【自主レポート】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働 |
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1. はじめに 2007年3月9日付で安芸高田市に対し、広島労働局より是正指導書が発出されました。安芸高田市が業者二社との間で締結している業務委託契約を対象としたもので、内容は「労働者派遣法の規定する派遣労働者の就業条件の整備等に関する措置に対する違反」いわゆる「偽装請負」に対する是正指導であり、①適正な労働者派遣とする、②適正な請負となるよう是正措置を行う、③雇用の安定を図ることを念頭に当該契約を中止する、のいずれかの措置を取ることを強く指導するものでした。中でも、①の適正な労働者派遣とする場合に、これまでの業務委託期間も派遣期間とみなすとしているのが当時では特徴と考えています。 2. 一部業務委託までの経過 (1) 臨時・非常勤職員の欠かせぬ保育現場 安芸高田市内には10の公営保育所があり、約600人の児童が通っています。旧町時代から、保育現場は財政難と少子化の流動性に対応すると称して保育士の採用が極めて抑制されており、定年等による退職者のほとんどが地方公務員法第22条第5項に基づく臨時職員により補填されてきました。合併時には、各保育所ともその半数近くまたは半数を超える職員が、臨時職員または非常勤職員となってきました。 こうして増加してきた臨時・非常勤等職員は、正規保育士の補助や休暇等の代替として、さらにはクラス担任を受け持つなど保育所の運営に欠かせない存在として、その保育所業務の多くを担ってきました。 (2) 雇用形態の見直し方針 |
「平成17年1月27日 臨時職員の皆様 貴職におかれましては、平素より本市の事務事業遂行に多大なるご尽力をいただきありがとうございます。さて、本市における臨時的職員の任用については、『緊急の場合又は臨時の職に関する場合において、6月を超えない期間で行うことができ、この場合、その任用は6月を超えない期間で更新することはできるが、再度更新することはできない。』と規定する地方公務員法第22条第5項に基づき、現在運用しています。この規定により平成17年4月以降、今年度から引き続く臨時的任用については、任用期間が1年以上となるため行うことができません。ご心配をおかけしますが、このことに対するご理解をよろしくお願いします。」 |
臨時・非常勤等職員の方の中には、これまで何度も更新を重ね、10年を超えて安芸高田市の保育所に勤務していた人もいました。それにもかかわらず、一方的に雇用の打ち切りを通知したことは大きな問題であると考えています。臨時職員の雇用契約については、労働契約説と行政行為説では行政行為説が一般的と言われていますが、これだけ行政の人員削減が進行する中、代替として確保された必要なスタッフを行政行為で一括りに解雇することが適法であるという考え方には疑問が残ります。 安芸高田市当局がこの問題を解決するために検討した選択肢は3つあります。①指定管理者制度、②人材派遣、③一部業務委託の3点です。①については将来的に可能性があるとしながらも現時点では困難、②については一時的な業務向きのため3年という制限があり恒常的である保育業務には不向き(直接雇用義務を強く意識していると思われます)、このため③の一部業務委託方式を、公設公営のままで従来の臨時・非常勤業務に対する人的な手当てができるとともに、現在の臨時・非常勤等職員を積極的に活用できる最適な手法としています。さらに、今後の展望としても、正規職員からの退職者等の欠員分を受託業者の職員で補充することにより人件費を抑制し、民間経営手法により経営コストの削減も行えることから、経費削減効果は年を重ねるごとに大きくなると説明しています。この当局の説明を極論すれば、「安上がり」で「使い勝手の良い」労働者を自治体が責任を負うことなく雇い入れたいということになります。 この時点の説明では、保育所における業務の一部委託は法的には問題はないと断言し、さらに、指揮命令系統について当局が作成した資料のQ&Aでは「直接指示ができないのでは?」という設問に対し「できます。ただし、基本的には業務指示書に基づいた業務となります。これはあくまで大まかな目安で、状況に応じた対応が可能です。また、現場責任者を置くことで随時連携をとることができます」としています。 安芸高田市当局は「偽装請負問題」が明るみに出た以降の2007年3月議会において、これらのことについて、「偽装請負疑惑が社会問題化したのは昨年(2006年)の話で、2005年に業務委託制を導入した当初は問題意識もなかった」と議会で弁明しています。 (3) 民間会社への身分移管 3. 