【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

楽しく仕事をするために
(職員版パブリック・コメント制度のすすめ)

島根県本部/松江市職員ユニオン 野田素三子・土江 照義・内藤 裕道

1. はじめに

 みなさんは、「市役所が好きですか?」「市役所で働く仲間が好きですか?」と聞かれたとき、どう答えますか。「大好きです!!」と答える人、多ければ嬉しいのですが……残念ながらあまり多くは期待できないように思います。
 よく、「愛される職員像」とか「愛される市役所」などの表現がありますが、そのためには、まず自分自身が市役所を大好きになって、そこで働く自分に誇りを持つことが大切だと思います。
 このレポートは、市役所に働く私たちが、市役所を愛し、仕事に誇りをもって、楽しく働くことができるようにとの願いからスタートしました。

 では、どうすれば好きになれるのか、誇りがもてるのか。
 ① 自分自身のこととして考える
 ② つながりをつくる            
の、2つのキーワードをヒントに考えてみたいと思います。

 今も十分楽しいよ という人は、今よりもっと楽しくなるように、そうでない人は、今より少しでも楽しくなるように、一緒に考えていただければと思います。


2. ステップ1:自分自身のこととして考える
  ~ひとごとからわがことへ~

 市役所を好きになる第一歩は、市役所のこと、特にそこで行われている事業をよく知ることです。これは口で言うのは簡単なのですが、なにしろ「ゆりかごから墓場まで」の市役所ですから、業務の内容はとてつもなく幅広い。そんな市役所の仕事を、隅から隅まで知り尽くすなんてことは、とても大変なことです。ただでさえ業務量も増えて、自分の仕事を覚えるだけで精一杯なのに……と思われる方も多いでしょう。
 でもご安心下さい。何も、覚える必要はないのです。大切なのは、何かの情報に向かうとき、自分が担当者の立場になって考えること、それだけです。
 職場では、見る時間なんてないという方もいらっしゃると思いますが、プライベートの時間を含めれば、誰でも、新聞やテレビは見ますね。そういうマスメディアで「松江市」に関するニュース等を見るとき、あるいは、「市報松江」などの情報を目にする時に、客観的に第三者目線で見るのではなく、ちょっとだけ意識を変えて、自分自身の問題として見てみてください。そうすると、その瞬間に目にした情報は、知識として記憶されるのではなく、自分自身の経験として頭の片隅に記録されます(たぶん)。それを繰り返していくうちに、それらの記録が「記憶」として蓄積されて、今度は、「松江市」に親しみを感じるようになる。そして知らず知らずのうちに「松江市」のことが大好きな自分ができあがっていく……というわけです(おそらく)。
 これは、人を好きになる状況を思い浮かべてもらうと、わかりやすいのではないかと思うのですが、はじまりはちょっと意識するだけだったのに、相手のことを少しずつわかってくると、今度は、どんどんどんどん知りたくなって、気になって気になってしょうがなくなり、いつのまにか好きになっていた……そんなイメージです。
 残念ながら実証してみたわけではないので、科学的根拠は持っていませんが、ちょっとした意識の持ち方一つで変われるのなら、可能性にかけてみるのも良いのではないでしょうか。知らないよりは知っているほうが、ずっとお得ですよ。
 ちなみに、市民の方と接している時に、突然、「こないだ新聞に載っちょったあの事業のことだけど……」と尋ねられたりすることありますよね。そんな時、どう答えますか。「担当が違うからわかりません」と言ってしまえば簡単に終わるのですが、でも、同時に会話も終わってしまう気がしませんか。もしそこで、「ああ、そういえばなんか載ってましたね。」と返すことができたら、そこからいろいろな会話を引き出すこともできるかもしれませんよね。また、私たち職員に対する相手の方の印象も、随分と変わってくるように思いませんか。

 突然ですが、ここで問題です。
 これ、何だかわかりますか。

「ごみ減量貯金箱制度」
「屋外広告物条例」
「日中韓友好交流書画展」
「消費・生活相談室」
「第3子以降の保育料の無料化」
「3歳未満児の医療費の無料化」
「Ruby City MATUEプロジェクト」
「お城・お菓子・だんだん園遊会」
「宍道湖しじみ館」
「地域伝統芸能祭」

 これらは、「市報松江4月号」の掲載された「平成20年度 市長施政方針」で紹介された事業の一部です。
 これらの事業のなかで、名前や事業の内容を知っているもの、いくつあるでしょうか。
 「知ってる、知ってる。」という方もあれば、「全然わからんわぁ~。」という方もあるでしょう。でも、ご心配なく。これらは今年の主要事業ですから、今後、いろいろな場面に登場してくる筈です。これから、「ひとごとからわがことへ」の精神で、情報と向き合ってみてください。一年後には、きっと「松江」大好きになってますよ!?

