【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

分権型都道府県再編成に向けた広域連合の位置と役割


静岡県本部/静岡県職員組合・行財政研究フォーラム

1. はじめに

(1) 地方分権改革推進委員会が発足し、分権社会構築への第2ラウンドが始まった。並行して道州制をめぐる議論も2008年度に入って、一気に本格化している。
 しかし、地方分権改革推進委員会からの権限委譲の提案は、ことごとく中央省庁によって拒否され、難航している。今回の分権改革は1990年代後半の第1次分権推進委員会に比し、委員会の位置づけが不十分であり、当初から、先行きの困難性・限界性が危惧されていたが、その危惧どおりとなり、しかも、第1次のような世論の支援も少なく、「限りなくゼロに近いまとめ」に終わる危険性すら高まっている。
 第1次改革以降に残された分権課題は、ほぼ全てが中央省庁の事務権限と財源移譲に関わる根幹的なものばかりであり、今回の事態は、最早、分権は国の「委員会」程度ではどうにもならないこと、地方がたたかいとる以外ないことを示したともいえる。
 そして、たたかいとるためには、地方自らの再編成を含めた分権社会ビジョンを構築すること、分権推進と「道州制」対処方針の議論を結合することの2つの課題は、避けてとおれないことを確認する必要がある。今や、「道州制」対処方針なき地方分権論は空疎となりつつあることは、否定できない流れとなっている。
(2) 一方、道州制への議論は、今年3月に政府(道州制ビジョン懇談会中間報告)、日本経団連(道州制導入に向けた第2次提言)、自民党(道州制推進本部第3次中間報告)など、いわゆる「政府・経営者側」の方針が相次いで出されている。内容は、それぞれ微妙に違うが、共通しているのは道州制基本法の制定と2018年までの10年以内に道州制を導入することを掲げていることである。しかし、いずれも、国主導であり、自治体スリム化を目指す事実上の地方分権否定の内容となっており、私たちの目指すものとは全く相容れないものであることが益々明らかになっている。
 私たちの研究提言活動は、当初から、この政府・財界の目論見を危惧して、自治体に働くものからの反撃・反論の起爆剤になるべく、2006年に第1次提言、2007年に第2次提言を示してきたが、予想通りの展開を受けて、提言活動の一層の促進を図るべく、今回の第3次提言に至ったところである。
 以下、2.都道府県の再編成と広域連合、3.広域連合の位置と地方自治権、4.広域連合の業務・組織・財政、5.静岡県における広域連合の位置、6.おわりに、を順次提起する。

