5. 広島市の指定管理者の評価項目に導入
議会答弁に示されたように、自治労が運動提起している公契約条例を参考にした政策入札の考え方は、まず、2006年4月からスタートした指定管理者制度の評価基準として全面的に導入することができました。
4項目の内、環境問題への配慮、障害者雇用の促進、男女共同参画の推進については評価の「加点・減点項目」に、また公正労働基準の確立については欠格条項に盛り込むことができました。
(1) 欠格事項について
広島市の指定管理者の選定にあたっては、欠格事項を定め、該当する場合は選定の対象外としました。その中にも障害者雇用や公正な労働基準の考え方が採用されています。
欠格事項の要旨は次のとおりです。
① 指名停止の措置要件に該当している場合。
② 市税等を滞納している場合。
③ 労働基準法等に違反し、極めて重大な社会的影響を及ぼしている場合。
④ 障害者雇用率が達成されておらず、かつ、障害者雇用納付金も滞納している場合。
公正な労働基準については十分とはいえないまでも、労働者関係についての案件を盛り込めたことは一定の前進と考えています。
また、障害者雇用を明記したことは、今後、各事業者において、障害者雇用が重要な課題であると認識されると同時に、障害者雇用の促進が期待されます。
(2) 評価項目、配点について
評価項目については、市民の平等利用、施設効用の発揮、管理を安定して行う物的・人的能力、管理経費の縮減などを基本とし、それぞれの施設によって項目の追加を行っています。市民の平等利用、施設効用の発揮、管理を安定して行う物的・人的能力、その他の項目を合わせた配点は50点~70点とし、管理経費の縮減は30点~50点の間で配点、合計100点とするよう配点されます。
当局に対しては、制度ができるときに改めて、物的・人的能力等の評価をできるだけ高くし、管理経費の縮減については配点を圧縮するよう求めました。その結果、ほとんどの施設で「管理経費の縮減」の配点は30点で設定されました。市の施設の管理運営をまかせることになりますので安定して管理できる能力を有していることが重要なことは当然です。
また、これまでほとんどの施設で公益法人に委託しており、それぞれの法人は市からの派遣職員とプロパー職員で構成されているため、プロパー職員の雇用の確保も大きな課題でした。プロパー職員の賃金は市職員と同様なレベルであり、指定管理者制度の導入が労働条件に大きな影響を与えることは間違いありません。今後、厳しい状況になることは免れませんが、プロパー職員の解雇という事態は避けなければなりません。
評価項目と配点は次のとおりです
① 市民の平等利用を確保することが出来ること。
② 施設効用が最大限発揮されること。
③ 管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していると認められること。
④ その他(施設の性質や目的等に応じて項目を追加することができます)。
(①~④の配点の合計は50点~70点)
⑤ 管理経費の縮減
(⑤の配点は30点~50点)
(3) 加点減点項目、配点について
これまで述べてきたように環境問題への配慮、障害者雇用、男女共同参画の推進については「加点減点項目」として追加をされました。
加点減点項目は次のとおりです。
① 障害者雇用率の達成
障害者雇用率が1.8%~2.7% ⇒ 4点加点
〃 2.7%~3.6% ⇒ 7点加点
〃 3.6%以上の場合 ⇒ 10点加点
障害者雇用納付金を1年でも滞納 ⇒ 2点減点
② 環境問題への配慮
ISO14001を取得している場合 ⇒ 5点加点
③ 男女共同参画の推進
a) 世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」を策定していない場合
従業員301人以上 ⇒ 3点減点
〃 300人以下 ⇒ 2点減点
b) 女性のチャレンジ大賞を受賞 ⇒ 2点加点
c) 均等推進企業表彰を受賞 ⇒ 2点加点
d) ファミリー・フレンドリー企業表彰を受賞 ⇒ 2点加点
なお、加点減点項目の内、障害者雇用率の実施状況については指定管理者が毎月提出する業務実施報告書に各月1日の状況の記載が義務付けられています。また、ISO14001の取得など環境問題への配慮と一般事業主行動計画の策定など男女共同参画の推進については4半期ごとに実施状況を報告することになっています。
6. 競争入札参加資格審査への追加
2007年度、2008年度の入札参加資格の審査に新たに①ISOの認証取得の状況、②障害者雇用の状況、③災害時の地域貢献度の状況、④男女共同参画の取組状況を追加しました。審査は2006年度秋に行っており、指定管理者の応募以外にも広島市の行う入札に参加しようとする事業者はこうした案件をさけて通れないことになりました。
審査は国のマニュアルに沿った客観的審査事項に加えて、広島市独自の主観的審査も行われており、その主観的審査事項に加えたものです。
具体的には次のとおりです。
(1) ISOの認証取得の状況
① ISO9001の認証取得している場合 ⇒ 5点
② ISO14001の認証取得している場合
又はエコアクション21の認証・登録している場合 ⇒ 5点
(2) 障害者雇用の状況
① 障害者雇用率が1.8以上の場合 ⇒ 5点
② 障害者雇用率が3.6以上の場合 ⇒ 10点
(3) 男女共同参画の取組状況
① 次世代育成支援対策推進法の「行動計画」を策定している場合(300人以下)
又は、以下の表彰を受賞した場合 ⇒ 5点
・女性のチャレンジ大賞(内閣府)
・均等推進企業表彰(厚生労働省)
・ファミリー・フレンドリー企業表彰(厚生労働省)
