【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

地域への運動展開を行い、アウトソーシング提案の撤回につながる


高知県本部/高知市職員労働組合・清掃分会

1. はじめに

 私たちの担うごみ収集業務は、常にアウトソーシングの対象職場として位置付けられ、幾度となく合理化提案が行われてきました。これに対し私たち高知市職労清掃分会は、ごみ収集については高知市民全てに関わる公共サービスであるとの認識のもと、一貫して合理化攻撃反対闘争を組んできたところです。
 2004年国の進める三位一体の改革の第1次において、地方交付税の大幅な削減が行われ、もともと脆弱であった高知市の財政状況は予算編成ができないまでに悪化し、2006年度までの3年間で190億円の財源不足を生じることとなり、賃金カット提案が行われるとともに、雑ごみ収集の民間委託提案が出されてきました。
 清掃分会は、懸命に合理化反対闘争に取り組んできましたが、最終的には自分たちで業務の見直しを行い、少なくとも毎日の市民生活に関わる生ごみ収集を守ることと不燃物収集の委託についても協力体制の大幅な変更がないよう、これまで協力いただいてきた団体へお願いすることの確認を行い、大綱妥結をしました。
 一方でこの間、私たち清掃分会は、単にステーションに出されたごみを収集するのみならず、何が環境行政として求められているのか、市民にごみ分別の理解と協力をお願いする、との意味合いで地域へと踏み出した運動に取り組み、市民ニーズに対応した行政サービスの構築をめざしてきました。
 具体的には、99年には政策提言を提出し、その中にはごみ出し困難者に対する個別収集(ふれあい収集)の実施に向けた政策を掲げ、実施に向けた取り組みを地域の民生委員の皆さんと協議を進めてきていました。また、ボランティアで親子環境学習会を継続して開催してきました。
 これらの取り組みもあってか、2007年10月から民間委託と予定されていた可燃性粗大ごみ収集について、市民から「これまでの直営・再資源センター・市民の三者協働での収集体制の維持」の声もあり、環境部としてもこれまでの環境行政における住民との接点を重要視した上で再検討をし、企画・財政部と協議を行い、その後、高知市として直営での収集が必要であると認識を示し民間委託の方針を撤回することを決定しました。
 このレポートでは、この間の清掃分会として追求してきた市民協働の取り組みの内容、その成果と課題を報告します。

2. 市民の協力でさらなるごみ分別を進める

(1) 廃棄物行政地区説明会・ごみ出前講座
 これまで、管理職や専門部署のみで対応していた、地区説明会や出前講座に、2007年度からは現場の職員が参加することとなりました。この理由については、環境業務課長から説明があり、「収集現場の職員が参加することで職員のスキルアップを図る」事とあわせて、「収集現場で的確に市民対応が出来る体制作り」、「説明会において、現場ならではの意見反映ができる」などのメリットが示されました。
 また、ごみ行政の最前線で働く現場の職員が参加することによって、説明会に参加する市民にも安心感が生まれ、活発な議論が期待できることからも、積極的な参加要請がありました。
① 廃棄物行政地区説明会
  高知市では、毎年、減量推進委員・町内会長等を対象に、市内29箇所で廃棄物行政地区説明会を実施しています。2007年度については、同年10月からの分別区分及び名称変更に関する説明と、プラスチック製容器包装の適正排出についての説明会を、7月より各地区で順次行いました。これまで、管理職や専門部署のみで対応していた同説明会に、実際に収集を行う現場職員が参加し、市民との意見交換を行いました。
② 出前講座
  前述の地区説明会と併せて、町内会や学校、保育園、事業所や各種団体等、幅広い範囲で出前講座を開催しました。2007年度は、10月からの分別区分・名称の変更と、プラスチック製容器包装類の出し方を中心に、4月から、約120箇所、述べ6,600人以上の市民を対象に行ってきました。

