【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-②分科会 立ちあがれ自治体職員 ― 地方自治の可能性を探る ―

道立試験研究機関の地方独立行政法人化に反対する空知研究評の取り組み(第Ⅱ報)


北海道本部/全北海道庁労働組合・空知研究評議会

1. はじめに

 空知研究評議会(以下空知研究評)は1977年に自治労全道庁空知総支部の職域毎の評議会として発足した。現在の構成支部・分会は、空知総支部管内の道立試験研究機関(以下 道立試)、すなわち中央農業試験場、同岩見沢試験地、同遺伝資源部、花・野菜技術センター、畜産試験場滝川試験地、林業試験場の6支部・分会である。
 空知研究評は、2003年就任まもない高橋知事が検討を始めた道立試の地方独立行政法人化の狙いを分析し、「地方独立行政法人」制度が自治体リストラを進めるためのツールであることを明らかにしてきた。そして、2004年9月開催の第16回全道庁自治研集会で「北海道における『地方独立行政法人制度』導入に反対するために」を発表し警鐘を鳴らした。
 その後道当局は、2008年2月に「行財政改革」の一環として道立試を「一元化」し非公務員型の独立行政法人として2010年スタートすることを無理矢理決定した。2008年4月から道の総務部行政改革局に試験研究機関改革推進室が設置され法人化の具体的検討が進められている。
 空知研究評は、道当局が進める道立試の一元化・独立行政法人化が、道立試の公共性・中立性を損ない、道民負担を増やし、さらには採算の合いにくい農林水産業部門の縮小、ひいては地域からの撤退をもたらすものであることを危惧する。
 このレポートによって「地方独立行政法人」制度導入による試験研究機関のアウトソーシング(外庁化)がもたらす問題を、全道・全国の研究職場、関係職場そして自治労・全道庁の仲間に訴えたい。このことは同時に、道立試の役割をわれわれ自身が問い直すことにもなると考える。

2. 道立試の独法化決定に至る当局の検討経過

 2003年4月に地方独立行政法人関係法律案が閣議決定されたことを受け、高橋知事が道議会で「地方独立行政法人制度は道政改革の推進にとって意義ある制度」と答弁したのは2003年7月であった。以降、2004年度に「道立試験研究機関のあり方検討」において一元化が検討されたが、これは所管部の抵抗もあり頓挫した。しかし、危機的な道財政の悪化を背景として道は2006年2月に「新たな行財政改革の取組み」を策定、この中で道立試の独法化が頭出しされたのが大きなターニングポイントであった。以降、北海道企画振興部科学技術振興課が主体となり、道立試への地方独立行政法人制度の導入を検討してきた。「研究推進本部」に「地方独立行政法人制度活用検討会議」を設置し、法人化を前提として基本概念等の様々な検討を行った。同会議の「幹事会」(2007年4月開催)で「道立試験研究機関における地方独立行政法人制度活用に関する検討結果について(案)」が最終案として承認された。これにより事務分掌が企振部科技課から総務部へ移り、実施に向けた作業が本格化した。
 これに伴い、道は総務部行政改革局(当局)に独立行政法人担当の参事を設置し、同時に道立試の地方独立行政法人制度の導入に係る方針を検討するため、試験研究機関改革・法人化検討会議(検討会議)を設置した(2007年6月)。この下部組織にワーキンググループ(WG)を設け、WG中心に討論を行い、「改革・法人化に関する(案)」について道議会四定議会を経て、成案とする予定であることを組合側に通告してきた。
 当局側は検討材料として「改革のフレーム・論点」を提示し、関係部局に意見照会しつつ、2回目のWG開催時には「(仮称)道立試験研究機関の改革及び地方独立行政法人制度導入に関する方針(原案)」(下枠内)を提示し、意見照会後、9月の道議会総務委員会にて報告することを通告してきた。

(1) 法人の設置形態    単一法人として設置し、複数分野の試験研究機関を一つの法人によって運営
(2) 制度導入の対象機関  26の試験研究機関のうち、22機関を対象
(3) 法人の区分  一般地方独立行政法人(非公務員型)
(4) 設置時期  2010年4月1日を目標

 道議会総務委員会で報告されたことから、対応が職員監室に移り、四定議会での決着を図ろうとしたものの、道議会では、逆に給与削減問題、支庁制度改革とも相まって高橋知事側の姿勢に野党のみならず与党側からも拙速であると指摘され、逆に「行革の観点のみでの検討にあっては、将来に大きな禍根を残すことが懸念される」との附帯意見が可決され、決着には至らなかった。
 しかし、2008年2月、道当局は改めて一定議会に原案を強行提示し、2008年4月に道は「試験研究機関改革推進室」を設置し、一元・法人化の具体的検討を進めている(右図)。監査法人との情報交換や改革推進室による道立試の見学・意見交換が始まってきており、定款案などの具体的な提案は8月以降になると思われる。以上の経過を下表にまとめた。