一部業務委託の実態 安芸高田市当局が一部業務委託を強行実施して以降、保育職場では様々な問題が起こっています。 (1) 労働条件の格差 (2) 指揮命令系統の混乱 (3) 違法状態は回避できたか 4. 労働組合の関与 安芸高田市職労は、2005年4月1日より一部業務委託が実施されて以降、委託職員の方と数回にわたり懇談会を持ち、当事者の意見を聞き、直接安芸高田市当局と委託職員の話し合いの場を持つことを要請してきましたが、受託業者からの介入もあり、実現には至りませんでした。2005年10月には委託職員の処遇改善を求め当局と直接交渉を行い、通勤手当支給など不十分ながらも部分的な待遇改善が前進した項目もありますが、2006年度の一部業務委託についての継続を防ぐことはできませんでした。 5. 業務委託から直接雇用まで~偽装請負からの経過と今後の課題~ (1) 是正指導 これは、「2005年4月からの一部業務委託期間についても派遣期間とみなす」とする広島労働局の指導を受け、2008年3月末日が3年間の派遣受け入れ期限(法抵触日)となることから、厚生労働省が指針で示している「派遣期間を3カ月以上休止すれば、新たに3年間の派遣を受けられる」とするクーリング期間を強く意識してのことと考えられます。つまり、2008年1月から2008年3月までの3カ月をクーリング期間とし、2008年4月から、再度派遣の受け入れを開始しようとしている意向であったと考えています。 このことに対して2007年4月に広島労働局より講師を招き、労働者派遣法について学習を行いました。その中で講師も「クーリング期間をおけば、直接は違法とはならないが、派遣再開を前提としたものであれば全て問題がないとは言えない」とし「労働者の雇用が不安定となるため、道義的な問題が残る。労働局としての立場上は直接雇用の指導を行う」と説明されました。 そもそも、「偽装請負が発覚したから、派遣にすれば良い」という考えが、当事者の立場を顧みないものです。合併当初から考えれば、市町村合併そのものが大きな雇用不安をもたらし、1年後には臨時・非常勤等職員から委託職員へ変更、また、その2年後に派遣に切り替えた後、9カ月後には労働条件未定の直接雇用の予定でその後は検討中、と当事者の立場はめまぐるしく変化し、大きなストレスの中で働いていました。 (2) 労働組合の結成 (3) 3度目の身分の変更(派遣社員から直接雇用へ) そうした中、当局は2007年12月29日からは派遣職員は非常勤職員として安芸高田市の直接雇用と一定の雇用継続の考え方を示しました。保育士と調理員の職種により格差が設定されていることが大きな問題ですが、派遣契約期限という時間的制約と賃金的には業務委託以前の水準を上回り合併当初の賃金に迫る改善となることから安芸高田市保育所分会と協議し最終的には労働条件の内容の継続協議項目も確認し、この方針により妥結しました。このことにより、2007年12月29日以降、派遣社員として市保育業務に従事していた方で希望者は、全て市の直接雇用の非常勤職員となりました。 しかし、非常勤職員化に伴い大きな課題として基本的賃金のみならず、手当て面での不備や、休暇面での正規職員との格差は依然として残るとともに、非常勤職員として原則週当たり30時間(月120時間)の勤務時間となり、その分1/4人員不足が発生することとなりました。 人員不足の対応は、当局は基本的には新規雇用で補填するとし、4月より新たに12人の非常勤職員が各保育所へ採用されていますが、十分な配置となっていないのが現状です。さらに、直接雇用となったことを原因として、通勤にかかる費用弁償などが無いにもかかわらず、勤務地の異動が正規職員と同じように行われ、交通費などの直接の負担増や、通勤距離の増大などを理由として数人の仲間が職場を去って行きました。配置に係る問題は、今後の活動の大きな課題と認識しています。
(4) 今後の課題 6. 終わりに 安芸高田市の偽装請負の対策を通じて、改めて請負・委託や派遣の間接雇用の問題を明らかにして、直接雇用に切り替えて行くことを労働運動の基幹に置くことが必要と考えます。臨時職員の更新制限についても労働者供給事業の禁止や労働者派遣法の期間の定めなども、非正規労働者を正規労働者の恒常的な代替にしてはならないという主旨で設定されているものであると考えています。そのことを、労働者を守るためのものでなく雇用切捨てのための理由にさせてはいけないと思います。さらに言えば、非正規労働者を低位な労働条件のまま放置することは、これだけ非正規労働者が増加している職場では、正規労働者の必要性そのものを危うくすることにもつながると考えられます。 全国的に拡大する非正規労働者の問題に結果的に追随することになった安芸高田市ですが、「人 輝く ―安芸高田市―」を標語とする自治体として、地域の労働者の輝くことのできる政策を今後とも求めていきたいと考えます。 |