【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

市民・地域に共感を得られる文化財活用を模索する


京都府本部/自治労京都市埋蔵文化財研究所職員労働組合・書記長 津々池惣一

1. はじめに

 前回は文化財の活用を総合学習―出前授業などの事例を紹介しながら模索した。
 今回は文化財の活用を学校跡地利用―体感総合施設を構想し、京都創生、学校教育、観光事業との連携を模索することで、市民・地域に共感を得られる文化財の活用を模索してみる。

2. 文化財活用の意義

(1) これまでの文化財活用
 これまで、埋蔵文化財は「国民共有の財産」(文化財保護法第4条)として、土地所有者の開発行為に対して文化財破壊になる として、「必要な事項を指示することができる」(文化財保護法第57条2)という法的根拠で発掘調査を指導し、せめて記録を採る ということで発掘をしてきた。
 そのことは、①開発行為者にとっては、経費・期間負担増大になってきた。②報告書の作成が目的化されて、市民との共通の接点は見出しにくかった。③文化財の活用については、最近までは保存に重点が注がれており、保存の形は消極的埋め戻し・公園・駒札・せいぜい部分的イベントの実施に終始していた、などの事態を生じさせるようになった。

(2) これからの文化財活用
 現に、京都市の多くの外郭団体が統廃合の対象(今年度も4団体が廃止に)になる中で、埋文事業も例外ではない。継続して存続するには財政的努力はいうまでも無いが、埋文調査成果の市民への還元は大事である。
 そのためには、単に発掘し、報告書を出してそのままにするのではなく、まず市民や地域に目に見える形での文化財の活用が必要である。その上で、負担はかかるが埋文事業に協力しよう という世論を得ることが大事である。
 京都は石器時代から、特に平安の都が設定されて以降明治までほぼ都であったため、近代までの埋蔵文化財の宝庫である。さしずめ、「屋根のない博物館」といえる。これらの宝庫を、調査で発掘された遺構・遺物の活用にあてるべきである。すなわち、古代を体感してもらう場所と機会の提供をすることである。
 市民はいうまでもなく、他府県からの観光客にしても、京都に来れば寺院、町家、伝統産業・文化だけではなく、埋蔵文化財にも触れる、体験発掘、古代の衣食住の体感ができるというのは選択肢が一つ増えることになる。このことは、京都の多角的な魅力の掘り起こしにつながる。工夫次第では地域の町起こしにも寄与できるし、観光客5,000万人構想を謳う京都市にとっても一助となろう。

3. 学校跡地での文化財活用? 体感総合施設を構想する

 いままでも、学校などからの要望で、京都市内の発掘で判明した遺構・遺物について普及と喧伝に努力してきた。近年はとみに普及事業にも関わりを深めてきた。修学旅行生発掘体験の受け入れ、小中学生チャレンジ発掘体験、総合学習に関連しての出前授業で、火起こし・石器での紙きり体験・土器文様作り・石包丁作りなど行ってきた。
 2003年以降、格致小学校跡地では、新聞でも取り上げられたように、洛央小学校の総合学習の一環として、グランドの砂場を利用した田植え―稲作が行われた。秋には出前授業で共同製作した石包丁で稲刈り収穫の行事が行われた。その後収穫物を煮炊きする野焼きによる土器作り、そして竪穴住居作りが予定されていた。私達は、秋には稲刈りに使う石包丁作りを出前事業として行った。
 さらに、総合学習では、収穫したあとに、お米を煮炊きするための土器作りや、竪穴住居を作ってそこで火を起こし、収穫物を料理して古代食を食べる食事体験、宿泊プランなどであった。また、今後は田んぼの面積も広げて、アイガモ農法も取り入れ、さらにビオトープも組み合わせて、とんぼや魚、水性動植物のすみかもつくるなどというものである。現在も試行錯誤を繰り返しながら、続けられている。



京都新聞(2006年11月11日)



京都新聞(2007年6月8日)


 これらの体験も踏まえて、学校跡地のグランドと校舎での文化財の活用の意義や可能性について検討してみたい。グランドと教室を組み合わせて文化財の活用を模索し、体験ゾーンとして喧伝する方向を検討してみたい。
 具体的プランとして、以下に列挙してみる。大きくは、教室を利用しての整理作業の体験や加工品の製作等とグランドでの古代生活-衣食住の体験コーナーにわける。
① 教室で―テーマごとの実習室的な活用。
 ・いくつかの教室にテーマごとのコーナーを設ける。
 ・整理作業の一環として、出土した土器等の遺物洗い。
 ・破片で出土する土器の接合。・接合した土器の復元―石膏補強、色付け。
 ・瓦の拓本採りや土器実測。・火起こしや石器・土器製作など。
② グランドも活用して―衣食住の体験ゾーンを創る。
 ・生 産 ― 古代の稲作等赤米や黒米、野菜や果物の栽培。
 ・収 穫 ― 古代様式の石包丁、うすなどを使っての刈り入れや加工。
 ・作 る ― 収穫物を、煮炊きして古代食を作る。古代のお酒も作る。
 ・食べる ― 容器もグランドで焼いた土器を用いて食事を味わう。
 ・住 む ― グランドには竪穴住居などを復元し、小中学生などの宿泊も含めた生活体験を。
 ・生 活 ― 時代ごとの衣服をまとっての生活体験。着付け教室と記念写真。
 ・お土産 ― クッキーや土器のレプリカなどおみやげに。

