【自主レポート】自治研活動部門奨励賞 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働 |
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1. はじめに 私たちワーカーズコープは、働く人びと、市民が主体となってみんなで出資し、経営し、責任を分かち合って働く「協同労働の協同組合」です。地域に必要な仕事を市民自身が主体者として仕事をおこし、地域再生・まちづくりへの貢献を目標に、清掃・緑化・食関連・子育て・高齢者福祉・障害者福祉等の多様な事業活動を行っています。また、今日では「規制緩和」「構造改革」路線の下、指定管理者制度を始めとして公共サービスの民営化・民間委託化が進む中、私たちは公共サービスを「市場化・営利化」ではなく「市民化・社会化を」と掲げ、自治体・市民に「新しい公共と市民自治の創造をめざそう」と働きかける中、指定管理者の運営を全国に拡げてきています。現在、全国で指定管理者65施設(高齢者福祉関連13、障害者福祉関連4、公共施設運営関連13、子育て支援関連35施設)の運営を担っています。 2. 福生市の概要 東京都福生市は、都心から西へ約40km、武蔵野台地の西端に位置する、人口約6万2,000人の都市です。市の東北部には米軍横田基地があり、市の面積の32%を占めています。基地の影響からか、市内には英語の看板も多く見受けられ、外国籍の人々も多く、町ではさまざまな言語が話されているのを耳にします。特に、基地の南側の国道16号沿いには、英語の看板が目立ち、さまざまな商店が並び、異国情緒のある場所です。
3. 私たちがめざす児童館、学童クラブとは (1) 児童館、学童クラブを運営する私たちの基本方針 4. 基礎研修から1カ月運動の徹底、組合員会議の運営の充実 FUSSA地域福祉事業所では、引き継ぎ期間である立上げの前の1カ月に、4回に渡る全組合員研修を開き、ワーカーズコープの理念・経営・歴史などの研修と同時に、先駆的な運営をしている町田市の児童館の館長をお呼びした講演など、立上げの期間で時間があまりない中でも毎週のように研修を行いました。 (1) 私たちが大切にしている3つの協同・協同労働 |
(2) 児童館は、子ども・保護者・地域が主人公 5. 地域との協同で利用者と組合員と地域が変化する~各館の特徴的な取り組みから~ (1) 地域懇談会から(武蔵野台児童館) 昼会議や団会議で繰り返し出される子どもたちの様子。学校や関係機関との連携を図りつつも、すぐには改善策のない状況の中で、地域住民や商店、学校などの関係機関を回り、地域懇談会の参加を呼びかけました。地域懇談会と言っても前例がなく、当日まではいったい誰が来てくれるのだろうかと思い悩んでいました。しかし、当日の地域懇談会は、思いのある学校の先生や支援機関、近所の住民の方、商店の方も参加してくれました。 懇談会では、子どもたちと親だけの問題だけでなく、地域の問題として子どもたちのことを考えてほしいと、現状を一人ひとりの組合員の言葉で伝えました。伝えた現状に驚く方もいましたが、「ここに暮らす子どもたちは、地域の子どもたちだから、一緒に何とかしましょう」と共感してくれる方々が多くいました。参加者の共感は、その後すぐに動き始めました。まずは、自治会と地域の方々の協力を得ることができました。懇談会に参加した住民の方が、自分の地域の自治会で話してくれたのです。 そして、ワーカーズコープの全国の仲間から集められている「社会連帯委員会」(注)の基金を利用して、子どもたちに向けての「炊き出し」の実施につながりました。特に、スーパーでの中高生の万引きの実態などについても話して下さった近隣のスーパーの店長さんは、「炊き出し」では食材の協力もしてくれました。地域に出て発信していくことで、地域が協力してくれ、変化が生じるという象徴的な取り組みだったと感じています。この事業を、どう継続的に実施していくかが今後のテーマともなっていますが、その仕組みを地域の方々と一緒にさらに発展させ企画していく予定です。 2008年1月15日の日本労協新聞の記事を紹介します。 |
「地域が子どもを育てる」第一歩がやっと踏み出せた(日本労協新聞2008年1月15日号) |
