【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

安芸高田市偽装請負の経過と取り組みの現状


広島県本部/安芸高田市職員労働組合 玉井 郁生

1. はじめに

 2007年3月9日付で安芸高田市に対し、広島労働局より是正指導書が発出されました。安芸高田市が業者二社との間で締結している業務委託契約を対象としたもので、内容は「労働者派遣法の規定する派遣労働者の就業条件の整備等に関する措置に対する違反」いわゆる「偽装請負」に対する是正指導であり、①適正な労働者派遣とする、②適正な請負となるよう是正措置を行う、③雇用の安定を図ることを念頭に当該契約を中止する、のいずれかの措置を取ることを強く指導するものでした。中でも、①の適正な労働者派遣とする場合に、これまでの業務委託期間も派遣期間とみなすとしているのが当時では特徴と考えています。
 この是正指導を受け、安芸高田市は2007年4月1日から、これまで2年間続けてきた業務委託を労働者派遣に切り替えました。

2. 一部業務委託までの経過

(1) 臨時・非常勤職員の欠かせぬ保育現場

 安芸高田市は2007年3月1日、広島県の旧高田郡六町(吉田町・八千代町・美土里町・高宮町・甲田町・向原町)が合併し、人口34,281人、面積538.17平方キロ、広島県の14番目の市として誕生しました。広島市の北西に位置する中山間地域で、合併前より少子高齢化や労働人口の流出に悩んできました。
 安芸高田市内には10の公営保育所があり、約600人の児童が通っています。旧町時代から、保育現場は財政難と少子化の流動性に対応すると称して保育士の採用が極めて抑制されており、定年等による退職者のほとんどが地方公務員法第22条第5項に基づく臨時職員により補填されてきました。合併時には、各保育所ともその半数近くまたは半数を超える職員が、臨時職員または非常勤職員となってきました。
 こうして増加してきた臨時・非常勤等職員は、正規保育士の補助や休暇等の代替として、さらにはクラス担任を受け持つなど保育所の運営に欠かせない存在として、その保育所業務の多くを担ってきました。

(2) 雇用形態の見直し方針
 こうした状況の中、安芸高田市当局は、恒常的な臨時職員の雇用は、地方公務員法の趣旨に沿わないとしながらも、当面は運営上不可欠な存在であることを認め、合併後に1年間かけて、臨時・非常勤等職員の雇用問題を見直すとしてきました。
 合併直後に誕生した自治労安芸高田市職員労働組合(以下、安芸高田市職労と表現します)も、この問題について、臨時・非常勤等職員の雇用の安定と、段階的な正規職員への採用を求めてきましたが、労使協議の決定的な前進のないまま、当局は2004年12月27日には、保育職場における新たな業務委託契約の締結と臨時・非常勤等職員の受託業者への転籍の提案を行ってきました。
 翌2005年1月6日、安芸高田市職労は当局と交渉を行い、臨時・非常勤等職員の問題について、業務委託化は法的に問題があり、一年程度の時間をかけて検討するよう申し入れを行いましたが、1月13日には安芸高田市行政改革推進本部会議にて業務委託が決定、その10日後には各保育所における臨時・非常勤等職員への委託化・転籍の周知がされ、1月27日には臨時・非常勤等職員当事者に対して4月以降任用ができないことが一方的に通知されました。その通知内容は以下のとおりです(一部抜粋)。


 「平成17年1月27日 臨時職員の皆様
 貴職におかれましては、平素より本市の事務事業遂行に多大なるご尽力をいただきありがとうございます。さて、本市における臨時的職員の任用については、『緊急の場合又は臨時の職に関する場合において、6月を超えない期間で行うことができ、この場合、その任用は6月を超えない期間で更新することはできるが、再度更新することはできない。』と規定する地方公務員法第22条第5項に基づき、現在運用しています。この規定により平成17年4月以降、今年度から引き続く臨時的任用については、任用期間が1年以上となるため行うことができません。ご心配をおかけしますが、このことに対するご理解をよろしくお願いします。」