(1) 博物館の代用として
 京都には歴史博物館構想がすでに提示されている。具体化されることが切望されることはいうまでもないことである。しかし、できるまでは何も「できない」「しない」とする発想では、活用面での創造的発展は望めない。「屋根のない博物館」の活用という発想に立つ必要がある。現在の考古資料館の意義は多大なものがあるが、場所的な問題、体験型のイベントが設定しにくいなど問題点も多い。また、発掘現場での体験学習の意義もはかり知れないものがあるが、埋文調査の全体的把握には体験だけでは難点がある。しかし、両者の否定ではなく、両者との組み合わせで、今までにない活用の豊富化と創造性を獲得する方向の模索。すなわち、屋外での体験学習は実際の発掘やそこから得た成果をもとにした古代の衣食住などの復元・体験を取り入れることでリアルな体験的学習になろう。


京都新聞(2007年1月19日)

(2) 活用の拠点―体感総合施設として
 学校跡地利用で体感総合施設は、様々な分野に如何なる可能性を提示するのか、それぞれの分野における位置付けと可能性について検討する。
① 地域との連携
  地域の人達とともに活用を享受する。学校跡地周辺の地域の住民に積極的に開放し、地域の活性化・町起こしなどの一環として活用していただけるよう便宜をはかる。格致小学校跡地の例では、周辺学区の住民が子どもらの田植えなどの作業にさまざまアドバイスをし、水の管理・除草など積極的にかかわって、単なる学校の授業ではなく、地域の事業の様相を呈していたという。昨年は収穫したお米を生徒だけではなく、地域のもちつき大会にも供したという。
② 学校教育との連携
  昨今、見直しの声もでているが、学校は週休2日制に伴う総合学習に取り組んでいる。どのような学習にするのか現場では悩みが多いと聞く。これに対して、出前授業として火起こし、石器作り、料理などを再現し活用してきた。数年前から京都市では発掘現場や資料館を使って、チャレンジ体験の一環として埋文発掘体験講座が行われている。これをもう一歩進めて、埋文調査で得た知見を生かした、古代の生活の再現・復元を学校跡地のグランドと校舎で体感することで埋文事業の重層的な理解を深めることになろう。


京都新聞(2006年12月5日)


京都新聞(2007年2月17日)

③ 観光事業との連携
  修学旅行で京都を訪れる学校は多いが、数年前までは減少傾向にあると言われていた。今までと同じように有名寺院などのにわか見学では、表面的な見聞にならざるを得ない。京都を訪れる学校や企画する旅行社も、町家生活体験や様々な体験型学習を企画している。発掘現場での体験と学校跡地でのグランドと校舎での活用体験は、来京者に新たな体感を提供することになろう。また、生徒だけではなく広く観光客にも学校跡地―体感総合施設を大いに利用してもらい、京の都の歴史を体感していただきたい。
④ 京都創生との連携
  一方、折しも、西陣の超再生 京都の創生 が喧伝されている。「国家戦略としての京都創生の提言」では、その要旨は、「山紫水明の風土の京都は1200年の歴史をもつ。文化的創造力を発揮してきた。京都は国家財産であり、世界の宝でもある。その京都も京都だけでは守れない」とし、「京都を保全・再生・創造し、活用・発信する提言」として、(ア)京都創生のための基金創設、(イ)歴史都市再生法の制定、(ウ)京都歴史博物館建設、(エ)京都を観光立国の戦略拠点に、を挙げている。
 歴史博物館では過去を振り返り・体感するのは無論のことだが、「京都を観光立国の戦略拠点に」というからには、京都が観光立国の戦略拠点として、牽引都市となって役割をはたすということである。他都市にはない、あるいは追随を許さないような歴史的に裏付けられたものや、伝統文化・産業などを、京都ブランドとして前面に押し出せということである。そのとき、歴史的遺産や伝統文化・産業は、過去があっての今であり、今を深く味わうためにも過去の遺産である、埋蔵文化財の関連事業も、戦略拠点の京都として役割を果たす必要があろう。

4. 事業の継続・発展のための

(1) 埋蔵文化財研究所は、本来行政が行うべき埋蔵文化財調査をここ30年間、一手に担ってきた。外郭団体とはいえ、埋蔵文化財事業が京都市の中で、公的な存在意義があるという認識を確立すべきである。京都の観光や文化の発展にとって、必要な要素という認識がなされるべきである。その上で、必要な措置を講ずべきである。

(2) 教職員との連携が大事である。学校での総合学習や出前授業は、歴史や文化を生きた教材として、体験から得られるものは多大である。しかし、それを、企画参画し指導する側の教職員は発掘体験等していないので、受け身にならざるを得ない。歴史関係の教職員にとって、発掘などによって歴史教材を体験的に把握することは重要である。実際に発掘現場で研修することで、その体験を授業に活かしていくことは、授業内容の豊富化・活性化に更に寄与できることにつながろう。

5. まとめ

 京都の特性は1000年の都の歴史の中で培われた、他都市にはない歴史的遺産や伝統文化・産業などにある。「京都創生」で「京都を観光立国の戦略拠点」にというのは、この点を基盤にしてのことである。他の大都市と同じような産業発展の道は、単純化・平準化した発展であり、京都である必然性はない。そうではなく、京都ブランドを活かした事業の発展こそが京都の未来への道であるとしている。歴史を見学し、体感し、味わう、などの視点を基盤にすべきである。そこに、埋蔵文化財の活用を組み込んで京都創生の一助にすべきである。