【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

自治研センターで毎月一回「ラジオ番組制作、放送中」
地域ゲストも自治体職員も、一緒に参加

福井県本部/NPO法人 丹南市民自治研究センター

 福井県の中央部である「丹南地域」、その中心に越前市、鯖江市がある。両市の合計人口は約15万人。その隣に福井市や越前町、南越前町が接している。
 この地域に、昨年の2007年4月から毎月第四日曜日お昼の12時から一時間、私たち「NPO法人丹南市民自治研究センター」が制作するラジオ番組「お気楽サンデー」がローカル色豊かな楽しい内容で放送されている。
 放送しているラジオ局は鯖江市に本局を持ち、越前市にもサテライトスタジオを有する「たんなんFM夢レディオ」であり全国でも珍しいNPO法人の地域コミュニティ放送局である。

1. 「FMラジオとの出会い」

 なぜ、自治研センターがラジオ番組を制作するようになったのか? それは、偶然の幸運?から始まった。
 私たちの丹南市民自治研究センターが結成されたのは今から7年前の2001年4月。福祉、人権、平和、地域づくり、市民協働など「地域課題と市民の暮し」に関することは何でもやる、「地域の学び舎」として活動する、を基本方針として文字通り多種多様な活動を続けているが、2006年夏、それらの活動に注目したFMラジオ局から「ぜひラジオ番組で紹介したいから出演して欲しい」との依頼を受け、代表が番組出演したことがきっかけだった。
 出演はその数ヵ月後に丹南市民自治研センターがNPO法人設立を福井県に申請した際にも再度行われ、私たちの活動内容がラジオを通じて広く丹南地域に紹介された。
その出演を終えた代表がスタジオから出た時、そこに居合わせたラジオ局の理事長が「センターの活動、おもしろいね。うちで番組作りませんか」と声がかかった。これが番組制作への道を開くFMラジオ局と私たちの自治研センターとの歴史的?な出会いとなった。

2. 「番組制作は軽いノリで」

 この出会いの以前から、自治研センターの理事会では「これからは情報化時代だし、自分達の活動の紹介、仲間や市職員の活躍、行政と地域のかかわり、いろんな立場の市民との語り合いなど、自分達でラジオ番組が作りたいね、できたら最高だなぁー」などと何回か話し合われていた。
 だが、ラジオやテレビで番組を持つとなれば、その時間をスポンサーが広告料として相当額を準備しなければならず、年間予算60万程度の貧乏センターではとても叶わぬ「夢のまた夢」として諦めていた。
 それが、ラジオ局の方から声がかかったのである。番組制作をやるか、どうか、理事会での論議の方向は皆の弾んだ「やろう、やろう」の声で決まった。
でも仕事と企画の関係もあるから、穴を空けずに責任の持てる番組制作は月に一回程度、お金はないけど..やりたい。とラジオ局の理事長に返事した。
話し合いの結果、相手もNPO法人、こちらもNPO法人一歩前、そんな関係の中で番組制作料は無料で、毎月一回、日曜昼の一時間を私たちの丹南市民自治研究センターで番組を作ることで話がまとまった。まさに幸運のスタートである。なにより、無料にしてもらったのは嬉しく有難かった。

3. 「番組スタッフでハタ?と思案」

 番組制作の道は開かれた、とすれば次は誰がどのような役割で番組を作るか。それが問題だった。まずはラジオ番組がどのようにして作られるのか?
その現場の経験者は誰もいない。何にも知らないけれど、やろう、やろう、たいがいの事は何とかなる。これまでの活動もそんなものだった、と誰かが無責任に言う。
 正直、私たちの自治研センターの活動はそれが実態であった。年間予算と大まかな活動項目は決めるが具体的な活動そのものは毎月の理事会で理事からの提案や思いつき(これが多い)で、その場でトントンと決まるのである。
 どこかの役所や大組合のように起案書があり幾つもの決済ハンコが押されるなんて事は一度もない。「即断即決、ハンコのない決定、有言実行、金は使うな節約第一」の小回りの効きすぎる? 組織である。
 幸いに理事の中で一人、音楽に強い者がいた。番組に音楽は不可欠ということで彼がラジオ番組制作部会(その場で決まった部会)の責任者に決まった。次はパーソナリティーを誰がするか?であった、会員は多いが7割は市役所の職員でありその肩書きではまずいかな、と躊躇し、他にも一時間の番組を仕切る会員は直ぐには発掘は難しいとなり、結局はキッカケをつくった理事長が責任をとる形で落ち着いた。
 ただ理事長は20年も市会議員を務めた議長経験者なので実名では番組が固いイメージに受け取られるとして、ラジオネーム「ラッキーいとう」と名付けられ大笑いとなった。番組名は「お気楽サンデー」と名付けられた。これは聞く人も参加する人も気楽に楽しく過ごしてもらおうとの趣旨だった。
 そして、この二人を中心に音楽が好きな者、企画が好きな者、スタジオでのアシスタントならOKという者など20代から60代の男女7人の会員が集められラジオ部会スタッフが揃った。最初に動いたのはラジオ局スタジオでの生放送現場の見学からであった。看板番組の女性パーソナリティーや音楽技術者から教えられることが多かった。