(2) 親子環境学習会
 親子で参加する体験型の学習会は、現在ごみを排出している親の世代と、将来、ごみを排出する子どもたちに、「親子で楽しく体験して学ぶ」ことを基本理念として企画・開催されました。学習会では、ごみの分別や減量、リサイクル意識の向上と、高知市の環境行政をより理解してもらう内容を目指しました。
① 内容


分別品目や排出方法、収集業務等、高知市の廃棄物行政に関する説明

ごみのカードを使用して、高知市指定の品目に分別する分別ゲーム

環境戦隊クリーンレンジャー対環境壊組織ブラックダスターを主題とする啓発ショー

パッカー及びプレス車の体験乗車と構造説明、収集実演

② 経過と課題
  この親子環境学習会は、親子で楽しく学べる体験型の学習会を開催することにより、直営収集に対する理解と協力、さらなる分別意識の向上を図るために企画しました。
  当日は、園児や保護者にクリーンセンターの内部を案内し、高知市の廃棄物行政の説明を行い、その後、子どもに楽しみながら分別の基本を理解してもらえるように、ごみ分別ゲームや戦隊ショーを行い、さらにはパッカー車の体験乗車を行いました。
  清掃分会独自の取り組みである地域に踏み出したこの活動は、高知市が業務として行っている「出前講座」・「啓発活動」と内容的に同一であるとの見地から、2007年には、業務の一環として位置付けられました。
  その結果、町内会の夏祭りの中での、説明会および戦隊ショーや、高知市まちづくり推進課から、イベントへの参加要請があるなど、活動の幅が大きく広がりました。このように、組合の自発的な取り組みは、行政当局や議会、地域住民に一定理解され、現場職員の努力が評価されてきています。
  今後は、多くの職員の協力が得られるよう、職員参加への体制整備や、学習会の内容の拡充など、親子環境学習会の開催についての問題点や課題について、整理・検討が必要であると考えています。

3. ふれあい収集について

(1) 職場提案から試行実施までの流れ
 1999年、市長あての組合提言「これからの清掃行政」の中で、「ふれあい収集」についてふれ、サービス実施の必要性を訴えました。
 組合からの再三の要求にもかかわらず、長らくの間、市当局からは実施の話しに至らないまま、この間、組合独自に先進地視察や学習会を実施、さらには一部の地区民児協(民生委員)からの協力による情報提供をいただき、それらを参考に組合としての具体案をまとめていきました。
 特に地区民児協の協力においては、日頃から地域の弱者に接している観点からの貴重なご意見、助言をいただくことができ、組合の提案する「ふれあい収集」に対する市民の期待と早急な実施の必要性を再認識するものとなりました。
 2005年3月、高知市議会での質問において、環境部長が試行実施を明言、これによりようやく試行実施が行われることとなり、当局においてその調査と準備をすることとなりました。
 2005年4月頃から、環境部・健康福祉部と組合で数回にわたり協議を行いました。また、在宅介護支援センター定例会等にも参加し、介護サービスに携わるケアマネージャーやヘルパーからの意見についても積極的に聞き取ることができました。
 2006年1月、当局が試行実施要綱を作成することとなり、2006年3月~5月までの3ヶ月間、一部モデル地区において試行実施をすることになりました。

(2) 組合の提案する「ふれあい収集」とは
 私たちは、「ふれあい収集」を提案するにあたり、次の点を重要なテーマとしています。

[地域コミュニティの再構築]
 「ふれあい収集」によって職員が定期的に訪問し、声かけ等を行うことにより、付近の住民にあらためて独居高齢世帯・障害者世帯などが存在することを再認識してもらい、地域のコミュニティの輪の中に加えていってもらうきっかけとなることを期待するものとします。地域コミュニティの輪が再構築された場合には、該当者に対するふれあい収集業務を終了し、地域の中で新たにごみ出しを含めた日常の交流を行ってもらうこととします。また、すでに地域での助け合いがある世帯については、かえって地域の交流の邪魔になるため、行政があえて「ふれあい収集」を行うことはしないものとします。
 このことは、防災面においても力を発揮することが期待できます。実際に阪神大震災や高知西南豪雨においても、地域コミュニティの輪がしっかりしている地域では、独居高齢者・障害者などを住民が把握しており、すみやかに救助することで人的被害を最小に食い止めた例があり、その必要性を裏付けています。

