【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-①分科会 市民と公共サービスの協働

子ども、保護者、地域とともに、協同労働による
新しい公共の創造への挑戦

NPO法人ワーカーズコープ東京事業本部・福生児童館 玉木 信博

1. はじめに

 私たちワーカーズコープは、働く人びと、市民が主体となってみんなで出資し、経営し、責任を分かち合って働く「協同労働の協同組合」です。地域に必要な仕事を市民自身が主体者として仕事をおこし、地域再生・まちづくりへの貢献を目標に、清掃・緑化・食関連・子育て・高齢者福祉・障害者福祉等の多様な事業活動を行っています。また、今日では「規制緩和」「構造改革」路線の下、指定管理者制度を始めとして公共サービスの民営化・民間委託化が進む中、私たちは公共サービスを「市場化・営利化」ではなく「市民化・社会化を」と掲げ、自治体・市民に「新しい公共と市民自治の創造をめざそう」と働きかける中、指定管理者の運営を全国に拡げてきています。現在、全国で指定管理者65施設(高齢者福祉関連13、障害者福祉関連4、公共施設運営関連13、子育て支援関連35施設)の運営を担っています。
 この協同労働の実績と、地域・自治体からの共感・期待の広がりによって、今年2月には「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える」超党派の国会議員連盟が結成されました。新しい働き方である協同労働が、社会に評価され法制化される時代を迎えようとしている中で、私たち「協同労働の協同組合」による公共の市民化への具体的な取り組みは、今後ますます重要性を増してくるものと考えられます。
 FUSSA地域福祉事業所は、東京都福生市の3児童館(武蔵野台・田園・熊川児童館)と併設されている3学童クラブの一体的な運営を行っています。指定管理者制度によって、2007年4月から運営が始まり、現在は38人の組合員が働いています。2007年2月より、徐々に運営の引き継ぎに入り、児童館は市の運営から、学童クラブは社会福祉協議会からの運営の引き継ぎとなりました。このことをきっかけに、それぞれ運営主体が分かれていた児童館と学童クラブとの一体的な運営で、施設内の全職員が子どもの様子についての連携を図ることができ、このことは施設全体の運営を行う上で大きな意味を持つことになりました。
 しかし、どの施設にも、慣れ親しんで創ってきた利用者(子ども、保護者、地域の住民)や運営者の気持ちを大切にするため、私たちはまず最初に、利用者や地域の方々から学び、知ることを始めてきました。当初は、指定管理者に対して、指導員の多くが変わることの疑問や、民営化することによって利用ができなくなる事業があるのかという不安を抱いていた人々も、直営からも残ってもらえる指導員がいることや、基本的な運営は引き継ぎ、さらに良いものへ発展させていくことなど、地域懇談会などを通じて組合員が利用者や地域住民に正直に話し、対応していくことで信頼関係が生まれ、応援してくれる存在となってくれました。言い換えれば、そういった中でしか、地域との信頼関係は生まれないのでしょう。そして、運営当初から、町内会、自治会、老人会等の地域の市民と福生市の担当課、子育て関連の施設、学校などの公共機関との協力と連携によって現在の運営があると考えています。

2. 福生市の概要

 東京都福生市は、都心から西へ約40km、武蔵野台地の西端に位置する、人口約6万2,000人の都市です。市の東北部には米軍横田基地があり、市の面積の32%を占めています。基地の影響からか、市内には英語の看板も多く見受けられ、外国籍の人々も多く、町ではさまざまな言語が話されているのを耳にします。特に、基地の南側の国道16号沿いには、英語の看板が目立ち、さまざまな商店が並び、異国情緒のある場所です。

