【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

広島市の入札制度改革について


広島県本部/広島市議会議員 若林 新三

1. はじめに

 古今東西を問わず、国や自治体が事業を発注するときの入札をめぐっては談合が繰り返されてきました。中には、国が発注した水門工事での国交省の官製談合が認定されたり、選挙での支援を受けた知事が見返りに地元建設会社に工事を受注させたことが発覚して知事が逮捕されるなど、行政と業者との関係も問題となっています。従って、談合を排除することは大きな課題となっています。
 こうした悪しき実態を変えていくために自治労の公契約条例の取り組み等を参考に広島市の入札制度の改革に取り組みました。その第1ステップは総合評価入札制度の導入です。これまで、価格だけが評価の基準でしたが、総合評価入札制度は価格以外にもその事業者を評価する基準を設け、総合的に評価し落札者を決定するシステムです。そして、第2のステップが「政策入札」の実現です。これは、総合評価入札方式を導入し、その評価の中に社会的な価値を持つ事業者を育成できるような基準を導入することでした。
 自治労が運動として提起している公契約の評価基準は①環境への配慮(ISO14001の認証取得等)、②福祉への理解(障害者雇用の状況)、③男女共同参画の推進(男女共同参画の取り組み状況)、④公正な労働基準の確立(労働関係法令の遵守)の4点でした。この4点は、広島市が進めて行こうとする政策でもあります。入札を通じてこうした重要な政策を実現しようというのが「政策入札」という概念です。私は「政策入札」を実現することによって談合を排除するとともに、社会的価値を持った事業者の育成と併せて広島市の重要な政策の推進をめざしました。
 その実現にむけて、まず最初に議会での一般質問で取り上げ、入札改革をスタートしました。2004年12月議会で質問したもので、当局からは「検討する」との答弁を引き出しました。
 そして、2006年から実施された指定管理者制度の中で前記の環境への配慮(ISO14001の認証取得等)、福祉への理解(障害者雇用の状況)、男女共同参画の推進(男女共同参画の取り組み状況)の課題については指定管理者を評価する際の加点減点項目として追加することができました。また、公正な労働基準の確立(労働関係法令の遵守)については、労働関係法令に違反する場合には指定管理者に応募できないという指定管理者の欠格条項の中に盛り込むことができました。今回の指定管理者の評価で障害者雇用率が評価項目になったことから、広島市の公益法人もあわてて次年度には障害者雇用を予算化するなど、別な側面からも前進しました。
 続いて、2007年、2008年の入札参加資格審査の加点項目として環境への配慮(ISO14001の認証取得等)、福祉への理解(障害者雇用の状況)、男女共同参画の推進(男女共同参画の取り組み状況)の課題を追加することができました。
 そして、2007年6月には、上記の3点を総合評価入札での評価基準に社会的項目として追加をすることができ、政策入札の制度そのものは広島市では一応実現することができました。しかし、総合評価入札自体が2007年度でまだ10件程度にとどまっており、今後は件数の拡大をはかるとともに、社会的項目の評価点を拡大していく取り組みを進めていくことにしています。
 なお、公正労働基準の確立にむけて、入札参加資格の中に「建設労働者の雇用条件等の改善」の項目を入れ、適正な賃金の支払いや福祉の向上を求めています。
 また、政策入札の取り組み以外にも、入札希望価格の事前公表などを実現しています。入札価格を公表しない場合、事業者などがあの手、この手で職員に具体の金額を知ろうと迫り、職員の心理的な負担が大きくなりすぎることから、事前に公表するよう議会で取り上げながら求めてきたものです。
 さらに、談合の防止にむけてすべての入札で電子入札を実施しています。

2. 入札制度(価格入札)の概要

 入札制度には一般競争入札指名競争入札随意契約などの方法があります。
① 一般競争入札
  資格があれば誰でも参加できる入札制度で、広島市では現在予定価格が250万円を超えるものに採用しています。そのうち、予定価格26億3千万円未満のものは、開札後に入札参加資格の確認を行う入札後資格確認型一般競争入札を実施しています。
② 指名競争入札
  あらかじめ行政当局が何者か業者を指名し、その中で入札を行う制度です。特殊な技術が必要であり、業者が極めて限定されるものなどに行っています。
  広島市ではこの場合の選定業者数は次のとおりです。
   設計金額3千万円未満(9者以上)
     〃  3千万円以上5千万円未満(12者以上)
     〃  5千万円以上(15者以上)
③ 随意契約
  複数の者から見積書を出してもらう「見積もり合わせ」と特定の1者から見積書を出してもらう「特命随意契約」があります。
   設計金額100万円以上予定価格250万円以下(6者以上)
     〃  100万円未満(3者以上)

