【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

偽装請負の追及と労働者の直接雇用へ


兵庫県本部/宝塚市職員労働組合・自治研推進委員会・偽装請負調査チーム

1. 本丸・窓口サービス課の偽装請負

 私たち偽装請負調査チームが取り組んだこの総合窓口化推進事業の端緒は「各種の証明書や届け出で手続きが1カ所でできるような総合窓口の実現をめざし」2004年9月27日の政策会議で、総合窓口化検討会の設置を決定したところにある。当初、事業開始が2007年1月目標になっていたが、当時の市長の強い意向で2006年1月に前倒しされたものだ。
 総合窓口化検討会の報告書は2005年3月付けで出された。取り扱う事務は、108事務でスタート、2年後には145事務に拡大するとしていた。職員数は、当時の市民課等で29人(正規28人、臨時職員1人)から、スタート時43人(正規36人、臨時職員5人、委託職員2人)となっていた。同時に、出先機関である2サービスセンター・5サービスステーション(正規30人、臨時職員2人)を統廃合し、2サービスセンター・2サービスステーション(正規21人、臨時職員2人、委託職員18人)にすることも報告書に盛り込まれた。委託職員の増加は、1サービスステーションの開館時間を午後8時までとするためである。
 この報告書の内容にもかかわらず、実際に団体交渉で当局が提案してきた体制は、窓口サービス課の申請書受付・証明書発行業務、データー入力業務を委託する内容であった。当時の労使交渉での結果、この請負契約でスタートした(契約は2005年11月から)。当時も、職業安定法、労働者派遣法、住民基本台帳法などの諸法から見て問題があると指摘していたが、当局に違法意識がなく、時間切れのような中でスタートした。
 私たちは、宝塚市の人的サービスを内容とする契約がほぼ偽装請負であるとの認識を持ち、その本丸こそが「総合窓口化推進事業」として行われている窓口サービス課の請負業務だと考えていた。私たちは、市職労執行委員会に諮った上でこの取り組みを組織的に行うこととした。同時に、組織内市議会議員の梶川美佐男議員(社会民主党)と連携する中で、取り組みをすすめてきた。
 2007年3月23日に、情報公開請求で総合窓口化推進事業関係の文書(3年分)を請求することから、調査を開始した。4月11日に公開され、すべての文書をコピーした。しかし、予想通り漫然とした理由による、非公開(墨塗り)があった。その非公開理由は「入札に関する情報であって、公にすることにより、今後の入札事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。」が16件で、「個人情報に該当し通常他人に知られたくないと認められるため。」が5件の計21件だった。
 この非公開部分の決定に対して、2007年6月8日に異議申立を行い、宝塚市個人情報保護・情報公開審査会に諮問されることとなった。主たる異議申立理由は①最初の契約は6社による指名競争入札(4社辞退、2社のみの応札)で契約しているが、翌年以降(2006年、2007年)は特名随意契約をしており、当分の間、特名随意契約が続くことが容易に推認されるので、非公開とする理由はない、②「著しい障害」や「おそれ」が抽象的で具体性がない、など。
 業務の実態は、市の正規職員と同じブースで、委託職員と業務を連携し、連絡調整をその都度行い、まさに、市職員の直接指揮の下で業務は成り立つ状況だった。器機はすべて市の器機であるし、無償で委託業者が使用する(消耗品まで一切)。使用料を明記した双務契約もない。
 契約書・仕様書でも、作業人員を詳細に明記。休憩時間のローテーションの割り振り時間まで仕様書で明記。社会的に偽装請負が明らかになってきたためか、2007年度の契約書・仕様書には作業人員の数字は無くなった。休憩時間のローテーションは「協議の上」という表現に変わっていた。

2. 偽装請負ではないのか?

