【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

指定管理者制度は今、現状報告と今後の課題
―― 京都市体育協会の場合 ――

京都府本部/自治労京都市職員労働組合・文化市民支部 山口 耕平

1. はじめに

 2003年9月に施行された改正地方自治法により「指定管理者制度」が導入され、公の施設の管理運営の委託先が地方公共団体の出資法人や公共的団体などに限らず、株式会社等の民間事業者も含めた幅広い団体が公の施設の管理運営を行うことが可能となった。
 京都市においても2004年3月に指定管理者の指定の手続等を定めた「京都市公の施設の指定管理者の指定の手続等に関する条例」が制定され、2006年4月から、対象となる約600の施設のうち333施設において、「民間」による施設の管理運営がスタートした。
 そして今日、指定管理者制度の導入から早くも2年が経過し、2008年度は指定期間5年の中間の年度に当たる。
 このような状況のもと、京都市のスポーツ施設の指定管理者である「京都市体育協会」において、施設の管理責任者として勤務する中で、日々感じているところを述べたい。

2. 京都市スポーツ施設の管理の状況

 京都市文化市民局所管の市スポーツ施設については、2005年7月から9月に、2回に分けて指定管理者の公募と選定が行われ、①西京極総合運動公園北側区域(陸上競技場兼球技場・補助競技場及び野球場)、②宝が池公園運動施設(球技場)及びその周辺区域、③市民スポーツ会館及び体育館、④武道センター、⑤有料運動公園(15施設)及び宝が池公園運動施設(テニスコート)が市体育協会に、⑥西京極総合運動公園プール施設(愛称:アクアリーナ)と、⑦地域体育館(5施設)が民間事業者である株式会社ビバに、また、⑧京北パラグライダー施設が京北スカイスポーツ振興会により管理運営されることとなった。
 また、2007年4月に新設された伏見桃山城運動公園は市体育協会、2008年3月に新設された右京地域体育館はビバが指定管理者となり、現在に至っている。
 なお、市スポーツ施設のうち、指定管理になじまないとの理由から横大路運動公園のほか5施設は市の直営(一部委託)となっている。
 指定管理者制度が導入されたスポーツ施設のうち、西京極総合運動公園の各施設及び宝が池公園運動施設球技場、京北パラグライダー施設には、施設の利用に係る料金が指定管理者の収入となる「利用料金制度」が導入されている。これらの施設は市からの指定管理料は少ないものの、創意と工夫、経営努力で「売り上げ」を上げれば、それがそのまま指定管理者の収入増につながる仕組みとなっている。


○京都市スポーツ施設の管理状況

指定管理者

施設名(募集区分)

料金制度等

財団法人京都市体育協会

西京極総合運動公園北側区域
(陸上競技場兼球技場・補助競技場及び野球場)

利用料金制

宝が池公園運動施設(球技場)及びその周辺区域

利用料金制

武道センター

 

体育館及び市民スポーツ会館

 

有料運動公園(15施設)及び
宝が池公園運動施設(テニスコート)

 

伏見桃山城運動公園(2007.4~)

 

株式会社ビバ

西京極総合運動公園プール施設
(愛称:アクアリーナ)

利用料金制

地域体育館 (5施設)

 

右京地域体育館(2008.3~)

 

京北スカイスポーツ振興会

京北パラグライダー施設

利用料金制

市直営(一部委託)

横大路運動公園

 

桂川緑地久我橋東詰運動公園

 

山科中央運動公園

 

宇治川運動公園

 

京北運動公園

 

黒田トレーニングホール

 
 


3. 京都市体育協会

 京都市体育協会は、1956年に関係種目競技協会の代表者をもって任意のスポーツ団体として構成され、その後、市民スポーツの普及と振興を目的とする団体として、1984年6月21日、財団法人化され、現在では京都市における35の各種目競技団体(協会・連盟)が加盟している。
 主な事業としては、全国健康福祉祭(ねんりんピック)の京都市予選会や京都市民総合体育大会の開催をはじめ、都市間交流スポーツ大会・京都府民総合体育大会への京都市代表選手の選考及び選手団の派遣、さらには各種スポーツ教室・スポーツ講座・スポーツツアー・みんなのスポーツフェスタなどの市民参加型スポーツ事業を実施している。また、基本財産3,150万円のうち、95.2%に当たる3,000万円を京都市が出資する外郭団体でもある。
 つまり、市体育協会は、競技団体の統括機関であり、京都市の外郭団体であり、さらに2006年4月からは京都市スポーツ施設の指定管理者という3つの側面を併せ持つ組織となったのである。