[行政・福祉団体との連携]
 「ふれあい収集」の申請や実施を通じて、行政内部の他部署間と福祉団体との間で、独居高齢者世帯や障害者世帯への対応について互いに協力するようにします。必要に応じて個人情報の取り扱いに十分配慮しつつ、情報交換をすることで効率よく市民サービスを提供することが可能となります。
 さらにそこへ地域の実情に詳しい自治会や民生委員がかかわることにより、単にごみ出しの問題にとどまらず、様々な問題についても把握でき、適切な対応が可能となります。行政としてもこれまでの縦割り行政を改善でき、市民の声をより多く聞きながらワンランク上の業務をこなすことで、職員自身のレベルアップのきっかけとすることが期待できます。

 このように「ふれあい収集」を単にごみの戸別収集にとどまらない、まちづくりや市民の生命の安全にまで踏み込んだ総合的かつ先進的なサービスとして提供することを提案しています。

(3) 2006年の試行収集の結果と問題点
 これまでのいきさつや調査、協議の内容をふまえた上で、試行収集を行うはずでしたが、当局が試行実施要綱を作成した時点で、その内容が異なるものとなりました。当局が作成した試行実施要綱は、介護保険による要介護2以上が条件とされたため、ケアマネージャー・ヘルパーからの意見で市民ニーズが強いとされた要介護度1、要支援(経過的要介護)が対象外とされました。
 また、居宅介護事業所からの推薦を基本とし、組合の提案するふれあい収集を通じての地域とのかかわりや地域の実情に詳しい民生委員の協力、さらに他部署との連携などのアイデアは全く無視され、単純に廃棄物行政として戸別収集をするというものでした。
【試行収集実施要綱(抜粋)】
・北街・南街・下知の3地区限定
・要介護度2~5でごみ出しが困難な世帯,もしくは特に市長が必要と認める世帯
・3月~5月末までの3ヶ月限定(いったん打ち切りが条件)
・週1回もしくは週2回の生ごみのみの収集(玄関先までは出してもらう)
 ※居宅介護支援事業所を訪問の上、上記対象者の紹介を依頼

 このように決まった以上、高知市の試行実施としては要綱に沿って実施するしかなく、3ヶ月の試行収集期間、まずは試行収集実施要綱に基づき、市内全部の居宅介護事業所(74事業所)に試行実施依頼文書を発送の上、訪問可能な事業所(68カ所)については直接訪問し、試行実施の内容説明と試行実施の条件にあてはまる世帯についての紹介を依頼しました。このとき、試行実施の条件にはあてはまらない世帯についても、全市でどのくらいの希望者がいるのかを把握するために世帯数をあげていただくよう依頼しました。
 その結果、全体の半数以下の事業所からとなりましたが回答があり、世帯数合計では33世帯、うち対象条件を満たす世帯は5世帯にとどまりました。しかも5世帯のうち4世帯は対象者の都合等により収集までには至らず、試行収集を行うことができたのはたった1世帯ときわめて少ない結果となってしまいました。たった1世帯だけの週2回収集では、当然のことながら実運用面でのデータとしての意味合いも薄くなってしまいました。
 しかしながら、居宅介護支援事業所の訪問や試行収集現地調査などで、ケアマネージャーからの行政に対する様々な意見を聞くことができたり、少しでも介護サービスの現場の実情をみせていただいたことは非常に参考になりました。
 実施する前から懸念されていたことも含め、試行実施の問題点をまとめると以下のようになります。

