(3) 第三セクターの経営状況
① 株式会社五ヶ瀬ハイランド
1990年にオープンした五ヶ瀬ハイランドスキー場の管理運営を受託し1994年に設立された。その後、総合運動公園内に建設された宿泊施設「ごかせ温泉木地屋」、「特産センターごかせ」の管理運営を目的に、2005年7月から指定管理者の指定を受け、本町の観光産業を担う中心企業となっている。従業員数はパート含めて24人、スキーシーズンでは季節雇用が約70人になる。営業開始後、数年間は施設管理委託料として年間最大5千万円を一般会計より受託していたが、現在は1千万円となっている。経営の状況は下記〔図-5〕に示す。
事業所 |
収益 |
費用 |
経常損益 |
備 考 |
五ヶ瀬ハイランドスキー場 |
253,923 |
264,244 |
△10,321 |
入場者実績52,000人 |
ごかせ温泉木地屋 |
103,657 |
115,147 |
△11,490 |
宿泊6,800人、レストラン38,500人、温泉19,200人 |
特産センターごかせ |
37,157 |
40,407 |
△3,250 |
食堂15,000人、売店17,900人 |
その他の事業 |
15,634 |
13,656 |
1,978 |
|
合計 |
410,371 |
433,454 |
△23,083 |
累積損失 △26,909 |
② 五ヶ瀬ワイナリー株式会社
五ヶ瀬ワイナリー株式会社は、2003年に本町と民間企業の出資により設立され、本町が建設した農畜産物処理加工施設(ワイン醸造・販売施設)の指定管理を2005年4月に受けた。施設の管理委託料は無料である。地元のぶどうを100%使用し、国産ワインコンクールでも評価を得るほど高品質のワインを生み出し、新たな観光拠点として年間多くの観光客の集客へと繋げている。従業員数は社員・パート含めて10人、年間約90トンのぶどうを仕込み、約7万5千本を生産している。経営状況は下記〔図-6〕に示す。
事業部門 |
収益 |
費用 |
経常損益 |
備 考 |
ワイナリー部門 |
75,076 |
80,158 |
△5,082 |
売店レジ客数24,000人、ワイン出荷本数51,500本 |
レストラン部門 |
27,423 |
36,910 |
△9,487 |
レストラン13,400人 |
合計 |
102,499 |
117,068 |
△14,569 |
累積損失 △36,951 |
※資本金 1億6千万円(五ヶ瀬町出資比率75.5%) |
2005年12月からの営業開始後2年3ヶ月経過後の決算状況であるため、初期投資分を回収して黒字化するには計画上で後2年を見込んでいる。
総務省は、経営が悪化した3セクの対応に本腰を入れ始めた。破綻した場合の損失補償契約を金融機関と結んでいる自治体が多い(本町は結んでいない。)ことから、自治体が3セクの破綻を回避するために多額の支援を行うより、早期に破綻処理させ、負担を最小限に留めることを目的とし破綻処理経費に地方債を充てることを認め、破綻責任を明確にさせる方針である。
本町の3セクが担っている役割は、南国九州でもまれな冷涼な気候を逆転の発想で活用し、冬のスキー場、夏の合宿誘致、寒暖差の優位性をもったぶどう栽培・加工等の事業を展開し、地元経済への貢献や雇用の場の確保充分な公益性を有しており、観光のみならず地域振興や地域づくりの拠点としての地元住民と協働での事業展開を進めていかなければならない。
3. 先進地視察
国の財政難から端を発し、民間資金を目的とし国が進めた指定管理者制度やPFI法をはじめとする「官」から「民」へのアウトソーシングの展開とは性格を異にし、真に協働を輝かせることは、脆弱な財政状況に陥り始めた小規模自治体の地域づくりに活路を見出すポイントであることは間違いない。
先の財政状況でも触れたとおり、本町も例外ではなく、自立の道を歩む本町においては「地域の力」と「アイディア」が求められることは言うまでもない。