 ついでに紹介しておくと、タイトルにある「ひとごとからわがことへ」は、2006年度策定の松江市人権施策推進基本方針の基本理念の一つで、元々は、『差別はされる側ではなくする側の問題であることから、する側にいる自分達の意識から変えていきましょう』という活動する市民グループの活動テーマを活用させてもらったものです。もう一つ、『差別される人の痛みを自分自身の痛みとして問題を考える』という意味もあると私は理解しているのですが、「人権」を考えるときだけでなく、日常のいろいろな場面で、自分自身に言い聞かせたい言葉だと思います。


3. ステップ2:つながりをつくる
   ~仲間づくりからはじめよう~ 

 市役所を好きになるためには、もうひとつ、仲間をたくさんつくることが大切です。これは、とても簡単な方程式です。
 たぶん誰も同じ気持ちだと思いますが
○ 仲間のことは応援したい
      ↓
○ 仲間の一人 Aくんが、あるイベント事業を担当することになった。
○ Aくんは是非成功させたいと思っている。
      ↓
○ 応援できることがあれば応援したいと思う。
○ イベント事業を成功させたいと思う。
      ↓
○ イベント事業に自分も参加する。
○ 楽しかった!!
      ↓
○ ちょっとだけ松江市を好きになる

 仲間が一人であれば、応援したい事業も一つかもしれませんが、二人いたら応援したい事業も二つ。十人いたら十、百人いたら百。仲間がたくさんいればいるだけ、応援したい事業がふえ、いつのまにか市役所大好き方程式ができあがってるという訳なんです。
 また、市役所の仕事は互いに関係することが多いので、知り合いは少ないより多い方が、いろいろな相談もしやすいし……
 窓口研修を経験されたみなさんは、どなたも経験があると思いますが、市民の方の、「○○の関係だけど、どこの課にいけばいいの」と聞かれたとき、ストレートに答えが出てくるものもありますが、意外にわかりにくい問いかけもあります。たとえば、「うちの土地のことで」と言われると、とっさに思いつくのは固定資産税課の土地係かもしれませんが、実は、話を聞いてみると、隣接する市の施設との境界のことでの相談だったりして、管財課へ案内するのが正解なんてこともあります。
 そんな時、自分の手持ちの情報量が多ければ、『何を聞かれても大丈夫 わからなければ仲間ネットワークで聞けばいいし』という安心感で、市民の方と少しお話をして、本当の目的地を引き出し、正しい案内をすることができます。でも、情報量が少ないと、『何聞かれるかなあ。わからないことだといやだなあ。』というドキドキ感も手伝ってできるだけ早く自分の手元からこの問題を手放したいと思いがちです。そうすると、間違った窓口を案内してしまうということもありますよね。
 繰り返しになりますが、市役所の仕事は「ゆりかごから墓場まで」本当に幅広いのです。だから、浅く広くでもいいので、知らないよりは知っている方が遥かにいいのです。
 そのためには、たくさん仲間を作って上手に情報交換をし、互いに活用することが大切です。
 でも、とはいっても、すでにたくさん知り合いがいる人はできるかもしれないけど、そうじゃない人は、何をきっかけに仲間をつくればいいの?
 そうですよね。知り合うにしても、つながるにしても、何処で誰がどんな情報をもっているのか……きっかけがないとできませんよね。
 そのきっかけづくりの一つの方法として、「職員版パブリック・コメント制度」を提案します。


4. ステップ3:制度を楽しみ、楽しい組織を
  ~職員版パブリック・コメントのすすめ~

 何かの事業を行おうとするとき、「担当は君だから」と言われたのはわかるけど、具体的に何から始めたらいいの? ……という経験ありませんか。
 以前は、予算も潤沢(?)で同じような規模の事業が定期的なサイクルで行われていたように思いますが、最近の財政状況のなかでは、何年かに一度あるかないかの事業を、たまたま担当することありますよね。で、前は比較的近いところに、同じような事業を経験した先輩がいて、聞きながら事業を進めることもできたけど、今は、職域も広がり、知らない人も多くなって、おまけに事業も地域の特色が様々だったりして、誰に聞いていいのかがわからないということも多いように思います。
 そんなときに、気軽にSOSを発信し、助言を得ながら仕事できたら、随分と心強く思いませんか。「職員版パブリック・コメント制度」は、そんなSOSに答える制度です。
 「パブリック・コメント」手続とは、行政機関が、政策の立案等を行おうとする際にその案を公表し、この案に対して広く市民の皆さんから意見や情報を提出していただく機会を設け、提出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行うというものです。(下図参考)