(2) 地域の方々や大学も参加してつくり上げたお祭り(田園児童館) 田園児童館は、児童館施設だけではなく、地域の方々が利用する地域会館を併設しています。地域会館を利用しているダンスサークルから、児童館の子どもたちが社交ダンスを体験させてもらい、サークルと子どもたちの日常的な交流も生れています。地域の現状や子どもへの理解を深めるためにも、田園児童館ではこれまでも地域の方々の集まりに出向いたり、地域の畳組合を招いての工作事業など、地域との協同を大切にしてきました。また、多国籍の市民が多い福生市、来日したばかりの日本語があまり得意ではない保護者に対しては、学校への手続きや相談など、田園児童館の職員が親身になって相談にのる姿もありました。 2月の田園児童館祭りではそういった多くの方々との「つながり」を生かし、地域の方々の他にも、東京農工大学工学部のサークルもボランティアとして参加しました。準備には時間もかかりましたが、なんといっても次々に協力して下さる地域の方々に、職員も元気づけられて、実施することができました。当日は600人の参加者に総勢177人のボランティアが集まり、児童館祭りというよりは、0歳~80歳までのまさに「地域のお祭り」になりました。ボランティアに参加した地域の方々からは、「指定管理になって変わったね」と嬉しい言葉をかけてくれる方も増えてきました。 (3) 地域とともに(熊川児童館) 6. 東京農工大学との共同研究の目的とその展望 2007年度、地域のニーズの実態把握を把握していくために、大学との共同研究を望んでいた私たちに朗報が入りました。東京農工大学大学院環境教育学研究室(朝岡幸彦先生)との共同研究が2008年度からの3年計画で始まることが決まったのです。私たちは、子どもの現状やその行動から、日々気付くことが多くあります。しかし、そのことが地域全体の抱える課題なのか、個別の児童の抱える課題なのか、そういう問題をどのように整理して、まとめていくか大変むずかしいと感じていました。地域の本当のニーズとは何か、ニーズに合った事業を本当に実施できているのか、ということです。今年4月から東京農工大学との共同研究が始まりました。ワークショップの第1回目では、「日常的に見える子どもたちの様子」をテーマに意見を出し合い、模造紙に貼り、グルーピングした結果、全員でまとめたタイトルは「児童館に求めている子どもたち」となりました。子どもたちが、児童館や指導員に何かを求めているということだったのです。この共同研究には、自治体の担当課の職員にも参加していただいており、児童館に求められる新しい姿と地域の今後を考える上で大きな鍵になるものと思います。 7. 今後の展望と仕事おこしの拠点として 今後、指定管理者としての運営だけではなく、地域のニーズを探り、その課題解決に向けて、地域の方々とともに事業企画書を作成し、「仕事おこし」をめざしていきたいと考えています。この1年間、少しずつですが、地域や自治体が抱えている課題(テーマ)が見えてきました。例えば、週末に昼食を食べない子どもたちの「食」の問題、障害児と保護者の居場所(公的な場所)が市内にはないこと、幼児の夜間保育は青梅市までいかないとないこと、等々です。今年度は、そういった課題のいくつかに焦点を当て、仕事おこし(新しい事業・活動の創造)につなげていきたいと考えています。 8. 組合員も共に成長する存在として 子どもとの日常の関わりや事業を通じ、また地域や保護者とのさまざまな関わりによって、私たち組合員は勇気付けられ、成長することができます。子どもの直面する現実に悩むことも多くありますが、目の当たりにしたとき「そのままにしておかない」という姿勢と、そのことを組合員皆で共有していくという取り組みが、私たちワーカーズコープの特徴だと思います。子どもたちを取り巻く困難な環境は、すぐには解決できない課題も多くありますが、子どもたちの未来に向けて行動する力を養い、その子どもたちの成長と共に組合員が変化し成長し続ける存在であり続けたいと考えています。 |
(注) 社会連帯委員会:ワーカーズコープが、地域連帯・まちづくり等の活動を進めるために、2004年11月に設立した組織。全ての組合員が社会連帯費を拠出して、社会連帯基金を創設している。 |