2. 都道府県の再編成と広域連合

(1) 私たちは、第28次地方制度調査会の道州制答申に先駆けて静岡県が打出した「内政改革研究会報告」に対して、是々非々の立場から都道府県再編成研究を開始した。
 そして、2006年に策定した第1次提言では、①分権型社会完成には都道府県の統合再編成が不可避であること、②再編成は地方が主体的に決するものであり、決して国主導であってはならないこと、③再編成の方法・区域・プロセスも地方が決めるべきであり、相当長期の期間を要すること、④画一的道州制を目指す地制調方針に強く反対すること、⑤都道府県の広域化に対応する基礎自治体との関係について広域連合を提唱し2層制を堅持すること、等々の見解を示してきた。
 この提言をもとに、2007年には第2次提言として、広域連合の意義・必要性について、①基礎自治体のこれ以上の半強制合併を許さない、②今後広域化する広域自治体との距離を埋める、③政令都市化が進む中で全ての基礎自治体が高度・専門行政サービスに参加できるようにする、④都道府県が参加する広域連合によって国権限の移管を実現する、⑤都道府県の主体的再編成とも相互連動し分権型社会を完成する、などの積極的な役割を意義づけ、広域連合設立を推進すべきという見解を示してきた。
 さらに、その後の検討の中で、広域連合が都道府県再編成より先行すべきであること、都道府県が自ら参加する広域連合設立を積極支援することなども指摘し、都道府県再編成の成否は広域連合の進展如何と位置づけるに至っている。
(2) 以上のこれまでの提言内容をまとめるならば、第1に分権型社会実現の目的のためにのみ都道府県再編成は必要であり、この目的とは異なるあるいは逆行する再編成や「道州制」は断じて認めないことである。このために、まずは、現在大きな流れになっている「道州制」に対する各界からの様々な見解や方針の問題点や危険性を明確にしなくてはならない。そして、この分析には、地方分権確立を目指す立場からの私たち自身の「道州制」に対抗する再編成への構想・方針が前提となるのである。自らの方針なくして、他の見解への説得力ある批判を展開できないからである。私たちが、積極的再編成の第1次提言を確立した意義はここにある。
 第2に具体的な分権型社会にとって不可欠なことは、第1次分権推進委員会勧告で示されたように、国の事務を、①国家存立に直接関わること、②全国的に統一されていることが望ましい基本ルールの制定、③全国的規模・視点で行われることが必要な施策・事務に限定すること、つまり、国政の大半を地方自治体が担う仕組みをつくることである。そして、国からの膨大な権限の受け入れを実現する任務を果たしうるのは第1義的には都道府県でしかない。そのために、現在の都道府県の規模・形態で受け入れが可能なのかを自己検証するなかで、必要な再編成を追求する。さらに、その再編成の前提として国権限をも受け入れ可能な県・市町村の広域連合が重要な役割を持つことになる。私たちが、第2次提言で分権社会は広域連合構築が不可欠であるとした意味はこれである。

3. 広域連合の位置と地方自治権

(1) 広域連合は1994年の地方自治法改正により制度化された。都道府県広域連合とともに市町村広域連合も可能とされたが、当時は前者が注目・期待されていたという。この広域連合は、「合併への一里塚」とも、また逆に「合併困難性の受け皿」とも見られたが、ほとんど機能していなかったことは歴史が示すとおりであり、現在もこの状況は変わらない。合併特例法による半強制的な市町村合併により、市町村が3,200から1,800に減少したプロセスでもほとんど広域連合は議論されなかった。
 しかし、議論・結成が全くなかったというわけではない。一部事務組合の広域的発展として広域連合が組織された地域もある。また、介護保険法施行に対応してその事務を共同化するために広域連合を組織した地域もある。ただ、結成数82(2004年現在)に示されるように、全国的には波及しなかった。
 ところが、近年、社会保障のサイドから広域連合がにわかに注目を浴びるに至っている。それは、後期高齢者医療制度の運営主体として、全国一斉に各県ごとに広域連合が組織されたからである。しかも、県内全域を単位としながら、都道府県でなく市町村連合が県域行政を担うという新たな仕組みである。運営主体=保険者を都道府県にしなかったのは疑問であるが、広域連合の多様性を示した一面を見ることができる。
(2) このように、広域連合をめぐる情勢変化はあるものの、私たちが、本研究で追求している広域連合は今までとは違う新たなものである。それは、分権型社会を構築することのみを目的とし、広域自治体たる都道府県と基礎自治体たる市町村を連結し、同時に、都道府県のあり方を国権限の包括的受容可能な自治体に発展させるために必要な都道府県再編成を促進する任務を担うからである。
 より具体的には、一般市町村が今まで行ってこなかった政令都市並みの高度専門行政サービス、さらに今までの都道府県出先機関や国出先機関が所管した業務をも受け入れる特別地方公共団体なのである。高度・専門・目的限定型の公共団体ということになるが、決して一時的なものではなく恒久的なものである。都道府県再編制完成後も存続し、その再編成の変化進展ととともに自らも業務の高度化とエリアの拡大を恒常的に進めていくことになる。
 以上のことは、原則として市町村の業務は変わらないこと、合併も強制されないことを含意している。基礎自治体としての住民自治拡大への任務を減少させてはならないからである。広域連合や都道府県への委託はありうるが、2層制の一角を担う市町村の自治権を侵すことがない範囲に広域連合の任務が位置づけられるからである。