私たち自治研推進委員会では、健康な地域づくりを行っている「茨城県旧大洋村(現鉾田市)」、NPO法人の活動を核としまちづくりを展開している「神奈川県山北町」を訪れ、本町に参考となる事例を検証してみることにした。また、本視察は宮崎県地方自治問題研究所と連携し、同研究所小沼所長に同行いただいた。
(1) 茨城県旧大洋村(現鉾田市)
旧大洋村は、第二の軽井沢をキャッチフレーズに分譲住宅地を整備し別荘地として発展した。その後、定年退職者のIターンにより、人口12,000人の半分を移住者が占め高齢化率が一気に加速した。村は、住民の医療費を抑える目的から健康政策を早くから打ち出し、健康まちづくりのはしりとして全国的に有名な自治体となった。今回視察したのはこの拠点となる「とっぷさんて大洋」である。
筑波大学の協力を得て建設されたこの施設は、プール、フィットネスルーム、トレーニングルーム、健康相談室、温泉、陶芸施設、宿泊施設および運動遊園等を有し、高齢者の健康づくりの施設として様々な工夫が凝らされている。同規模自治体と比較してもかなり大きな施設である。施設利用者の運動カルテを基に、スポーツインストラクター、保健師等の連携を図り、ダイエット教室、ヘルスアップ教室等さまざまな事業を展開している。住民の健康づくりの意識は高く、どちらかというと先住されていた方よりも移住された方の意識が高いという。
ロケーション、自然環境共に本町に共通する部分が数多くあり、本町においても健康メニューをプログラムするスポーツインストラクターを養成することができれば、総合運動公園、夕日の里の農泊、町立病院を融合させ、交流人口を増加させることは可能だと感じた。
(2) 神奈川県山北町
「人と自然、都市と地域の共生」をメインとし、地域づくりを行っているNPO法人まちづくり研究会を訪れた。
この研究会は、1999年に町長の諮問機関として町民公募型のまちづくり委員会として創設、その後、協働のまちづくりを基本理念に町内有志によりまちづくり研究会が発足、NPO法人の認可を受け、現在のNPO法人まちづくり研究会が誕生した。月一回の定例会を開催しながら、活動の継続、都市との交流、自然を生かした取り組みをキーワードに活動を展開され、町職員が机上では考え付かないアイディア発掘を目指し、行政への提言活動を行っている。
現在では、絶滅危惧種「おきな草」の栽培活動等、自然資源を生かした取り組みを主として活動がなされ、「おきな草」の栽培活動では東海大学の学生と協働でメッセージペーパーを作成し、「山北物語」と題した花のまちづくりを行いながら都市との交流を図っている。平岡理事長は、「自分たちが動いて、自分たちから情報発信をしていくことが町の発展につながる」と話す。
現在、NPO法人は、行政のできない事務の丸投げ先的存在に勘違いされがちだが、このまちづくり研究会は、行政と良い関係を保ちながら同じベクトルへ向かっていく「協働」の原点であると感じた。加えて、私たちの菜の花の取り組みにも参考になり、今後も情報交換を図っていきたい。
4. 新たなまちづくりへの提案
財税状況を見てもわかるとおり、本町のまちづくりは、新たな施設を作るために大きな資金を投入することは当面考えることができない。これまで、本町ではスキー場を利用したスキーレジャー、総合運動公園Gパークを中心とした合宿、「夕日の里」を中心とした五ヶ瀬町版グリーンツーリズム事業など「交流」をキーワードにまちづくりを進めてきた経緯がある。
観光分野において、今もっとも注目されるのは、地域が主体となって取り組む地域資源を活用した「着地型旅行」である。一方、先の視察報告でも触れたとおり、健康についても各自治体が大きな課題と位置づけており、人々の意識は自然回帰志向や健康志向が高まり、併せておよそ700万人ともいわれる団塊の世代の大量退職の時代を迎え、新たなライフスタイルを求める気運が高まっている。