・広島市男女共同参画推進事業所表彰(広島市)
② 女性技術者(国家資格者に限る)を1人以上雇用している場合 ⇒ 5点
7. 総合評価入札の実施
こうした一連の取り組みを行った結果、はじめにの項でも述べたように、2007年6月からは工事請負契約など広島市が行う総合評価入札において①環境配慮への取組状況(ISO14001の取得状況)、②男女共同参画への取組状況、③障害者雇用の状況の3点を社会的評価項目として追加するとともに、その他の評価項目として④品質管理への取組状況、⑤技術者の継続学習への取組状況が技術的項目として追加され、広島市では政策入札の概念を取り入れることができました。
市当局も企業の信頼性や社会性などを評価するため社会的項目を加算点とすることにより、社会的価値の追求を促す効果を期待しています。
なお、公正な労働基準の確立については、契約書の中に「建設労働者の雇用条件等の改善」の項目を入れ、適正賃金の支払いや建設業退職金共済制度の適正な運用について求めています。
(1) 総合評価に追加された項目
2007年6月から追加された評価項目は次のとおりです。
【社会的評価項目】
① 障害者の雇用の状況
ア 障害者の雇用率が3.6%以上の者
イ 障害者の雇用率が1.8%以上の者
② 男女共同参画への取組状況
ア 次世代育成支援対策推進法の「行動計画」作成者(常時雇用者300人以下の事業所に限る)又は、以下の表彰を受賞した者
・女性のチャレンジ大賞(内閣府)
・均等推進企業表彰(厚生労働省)
・ファミリー・フレンドリー企業表彰(厚生労働省)
・広島市男女共同参画推進事業所表彰(広島市)
イ 技術者(国家資格者に限る)に女性を雇用している者
③ 環境配慮への取組状況
ア ISO14001又はエコアクション21の認証取得がある者
【その他の評価項目】
④ 品質管理への取組状況
ア ISO9001の認証取得がある者
⑤ 技術者の継続学習への取組状況
ア CPDSの学習単位が、一定数以上の者
(2) 公正な労働基準の確立について
公正な労働基準の確立については評価項目等には入れられていませんが、総合評価入札を含めた入札に参加する条件として「建設労働者の雇用条件等の改善」を明記し、労働条件の改善、福祉の充実など適正な雇用管理のために必要な措置を行わなければならないとしています。また、元請負人は下請負人に対しても指導、助言その他の援助を行わなければなりません。
なお、労務単価については、例えば、普通作業員が13,100円、とび工が15,900円、大工が16,300円等の設計基準額を示し、その労務単価に十分留意し、適正な賃金を支払うよう配慮を求めています。
また、広島市は「建設業退職金共済制度」についての普及に努めており、働いた日数を確認できる共済証紙の購入費を建設工事費に積算するとともに、入札に参加するための経営事項審査でもこの退職金共済制度への加入の有無を審査対象として加点評価しています。
8. おわりに
今回の取り組みの中心は、入札制度を通じて、事業者の協力を得ながら、広島市の政策を推進していこうとするものです。談合の排除は勿論ですが、それに合わせて障害者雇用の促進、環境問題への配慮、男女共同参画の推進、公正な労働条件への配慮といった重要な施策の推進に向けて大きな一歩を記すことができたと考えています。
こうした考え方をはじめて適応した指定管理者の評価では、応募した事業者は驚きを隠せなかったのではないでしょうか。そして、今後、指定管理者になるためにはこうした社会的価値を持つ事業者として成長することが必須であることの自覚を促すものともなりました。また、指定管理者に選定された後も、加点減点項目の実施状況について報告する義務があり、事業者の認識はさらに深まるものと期待できます。
「はじめに」でも述べたように、既に公益法人では障害者雇用を進めています。これまで市の外郭団体でさえ十分に認識してこなかった案件について、認識を深めるきっかけにもなりました。
また、現在、次回の指定管理者の選定において、管理経費の圧縮や公民館等の非公募の実現をめざしています。
さらに、入札参加資格審査の審査事項、総合評価入札の評価事項の中にも3項目が盛り込まれました。また、公正な労働基準の確立に向けても入札に参加する条件の中に適正な賃金の支払いと福祉の充実が盛り込まれており、一定の効果が期待できます。これにより広島市の行う入札に参加しようと考える事業者すべてがこうした案件について真剣に考えていく土壌ができました。つまり、広島市と付き合おうとする事業者は障害者雇用の促進、環境への配慮、男女共同参画の推進、公正な労働基準について積極的に進めざるを得ない状況が生まれてきています。
このように、入札を通じて政策を広げようとする政策入札の概念を取り入れることができたことは大きな前進であると確信しています。
今後の課題は、総合評価における社会的評価項目の配点を多くしていくことです。現在、広島市では施工計画、施工実績、配置予定技術者の能力、地理的条件、社会的項目が評価項目となっていますが、施工計画や施工実績、技術者の能力などあまり差がでない状況にもあり、社会的項目の配点を増やすことによって、より政策を前進させることができるのではないかと考えています。
また、現在10件程度にとどまっている総合評価入札そのものを増やしていかなければなりません。総合評価入札は時間がかかるというデメリットがあります。幸い、地方自治法の改正によって2008年度から少し簡略になっており、期待をしているところです。
今後とも制度の一層の充実に努力が必要です。
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