3. 私たちがめざす児童館、学童クラブとは

(1) 児童館、学童クラブを運営する私たちの基本方針
① 子どもたちの成長への貢献
② 親の支援の貢献
③ 地域の再生とまちづくりへの貢献
 児童福祉法の第40条には、「児童厚生施設は、児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、または情操を豊かにすることを目的とする施設とする」と書かれてあります。また、学童クラブは、児童福祉法第6条の2第2項の規定に基づき、「保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童(放課後児童)に対し、授業の終了後に児童館等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るもの」としています。
 それぞれに役割は異なるものの、利用するさまざまな年齢の子どもたち(0歳~18歳)と保護者(未就学児は保護者同伴)との日々の関わりがとても重要です。「遊び」や「会話」を通じた日常から、子どもたちや保護者、地域のニーズ、課題を見つけて事業や取り組みへと展開していくということを基本にしながらも、本来的な児童館や学童クラブの「遊び」を目的とした役割だけでは解決できない、子どもたちや保護者の置かれた現状を目の当たりにすることも多くありました。
 そこには、現代の社会全体が抱える大きな問題(格差・競争、虐待、貧困等々)が子どもたちへ深く影響していることに、私たち組合員は考え、悩み、行動してきました。特に、子どもたちの問題行動と言われる喫煙や万引き、施設や備品の破壊などは、その背景にある問題を起こさせる「何か」に注目し、時には学校や家庭、支援センターと連携を図りながら、どんな子どもたちでも受け入れられる、居場所となりうる児童館をめざしてきました。
 ソーシャルワークとしての児童館の可能性とそこに横たわる問題、そしてソーシャルワークの基本となる、地域のネットワークづくりは始まったばかりですが、着実に地域の児童館として歩んできていることの実感があります。基本方針である3つの貢献は、お互いに深く影響し合い、子どもたちの生活そのものにつながっています。そして、その基本方針を実行していくにあたり、3つの協同に沿って組合員は日々の振り返りをし、月ごとに自分自身の「月のまとめと振り返り」を記録しています。

4. 基礎研修から1カ月運動の徹底、組合員会議の運営の充実

 FUSSA地域福祉事業所では、引き継ぎ期間である立上げの前の1カ月に、4回に渡る全組合員研修を開き、ワーカーズコープの理念・経営・歴史などの研修と同時に、先駆的な運営をしている町田市の児童館の館長をお呼びした講演など、立上げの期間で時間があまりない中でも毎週のように研修を行いました。
 組合員会議と中間会議を毎月(15日と月末)行い、3カ月に一度は3館合同会議という事業所の全体会議を開催しています。合同会議では、年度の方針の確認や総括、そして児童館や学童クラブにおける「遊び」の技術研修、3館での意見交換を行ってきました。組合員会議でも合同会議でも共通していることは、組合員の一人ひとりが発言していくことにあります。時には意見が食い違い、苦しいことがあっても、常に子どもを中心に据えた議論をすることによって、まとまってきました。

(1) 私たちが大切にしている3つの協同・協同労働


(2) 児童館は、子ども・保護者・地域が主人公
 運営にあたりもっとも大切な利用者との協同では、子どもが主人公となれるよう、学童クラブで年度のはじめに、「子ども会議」を開いています。子どもたちがルールを納得して決め、そして指導員もそれを応援していく。時には指導員が手を差し伸べることもありますが、極力子ども同士が納得し、決めることを大切に考えています。
 児童館では、幼児から高校生、保護者までが利用するため、昨年度は子ども会議を実施できていません。しかし、高校生利用が始まり、高校生にリーダー的な役割を担ってもらう運営委員会の設立をめざしています。また、自治体の意向もあり、児童館事業では幼児対象、小学生対象等、多くの事業を昨年度から引き継ぎました。
 慣れ親しんだ事業を引き継ぐことも大切ですが、同時に利用者や地域のニーズに合った事業の企画も同時に行ってきました。熊川児童館では、0~1歳児とその保護者を対象にした幼児事業で、保護者の悩みに関するアンケートを行い、悩みを親同士で共有し考えてもらうことから始めました。保護者同士で共有し、その後指導員の方からも返事を出す。このキャッチボールは非常に意味があり、この事業における保護者の参加が非常に増えてきています。保護者と指導員との関わり、子どもたちと指導員との遊び、子ども同士の遊び、指導員が遊びに直接関わるときには、遊びを子どもたちの主体性に任せるときとの判断を、組合員が常に意識しています。