3. 政策入札の考え方

(1) 総合評価入札制度
 現在の入札制度は「価格」を基準としています。指名競争入札や一般競争入札、業務委託契約や工事請負契約等、その形式を問わず、ほとんどが最も安い価格を提示した業者が落札する仕組みとなっています。これは、市民の貴重な税金を最も効率的に使うという考え方に基づいているもので、「価格」だけを基準として自動的に決まることから自動落札方式と呼ばれています。しかし、これまで、談合事件が繰り返されるとともに、下請けや孫請け業者、労働者にそのしわ寄せが重くのしかかったり、耐震強度偽装事件のように法令違反や部品を粗雑なものと取替えたりするケースもあるなど、改革すべき課題も多くありました。
 例えば、私たちが買い物をするとき、価格も重要な要素ではありますが、商品のデザインや素材、使いやすさ、耐久性など、価格以外の価値も総合的に考えて買い物をしています。必ずしも、最も安いものだけを買っているとは限りません。
 こうした考え方を入札に取り入れたものが「総合評価入札」と言われるものです。価格と価格以外の要素を総合的に評価し、発注者にとって最も有利な者を落札者とする入札方式です。その大きなメリットは談合防止と考えられています。価格以外の要素についても調整をしなければならなくなり、談合ができにくくなります。また、公正な労働条件という観点からもメリットが期待されています。評価基準の中に公正な労働基準の確立をいれることによって、労働者にむやみに低価格での労働を押し付けることが難しくなると考えられます。

(2) 政策入札
 「政策入札」は、総合評価型入札の価格以外の要素に、事業者が社会的な価値をもっているかどうかという点に着目しようとする考え方です。
 例えば、その業者が環境に対する配慮を行っているかどうか、障害者雇用など福祉に配慮しているかどうか、男女共同参画を進めようとしているかどうか、雇用者として公正な労働基準を適正に維持しているかどうか、という観点も取り入れて落札者を決めようというものです。これら環境、福祉、男女共同参画、公正な労働基準などの価値は行政がとりくむ政策目的というべきものです。この政策目的を推進しようとする手段として総合評価入札に取り入れようとするのが「政策入札」という考え方です。

4. 2004年12月議会での一般質問に対する答弁

(1) 広島市当局の答弁


(1) 総合評価入札制度の導入について
   本市としては、既に情報システムの開発業務を総合評価入札方式により発注した事例がありますが、さらに、さまざまな契約方式を活用して、どのような取り組みが可能であるか検討しています。例えば、今月10日に公告しましたプロポーザル方式で行う総合リハビリテーションセンターの実施設計業務においては、技術力を評価する項目の一つとして、環境への影響に配慮した施設とするための提案や障害者の視点に立った設計を行うことができる体制、すなわち障害者である技術者の有無と障害者の雇用状況に関する項目を設けるなどの取り組みを行っております。今後とも、価格以外の項目を評価する総合評価入札方式などの活用について検討を行ってまいります。

(2) 指定管理者制度の評価に入れることについて
   指定管理者は、公の施設の設置者である地方公共団体にかわってその管理を行う立場になりますので、指定管理者となる団体には一定の社会的価値基準に適合していることが求められます。したがって、議員御提案の指定管理者の選定の評価基準に環境問題への配慮や障害者の雇用促進、男女共同参画の推進、適正な労働条件の確保に関することなどを盛り込むことについては、今後、施設ごとに検討したいと考えております。


5. 広島市の指定管理者の評価項目に導入

 議会答弁に示されたように、自治労が運動提起している公契約条例を参考にした政策入札の考え方は、まず、2006年4月からスタートした指定管理者制度の評価基準として全面的に導入することができました。
 4項目の内、環境問題への配慮、障害者雇用の促進、男女共同参画の推進については評価の「加点・減点項目」に、また公正労働基準の確立については欠格条項に盛り込むことができました。

(1) 欠格事項について
 広島市の指定管理者の選定にあたっては、欠格事項を定め、該当する場合は選定の対象外としました。その中にも障害者雇用や公正な労働基準の考え方が採用されています。
 欠格事項の要旨は次のとおりです。
① 指名停止の措置要件に該当している場合。
② 市税等を滞納している場合。
③ 労働基準法等に違反し、極めて重大な社会的影響を及ぼしている場合。
④ 障害者雇用率が達成されておらず、かつ、障害者雇用納付金も滞納している場合。
 公正な労働基準については十分とはいえないまでも、労働者関係についての案件を盛り込めたことは一定の前進と考えています。
 また、障害者雇用を明記したことは、今後、各事業者において、障害者雇用が重要な課題であると認識されると同時に、障害者雇用の促進が期待されます。