4. 委託から指定管理へ

 京都市体育協会は、2006年3月まで、市スポーツ施設(旧京北町との合併により文化市民局が継承した京北運動公園、黒田トレーニングホール及び京北パラグライダー施設を除く)を委託により一元管理していた。
 2005年度に行われた指定管理者選定の公募において、市体育協会は当時受託管理していたスポーツ施設すべてについて応募したものの、西京極総合運動公園プール施設と地域体育館については株式会社ビバと競合し,選定されなかったことで管理施設が減少したため、2006年度は予算規模、組織とも大幅な縮小を余儀なくされた。
 同時に、施設管理を担当していた市派遣職員の引き上げが行われ、施設管理のノウハウを持つ職員、設備担当の技術系職員がほとんどいなくなったことで、指定管理は混乱の中でスタートした。

5. 制度の矛盾

 指定管理者制度は、多様化する住民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理運営に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ることを目的とするものであるが、ここに二律背反する矛盾がある。
 指定管理者には、「公共性・公益性の確保と民間的経営手法の導入」「サービスの向上と経費削減」という相反する課題を抱えつつ、限られた指定期間内においてこれを実現することの困難さが付きまとっている。

6. 課題と問題点

 指定管理者制度が始まって丸2年が経過したが、ここでこの2年間で見えてきたいくつかの課題について整理したい。

(1) 指定管理料の逓減
 京都市から市体育協会に支払われる指定管理料は、指定管理初年度(2006年度)は約5億2,500万円であったが2年目の2007年度は約5億300万円(新たに指定管理者となった伏見桃山城運動公園の指定管理料を除く。以下同じ)で、2,200万円の削減である。さらに2008年度の指定管理料は約4億9,000万円で、2007年度に比べて1,800万円の減となった。
 このように指定管理料は毎年度約4%ずつ削減され続け、指定管理最終年度の2010年には約4億5,100万円にまで落ち込むこととなる。毎年度2,000万円ずつ収入が減り、5年間の合計で実に2億円近くもの収入減となる中で厳しい経費削減を求められている。
 さらに、次期の指定管理期間においては5年目(2010年度)の指定管理料が基礎数値となるであろうから、なお一層厳しい経営努力が求められることとなる。


○指定管理料の推移
(単位:千円)
 

2006年度

2007年度

2008年度

2009年度

2010年度

指定管理料

524,999

503,215

485,101

467,638

450,801

2,431,754

削減額(対前年度)

21,784

18,114

17,463

16,837

 

削減率(%)

-4.1

-3.6

-3.6

-3.6

 

削減額(2006比)

▲21,784

▲39,898

▲57,361

▲74,198

▲193,241

※伏見桃山城運動公園の指定管理料を除く。

(2) 指定管理期間
 京都市スポーツ施設の指定管理期間は、2006年4月1日から2011年3月31日までの5年間と定められている。(ちなみに、2007年4月に新設された伏見桃山城運動公園、2008年3月に新設された右京地域体育館についても、指定間期間の終了日は他のスポーツ施設と同様に2011年3月31日となっている。)
 この5年という限られた期間の中でスポーツ施設の管理運営を行わなければならず、2011年度以降については継続して指定管理者となる保証もない中では長期にわたる計画的な人員の雇用ができない。
 そのため、現在、職員の大半は期間限定の嘱託職員か、人材派遣会社から派遣されるスタッフで賄われており、多くの職員が雇用への不安や待遇への不満を抱えながら勤務している状態である。また、5年間の短いスパンでは十分な人材育成もできず、派遣職員は入れ替わりが激しいため、ノウハウの蓄積もできないという問題もある。