 2007年8月24日、市民の方から「就職情報誌に出ていた仕事は偽装請負ではないのか?」との連絡が入った。その就職情報誌は駅などに無料で置いているもの。その求人広告のコピーには大きな文字で『宝塚市役所で、専用ソフトを使ったデーター入力や、簡単な書類整理のお仕事です。土日祝はお休みですよ!』とあり、小さな文字で『☆平日8:45~17:00(実働7.5h/休憩45分 ☆レギュラー勤務になります。 ☆高卒以上、40歳位迄の方 ☆ワード・エクセル使える方大歓迎。 ☆未経験者でも大丈夫ですよ! ☆フリーター・既婚者歓迎しますよ! ☆交通費支給、残業手当有、社保完備 ☆航空写真測量、固定資産コンサルティング ☆宝塚市役所内で、9月3日~2008年2月29日までの6ケ月勤務になります。』とあった。
 現在の就職状況の中で、心地よく響く言葉があふれている。しかし、募集・採用のコンプライアンスから見れば、問題だらけの言葉。
 早速、偽装請負調査チームで協議し、8月27日に梶川議員とともに、総務部に対し、「この求人広告のコピーにあるA(株)に係る業務は何か。偽装請負と思われるので早急に調査すること。」を求めた。
 31日に総務部から、「既に契約している固定資産評価情報管理システム異動修正業務委託契約に新たな償却資産の補足調査業務を加え、その仕事にあたってもらう人のこと。」との回答があった。梶川議員と私たちは「変更契約は済んでいるのか」と追及したが「いま手続き中と聞いている。」とのこと。時間がないこともあり、私たちは「正規職員とその労働者が一緒に法務局に行って、職員の指示で動かざるをえない業務であるから偽装請負(実質労働者派遣)にあたる。従って、当該労働者を10月からでも直接雇用して、違法状態を是正すべきである。いやしくも、当該労働者を辞めさせるということで、違法隠しをしてはならない。」と強く申し入れた。
 9月19日、市議会本会議で梶川議員の偽装請負に関する一般質問に市長は「平成18年度の請負契約の件数は、工事契約を含め1,431件ありましたが、偽装請負と認識した契約はありませんでした。」と言い切った。それに続く答弁で、この求人広告にかかる偽装請負に関しては、既に契約している請負契約の「一部を、平成19年9月3日から委託により実施したことにつきましては、固定資産税に係る調査の一環であることから、当該業務委託の中で取り組みをスタートさせたものでありますが、改めて検討した結果、当初契約や仕様書を変更することなく実施することは適当でないとの判断から9月12日をもって委託業務としての実施を取りやめたものであります。」と当該労働者を辞めさせたことを明らかにした。
 梶川議員が12日で辞めさせたことに怒り、偽装請負とか不適切な雇用契約であったと認めたなら、当該労働者の雇用安定を前提として、直接雇用などの契約切りかえで対応すべきなのに、もっともしてはならない方法をとったと厳しく追及した。この追及に対して、行財政改革担当部長が答弁に立ち「ちょっと、これ経緯がございまして、必ずしも派遣を認めた上でやめさせたのではなくて、当初契約している中で、今回の新たな業務の追加になりますので、契約の変更が必要であろうという判断をいたしまして、もって適正な手続きを得る必要があろうというところでもって、急ではあったんですが、やめさせたという経緯がございます。私も、必ずしも派遣に該当するということでやめさせたということはございませんので、その点御理解いただけたらと思います。」と、言語不明瞭・意味不明瞭の答弁をした。
 この答弁と私たちが情報公開請求で調査した結果から明らかに見えてくるのは、①毎年、指名競争入札をしているが、同じ業者が落札業者になっていること、②当初契約の中に、年度末に「精算」する条項があり、契約や仕様書の変更をせずに「精算」で経費のやり繰りを行おうとした、業者と行政のなれ合い体質、③当該契約が偽装請負にあたること、④結果として当該労働者を「やめさせた」こと、である。従って、宝塚市が「やめさせる」権限をもつ立場にないにもかかわらず、「やめさせた」のだ。
 私たちは、兵庫労働局(実際の管轄は大阪労働局)に、この件で調査に入るよう求めたが、「当該労働者からの求めがあれば入れるが」と、断られた。当該労働者と全く接点をもたない私たちは、この結果に対して何もできないこととなった。総務部から非公式に聞いた話では、当該労働者は、応募会社の本社で勤務していると聞いたが、確認することもできない。最も望まない、最悪の結果となってしまった。

3. 窓口サービス課の委託業務を直営へ

 9月議会でのこれら偽装請負の追及の中で、ささやかな成果として、宝塚市は10月に兵庫労働局から、11月には弁護士を講師に招き、契約担当者などを対象に請負契約・派遣契約などについて研修会を開き、いままで漫然と請負契約をすすめてきた風潮に少し違った観点から契約を見直すきっかけとなった。
 さらに、11月の2006年度決算委員会の審査、12月議会での一般質問で梶川議員は窓口サービス課の偽装請負を追及した。ブースの中での市職員と委託職員の席替えをし、姑息な方法で指揮の実態を隠蔽しようとしたことへの追及で、市の担当部長は「先ほど、席がえの件でございますけれども、確かに日常の業務にとりまして少し長くそれになじんできた職場の中では多少の支障があるかもわかりませんけれども、兵庫労働局の方では外見やはり非常に参考にしないといけないということで、できれば別室が望ましい。席を分けるにこしたことはないと、こういう指摘をいただいたものでございますので、そのような対応をしたわけでございます。ただ、これ以外にも兵庫労働局の方からさまざまなお話も伺っております。そういったところを再点検いたしまして、今後適切な処置を含めて対応してまいりたいと、このように考えております。」と答弁した。
 今から思えば、市はこの時点で請負契約の継続を断念していたと考えられる。しかし、当時の私たちには、そのような分析ができる状況にはなかった。
 12月と2008年1月は、情報公開の異議申立の反論書・反論補充書提出や審査会での口頭意見陳述などで過ぎた。
 2008年2月27日、市当局と市職労との事務折衝の時、市職労書記長に「窓口サービス課の委託業務は直営にする。」との通知があった。それも本題が終わったあとで、付け足しのような通知であった。書記長からこのことを聞いて、私たちは新年度(2008年度)予算書を確認し、窓口サービス課への聞き取り調査をした。同時に窓口サービス課の業務が変更になるため、団体交渉を申し入れた。時間に制約があるため、交渉メンバーは市職労三役と私たち調査チームとした。