(2) 評価項目、配点について
 評価項目については、市民の平等利用、施設効用の発揮、管理を安定して行う物的・人的能力、管理経費の縮減などを基本とし、それぞれの施設によって項目の追加を行っています。市民の平等利用、施設効用の発揮、管理を安定して行う物的・人的能力、その他の項目を合わせた配点は50点~70点とし、管理経費の縮減は30点~50点の間で配点、合計100点とするよう配点されます。
 当局に対しては、制度ができるときに改めて、物的・人的能力等の評価をできるだけ高くし、管理経費の縮減については配点を圧縮するよう求めました。その結果、ほとんどの施設で「管理経費の縮減」の配点は30点で設定されました。市の施設の管理運営をまかせることになりますので安定して管理できる能力を有していることが重要なことは当然です。
 また、これまでほとんどの施設で公益法人に委託しており、それぞれの法人は市からの派遣職員とプロパー職員で構成されているため、プロパー職員の雇用の確保も大きな課題でした。プロパー職員の賃金は市職員と同様なレベルであり、指定管理者制度の導入が労働条件に大きな影響を与えることは間違いありません。今後、厳しい状況になることは免れませんが、プロパー職員の解雇という事態は避けなければなりません。
 評価項目と配点は次のとおりです
① 市民の平等利用を確保することが出来ること。
② 施設効用が最大限発揮されること。
③ 管理を安定して行う物的能力、人的能力を有していると認められること。
④ その他(施設の性質や目的等に応じて項目を追加することができます)。
  (①~④の配点の合計は50点~70点)
⑤ 管理経費の縮減
  (⑤の配点は30点~50点)

(3) 加点減点項目、配点について
 これまで述べてきたように環境問題への配慮、障害者雇用、男女共同参画の推進については「加点減点項目」として追加をされました。
 加点減点項目は次のとおりです。
① 障害者雇用率の達成
  障害者雇用率が1.8%~2.7%    ⇒ 4点加点
     〃    2.7%~3.6%    ⇒ 7点加点
     〃    3.6%以上の場合   ⇒ 10点加点
  障害者雇用納付金を1年でも滞納  ⇒ 2点減点
② 環境問題への配慮
  ISO14001を取得している場合   ⇒ 5点加点
③ 男女共同参画の推進
 a) 世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」を策定していない場合
   従業員301人以上             ⇒ 3点減点
    〃 300人以下             ⇒ 2点減点
 b) 女性のチャレンジ大賞を受賞       ⇒ 2点加点
 c) 均等推進企業表彰を受賞         ⇒ 2点加点
 d) ファミリー・フレンドリー企業表彰を受賞 ⇒ 2点加点
 なお、加点減点項目の内、障害者雇用率の実施状況については指定管理者が毎月提出する業務実施報告書に各月1日の状況の記載が義務付けられています。また、ISO14001の取得など環境問題への配慮と一般事業主行動計画の策定など男女共同参画の推進については4半期ごとに実施状況を報告することになっています。

6. 競争入札参加資格審査への追加

 2007年度、2008年度の入札参加資格の審査に新たに①ISOの認証取得の状況、②障害者雇用の状況、③災害時の地域貢献度の状況、④男女共同参画の取組状況を追加しました。審査は2006年度秋に行っており、指定管理者の応募以外にも広島市の行う入札に参加しようとする事業者はこうした案件をさけて通れないことになりました。
 審査は国のマニュアルに沿った客観的審査事項に加えて、広島市独自の主観的審査も行われており、その主観的審査事項に加えたものです。
 具体的には次のとおりです。

(1) ISOの認証取得の状況
① ISO9001の認証取得している場合       ⇒ 5点
② ISO14001の認証取得している場合
  又はエコアクション21の認証・登録している場合 ⇒ 5点

(2) 障害者雇用の状況
① 障害者雇用率が1.8以上の場合          ⇒ 5点
② 障害者雇用率が3.6以上の場合          ⇒ 10点

(3) 男女共同参画の取組状況
① 次世代育成支援対策推進法の「行動計画」を策定している場合(300人以下)
  又は、以下の表彰を受賞した場合        ⇒ 5点
 ・女性のチャレンジ大賞(内閣府)
 ・均等推進企業表彰(厚生労働省)
 ・ファミリー・フレンドリー企業表彰(厚生労働省)
 ・広島市男女共同参画推進事業所表彰(広島市)
② 女性技術者(国家資格者に限る)を1人以上雇用している場合 ⇒ 5点

7. 総合評価入札の実施

 こうした一連の取り組みを行った結果、はじめにの項でも述べたように、2007年6月からは工事請負契約など広島市が行う総合評価入札において①環境配慮への取組状況(ISO14001の取得状況)、②男女共同参画への取組状況、③障害者雇用の状況の3点を社会的評価項目として追加するとともに、その他の評価項目として④品質管理への取組状況、⑤技術者の継続学習への取組状況が技術的項目として追加され、広島市では政策入札の概念を取り入れることができました。
 市当局も企業の信頼性や社会性などを評価するため社会的項目を加算点とすることにより、社会的価値の追求を促す効果を期待しています。
 なお、公正な労働基準の確立については、契約書の中に「建設労働者の雇用条件等の改善」の項目を入れ、適正賃金の支払いや建設業退職金共済制度の適正な運用について求めています。