・2003.7

高橋知事、道議会で「地方独立行政法人制度は道政改革上、意義ある制度」と発言

・2004.2

「地方独立行政法人制度に関する指針」策定

・2004.4

「道立試験研究機関のあり方検討」開始

・2005.3

「あり方検討結果報告書」(道)→ 道立試の一元化は頓挫

・2006.2

「新たな行財政改革の取組み」策定 → 試験研究機関の独法化も検討

・2007.4

「道立試験研究機関の将来像検討に関する 基本方針」決定

・2007.4

札幌医科大学の地方独法化

・2007.6

総務部行革局に担当参事設置

・2007.9

「道立試験研究機関の地方独立行政法人制度導入に関する方針」 原案提示

・2007.11

道議会4定で議論 → 付帯決議

・2008.2

「道立試験研究機関の改革及び地方独立行政法人制度導入に関する方針」策定
   →  3月 道議会1定で議論

・2008.4

行政改革局 試験研究機関改革推進室 設置



3. 各県における試験研究機関の独法化の現状

 道当局の独法化の検討が加速する中、独法化に関する情報を共有し、問題点をより多くの人に理解してもらうには、他都府県における独法化の状況を把握することも重要である。2008年6月に開催された「第12回自治労全国研究職集会」に参加し、以下のとおり各県の状況をまとめた。

(1) 地方独立行政法人となった岩手県、東京都、鳥取県、大阪市の概況
① 岩手県 

機関名 工業技術センター

設立時期 2006年4月

法人区分 特定型

・職員は全員現行職場に残り、定数もそのまま。
・法人解散の場合は県に戻れるとの覚書。
・予算も当初は削減なかったが、中期目標で効率化計画。
② 東京都
機関名 産業技術研究センター 設立時期 2006年4月 法人区分 一般型
・職員身分は、都からの派遣(最大5年)か法人職員かを選べる。
③ 鳥取県
機関名 産業技術センター 設立時期 2007年4月 法人区分 特定型
・業界、職員、県議会にも説明のないまま、作業が進められる。
・職員アンケート「準備不足のままの法人化反対」8割にも関わらず、「職員はすでに理解している」との当局発言で、県議会紛糾したが、「事前に理事長名を提示し、県議会と協議させる」との条件で県議会承認。
・「就業規則」については2007年7月に「県職員に準じる」とすることで、概ね合意。
・個人業績評価制度は、2007年度は試行段階で県職員準拠。2008年度からは、論文数、特許数等による5段階の相対評価による業績評価が行われる。
④ 大阪市
機関名 大阪市立工業研究所 設立時期 2008年4月 法人区分 一般型
・総務部職員は、大阪市からの派遣。業務激増するが、人員減。
・技術職員は異動し、民間委託。
・当局側の一方的な制度設計、高圧的な態度。
・就業規則等は、市立大学をモデルにしているが、「整理解雇」という表現も。研究員減っているが(86→81)、新規採用なし。任期付き雇用もなし。業務量はそのまま。


(2) 検討中の山口県、青森県の状況
① 青森県
対象機関名 工業総合研究センター、農林総合研究センター、
水産総合研究センター、ふるさと食品研究センター(一元化)
移行予定 2009年4月 法人区分 一般型
・農林水産部の「独法化見送り」方針に対し、知事の強い意向で、2007年10月に一元化・独法化方針を強行。
・当局内に「独法化準備グループ」発足、県立試の研究調整監(副場長相当)による「地方独立行政法人化推進連絡会議」を設置
・運営交付金は総枠方式だが、人件費は積み上げ方式(当面の間)
・職員は、法人職員か県職員の身分で派遣(三セク派遣法)のどちらかを選べる。
・準備予算1億3,500万円(ネットワーク費、固定資産鑑定、労働安全衛生コンサルタント委託料等)
・8月には職員の身分の希望聴取開始、12月に定款の議決と国への認可申請、2009年3月に中期目標、関連条例、運営費交付金の議決を予定。
・独法化に伴い、農総研グリーンバイオセンターの廃止
② 山口県
対象機関名 産業技術センター 移行予定 2009年4月 法人区分 特定型
・農林試験場、畜産試験場、林業指導センター、農業大学校は、2007年4月に統廃合し、県立で存続。
・2007年8月に商工労働部次長が、産業技術センターの独法化を宣言。
・産技セの管理職、若手職員、組合代表も交え、7回の独法化検討WGの結果、特定型が適切との報告
・2008年4月、部当局の独法化準備班(5人)、産技セ総務課に資産評価担当主査、嘱託コーディネーター等が増員。同時に3級専研以上が関わる準備WG編成。
・準備予算は8,800万円
・当局は特定型にすると言明しているが、総務省との協議が難航している模様
・法人廃止時の身分保障の覚え書きは前例がないので交わせない。交付金の適正配分も確約はできない。
・法人に移りたくない職員が転籍できる職場は、県立試内にはない。