 臨時・非常勤等職員の方の中には、これまで何度も更新を重ね、10年を超えて安芸高田市の保育所に勤務していた人もいました。それにもかかわらず、一方的に雇用の打ち切りを通知したことは大きな問題であると考えています。臨時職員の雇用契約については、労働契約説と行政行為説では行政行為説が一般的と言われていますが、これだけ行政の人員削減が進行する中、代替として確保された必要なスタッフを行政行為で一括りに解雇することが適法であるという考え方には疑問が残ります。
 安芸高田市当局がこの問題を解決するために検討した選択肢は3つあります。①指定管理者制度、②人材派遣、③一部業務委託の3点です。①については将来的に可能性があるとしながらも現時点では困難、②については一時的な業務向きのため3年という制限があり恒常的である保育業務には不向き(直接雇用義務を強く意識していると思われます)、このため③の一部業務委託方式を、公設公営のままで従来の臨時・非常勤業務に対する人的な手当てができるとともに、現在の臨時・非常勤等職員を積極的に活用できる最適な手法としています。さらに、今後の展望としても、正規職員からの退職者等の欠員分を受託業者の職員で補充することにより人件費を抑制し、民間経営手法により経営コストの削減も行えることから、経費削減効果は年を重ねるごとに大きくなると説明しています。この当局の説明を極論すれば、「安上がり」で「使い勝手の良い」労働者を自治体が責任を負うことなく雇い入れたいということになります。
 この時点の説明では、保育所における業務の一部委託は法的には問題はないと断言し、さらに、指揮命令系統について当局が作成した資料のQ&Aでは「直接指示ができないのでは?」という設問に対し「できます。ただし、基本的には業務指示書に基づいた業務となります。これはあくまで大まかな目安で、状況に応じた対応が可能です。また、現場責任者を置くことで随時連携をとることができます」としています。
 安芸高田市当局は「偽装請負問題」が明るみに出た以降の2007年3月議会において、これらのことについて、「偽装請負疑惑が社会問題化したのは昨年(2006年)の話で、2005年に業務委託制を導入した当初は問題意識もなかった」と議会で弁明しています。

(3) 民間会社への身分移管
 2005年2月には、臨時・非常勤等職員に対して任用にかかる説明会が実施され、併せて同時期に民間会社転籍希望調査が行われました。
 2005年4月1日より実施された一部業務委託事業は、「保育士業務及び保育所調理業務」の大新東株式会社(本社:東京)への委託というものでした。これに伴い、民間会社に転籍することに同意した臨時・非常勤等職員(以下、「委託職員」と表現します)は大新東(株)の系列会社であるエヌ・アイ・サービス株式会社(契約途中より大新東ヒューマンサービス(株)に名称変更)に身分移管され、その指揮命令下で業務を遂行することとなりました。実施当時における委託職員は対象者75人のうち66人でした。
 委託職員への身分移管に伴い、臨時・非常勤等職員時点と比較して労働条件は大きく引き下げられました。時給換算で15%~19.2%のマイナス、各種手当ての廃止、業務内容はほぼ変わらない上、昇給もなく雇用契約が一年更新と明記され、毎年雇用継続に不安を抱えるという厳しい内容でした。
 これほど労働条件を切り下げておきながら、市のトータルコストは、受託業者に対する諸経費などの計上に伴い、委託前(人件費)と比較して増大しています。

3. 一部業務委託の実態

 安芸高田市当局が一部業務委託を強行実施して以降、保育職場では様々な問題が起こっています。

(1) 労働条件の格差
 客観的に保育所を見たとき、正規職員と委託職員の違いは全くわからないと思います。しかし、同じ保育所で同じ保育士の資格を有し同じ時間働いているにもかかわらず、その労働条件には大きな開きがありました。また委託職員の中でも、臨時・非常勤等職員からの転籍者と大新東(株)に直接採用された人との間にも賃金格差が設定されており、保育現場での士気の喪失に大きく影響しています。さらに、なぜか保育所ごとにも賃金の格差が生じている実態がありますが、大新東(株)の担当者はそのことに対して明確な回答はしていません。一部には「優秀な人材には賃金で報いる」と説明していますが、月に数回程度しか訪れていない担当者が、現場で働く労働者の優劣をどう判断できるのか疑問です。
 また、低賃金化に伴い自主退職していく人が増えています。人生をかける仕事として保育士を選択し、資格を取得した上で、安芸高田市で働くことを選んだ若い労働者が、市行政の対応に失望し、この労働条件では生活できないとして都市部へ流出していきました。
 労働条件の切り下げに対する不満は、市当局だけでなく、同じ職場で働く正規職員へも向かいます。臨時職員から委託職員になったある職員は「正規職員の賃金を守るために、自分たちは犠牲になっている」と言っていました。