4. 委託職員の直接雇用へ

 当時の委託職員は12人(フルタイム9人、ハーフタイム3人)だった。10人が証明書発行、2人がデーター入力を担当。予算書では、証明書発行業務に臨時職員(22条)の雇用で15,354,000円。データー入力に派遣契約2人で7,808,000円。
 委託職員の人たちとの話し合いの場を設定したが、まだ、業者職員という立場もあってか、詳しい話は聞けなかった。ただ、年収が200万円ほどで、交通費・ボーナスは無いとの確認ができた。市の臨時職員の年収(ボーナス込み)160万円では残れない人がいることも分かった。また、ハーフタイム(年収103万円以下)で働きたい人も少数だがいることも分かった。
 2回の団体交渉で、委託職員で希望して市に残る人の従前の賃金補償を求めたが、「他の臨時職員と違った取扱いはできない。」との当局の考え方は固く、折り合いが付けられなかった。
 派遣契約は競争入札になれば、限りなく賃金ダンピングがおこるので、反対した。折しも尼崎市のデーター入力業務の派遣労働者が、競争入札で大きな雇用不安にあり、武庫川ユニオン尼崎市役所分会として、たたかっていた時期だった。
 予算を組み替え、全額を臨時職員雇用財源にして、証明書発行もデーター入力も市直営で行うこととなった。日額賃金(7時間)6,160円であるが、委託職員の期間も在職期間とみなし、2年を超える人は日額6,360円とし、一時金算定期間や年次有給休暇の付与算定期間に通算することで合意した。
 従来、委託契約では、午後5時30分までの8時間勤務が基本だったところを、7時間勤務でなおかつ時間差シフトでカバーしようとしていたことには、組合は反対した。他の臨時職員と同じ取扱いなら、8時45分から午後4時30分(休憩45分)の勤務時間は譲れないとして、必要があれば超過勤務(1時間1,100円、2年超えは1時間1,140円)で対応することで合意した。
 なお、ハーフタイム(年収103万円以下)を希望する人も、その条件で雇用することも確認した。
 現在12人の人が臨時職員として従来の業務を引き続き支えている。証明書発行に8人、データー入力に4人。委託職員の全員が残ったのではない。収入が減ることで辞退された人もいたと聞いている。
 5月には、宝塚市臨時職員労働組合の説明会に呼びかけ、6人の人が組合に加入された。臨時職員労働組合は57人から63人に拡大した。これからは、この組合の団体交渉の場で課題解決にむかうこととなる。

5. 情報公開審査会の公開決定

 2008年5月13日に情報公開審査会の答申が送付されてきた。異議申立した部分すべてが認められ、非公開部分を取り消し、公開となった。宝塚市長は弁明書で「関連法(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)の施行等状況の変化で、特名随意契約が続いた形となったが」「本来の入札の手続きにより契約すべきものと考えており」と将来入札することを理由に、非公開としていた。従って、審査会は「当該業務委託を継続しないことを決定し、2008年2月8日に、2008年度宝塚市一般会計特別会計予算説明書においてこの旨を公表した。また、2009年度以降も、当該業務委託を実施するか否かは未定である。」ので「非公開と判断した根拠は消滅したため」公開は可能とした。
 公開された文書を整理し、金額や人数を一覧表にするとつぎのとおりとなる。

委託契約書の金額等一覧表

 実際に従事していた12人には交通費・ボーナスはでていない。年収200万円9人とハーフタイム103万円3人で計算すると、少なくとも2年5ヶ月で3,000万円以上が業者の経費としてピンハネされていたことになる。今となってみれば、3,000万円の損失を市の政策決定にからんだ人々がもたらしたといえる。
 今年度(2008年度)の臨時職員の人件費予算総額23,162,000円で同じ業務ができたとすれば、昨年度の委託契約額の35,809,200円との差額12,647,200円は無駄な税の支出と考えられないだろうか。
 また、残された労働者の雇用責任もあいまいなままで、税の無駄な支出に誰も責任を取ろうとしない。自治体が行う偽装請負の結果はこんな姿をまざまざと見せつけている。

6. おわりに

 総合窓口化推進事業と称する偽装請負がなくなり、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(市場化テスト法)による入札を目論んでいた当局の思惑は破綻した。しかし、多くの偽装請負はまだ手つかずのまま残っている。税を使った「官製ワーキングプア」は生み出してはならない。税の執行目的にそぐわない。しかし、臨時職員という立場に変わっただけで、年収は減っている。労働組合に加入してもらい、正規職員との「均等待遇を求めて」条件改善を進める課題を、粘り強く追求していかなければならない。