1. 1円足りとも迷惑をかけていない
今年の3月議会の2008年度予算審議で桜が丘団地について次のように質問した。
【質問】販売をはじめて7年、昨年までの販売数は61区画、今年は坪18万円を12万円に下げても販売数は1区画。できることと言えば、工業団地の定期借地を予定より早く購入してもらうぐらいしかない。もともと10年で完売する計画だったのだから、10年できちんと清算をすべきです。10年を前にあと3年あまり、先送りでは子どもたちが将来困るだけ、いまの世代で解決しておくべきです。清算することについてどうお考えかお聞きする。
【答弁】この7年間府中市財政には1円足りとも迷惑をかけていない。
《参考資料1》目標と現在までの販売状況
年 度 販売目標 販売結果 全体
初年度2001(平成13)年度は目標53に対し 24区画 357⇒333
2年目2002(平成14)年度は目標30に対し 22区画 333⇒311
*22区画の内、北川鉄工所が16区画購入。
3年目2003(平成15)年度は目標30に対し 4区画 311⇒307
4年目2004(平成16)年度は目標30⇒10に変更 7区画 307⇒300
5年目2005(平成17)年度は目標32⇒10に変更 2区画 300⇒298
小 計 175
6年目2006(平成18)年度は目標10に対し 2区画 298⇒296
7年目2007(平成19)年度は目標10に対し 5区画 296⇒291
*5区画の内、府中市が4区画購入。
8年目2008(平成20)年度は目標10に対し 区画 291⇒
9年目2009(平成21)年度は目標 に対し 区画
10年目2010(平成22)年度は目標 に対し 区画
小 計 182
合 計 357 66区画(18%)
なお、目標数は4年目から変更しています。6年目以降は5年間で有利子の借金をすべて返済できるという判断で当初の目標数はありませんでした。
2. もともと府中市が丸抱え
そこまで言うならと2008年度予算に反対した。
【反対討論】予算審議で桜が丘団地について「この7年間府中市財政には1円足りとも迷惑をかけていない」と伊藤市長は答弁されたが、桜が丘団地の総事業費は約63億円で、工事費53億円支払いのため銀行に融資を要請したら拒否にあって、実質、土地区画整理組合は倒産し、約30億円で府中市が買い上げる結果となった。府中市が30億円で買いあげたことには一切触れず、販売をはじめて「この7年間府中市財政には1円足りとも迷惑をかけていない」と論点をすり替えている。もともと、
この桜ヶ丘団地の総事業費は 62億7,700万円
府中市が行った道路整備費が △16億6,500万円
市営住宅用地として先行取得金額が △12億7,500万円
土地区画整理組合が売却した金額が △2億7,200万円
府中市が買い上げた金額が △30億6,500万円となっている。
売却済みの2億7,200万円を除いたら府中市は60億500万円を負担している。どこが「府中市財政に1円足りとも迷惑をかけていない」といえるのか。こういうと市長は「府中市でなく土地開発公社が買い上げた」と、また論点をすり替えるだろうが、府中市のバランスシートの欄外「債務負担行為に係る補償」に50億3,200万円と載っている(別紙平成18年度バランスシート)。つまり府中市の債務ということだ。さらに、住宅団地(保留地管理法人)の有利子分15億4,500万円に対する利息は
《参考資料2》
2001年 1,939万6,463円
2002年 1,170万6,293円
2003年 823万7,913円
2004年 694万3,497円
2005年 685万8,752円
2006年 735万6,276円
2007年 1,152万2,980円
合 計 7,202万2,174円
7,202万円となっている。
開発公社の元町工業団地分の支払利息は
《参考資料3》
2001(H13)年 (951万9,532円)
*なお維持管理費すべて含むもので利息だけは不明。
2002(H14)年 303万3,235円
2003(H15)年 131万8,462円
2004(H16)年 125万9,999円
2005(H17)年 131万9,999円