4. 「番組内容への思いと地域ゲスト」

 2008年4月の第一回放送の番組内容をどのような形にするのか。その後はどう進めるのか。市民と職員の触れ合いや協働をどうするのか、自治研センターとしての特色をどのように出していくのか。ラジオ部会スタッフとセンター理事会による話し合いが何度か行われる中、結論めいたものも出ない中で第一回目の放送日が迫っていた。
 記念すべき最初の放送日は2007年4月22日であった。企画会議の中で、その日は「地球の環境を考える日、アースデー」だと部会長が言った。世界的に地球環境を考えて大きな行動が展開されるアースデー。参加者みんなが「いいなっ」と叫んだ。私たちの自治研センターの活動範囲には市民活動と環境の課題も当然含まれていた。よし、この線で行こうと直ちに決定(ともかく決定が早いのがセンターの特徴)。
 そして、アースデーに相応しい市民活動団体への出演要請が始まった。幸いに丹南市民自治研究センターは結成の頃から地元の市民活動団体が結集する市民活動やNPO団体と共に「NPOえちぜん」という組織の結成や事務局を担ってきた実績がある。市内の主な団体や活動家への人脈は相当のものを持っていた。
 直ちに、市民活動で地元の公園となっている山に植樹活動をしている「市民の森ワークショップ」と、市が管理している公園で「水芭蕉を植えて守り育てている地元団体」の代表に出演依頼し快諾してもらった。
 住みよく元気な地域づくりや、平和で安心できる社会への想いを具体的な市民活動を通じながら紹介し、行政と市民の形式ばった垣根を取り払いたい、その為のコーディネート的な役割を会員である自治体職員や自治研センターが担っていきたい。そんな願いが反映されるラジオ番組が私たちの番組制作に取り組む一つの姿勢であった。アースデーと二つの団体の活動紹介はその想いにぴったりだった。
 当日、音楽スタッフの選曲と「ラッキーいとう」のお喋りのなかで、緑の植樹と森の保存を続ける活動、イノシシの被害に遭いながら多くの地元民が可憐な水芭蕉を守り育てる活動が「たんなんFM.お気楽サンデー」の番組として放送された。
 この一回目放送から今日まで、毎回のように地域のゲストを招いて、他の番組では聴けない面白い話が放送されている。今年6月までの地域ゲストは次の方々である。

① 植林や植栽などの環境団体 市民の森ワークシヨツプ 水芭蕉を守り育てる地域団体
② 鮎の放流や自然生態系保護の活動をしている日野川漁業協同組合の鮎好きおじさん
③ 地元特産の高級スイカを栽培しているJA園芸部会の生産者
④ 越前市や県内の夏祭りで花火を打上げている地元の花火師
⑤ メダカや蛍など水辺と自然環境活動をしている「武生めだか連絡会」の若手メンバー
⑥ 病時保育などをしている病院の「ままの手」という施設の女性責任者
⑦ 議会改革に取り組み中の「武生市議会.議会活性化委員会委員長」
⑧ 有機栽培などに取り組む農家グループ「田んぼの天使」女性代表
⑨ 冬期間に熊やイノシシ狩猟をしている猟友会の人
⑩ 廃線か存続かで地元で大問題となっている福井鉄道の電車運転士
⑪ 北信越と北陸の地元プロ野球「ベースボールチャレンジリーグ」に今年から参加した「福井ミラクルエレファンツ」の球団広報
⑫ 地元の伝統産業「越前和紙」の手漉き道具づくり一筋の伝統工芸士
⑬ 食の安全と地産地消活動を続ける農作物即売の「おかか市」のお母さん達

 

 このような方々を招いてのラジオトークと活動紹介、実にいろんな方が気安く応じてくれる。もちろん出演料もなし、旅費もなしでの市民参加であり協働での番組作りだ。これらの人たちへの出演依頼は市役所に働くセンターの会員が仕事や個人の人脈で当たっている。今までに依頼して断られた例は一度もない。これは職員と市民との日頃の関係、そして自治研センターへの信頼度がものを言っていると自画自賛しているメンバー達である。

5. 「自治体職員もジャンジャン出演、仕事のPRも当然」

 毎回の地域ゲストに加えて、地元の自治体職員にも当然出てもらっている。立場は自治労組合員でも、市職員でも、一市民でも、そんな事なんにも構わない。いわばラジオを通じて市民と行政、その職員たちの間での絆、各種活動や意見の交流、地域や暮しの連携が少しでも生まれ進めば自治研センターの目的は果たせるのである。
 私たちはそう考えている。だから、誰でも参加者は歓迎する。市民と自治体職員の協働作業の中で創り出されているラジオ番組、それが私たちの丹南市民自治研センターが制作する「お気楽サンデー」の番組である。
 今年の6月までに出演した自治体職員やセンター会員は次のような方々である。