(3) 施設の老朽化
 市体育協会が指定管理者として管理運営しているスポーツ施設は、1988年に開催された京都国体のために大規模な改修が行われて以来、市の財政悪化等により設備の更新が計画どおりになされなかったり、メンテナンスが十分でなかったことで、耐用年数が経過したり、利用に堪えない設備が多い。
 例えば、西京極陸上競技場の電光掲示板はJリーグのゲーム当日に点灯せず、故障の原因となった部品も古いため製造中止になっており、ようやく代替の部品でしのいでいる状態である。
 また、人工芝のテニスコートは通常8年から10年で張り替えなければならないが、傷んだ箇所だけの部分補修を繰り返してきたために継ぎはぎだらけの状態となり、あげくには補修した個所とコートに段差ができてプレーヤーが蹴躓いたりボールがあらぬ方向にバウンドするなど、利用者からのクレームが絶えない状態となっている。
 他の公園ではグラウンドの周囲のフェンスが張られてから数10年が過ぎ、錆びているだけでなく、あちこちで破れたり、針金が飛び出たりしている箇所もある。
 市体育協会では、指定管理者として管理運営を開始した直後の2006年度当初に、全施設の点検・調査を行い、老朽化した箇所、利用者の安全が確保できない箇所をピックアップし、市に対して改修を要求した。本来、施設改修は設置者である市が行うものであるが、改修のための予算が確保できず、これまで放置・先送りされてきたものであり、老朽化問題は指定管理者にとっても頭の痛い問題である。

(4) 経費削減の努力
 スポーツ施設を管理運営する上で、どうしても必要になるのは施設の清掃やゴミ処理、樹木の剪定、除草、設備の保守管理など、年間を通しての業務委託である。市体育協会では管理経費節減の一環として、委託契約の大幅な見直しを行った。
 それは、これまで毎年度同じ業者と漫然と繰り返し契約していた委託先業者との関係をいったんクリアし、入札によって選定することである。また、入札ができない業務についても、仕様の変更や業務の抱き合わせなどにより委託金額の圧縮を図った。入札や業者との折衝は、経験のない中で試行錯誤の繰り返しであったが、これにより大幅な経費削減を実現することができた。
 さらに、経費削減の一環として、2006年度末に施設管理の職員を嘱託職員から人材派遣会社の派遣スタッフに切り替え、人件費の抑制を図った。2007年4月からは各運動公園(施設)とも新しい体制での施設運営となり、戸惑いも大きかったが、1年を経てようやく安定してきた。
 しかし、委託料や人件費にこれ以上の経費節減の余地はなく、今後、一層の支出抑制は困難な状況である。

(5) 利用アップの工夫
 先にも述べたとおり、指定管理を受けたスポーツ施設のうち、利用料金制度が取り入れられた西京極総合運動公園北側区域の陸上競技場兼球技場・補助競技場及び野球場、宝が池公園運動施設の球技場については、利用料金の増減が市体育協会の収入に直結する施設である。この4施設の利用をいかに増加させ、利用料金を確保するのかが、大きな課題となっている。
 そのため、補助競技場において実施されていたトラックの個人利用を見直し、利用開始時間を朝9時から7時(冬季は8時)に早めるとともに、補助競技場において大会等の利用がある日には陸上競技場兼球技場のメイントラックを開放することにより、ほぼ毎日、利用できるよう改めた。併せて、個人利用の料金を値下げし、利用者の拡大を図った。
 また、宝が池公園の球技場においては、季節にかかわらず朝9時から夕方5時までしか利用できず、午前・午後の時間枠、全面単位の利用区分に限られており、利用しづらい貸出方法となっていたため、供用時間を朝8時から日没(季節により月ごとに設定)まで、1時間単位で、しかも半面利用も可能となるよう利用枠の改善を行い、利用者数の増加を図った。
 このような利用者の利便性と満足度を高める工夫と、陸上競技場兼球技場をホームとする京都サンガF.C.のJ1への躍進とが相まって、2007年度の利用料金収入は増収となったものの、今後も利用料金が増えるとは限らない。
 西京極野球場や陸上競技場兼球技場は、全国規模の競技大会やプロの試合が開催される関西一円でも有数の大規模競技施設である。こうした施設をフルに活用することができれば理想的ではあるが、過密な利用はグラウンド状態や天然芝の育成を悪くするなどの悪影響が出かねず、これ以上の利用アップは厳しい状況である。