2006(H18)年 405万8,848円
2007(H19)年 713万3,875円
合 計 2,764万3,950円
2,764万円となっている。(なお2,764万円は2001年度分を含んだ金額です)桜が丘団地の販売にあまりにも無責任な態度から2008年度予算は認めることはできない。
3. 工事費が支払えない
大まかにわかっていただくために6年前の新聞を紹介します。2002年4月19日の毎日新聞です。
―岐路に立つ工業の街 府中市W選を前に―『(団地造成など)総事業費約63億円。民間の土地区画整理組合方式を採用したため、責任の所在もあいまいになった。整理組合は昨年、採算性などを理由に金融機関から融資を断られ、工事費を払えない事態に。結局、土地開発公社が357区画を約30億円で整理組合から買い上げ、工事費を肩代わりする形となった。約30億円は、国と市の無利子貸し付け約15億円と民間金融機関からの約15億円でまかなった。有利子の民間分は一刻も早く返済したいのが本音だ。市も既に、道路整備に約17億円、市営住宅用地先行取得に約13億円を事業につぎ込んでおり、売れ残って負担が増えるのを避けるため、さらなる知恵や工夫が求められている。』
4. 桜が丘団地造成事業の概要
(1) 事業の概要
① 事業主体 府中市元町土地区画整理組合
② 事業面積 365,722m2(住宅用地90,861m2)
(工場用地45,212m2)
③ 総区画数 住宅用 423区画(内販売区画数396区画)
工場用 16区画
④ 販売単価 住宅用 坪あたり18万円
工場用 10万円
⑤ 事業費総額 81億1,130万円
(内29億8,490万円は道路、上下水道、公園、調整池など公共施設分)
(2) 販売計画及び資金計画
① 保留地管理法人が所有する357区画(30億6,500万円)を10年で完売する。
② 市が所有する換地及び先行取得用地、住宅用地19区画、工場用地3区画(4億1,954万円)を8年で完売する。
③ その他 市及び公社で住宅用地10区画、工場用地4区画を公共事業代替地として、またグランド等の用地として市が21億6,768万円で買い取る。
地権者の中に「95人山」という財産区の方がおられ相続登記が複雑で時間がかかるため、開発公社による事業でなく、土地区画整理組合方式ではじめたものですが、金融機関から「バブルがはじけ不景気の経済状況で売れる見込みのない団地にお金は貸せない」と融資を断られ実質土地区画整理組合は破たんし、府中市が抱えたというものです。本来、金融機関から融資を断られたとき事業撤退に方向を変えるべきでした。
《参考資料4》「保留地土地管理法人」とは府中市が国から7億6,000万円の無利子融資を受けるために開発公社の中に設置したものです。保留地管理法人は市の7億6,000万円と合わせ15億2,000万円の無利子融資を受けています。返済は10年後の2011(H23)年3月からとなっています。
5. 「反対」を主張
住宅団地販売は「造成している時には約6割が販売済み」といわれる中で、「需要調査も行わず」、「バブルがはじけ不景気のどん底」という経済状況の中で強行する団地開発に、労働組合は「財政危機になることは明らか」「危機になれば市民サービスが削減される」「結局、職員の削減につながる」ことから反対を主張しました。
経済界や行政は人口減に歯止めをかける目的と、昼間の人口が3,000人も多いことから住宅団地に需要があるというものでした。しかし、この昼間の人口が3,000人も多い理由は、もともと府中市在住で府中市の事業所に勤めていた人が府中市の地価が高くて、福山市へマイホームを求めて転出した人たちで、もう一度府中市に住宅を求めることはありえません。
6. 差し引き2億円の黒字
造成経費53億円に対し、売上は、住宅団地が423区画、1区画は坪20万円、平均50坪のため1区画の販売価格は1,000万円なのでトータル約42億円、工場団地は坪10万円で13,695坪なので約13億円、すべて売れて合計55億円です。差し引き2億円の黒字です。これが当初の目論見ですが、5年以内に完売したらというものです。また、当初坪20万円でしたが府中市が団地内の道路整備に5億円をだして坪18万円に下げたものです。ところで総事業費は約81億円です。すべて売れて合計55億円ですから、もともと26億円の赤字計画なのです。本当に販売することが目的であったのか疑いたくなります。