(1) 総合評価に追加された項目
 2007年6月から追加された評価項目は次のとおりです。

【社会的評価項目】
① 障害者の雇用の状況

 ア 障害者の雇用率が3.6%以上の者
 イ 障害者の雇用率が1.8%以上の者
② 男女共同参画への取組状況
 ア 次世代育成支援対策推進法の「行動計画」作成者(常時雇用者300人以下の事業所に限る)又は、以下の表彰を受賞した者
  ・女性のチャレンジ大賞(内閣府)
  ・均等推進企業表彰(厚生労働省)
  ・ファミリー・フレンドリー企業表彰(厚生労働省)
  ・広島市男女共同参画推進事業所表彰(広島市)
 イ 技術者(国家資格者に限る)に女性を雇用している者
③ 環境配慮への取組状況
 ア ISO14001又はエコアクション21の認証取得がある者

【その他の評価項目】
④ 品質管理への取組状況

 ア ISO9001の認証取得がある者
⑤ 技術者の継続学習への取組状況
 ア CPDSの学習単位が、一定数以上の者

(2) 公正な労働基準の確立について
 公正な労働基準の確立については評価項目等には入れられていませんが、総合評価入札を含めた入札に参加する条件として「建設労働者の雇用条件等の改善」を明記し、労働条件の改善、福祉の充実など適正な雇用管理のために必要な措置を行わなければならないとしています。また、元請負人は下請負人に対しても指導、助言その他の援助を行わなければなりません。
 なお、労務単価については、例えば、普通作業員が13,100円、とび工が15,900円、大工が16,300円等の設計基準額を示し、その労務単価に十分留意し、適正な賃金を支払うよう配慮を求めています。
 また、広島市は「建設業退職金共済制度」についての普及に努めており、働いた日数を確認できる共済証紙の購入費を建設工事費に積算するとともに、入札に参加するための経営事項審査でもこの退職金共済制度への加入の有無を審査対象として加点評価しています。

8. おわりに

 今回の取り組みの中心は、入札制度を通じて、事業者の協力を得ながら、広島市の政策を推進していこうとするものです。談合の排除は勿論ですが、それに合わせて障害者雇用の促進、環境問題への配慮、男女共同参画の推進、公正な労働条件への配慮といった重要な施策の推進に向けて大きな一歩を記すことができたと考えています。
 こうした考え方をはじめて適応した指定管理者の評価では、応募した事業者は驚きを隠せなかったのではないでしょうか。そして、今後、指定管理者になるためにはこうした社会的価値を持つ事業者として成長することが必須であることの自覚を促すものともなりました。また、指定管理者に選定された後も、加点減点項目の実施状況について報告する義務があり、事業者の認識はさらに深まるものと期待できます。
 「はじめに」でも述べたように、既に公益法人では障害者雇用を進めています。これまで市の外郭団体でさえ十分に認識してこなかった案件について、認識を深めるきっかけにもなりました。
 また、現在、次回の指定管理者の選定において、管理経費の圧縮や公民館等の非公募の実現をめざしています。
 さらに、入札参加資格審査の審査事項、総合評価入札の評価事項の中にも3項目が盛り込まれました。また、公正な労働基準の確立に向けても入札に参加する条件の中に適正な賃金の支払いと福祉の充実が盛り込まれており、一定の効果が期待できます。これにより広島市の行う入札に参加しようと考える事業者すべてがこうした案件について真剣に考えていく土壌ができました。つまり、広島市と付き合おうとする事業者は障害者雇用の促進、環境への配慮、男女共同参画の推進、公正な労働基準について積極的に進めざるを得ない状況が生まれてきています。
 このように、入札を通じて政策を広げようとする政策入札の概念を取り入れることができたことは大きな前進であると確信しています。
 今後の課題は、総合評価における社会的評価項目の配点を多くしていくことです。現在、広島市では施工計画、施工実績、配置予定技術者の能力、地理的条件、社会的項目が評価項目となっていますが、施工計画や施工実績、技術者の能力などあまり差がでない状況にもあり、社会的項目の配点を増やすことによって、より政策を前進させることができるのではないかと考えています。
 また、現在10件程度にとどまっている総合評価入札そのものを増やしていかなければなりません。総合評価入札は時間がかかるというデメリットがあります。幸い、地方自治法の改正によって2008年度から少し簡略になっており、期待をしているところです。
 今後とも制度の一層の充実に努力が必要です。