりました。
 ……当事者市民、自治体職員、福祉事業従事者、地方議員、NPO活動家……
 ……弱者を知る者、現場を持つ者、差別に怒る者、夢を抱く者……
 そう、まるで「自治研なべ」のように……『この"まち"に住み、この"まち"を愛している』たくさんのユニークな仲間たちが、互いの"汗"と"涙"と"熱意"を大切にしつつセンターに結集することで、新鮮で美味しいアイデアを数多く実践してきたのです。

 「自治研活動」とは決して難しい運動ではありません。それは当事者の声、現場の声を具体的に制度や政策につなげていく過程を通して、自治体に働く仲間や市民の熱い"おもい"を、"かたち"にしていく作業なのです。
 みなさんも、みなさんのまちで、愉快な仲間たちと一緒に、おいしいおいしい"自治研鍋(なべ)"を作ってみませんか?
 丹南市民自治研究センターは、みなさんの"自治研なべ"づくりを応援します。

丹南市民自治研究センターのあゆみ=活動の記録=