《参考資料5》定借とは、定期借地権付用地のことで「住宅用地定期借地」は33(4)区画あり、借地期間は50年、契約終了後は更地で返す。契約保証料金平均150万円、賃貸料月額1万円程(月の賃料1区画9千円から1万5千円)。「事業用定期借地」は16区画、期間10年、10年以内の買い取り条件、賃貸料(リース料)1m2当たり、おおむね40円、保証金3年分相当額。なお16区画すべて利用してもらうと月額150万円、年額1,800万円程度の借地料が見込める。開発公社の持分は約半分なので900万円ぐらいの収入となります。なお(4)区画は2007年度に府中市が土地開発公社から購入したものです。
7. 開き直った伊藤市長
先の6月議会では府中市土地開発公社と桜が丘団地販売事業(保留地管理法人)の決算が報告されました。この報告に対して多くの議員から、「もともと10年で完売という計画であった。販売結果は7年間で357区画中66区画(18%)。この状況をどう考えているのか」という質問が集中しました。
伊藤市長は販売結果には答えず「7年間で5億円も借金を返済している」と答弁しました。しかし、返済額(参考資料6)は1年目と2年目で約3億4千万円、5億円の65%に当たり、さらに、販売結果の2年目は22区画の内16区画を北川鉄工所が購入され、7年目も5区画の内4区画を府中市が購入するなど個人ではなく政策的な購入です(参考資料1)。この結果からも販売は1年目だけだったと言えなくもありません。7年間で5億2,480万円の返済額は借入額30億6,480万円の17%にしかあたりません。伊藤市長の答弁は開き直ったとしかみえません。
《参考資料6》返済計画
① 長期借入金は30億6,480万円(国と市15億2,000万円 銀行15億4,480万円)
無利子融資分 有利子分
残 高 残 高 返済額
2001年度初30億6,480万(15億2,000万 15億4,480万円)
2001年度末29億0,100万(15億2,000万 13億8,100万円)△1億6,380万円
2002年度末27億2,100万(15億2,000万 12億0,100万円)△1億8,000万円
2003年度末26億7,000万(15億2,000万 11億5,000万円) △5,100万円
2004年度末26億4,000万(15億2,000万 11億2,000万円) △3,000万円
2005年度末26億4,000万(15億2,000万 11億2,000万円) 0円
2006年度末25億9,000万(15億2,000万 10億7,000万円) △5,000万円
2007年度末25億4,000万(15億2,000万 10億2,000万円) △5,000万円
返済額 0億円 △5億2,480万円
なお、借入金残高は住宅団地分が25億4,000万円、工業団地分が5億5,000万円、合計30億9,000万円です。
② 保留地管理法人特別会計決算
2001年度 収入284,405,077円 支出280,409,577円 純利益 3,995,500円
2002年度 収入256,291,061円 支出239,630,019円 純利益16,661,042円
純利益といっても雑収益約1,350万円(組合解散時の剰余金約1,050万円と発掘での県からの還付金約280万円があったため)
2003年度 収入 46,613,347円 支出 69,271,272円 純損失22,657,925円
2004年度 収入 74,307,324円 支出 78,177,989円 純損失 3,870,665円
2005年度 収入 17,626,685円 支出 28,195,391円 純損失10,568,706円
2006年度 収入 19,137,531円 支出 29,380,741円 純損失10,243,210円
2007年度 収入 57,921,853円 支出 61,225,667円 純損失 3,303,814円