(2) 指揮命令系統の混乱
 保育業務は、言うまでもなく、子どもを安全、快適な状態で預かることを前提としています。そのためには職場内での協力が不可欠です。しかし、一部業務委託という形態では、受託業者が業務を独立して完結させることが前提となるため、正規職員と委託職員が協力することは違法につながります。このような状態で、万が一、子どもに事故が発生した場合、違法にならないまま対応ができるでしょうか。
 大新東(株)は、独立した指揮命令系統を確立するため、各委託職員に携帯電話を支給し、直接指揮を行うとしています。しかし、緊急な事故などで対応を迫られた委託職員に、現場にいない管理者が適切な指示を出すことができるでしょうか。現実には、保育業務に従事している間は電話に出ることは基本的に困難で、支給された携帯電話は出勤管理にしか使用していないという委託職員が多くいました。
 正規職員と委託職員とが協力することが違法となるならば、保育業務の一部業務委託は不可能です。また保育行政に対して責任を持てる立場でなければ、児童・保護者に対して自信を持って対応することも難しくなります。独立した指揮命令系統を確立しようとすればするほど、そのことの犠牲になるのは、結局、その保育所へ通う子どもたちなのです。

(3) 違法状態は回避できたか
 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(労働省告示第37号)」では、請負の形式の場合には、単に肉体的な労働力を提供するものでないことを前提とした上で、事業主が①自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材又は材料若しくは資材により、業務を処理すること、②自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること、と規定しています。しかし保育所の中でその基準を満たすのは根本的に困難であり、労働局からの是正指導でもその違法性が指弾されています。
 まず、自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて事業者が業務を処理することとなっていますが、そもそも臨時・非常勤等職員から委託職員になった方のスキルは、これまでの職場経験で培ったものであり、受託業者の専門性とは言えません。また、委託職員の多くの方が、受託業者は賃金の管理しかしておらず、年に一回開催された研修会も接遇研修のみであったと話しています。さらに、配置・変更の指示や就業時間等勤怠管理など、保育所長が直接指示してきたものであり、現場での対応についても十分周知などされていなかったことが窺えます。
 その他、下請けを前提とした契約体系の問題や委託職員の社会保障の問題など、多くの問題を内包すると考えています。適法な保育業務の一部業務委託は不可能なのではないでしょうか。

4. 労働組合の関与

 安芸高田市職労は、2005年4月1日より一部業務委託が実施されて以降、委託職員の方と数回にわたり懇談会を持ち、当事者の意見を聞き、直接安芸高田市当局と委託職員の話し合いの場を持つことを要請してきましたが、受託業者からの介入もあり、実現には至りませんでした。2005年10月には委託職員の処遇改善を求め当局と直接交渉を行い、通勤手当支給など不十分ながらも部分的な待遇改善が前進した項目もありますが、2006年度の一部業務委託についての継続を防ぐことはできませんでした。
 2006年度以降は、安芸高田市職労の保育部会を中心に、現状打開をめざして自治労広島県本部の協力、さらには同じ一部業務委託問題で闘争中の自治労兵庫県本部と朝来市職員労働組合との意見交換や支援をいただきながら、安芸高田市の一部業務委託の不当性や違法性を整理し、委託職員の方々と意見交換や学習会を開催してきました。
 はじめは委託職員の参加は多くはなかったものの、月に1回以上定例的に開催する中で、一度は参加するという人も増え、労働組合に対する認識も浸透していったと思います。とは言え、組合立ち上げに関しては、時期的な問題や当局等の圧力・介入に慎重を期するあまり、安芸高田市職労と委託職員の間に摩擦があったことも否めません。さらに、安芸高田市職労と当局との交渉において、委託職員の意見を聞いて問題点の追及を行っても、その場に当事者がいない中では迫力や臨場感に欠け、当局も間に民間企業が入っていることから、第三者的な立場を取ることもあり、決定的な前進を図ることができないことが多くありました。
 そうした中、キヤノンなど大企業の「偽装請負」が表面化し、11月には篠山市が100%出資して創った株式会社「プロビスささやま」に、兵庫労働局が調査に入ることが報道されるなど、「偽装請負」が社会問題化してきたことから、安芸高田市当局も安芸高田市職労との交渉の中で、一部業務委託について2007年度以降は「業務委託のあり方を派遣も含め検討している」と回答してきました。