5. 地域との協同で利用者と組合員と地域が変化する~各館の特徴的な取り組みから~

(1) 地域懇談会から(武蔵野台児童館)
 小・中学生の利用に関しては、特に、遊びや「日常」を通して子どもたちの「今」の様子を知ることが多くあります。武蔵野台児童館では、小・中学生の子どもたちが週末や三期休業中(春・夏・冬休み)の1日利用の中で、昼食を食べていない児童や、児童館で寝てしまう児童が多いことに気付きました。朝9時開館と同時に来館、そのまま夕方5時まで遊び通す。組合員全員が、この子どもたちの現状を「何とかできないか」と考えました。
 昼会議や団会議で繰り返し出される子どもたちの様子。学校や関係機関との連携を図りつつも、すぐには改善策のない状況の中で、地域住民や商店、学校などの関係機関を回り、地域懇談会の参加を呼びかけました。地域懇談会と言っても前例がなく、当日まではいったい誰が来てくれるのだろうかと思い悩んでいました。しかし、当日の地域懇談会は、思いのある学校の先生や支援機関、近所の住民の方、商店の方も参加してくれました。
 懇談会では、子どもたちと親だけの問題だけでなく、地域の問題として子どもたちのことを考えてほしいと、現状を一人ひとりの組合員の言葉で伝えました。伝えた現状に驚く方もいましたが、「ここに暮らす子どもたちは、地域の子どもたちだから、一緒に何とかしましょう」と共感してくれる方々が多くいました。参加者の共感は、その後すぐに動き始めました。まずは、自治会と地域の方々の協力を得ることができました。懇談会に参加した住民の方が、自分の地域の自治会で話してくれたのです。
 そして、ワーカーズコープの全国の仲間から集められている「社会連帯委員会」(注)の基金を利用して、子どもたちに向けての「炊き出し」の実施につながりました。特に、スーパーでの中高生の万引きの実態などについても話して下さった近隣のスーパーの店長さんは、「炊き出し」では食材の協力もしてくれました。地域に出て発信していくことで、地域が協力してくれ、変化が生じるという象徴的な取り組みだったと感じています。この事業を、どう継続的に実施していくかが今後のテーマともなっていますが、その仕組みを地域の方々と一緒にさらに発展させ企画していく予定です。
 2008年1月15日の日本労協新聞の記事を紹介します。


「地域が子どもを育てる」第一歩がやっと踏み出せた(日本労協新聞2008年1月15日号)
 いつも同じ服を着ている子、元気のない子がいっぱいいます。遊びや会話の中で、ぽろっと出る家庭の状況は深刻でした。「ご飯食べたの?」と聞くと、「お腹がすいていない」という子、上着の下からパンなどを出し、「パクってきた」、「これしか取れなかった」という子も。
 「子どもたちの言っていることをすべて鵜呑みにはできないけれど、児童館では限界。でも、何とかしたい」そんな思いでスタッフたちは子どもが万引きしてきたというスーパーや警察に足を運び、子ども家庭支援センターと連絡を取り合い、学校にも出向きました。そして、町会など地域へも訴えたいと思いました。「児童館便り」を地域に配ったり、子どもたちを通じて親たちが取り組みを知ったりすることで、徐々に地域の人たちと話ができるようになってきました。~略~「私たちたちだけではどうにもすることができません。地域の課題として地域の人たちと一緒に考えなければ」。職員のこの言葉に、いろいろな人たちがこうしたらああしたらと親身になって助言をしてくれたのです。そして、9月30日の団会議で、炊き出しのアイデアが生れました。


(2) 地域の方々や大学も参加してつくり上げたお祭り(田園児童館)
 田園児童館は、児童館施設だけではなく、地域の方々が利用する地域会館を併設しています。地域会館を利用しているダンスサークルから、児童館の子どもたちが社交ダンスを体験させてもらい、サークルと子どもたちの日常的な交流も生れています。地域の現状や子どもへの理解を深めるためにも、田園児童館ではこれまでも地域の方々の集まりに出向いたり、地域の畳組合を招いての工作事業など、地域との協同を大切にしてきました。また、多国籍の市民が多い福生市、来日したばかりの日本語があまり得意ではない保護者に対しては、学校への手続きや相談など、田園児童館の職員が親身になって相談にのる姿もありました。
 2月の田園児童館祭りではそういった多くの方々との「つながり」を生かし、地域の方々の他にも、東京農工大学工学部のサークルもボランティアとして参加しました。準備には時間もかかりましたが、なんといっても次々に協力して下さる地域の方々に、職員も元気づけられて、実施することができました。当日は600人の参加者に総勢177人のボランティアが集まり、児童館祭りというよりは、0歳~80歳までのまさに「地域のお祭り」になりました。ボランティアに参加した地域の方々からは、「指定管理になって変わったね」と嬉しい言葉をかけてくれる方も増えてきました。