8. 開発公社は単なる借金する道具
桜が丘団地グランド用地取得費
2001年度用地取得費 10人分 94,000,000円
2002年度 〃 10人分 94,000,000円
2003年度 〃 20人分188,000,000円
2004年度 〃 25人分235,000,000円
2005年度 〃 30人分282,000,000円
95人分(100%)
地権者の中心は「99人共有山」の方です。当初、買い上げ金額として地権者一人に住宅団地1区画となっていましたが、1区画が約1,200万円と高額なため、グランド用地の権利に変わったものです。その権利が一人940万円です。その権利を用地取得費として2001年度から教育委員会で購入していましたが、一般会計の予算がなくなり2004年度は25区画の内、教育委員会が10区画、開発公社が15区画(1億4,100万円)、2005年度は30区画すべて開発公社で買い上げることになりました。このように一般会計の予算がないので開発公社を通じて借金する。府中市にとって開発公社は単なる借金をする道具でしかありません。
9. 市民に責任転嫁
金子勝慶応義塾大学教授は「失敗の原因を特定し、まず国民に知らせること。それが本当の改革につながる」と言われています。昨年10月からはじまった「ごみ有料化」、指定管理者制度を使った法人保育所職員の全員解雇、社会福祉法人の賃金削減をみると、失敗の原因を糊塗し、反対に、財政の赤字を市民へ責任転嫁しています。
2008年度予算では、合併特例債を使って中央保育所建設という箱ものをつくるのですから反省はありません。また子どもたちの入院の医療費助成が小学校6年生にまで拡大しましたが、実施は県内14市中一番最後、他市はもう通院の医療費助成に入っています。この予算が年間440万円で、これを捻出するために職員の旅費改正が行われ、例えば府中から広島までは8,400円が4,700円となり年間670万円浮かせて医療費助成にあてられています。府中市独自の「福祉タクシー」といって障がい者やお年寄りの通院タクシーの助成制度がありますが、250人が対象外となり、浮いたお金は300万円です。さらに保育所統合による遠距離通園の子どもたちの「タクシー送迎」も来年度から廃止されます。すべて対象はお年寄りや障がい者、子どもたちです。そして削減するサービスは府中市独自のものばかりです。
10. 働く女性を支える政策を切り捨てまちの再生?
もともと府中市は繊維、木工、靴製造、鉄工など地場産業が盛んで、専売公社もあり女性が貴重な労働力でした。そうした女性を支えるために全国でもまれな3歳児全員入所という保育政策もとってきました。また、留守家庭教室と言われていた放課後児童クラブも無料で行われてきました。
ところが7年前に伊藤市政がはじまるやいなや「学校給食の民営化」「放課後児童クラブの有料化」「4小学校の統廃合」「18ある保育所を9に統廃合」「来年度の法人保育所の廃止計画」と「3小学校、1中学校の統廃合計画」など働く女性を支える政策を矢継ぎ早に切り捨ててきました。その背景が財政の危機的な状況にあり、原因に桜が丘団地事業の失敗があります。
竹原市職労の脇本茂紀議員は「教育と福祉の施設が充実していればしているほど、教育と福祉にたずさわる人が多ければ多いほどまちは住みやすくなります。行革の名のもとに福祉や教育の現場を切り捨てるほどバカげたことはありません。産婦人科、小児科、保育所、幼稚園、学校、学校給食、児童館、子育て支援センター、放課後児童クラブ、児童公園、公民館、図書館などの充実が保護者の切実な要望です」と言われています。
また、府中市の工業製品出荷額は10年前に比べて約5割となっており、地場のあらたな産業や商品開発が必要ですが、財政の危機がその投資もできなくしています。桜が丘団地問題はただ単に事業の失敗というだけでなく、「産業のまち府中」のまちづくりの失敗といえます。産業の再生と両輪の「働く女性を支える政策」を切り捨てるのですから、これでは市民も企業も府中市を見限って転出してしまい、ますます府中市は衰退するばかりとなっています。
平成18年度 バランスシート
新聞記事(2002年4月19日(金)毎日新聞) |