(6) 施設改修等交付金制度の導入
 スポーツ施設の老朽化や安全対策が、市の予算削減により追いついていないことについては先に延べたとおりであるが、この問題を解消する一つの手法として、これまで無料だったスポーツ施設の駐車場を、有料駐車場として整備し、これによって市が収入する土地賃借料を財源とする「スポーツ施設改修等負担金交付制度」が2007年度中に創設された。
 この制度は、本来、市が実施すべきスポーツ施設の改修等を、市の事前承認のもとで指定管理者が行った場合に、改修等に要した費用が交付されるものである。これにより、初年度の2007年度には約6,000万円を超える負担金が交付され、テニスコートの人工芝張替え、野球場グラウンドの整備など老朽化した設備の修繕や、野球場からのファールボール飛び出し防止ネットの新設、熱中症防止のための日除け屋根の設置など安全確保のための工事を行うことができた。
 この制度の制定により、スポーツ施設の改修等については一定の予算の裏付けができ、施設の老朽化・安全対策が進むことは市体育協会にとって喜ばしいことではあるが、6,000万円を超える工事や修繕の一件一件について、施設を利用する競技団体や関係者と調整を行い、設計書や仕様書を作り、入札を行い、工程監理を行う。これらの業務を市体育協会の職員が行うことの負担は大きい。また、駐車場有料化に伴い、競技大会運営車両の駐車位置の調整という新たな仕事や、駐車場を有料化したことへの利用者の苦情対応もしなくてはならず、一連の事務量は確実に増えた。

(7) 人材育成の強化


○職員構成(20/4/1現在)
(単位:人)
 

事務局長

課長

係長

主任

チーフ

係員

市派遣職員

1

2

 
 
 
 

3

プロパー職員

 

1

4

 
 
 

5

嘱託職員

 
 
 

4

8

8

20

派遣職員

 
 
 
 
 

54

54

臨時職員

 
 
 
 
 

1

1

1

3

4

4

8

63

83

※「チーフ」は各運動公園(施設)に1人配置

○職員構成・課別(20/4/1現在) 
(単位:人)
 
総務課
(事務局長含む)
事業課
管理課
 
うち施設
管理担当
市派遣職員
2
 
1
1
3
プロパー職員
1
3
1
 
5
嘱託職員
4
1
15
12
20
派遣職員
 
4
50
41
54
臨時職員
1
 
 
 
1
8
8
67
54
83

 市体育協会の職員構成は、2008年4月現在、市派遣職員3人、プロパー職員5人、嘱託職員20人、派遣職員54人、臨時職員1人となっている。事務局長以下の補職者は市派遣職員・プロパー職員の8人である。このうち、施設管理を担当する管理課職員は、市派遣職員である管理課長を除くと、嘱託職員12人、派遣会社からの派遣職員41人である。
 事務局の職員は派遣職員を嘱託職員として採用したり、1年の嘱託期間を3年に延長するなど、雇用の安定を図りつつ人材育成に力を入れているが、事務経験の少ない職員も多く、どうしても事務処理が後手に回りがちである。
 今後、事務処理能力だけでなく、接遇や服務規律等の研修を繰り返し行い、これからの施設管理をしっかりと行うため、全職員の一層のレベルアップを図る必要がある。

7. 次期まで2年

 次期指定管理者の公募は、ちょうど2年後の2010年7月ごろとなるだろう。
 市体育協会は京都市のスポーツ行政の一翼を担う外郭団体である以上、市民スポーツの普及と振興を第一に考えることは当然であり、競技力向上や競技人口拡大を図るうえでも、スポーツ施設を管理運営する意義は大きい。
 次期選定時には、民間事業者の参入も前回以上に増えると思われるが、外郭団体で財団法人、「民間」と「公共」を併せ持つ「京都市体育協会」が、この5年間で民間以上のサービス提供とコスト削減を達成できたことをアピールし、引き続いて指定管理者に選定されることこそが、スポーツ施設の公益性・公共性の確保につながることを示す必要がある。
 そのためにも市体育協会は、「生き残り」を賭け、これからの2年間、必死の思いで事業展開していかなければならない。