4. 広域連合の業務・組織・財政

(1) そこで、具体的な広域連合の姿を検討してみたい。基本的業務は、政令都市並みの高度・専門サービスの提供である。もちろん、広域連合の規模によっては、中核市・特例市の業務も入るし、本来の市町村業務ではあるものの、効率上、広域的サービスに適するごみ・消防・介護保険・医療機関なども入ってくると想定される。
 このなかで、基本となる業務の典型は、当面、都道府県が現在行っている保健・福祉関係の専門業務、県道管理・都市開発・建築検査などの土木関係業務が中心となる。(別添付属資料参照)さらに、農業関係、税務関係も含め都道府県出先機関が提供しているサービスの多くが広域連合業務の対象となる。そして、国出先機関業務をも視野に入れることが、大きなポイントとなる。国の事務権限の地方移管を実現することが広域連合の最大の目的だからである。具体的には、国出先機関業務は県本庁もしくは広域連合所管とし、国の中央省庁所管業務の多くは県本庁所管となるが、これが都道府県再編成の進展内容と相互関連することになるのである。
 この広域連合には都道府県参加が必要条件であるが、市町村参加は自主的なものであることは当然であり、最初から目標地域の全市町村が参加するとは限らないし、規模も所管業務も最初は小さく、次第に広域に収斂されることもありうる。従って、都道府県再編成同様に一定長期の期間を完成までに要することになる。これは、決して消極的な側面ではなく、この都道府県再編成と広域連合成熟のプロセスこそが地方分権の確立プロセスそのものだからである。
(2) 以上のように、広域連合をシミュレーションすれば明確になるとおり、広域連合は恒久的ではあるが、多分に目的限定・行政技術的要素を持った公共団体でもある。 
 加えて、都道府県と市町村の2層制を維持し、とりわけ市町村の住民自治機能を侵さないことを考慮すれば、広域連合の組織・財政はそれほど大きな問題ではない。
 結論は、各広域連合がそれぞれの条件に対応して、自由に現行法の枠内で選択すればよいのである。首長や議会の選出方法、連合内住民との関係、財政の方法を交付金にするか、人口按分するかも含め自由に選択することになる。さらに付言すれば、住民投票による首長選出とか自主課税権の確立などは、必ずしも必要ないばかりか、その現実的実現性や2層制における基礎自治体優先との関係から、選択肢の一つにとどめるのが分権の趣旨に合致すると判断される。

5. 静岡県における広域連合の位置

(1) 一方、静岡県は、2003年11月に他県に先駆けて、「静岡県内政改革研究会報告書」を作成したが、それを基に特段の運動展開を図るということはなかった。「一研究」に留める姿勢をとったが、県会与党にはほぼ浸透し、自民党県連がこの報告書の考えに賛同していたことは、当組合の公開質問状に対し「100年後の道州制を目指す」と答え、画一的道州制には消極的である姿勢からも窺い知ることができる。また、この報告書方針を受けた広域連合に関する「静岡県広域連合研究報告書」は2005年3月に完成したが、内部資料に止まり事実上研究は凍結された。これは、県の広域行政に対するスタンスが、合併推進に戻った事を意味している。これ以降、広域連合さらに都道府県再編成の研究は当組合が一元的に推進してきた。
 しかし、静岡県は、地方分権に向けた内政改革の問題意識は現在でも他県以上と言うことができるし、広域連合構想から全面撤退したわけではない。この姿勢は、この4月から県下全域を範囲とする後期高齢者医療の広域連合ができたのは全国共通だが、加えて、「静岡地方税滞納整理機構」という県及び全市町村参加の広域連合を設立したことに示されている。この広域連合は、当面、県税や市町村民税の滞納300万円以上の大口滞納共同処理機構ではあるが、私たちは次の2点から注目している。
(2) 一つは地方主導の徴収一元化への発展を期待できることである。地方分権にとって、税の主体性を如何に確立するかが問われている。これには、課税とともに徴収機能でも、国税以上の力量を地方が持つことが必要とされる。国による徴収一元化では分権は成り立たないからである。今一つは、国機構中最強といえる国税の集中管理体制に対し、自治体はそれぞれ独立・対等であるが故に機能分散となり国に対抗できなかったが、この弱点を克服する萌芽を築いたことである。国集権管理は地方分散の盲点を突いて成り立っていることが多く、税管理はその典型である。さらに、税に限らず、分権実現に向けた自治体間の分散から連帯への土台づくりの役割を広域連合が持ちうることを期待できるからである。私たちは、以上のように広域連合の位置づけを行い、静岡県に対し自らの「内政改革」に向けた広域連合研究再開を求めていきたい。