5. 業務委託から直接雇用まで~偽装請負からの経過と今後の課題~

(1) 是正指導
 2007年3月3日に「保育所委託偽装請負か」の見出しで新聞報道された安芸高田市の「偽装請負」疑惑は、「はじめに」で触れたように、広島労働局の調査によって、より遵法義務が問われる自治体でありながら是正指導書を出されるという極めて不名誉な結果となりました。この是正指導を受け、安芸高田市当局はこれまでの一部業務委託で働いていた委託職員を2007年4月1日から人材派遣に切り替える選択をしました。さらに、人材派遣の期限を同年12月28日に設定し、2008年1月からは直接雇用するとしました。
 これは、「2005年4月からの一部業務委託期間についても派遣期間とみなす」とする広島労働局の指導を受け、2008年3月末日が3年間の派遣受け入れ期限(法抵触日)となることから、厚生労働省が指針で示している「派遣期間を3カ月以上休止すれば、新たに3年間の派遣を受けられる」とするクーリング期間を強く意識してのことと考えられます。つまり、2008年1月から2008年3月までの3カ月をクーリング期間とし、2008年4月から、再度派遣の受け入れを開始しようとしている意向であったと考えています。
 このことに対して2007年4月に広島労働局より講師を招き、労働者派遣法について学習を行いました。その中で講師も「クーリング期間をおけば、直接は違法とはならないが、派遣再開を前提としたものであれば全て問題がないとは言えない」とし「労働者の雇用が不安定となるため、道義的な問題が残る。労働局としての立場上は直接雇用の指導を行う」と説明されました。
 そもそも、「偽装請負が発覚したから、派遣にすれば良い」という考えが、当事者の立場を顧みないものです。合併当初から考えれば、市町村合併そのものが大きな雇用不安をもたらし、1年後には臨時・非常勤等職員から委託職員へ変更、また、その2年後に派遣に切り替えた後、9カ月後には労働条件未定の直接雇用の予定でその後は検討中、と当事者の立場はめまぐるしく変化し、大きなストレスの中で働いていました。

(2) 労働組合の結成
 こうした状況に対抗するため、委託職員と交流を重ね、保育職場の組合員を中心に当事者との意見交換や先述の学習会などを行い、意見のすり合わせや組織化に向けて準備を進めました。結果として、自らの雇用・労働条件を自らの手で勝ち取ることを目標に、45人の方が組合加入届を提出(2007年5月末日当時)、過半数の組織化ができ、2007年6月9日には「自治労広島公共民間ユニオン安芸高田市保育所分会」結成大会を行いました。
 組合結成後、契約期間が年末までであるという限られた期間の中ではありましたが、派遣元である大新東(株)と数回の交渉を持ち、保育士間の賃金格差の改善など一定の成果もありました。現在(2008年7月末日現在)組合加入者は63人となり、対象者の約9割の組織率となっています。
 労働条件的な成果は多くはありませんでしたが、正規職員との連帯した取り組みは職場環境の改善になっていると考えています。臨時・非常勤等職員の時点と比較すると、漠然とした「かわいそう」的な発想から、自分たちのことにもつながっているとい意識が正規職員側へ浸透し、互いが連携を図ることが増えてきています。各地に分散している保育職場という特異性からこれまであまりなかった「労働者間の交流」も行い、保育という職自体の情報交換や同じ安芸高田市で働く労働者としての仕事での率直な思いや悩み、不満など、それまでコミュニケーションの少なかった「違う職場」の実態や人を知る、違いに気づくなどの交流は成果と言えると考えています。

(3) 3度目の身分の変更(派遣社員から直接雇用へ)
 組合結成から定期的に当事者と意見交換ができ、交渉にも参加できる状態になったことで、安芸高田市職労としても、行政が委託職員を必要な人材と認めながらも安定とはかけ離れた雇用形態を生み出していることに反省を求め、恒常的な業務に対する派遣を前提としたクーリング期間の不当性を訴えながら、当局と協議を重ね、安定した雇用と労働条件を求めました。
 そうした中、当局は2007年12月29日からは派遣職員は非常勤職員として安芸高田市の直接雇用と一定の雇用継続の考え方を示しました。保育士と調理員の職種により格差が設定されていることが大きな問題ですが、派遣契約期限という時間的制約と賃金的には業務委託以前の水準を上回り合併当初の賃金に迫る改善となることから安芸高田市保育所分会と協議し最終的には労働条件の内容の継続協議項目も確認し、この方針により妥結しました。このことにより、2007年12月29日以降、派遣社員として市保育業務に従事していた方で希望者は、全て市の直接雇用の非常勤職員となりました。
 しかし、非常勤職員化に伴い大きな課題として基本的賃金のみならず、手当て面での不備や、休暇面での正規職員との格差は依然として残るとともに、非常勤職員として原則週当たり30時間(月120時間)の勤務時間となり、その分1/4人員不足が発生することとなりました。
 人員不足の対応は、当局は基本的には新規雇用で補填するとし、4月より新たに12人の非常勤職員が各保育所へ採用されていますが、十分な配置となっていないのが現状です。さらに、直接雇用となったことを原因として、通勤にかかる費用弁償などが無いにもかかわらず、勤務地の異動が正規職員と同じように行われ、交通費などの直接の負担増や、通勤距離の増大などを理由として数人の仲間が職場を去って行きました。配置に係る問題は、今後の活動の大きな課題と認識しています。