(3) 地域とともに(熊川児童館)
 熊川児童館は、都営住宅の1階に位置しています。地域には団地がたいへん多く、自治会や町内会との関わりが重要です。2007年度の始めに、「ご挨拶に」と顔を出した町内会は、今では私たちも正式に加盟することになり、「協同労働の協同組合」法制定の賛同署名もいただきました。町会の餅つき、花見なども児童館の指導員が積極的に参加することで、子どもたちの参加が増えたと喜んでいただいています。
 始めは、自治会や町会の定例会に参加しても、地域の方々の名前もわからないことが多くありました。「どうして、集会になんて顔を出すの?」と聞かれることもありましたが、「地域に来た新参者として、地域の方々の顔を覚えていきたいのです」と正直に言うと、快く受け入れてくれました。また、毎日の清掃で、児童館と団地の周りを組合員が掃除をしています。そういったことで、地域の方からお礼を言われたり、いまでは児童館の外でお会いしても挨拶したり、立ち話をすることが多くあります。そういった、少しずつの継続したていねいなつながりが、地域との信頼をつくっていくものだと感じています。
 4月当初、地域の方々も「最近の子どもたちはちょっと怖い、挨拶をしても返してくれない」といった声が聞こえましたが、児童館での様子などをお話したり、お祭りに関わってもらったりする中で、誤解も解けてきている感じがしています。地域全体で、さまざまな方々の「目」や「手」が、子どもたちを育てています。そういったネットワークづくりを児童館として担っていこうと、現在も組合員で話し合っています。
 武蔵野台児童館と同様に、昼食を食べていない子どもたちに向けて、これまで平日に実施していた料理事業を、来館した子どもたちの昼食になるように日曜や祝日の実施に変えたり、お菓子などの内容も、簡単につくることができるご飯やおかずに変えました。また、利用のルールが守れない児童に対しては、どうしたら伝わるか、伝えられるかを日々悩みながら実践している最中です。
 子どもの背景にある「何か」を見つめながら、いったい何ができるんだろう、という無力感に苛まれることもあります。そういったときには、自分たちだけで抱え込まないことと、地域、学校や保護者と一緒に考えていく判断も必要です。子どもにとって何ができるか、少しずつできることから実施していき、地域の輪を拡げていきたいと考えています。

6. 東京農工大学との共同研究の目的とその展望

 2007年度、地域のニーズの実態把握を把握していくために、大学との共同研究を望んでいた私たちに朗報が入りました。東京農工大学大学院環境教育学研究室(朝岡幸彦先生)との共同研究が2008年度からの3年計画で始まることが決まったのです。私たちは、子どもの現状やその行動から、日々気付くことが多くあります。しかし、そのことが地域全体の抱える課題なのか、個別の児童の抱える課題なのか、そういう問題をどのように整理して、まとめていくか大変むずかしいと感じていました。地域の本当のニーズとは何か、ニーズに合った事業を本当に実施できているのか、ということです。今年4月から東京農工大学との共同研究が始まりました。ワークショップの第1回目では、「日常的に見える子どもたちの様子」をテーマに意見を出し合い、模造紙に貼り、グルーピングした結果、全員でまとめたタイトルは「児童館に求めている子どもたち」となりました。子どもたちが、児童館や指導員に何かを求めているということだったのです。この共同研究には、自治体の担当課の職員にも参加していただいており、児童館に求められる新しい姿と地域の今後を考える上で大きな鍵になるものと思います。

7. 今後の展望と仕事おこしの拠点として

 今後、指定管理者としての運営だけではなく、地域のニーズを探り、その課題解決に向けて、地域の方々とともに事業企画書を作成し、「仕事おこし」をめざしていきたいと考えています。この1年間、少しずつですが、地域や自治体が抱えている課題(テーマ)が見えてきました。例えば、週末に昼食を食べない子どもたちの「食」の問題、障害児と保護者の居場所(公的な場所)が市内にはないこと、幼児の夜間保育は青梅市までいかないとないこと、等々です。今年度は、そういった課題のいくつかに焦点を当て、仕事おこし(新しい事業・活動の創造)につなげていきたいと考えています。

8. 組合員も共に成長する存在として

 子どもとの日常の関わりや事業を通じ、また地域や保護者とのさまざまな関わりによって、私たち組合員は勇気付けられ、成長することができます。子どもの直面する現実に悩むことも多くありますが、目の当たりにしたとき「そのままにしておかない」という姿勢と、そのことを組合員皆で共有していくという取り組みが、私たちワーカーズコープの特徴だと思います。子どもたちを取り巻く困難な環境は、すぐには解決できない課題も多くありますが、子どもたちの未来に向けて行動する力を養い、その子どもたちの成長と共に組合員が変化し成長し続ける存在であり続けたいと考えています。




(注) 社会連帯委員会:ワーカーズコープが、地域連帯・まちづくり等の活動を進めるために、2004年11月に設立した組織。全ての組合員が社会連帯費を拠出して、社会連帯基金を創設している。