6. おわりに

(1) 以上、私たちがめざす地方主導の分権型都道府県再編成とそれを裏付ける広域連合の枠組みを提示してきた。今回で3回目だが依然として推論・試論の域は出ない。 
 また、本構想実施には、現行の法・制度上限界があり、相当な制度変更も必要である。
 しかし、構想には、一定の抽象性は避けられないが、「道州制」や都道府県再編成をめぐる今日的に知りうる情勢と私たちの把握しうる諸研究の到達状況からすれば、今回をもって、私たちの「分権社会への途」の骨格は明らかにできたと考える。
 また、これまでの3回の提言によって、現在出されている様々な「道州制論」を批判する市民権=資格も得たと考える。今後も、まともな分権社会構想を誕生させる一翼を担い、「道州制論」批判を強め、その矛盾を具体的に明らかにしていきたい。
(2) 一方、地方分権をめぐる厳しい諸情勢の一方、最近の国政上の最大課題となっている社会保障制度をめぐる議論の中で、分権との関連に注目する事態が生じている。
 例えば、財政の三位一体改革では、地方交付税削減による自治体疲弊が問われているが、一定の税財源移譲があったことは確かであり、とくに、社会福祉制度の政府負担比率では生活保護を除けば、地方政府が中央政府を上回る制度変更がされている。
 さらに、高齢者医療の都道府県単位の広域連合設立に加えて、政府管掌健康保険や国民健康保険の都道府県域単位への制度変更も遡上に上っている。この過程から、福祉は市町村、医療は都道府県がそれぞれ所管すべきという方向が生じている。つまり、社会保障という国政の根幹事務が地方移動の流れを拡大しているのである。
 この社会保障の流れを、私たちの分権社会実現の都道府県再編成や広域連合構築と結合していくことも可能であり、今後の大きな研究課題に位置づける必要がある。
 何故なら、私たちが目指しているのは分権型「福祉」社会だからである。
(3) 加えて、今一つの焦点となっている道路特定財源についても、地方分権的決着を図る好機である。三位一体改革では、地方団体からの公共事業財源の移管要求に対し、特定財源を理由にして移管対象にしなかった国の不当性を思い返し、一般財源化だけでなく地方移管という本来要求実現に向けた地方団体の行動展開が求められる。
 社会保障・公共事業という中央集権の「本丸」が分権に動けば、農林水産・労働関係など 他事務の方向も変わる。中央省庁による分権拒否の壁の向こうに、地方への事務移動・移管の流れが胎動している。分権社会への展望は拡大しているのである。




参考資料・文献
「分権型社会完成に向けた都道府県再編成の将来展望」(第1次提言)2006年8月
「           同           」(第2次提言)2007年8月         
「静岡県内政改革研究会報告書」           2003年11月
以上は、静岡県職・自治政策部HPに掲載中 (http://www.shizuoka-kenshoku.jp/)
「静岡県広域連合研究報告書」            2005年3月(一部を後頁添付)
「都道府県と道州制」  市川喜崇 『月刊・自治研』 2004年6月号
「政高民低の道州制論議」鎌田 司 『月刊・自治研』 2008年6月号
「地方分権と自治体連合」辻山幸宣  敬文堂     1994年3月
「平成大合併と広域連合」小原隆治・長野県地方自治研究センター  2007年4月
(附属資料)静岡県広域連合研究報告書から抜粋