 最近は、様々な計画を策定される際には、ほぼ必ず使われている手法ですから、実施された経験をおもちの方も多いと思います。
 「職員版パブリック・コメント」も、基本的な方法は市民版と同じです。
 ただ、市民版が計画の概略がまとまった時点で、意見募集を行うのに対し、職員版は事業着手時(計画等を立てようとする時)である点で異なります。
 事業着手時のとっかかりとして、多方面から、アイディアや確認しておくべきこと等の助言、過去の実例などの情報を公募し、事業を進めるうえでの参考にしていく制度と考えてください。
 担当者は、そこでよせられた参考意見・確認すべきポイント等をおさえて、必要に応じて、情報提供者を仰ぎながら事業を進めていきます。
 寄せられた意見には拘束されないことを原則とし、情報の取捨選択は、担当者(担当部局)の判断におまかせという形です。
 職員提案制度や自治研など、職員が制度や政策を提案する機会はいろいろ整備されていますが、なかなか提案実績があがらない要因の一つに、実際に取り掛かろうとした時の、何から手をつけたらいいのかわからない難しさというのもあるのではないかと思います。
 その不安を少しでも拭い去ることができて、仲間作りが容易にでき、市役所全体のネットワークの中で仕事ができれば、気軽に提案することができるのではないでしょうか。

 今回、「職員版パブリック・コメント制度」を提案するにあたって、14人の方に緊急アンケートを実施しました。
 その結果、口頭での回答 5人、メールでの回答 5人 計10人(約7割)の回答をいただきました。
メールでいただいたご意見を紹介します。
【質問】
 おはようございます。今ひそかに「職員版パブリック・コメント制度」が作れないかなあと考えていますが、これについてご意見をお聞かせ下さい。
 イメージとしては市民向けのパブリック・コメントと同じものを考えて下さい。
 時期は事業計画を立てようとする時期に行います。スタート時点での担当者へのアドバイス制度とお考え下さい。
 もし、こんな制度があったらあなたは活用しますか?
 される方は想定されるメリット・デメリットも教えて下さい。活用しないと言う方はしない理由等ご意見をお聞かせ下さい。
 また、これに似た制度あるよ……と言う方、情報提供をお願いします。

【回答】
★ 職員版バブコメ制度はいいアイディアと思います。
  心配なのは「職員提案制度」のように 制度が先走って 職員のモチベーションがあがらないまま 冷ややかな眼差しを受けつつ、で収束してしまうことです。
  制度だけ先つくって「こんないい制度だからみんな活用してね」 というのは ある意味ハコモノ行政に似ています。

  自分の今の業務以外のことについて自由にコメントすることが、今まで以上に当たり前となるための作戦、それを面倒くさがらない体質、コメントしたがゆえに仕事が増えてしまうことへの不満の払拭など制度整備の前に何を露払いすべきか、そのために何を行動すべきかを考えることが重要では……と思います。

☆ 返事、遅くなってすみませんm(_ _)m
  アンケートの件、私なら活用します。知識の多い上司、先輩からのアドバイスはとても有効だと思います。アドバイスする側で考えたら、他の人に見られて大きなお世話だ、と思われないよう個人に向けて送信したいですかねぇ。また他課の状況を広く知るために質問をして回答もらえたらなぁ、とも思います。

★ なかなかよい提案だと思います。さらに単なる否定、批判の場にならないよう意見には必ず前向きな提案も加えるなどのルール作りがされるといいのではと思います

☆ お疲れ様です。事業について、あらゆる課の人が意見できるということでしょうか? 今の仕事ではあまりピンときませんが、新しい事業を進める上で、多方面から、多くの職員の知識、意見、経験が生かすことができそうで、良いと思います。デメリットはある程度の期間がかかってしまうこと、どこまで参考にして、しばりはどこまであるか等位置付けをはっきりする必要があると思います(^_^)っ

★ 確かに。「このプラン、あの部署にちゃんと確かめて作ったのかなぁ……」的な出来事は多いですよねぇ。
  担当者は、そんな法律がカベになってたり、制限のある地域だって知らなかったり、って、ある意味初歩的な躓きがよくありますが、それが防げるんじゃないのかなぁ。
  デメリットは……勢いでやっちゃうってことが出来にくいかも。
  まともなアドバイスばかりでなく、自分の所との関わりを避けようとすることもあるかもしれませんねぇ。
  大きな開発事業には、県の要綱で関係課の意見を聞くってのがありますが、似た制度……とは言えないかな。

 ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。
 もちろん、具体的な方法等については何も検討していませんので課題は山積みですが、現在浮上しているだけでも(メールの中からも読み取っていただけたと思いますが)、
○意見公募の方法をどういう形で行うのか。
  ex.スターオフィス上で行う
    防災メール方式で行う
    市のHP上で行う    
○職員のモチベーションを高めるための方法は?
○計画立案時点の情報をどこまで開示できるか?
などの問題があると思います。
 職員のモチベーションのことを考えると、手法は、メール方式のほうがいいのかなと思いますが、秘密の保持という点で考えると、やっぱりスターオフィス上での公募が適当なのかなと思います。
 
 とりあえず、この制度を作るために「パブリック・コメント」してみませんか。