(4) 今後の課題
 恒常的な業務については当然正規職員の採用により行う事が当然であり、職場を、仲間を守るためには、正規職員採用を基本方針とする考えは現在も同じであると考えています。今回の問題について、労働組合結成の取り組み以降、委託職員→派遣職員→非常勤職員と雇用は変更となり、当面の違法状態の解消と一定の労働条件の改善ができてきました。今後も引き続き、労働条件の整備、例えば賃金表制定や休暇制度の拡充などを図り、同じ職場で同じ労働を行う仲間の処遇改善を行い、最終的には正規職員への移行を求めていきたいと考えています。ただ、老朽化している施設、減少する子ども達、財政難に喘ぐ自治体の現状などを考えれば、その道のりは決して平坦ではないと予測しています。
 しかし保育は、地域と関わりの深い、地域の将来を担う大切な子どもを預かる重要な業務であり、「止めることのできない必要な行政」と考えています。そのための基盤である保育士の雇用が極めて不安定かつ生活できない賃金のままで、保護者は安心して大切な子どもたちを預けることができるでしょうか。保育士の「安心して働ける環境・待遇」は保育行政の最も大切な基本的なもののひとつではないでしょうか。
 現場の労働者は、労働者間に溝が作られても、不安定な雇用条件に置かれても、賃金を抑制されても、子どもたちのために一生懸命努力し、協力して働いています。
 また、地方公務員に適用ではないものの、個別労働関係紛争が多発する社会情勢から労働契約法が制定施行され、個別の労働関係の安定のため、労働契約の原則(労使対等・均衡考慮・仕事と生活の調和への配慮・信義誠実・権利濫用の原則)などが明文化されています。特に均衡考慮などは適用除外と言えども法制化してある以上、全く考慮しなくて良いはずもなく、こういった社会的情勢なども踏まえた取り組みを行いたいと考えています。
 労働組合結成からの関わりによって「労働組合」の必要性が改めて認識できたと思います。安芸高田市職労も自治労広島公共民間ユニオン安芸高田市保育所分会の仲間と一緒になって、保育行政の充実を今後もめざしたいと考えています。

6. 終わりに

 中山間地域で参入企業も少ない中では、厳しい財政状況を改善するための政策は限られているかも知れません。行政の財政的な疲弊は地域の疲弊につながり、マイナススパイラルとなって、税収減などのかたちで行政に跳ね返ってきます。その中で、安芸高田市当局も苦渋の選択だったと考えています。しかし、今回の安芸高田市「偽装請負」の問題は、結果的には行政が行った偽装請負として批判の的となり、委託職員をはじめとした地域の行政不信を生み、職員間にも溝をもたらすことになりました。自治労広島県本部でも、「安芸高田市は恒常的な臨時職員の問題について、まじめに解決しようとして、より違法性の高い偽装請負を選択してしまった」と分析しています。
 安芸高田市の偽装請負の対策を通じて、改めて請負・委託や派遣の間接雇用の問題を明らかにして、直接雇用に切り替えて行くことを労働運動の基幹に置くことが必要と考えます。臨時職員の更新制限についても労働者供給事業の禁止や労働者派遣法の期間の定めなども、非正規労働者を正規労働者の恒常的な代替にしてはならないという主旨で設定されているものであると考えています。そのことを、労働者を守るためのものでなく雇用切捨てのための理由にさせてはいけないと思います。さらに言えば、非正規労働者を低位な労働条件のまま放置することは、これだけ非正規労働者が増加している職場では、正規労働者の必要性そのものを危うくすることにもつながると考えられます。
 全国的に拡大する非正規労働者の問題に結果的に追随することになった安芸高田市ですが、「人 輝く ―安芸高田市―」を標語とする自治体として、地域の労働者の輝くことのできる政策を今後とも求めていきたいと考えます。