本町には、観光資源、地域の活力が生まれる資源が多く存在し、これらの資源をうまく活用することが、今後のまちづくりのポイントになるのではと考えた。更に、財政分析で触れた五ヶ瀬町国民健康保険病院の利用促進を結びつけることでおもしろいまちづくりができないだろうか。
観光と医療の融合の事例では、全国で展開されている「森林セラピー」の取り組みがあげられる。本町と同じ郡内にある日之影町においては、2006年4月に全国初「森林セラピー基地」の認定を受け、多くの観光客が訪れている。本町の資源と照らし合わせたときにヒントになる部分が多く、この取り組みを実際に肌で体験しようと、日之影町職の協力を得て、当地を訪れることとした。また、町内の地域の資源に目を向け、五ヶ瀬町版グリーンツーリズムの地「夕日の里」で農泊についての現状を把握するため農家民泊を受け入れている農家を訪問し、本町のまちづくりについて意見交換を行ってみた。
(1) 森林セラピー体験
「森林セラピー」は、整備された森林環境の中で森林の持つ癒し効果をブランド商品として、健康づくり、地域振興に生かしていこうという取り組みであり、従来からある「森林浴」が科学的に証明されたことで誕生した。
元来存在する資源を最大限に活かす地域づくりを基本姿勢に、スローライフや健康・癒しへの関心の高まり、森林資源やフィールドそのものが持つポテンシャルが脚光を浴びており、「森林セラピー」は新時代の娯楽になりうる魅力を持つ。当地にある5つのウォーキングコースのうち「石垣の村トロッコ道ウォーキングコース」を実際に歩いてみると、山間部に在住する私たちでさえ癒し効果を体験することができた。都市部に住む方にとっては、なおさら大きな魅力になるであろう。
(2) 五ヶ瀬町の農泊
本町の農泊は、五ヶ瀬町版グリーンツーリズムの地「夕日の里(桑野内地区)」で実施されており、2006年宮崎県で初となる「農家民宿」の営業許可を9戸の農家が取得し開始された。私たちはその中の一軒「ますがた」を訪れ、地域で農泊を経営される農家の方5人と意見交換を行った。
話の中で、農泊は生計の主体ではなく、あくまでも農業が主体であり、地域の活性化に繋がればとの趣味感覚で始めたとのこと。実際のところ農繁期は農業が主体であり、受け入れは厳しいが、近年では中国やシンガポールからの修学旅行生が多数訪れており、海外との交流までも実現するなど、希望とは反するほどの人気を博している。宿泊の料金は2食付いても信じられないくらいリーズナブルであり、赤字もしばしばではあるが、訪れる方にはリピーターも多く、農作業をお客さんと共に行うことでの生き甲斐やお礼の便りの楽しみには代えられないらしい。「桑野内地区のみではなく、他の地区でも農泊をはじめてほしい。また、町内の他の政策との繋がりや他の地区の資源の活用ができれば…」と話された。自分たちの地域を自分たちでつくるという地域住民の意識と直接触れ合える貴重な経験であった。
〔図-7〕 |
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このように、本町にも新たな取り組みとして活用できる資源は多く存在する。先進地視察や、森林セラピー・農泊体験を通して「健康農泊」が実現できれば大きな効果が得られないだろうかと考えた。
私たちは、森林セラピーを参考に自然の中の散策ロードの一例(図-7)を地図に落す作業を行ってみた。五ヶ瀬町国民健康保険病院での人間ドック、総合運動公園、スキー場、農家民泊、スキー場ふもとの集落の森の民宿を融合させた「五ヶ瀬町版健康農泊」を提案したい。病院での健診後、農家民泊・民宿を利用し、長期滞在をしながら五ヶ瀬の自然の中で人間性の回復を図るというものである。残る課題は、この地域資源を融合させ健康メニューをプログラムするインストラクターを養成できれば、全国に向けて本町の魅力を発信してくことで、この新たな取り組みも実現できるのではないだろうか。
5. 菜の花が取り持つ地域との連携