① 職員組合の書記さんがパーソナリティーの話し相手として
② お花に詳しい女性職員が季節の便りコーナーに
③ 給食調理員さんが夏休みの児童センターでの給食サービスの活動紹介
④ 健康増進課の職員が健康ウオーキングへの参加を呼びかけ
⑤ メダカ連絡会に参加している職員が市民会員と一緒に
⑥ 「たけふ菊人形」の菊づくりをしている現業職員が現場での菊づくり紹介
⑦ 健康増進課の保健師さんが「笑いと健康」のテーマで
⑧ 福井名物「冬の水ようかん」に詳しい職員が、そのウンチクを語る
⑨ 児童家庭課や市民活動推進課の職員が電車を活用しての出会いの場「ラブ電」PR
⑩ 観光振興課の職員が福武線の乗客インタビューを紹介
⑪ 横浜市からの人事交流職員が越前市の魅力を紹介
⑫ 無国籍、無戸籍問題で自治研センター役員が解説
⑬ 自治研センター役員による各種活動紹介やイベントPR
⑭ 連合や自治労関係からのイベント周知など無料で実施

6. さらに飛躍へ「連続6時間の特別番組を青年会議所や地元大学と共同制作」

 このレポートが全国の皆さんに報告されるのは10月16日からの札幌での自治研全国集会であるが、その時、私たちのNPO法人丹南市民自治研究センター「ラジオ部会」のメンバーは、また新たな壮大なラジオ番組制作の報告を出来るだろう。
 その準備が、6月下旬の今、始まろうとしている。今回の番組制作は私たちのセンターが毎月一回制作してきた「お気楽サンデー」の番組ではない。それは越前市の「JC青年会議所」地元の四年制大学「仁愛大学」、「越前市まちづくりセンター」、「たんなんFM夢レディオ」、そして私たちの「NPO法人丹南市民自治研究センター」の五者共同制作による6時間連続の特別番組である。放送日は9月20日の日曜日と決まっている。
 この話は越前市青年会議所の協創委員会から持ち込まれてきた。自治研センターが一年間のラジオ番組を制作していることに加え、幅広い課題や地域づくりへの活動を展開しているところから連携の相手先として選ばれたと聞いた。
 また仁愛大学は越前市内の大学であり先日も「情緒障害児の支援のあり方」を研究する研修会を学内の二つのゼミの教授たちと共催しJR駅前の大学サテライトキャンパスで開いた関係もある。さらに越前市まちづくりセンターは市職員も派遣されており、その代表とも付き合いがある。もちろんFMラジオ局は深い関係である。いずれの団体とも活動の中で連携しているだけに心強い。
 この番組では、それぞれの団体による実行委員会と製作チームを混合で設置し、越前市の文化、産業、公共交通、観光、食、農業、スポーツ、市民活動、教育、音楽など幅広い分野での課題、活躍する人々にスポットを当てる企画が進んでいる。
 6時間連続の市民制作の長時間番組、いずれの団体にとっても初めての体験と挑戦である。どのように進むのか、その行き先はまだ分からない。だが、不安よりも私たちの自治研センターがこうした形で地域づくりに欠かせないメンバーとして迎えられ参加できることを私たちは嬉しく誇りに思う。
 自治研センターからも10人程度の実行委員を派遣するにはこれまでのラジオ部会に新たな人材を公募して追加せねばならないだろう。たぶん、若い自治体職員が加えられることは間違いない。
 他の団体や組織の人と一緒に動き、語り合い、一つの目標実現に向けて頑張るならば、そこでの新たな視点や体験、人とのつながりが参加者に自分の財産として蓄積されるだろう。

7. 「協働と信頼は、現場の活動、人と人のつながりの中でこそ生まれる」

 「自治体職員と市民との協働」、それは論文や机上の議論では生まれない。実際に人間が動く運動や活動の現場で、人と人のつながりの中でこそ生まれるものだ。
 私たちのNPO法人丹南市民自治研究センターはその信念のもとに活動を展開している。
 「なんでもやるぞ!先ずは動くぞ」
 その動きの中で発せられる市民と自治体職員の生のメッセージ、汗も、苦労も、喜びも、みんな入れ込んで煮込んで、ごっちゃ混ぜにして私たちはラジオで流したい。
 そして、地域づくりの総合情報センターとして市民から期待される存在でありたい。
 その思いの中で、今月も福井県の丹南地域にNPO法人丹南市民自治研究センター製作のラジオ番組「お気楽サンデー」が流れている。