(問題点)
・ふれあい収集を通じての地域コミュニティ再構築が全く加味されていない
・役所内における他の部署との連携が、単に健康福祉部から意見を聞くだけにとどまり、他の福祉サービスやまちづくり、防災などの事業と連携することが想定されていない
・介護認定対象者をほぼ主体としたことで、介護認定世帯以外でごみ出しに困っている世帯についての調査や対応がされないままである
・要介護2以上という条件自体が、実際のニーズからはずれてしまっている
・地域の実情に詳しい民生委員の協力を得るかたちになっていないため、広く対象者を把握することが困難
・条件を絞りすぎているため、試行実施としての数がきわめて少なくなった

 試行実施の途中や終了時の報告において、これらの問題点を報告しました。しかしながら、今後の本格実施を行うかどうかについても議論されないまま試行収集を終了しました。
 このようになった理由としては、当局側に本格実施の意志がないか、あったとしても極力実施世帯数を抑えながら、少しでも問題がおきないような簡単なものにしたいという消極的な考えがあるためだと思われます。

(4) 今後について
 2006年の試行実施をもって、希望世帯数が少ないため市民ニーズがほとんど無いとするのは誤りであり、当局の基準の設定に問題があると考えています。
 このような当局案のままでは市民サービスとして不十分であり、組合として重要視している地域コミュニティの再構築というテーマを十分に考慮した上で、地域の実情に詳しい、自治会や民生委員の意見と協力を得るかたちでの再調査および再度の試行実施を要望してきていますし、清掃分会としては、組合員を含めた検討委員会の中で車両・人員・収集体制についての議論を行い、早期実施に向けた職場提案をまとめてきました。しかし、所属の考えは、「清掃行政の基本はステーションに出されたごみの収集を行うことであり、合併地域への対応もあるため、新たな業務への対応は困難である」との一点張りでした。
 私たちとしては、清掃行政の新たなサービスは住民が真に必要とするものでなければならないと思っています。そのためには積極的に市民の意見を参考にして、試行錯誤ながらも取り組んで行くべきだと考えています。また、我々現場の職員自身の手で考えて工夫し実行に移していくことができれば、本当に市民のためになる実のあるサービスが提供できるとともに、市民と職員の垣根、他部署間の垣根も取り去り、ひいては我々個々の職員のレベルアップにもなるものと確信しています。

4. 総括

 これら一連の取り組みについては、環境行政におけるサービスの拡充や市民参画をめざしたものであり、地域コミュニティの再構築につながると確信しています。
 私たちのめざすふれあい収集については、環境部のみならず健康福祉部や消防といった災害対策など関連する部署、加えて民生委員など市民の力を必要としています。これまでの自治体の仕事はそれぞれの部で専門的な業務を行うのみであり、新規事業で部を超えての連携を必要とするものは少なかったと思います。そのため、環境部では人員や車両など収集に対する課題、健康福祉部ではふれあい収集の対象となる基準設定、さらに両部の共通問題して対象世帯の申し込み受付や認定作業といった、課題があることから当局側は慎重に議論を行い、最終的には環境部のみで対応できる試行実施とされています。
 ごみ分別等の説明会については環境部の所管であり、ボランティアで始めた親子環境学習会は業務に関連することから、新規事業としてすぐに認められることとなっています。
 このことから、自治体の業務における提案については、単一部署での対応であるならば、容易に試行などが実施できると想定できます。しかしながら、地域コミュニティの強化をはかる事業や市民の求めるサービスについては、自治体のさまざまな部署にわたる可能性があり、慎重に議論を重ね実施までに長期間かかると考えられます。
 私たちは、環境行政には市民の協力や理解が必要と考えており、そのためにはステーションに出されたごみを取るだけでなく、分別への理解が深まるような学習会の開催を行うとともにどのようなニーズがあるのか聴く場を設定することが重要と考えています。さまざまなニーズに対応するためには、従来の縦割り行政ではなく横断的な組織対応が可能となり総合的なサービスを行える行政組織の再構築をしなければなりません。
 組合としても、ふれあい収集の早期実施や親子環境学習会の活性化をはかり、地域へと踏み出した取り組みを強めるとともに、災害対策や福祉部門などに関連した市民の声に対応できる複合的な環境行政をめざしていきます。