2006年まで私たちは、本町の自立を少しでも支えるため、組合員自らが取り組める庁舎内の経費節減を検証してきた。その後、経費節減の観点から環境を含めた菜の花プロジェクトへの勉強会へと話が発展し、前回のレポートではこの「菜の花」を利用して経費節減や環境の意識を地域住民へと今後発信していきたいと報告した。さらに今回、住民協働の観点から組合員が実際に地域に出向き菜の花を広げていく取り組みを行ってみた。
2006年10月、実際に一度花を咲かせてみようと庁舎周辺の花壇に種まきを行い、2007年の春に菜の花が開花した。この菜の花から種を取り同年秋から地域へと一歩踏み出す取り組みを試みた。
取り組みとして、町内の保育所や小・中学校、老人クラブ等のほか、菜の花を育てたいという一般住民に種や苗を配布し、町内全域に取り組みを広げることにした。2007年10月、町内の老人クラブの会議に出向き趣旨を説明し、半数ほどのクラブから菜の花を育てたいと申し出があり、種を配布した。また、五ヶ瀬ワイナリー敷地内の畑を借り、苗を育て、鉢に移し町内の保育所や小・中学校、老人施設等に配布し、それぞれの施設で植えてもらう活動を行った。本年4月には、五ヶ瀬ワイナリーに植えた菜の花も無事に咲かせることができ、6月には、種を収穫した。今後も種や苗の配布を継続して行い、「菜の花」を住民協働や都市住民との交流等の一つのツールとして活用できないかをさまざまな角度から検討していくこととする。例えば、五ヶ瀬ワイナリーの来館者にメッセージを添えて種を配布するなどを検討しているところである。
資源循環型社会を目指して全国的に広がりを見せる「菜の花プロジェクト」であるが、本町では背伸びせず、誰もが楽しんで取り組める活動として展開し、地域へと地道に、そして着実に広げていきたい。
6. まとめ
これまで五ヶ瀬町自治研推進委員会では、様々なテーマを通して自治研活動を地域へ一歩踏み出すための土台として構築してきた。前回(2006年)のレポートでは「住民協働の実践へ向けて」と題し、自治研が実際に動き出すための準備は整ったと締めくくっている。
今回の自治研活動に取り組んできたキーワードは、「活動を地域へ」であった。従来取り組んできた財政分析を基本に、これからのまちづくりについて検証を行いながら、新たな取り組みとして実際に地域へ出向き、また、地域住民との繋がりを肌で感じながら活動を展開してきた。
財政分析においては、これまで継続してきた一般会計の分析に加え、病院事業会計および第3セクターの決算状況を検証し、問題点の分析を行った。この財政状況から、現在の本町におけるまちづくりは、既存する施設や地域資源を生かしたまちづくりが求められると感じ、点の政策からエリアの政策への一案として、「健康農泊」の検証に至った。また、一昨年まで検証した経費節減からヒントを得た「菜の花」を利用することで、地域住民との繋がりを通し、自治研活動を広めていく実践を行った。
このようないくつかの観点から考察を行ってきたが、本町のまちづくりは、現存する地域資源と地域住民をどう組み合わせていくかがポイントではないだろうか。当面、新たな政策を興すのではなく、これまでに進めてきた政策を融合させるアイディアの掘り起こしが重要だと、現時点では提言したい。
今、社会は市場万能主義や競争至上主義の中、地方の生活の安全・安心が危機に瀕している。重ねて国主導で進められた地方分権は、本来の地方自治体の姿から逸脱し、小規模自治体を追い込む結果になったと感じる人も少なくないだろう。
私たちの自治研活動は、このようなグローバリゼーションに左右されない本町の自立を支えるために、地に足を据え地域を肌で感じながら、この地ならではの独自の取り組みを展開していく必要がある。
おわりに、私たちの取り組みを本来の地方自治の姿を求め、小規模自治体「五ヶ瀬町」の地域公共サービスを組合主導で論議する場とし、結果を当局へ提案しながら、「協働」を輝かせるために今後も活動を継続していきたい。 |