4. 国独立行政法人のその後……「非公務員型」への移行、廃止・統合、民間移管……

(1) 国独立行政法人は第1回の見直しでほとんどが「非公務員型」に移行
 国の試験研究機関の独立行政法人は、2005年度までに38法人が設立された。スタート当初は、速やかな導入を図る目的から、試験研究機関は経産省1を除く全てが特定独立行政法人(公務員型)として設立されたが、その後設立の3法人(文科省、経産省、厚労省各1)はいずれも当初から非公務員型となった。実際、政府は2006年度に見直しを行い、32法人を22法人に再編・統廃合し、全ての法人を2006年度から非公務員型に移行した(別表)。政府の「行政改革」本来の主旨からすれば、独立行政法人は非公務員型があるべき姿であり、通則法でも、「独立行政法人の職員については、(中略)特定独立行政法人以外の法人とするようできる限り努力すること」が付帯決議されている。


<別表> 国の試験研究機関等の独立行政法人移行および見直し状況
所管省庁 設立時名称
職員
身分
中期目標中途における改組
職員
身分
第1期見直し後(06.4)の組織・身分
総務省 通信総合研究所
情報通信研究機構(04.4)
●、再編・移行
消防研究所
   
06.3廃止
財務省 酒類総合研究所
   
文部科学省 国立特殊教育総合研究所
   
国立国語研究所
   
物質・材料研究機構
   
防災科学技術研究所
   
航空宇宙技術研究所
宇宙航空研究開発機構(03.10)
放射線医学総合研究所
   
文化財研究所
   
●、再編移行
理化学研究所 (03.10)
   
厚生労働省 国立健康・栄養研究所
   
産業安全研究所
   
}統合 、●
産業医学総合研究所
   
医薬基盤研究所 (05.4)
   
農林水産省 種苗管理センター
   
家畜改良センター
   
林木育種センター
   
●、再編統合
農業技術研究機構
農業・生物系特定産業技術研究機構(03.10)
}統合 、●
農業工学研究所
   
食品総合研究所
   
農業生物資源研究所
   
農業環境技術研究所
   
国際農林水産業研究センター
   
森林総合研究所
   
水産総合研究センター
一部業務を統合(03.10)
}統合 、●
さけ・ます資源管理センター
   
経済産業省 経済産業研究所
   
産業技術総合研究所
   
05.4●
新エネルギー・産業技術総合開発機構(03.10)
   
国土交通省 土木研究所
   
}統合 、●
北海道開発土木研究所
   
港湾空港技術研究所
   
建築研究所
   
交通安全環境研究所
   
海上技術安全研究所
   
電子航法研究所
   
環境省 国立環境研究所
   
設立時名称:場所名に年月記載がないものは01.4設立
職員身分の欄 ○:公務員型 ●:非公務員型
第1期見直し後の組織・身分:年月記載のないものは06.4に見直し -:見直し対象外


(2) 独立行政法人化された国の試験研究機関の厳しい実態
 スタートの時点では独立行政法人化によるメリットが宣伝され、一定の期待感もあった。「身分は国家公務員のまま」、「予算も基本的には独立採算ではなく国からの交付金によりまかなわれる」、「研究を推進する上での規制が減少し、自由裁量が拡大」、「交渉により賃金が決定できる」などがメリットとして挙げられた。しかし、スタートからほどなく、現実は全く異なることが明らかとなっている。
 メリットが並べ立てられスタートした独立行政法人だが、職員の給与を減らし易い・職員数を減らし易い・組織を廃止し易い……等々すべて当局側のメリットのみが表面化している。結局、「仕事がやりやすくなる」などというのは、独法化を進める側に都合の良い「宣伝」であったというのが国独立行政法人の職員の実感であろう。

【予算・定数について】
 当初説明された「研究予算の年度を超えた繰り越し」や「研究の自由裁量の幅の拡大」などは、実際には縛りがきつく、予算も縮小の方向(毎年のシーリング)となっている。現実には人件費を除く運営費交付金(業務経費)が毎年度削減され(シーリング)、この分を「外部研究委託」などでまかなうために「共同研究」などを取ってくることが求められている。また、「定数削減(5年5%)」が義務づけられている。
【評価・目標制度】
 評価については、「個人評価」、「ユニット評価」、「機関全体の評価」が実施され、個人評価としては、個人で年間目標をたて、上司による修正、年度末に自己評価を行い、最終的には評価者によりA~Dにランク分けされている。目標は、特許何件以上、論文何件以上等。最近は特許実施率等分かり易い指標が求められている。評価結果は、給料、研究予算に反映される。総じて、評価の資料作りに大変な労力を要し、評価業務に疲労を感じることが言われている(産業総合研究所)。
 また、中期目標期間終了時の機関評価により効率化の視点から機関の格付けが行われ、その結果によっては、交付金の削減、リストラ、統合廃止までが視野に入れられている。試験研究機関における効率化の視点は大きく二つに分けられる。一つ目は、外部からの研究予算獲得のノルマ化である。しかも、外部から獲得した資金の分だけ交付金が減らされ、いったん減った交付金は再び増やされない仕組みになっている。二つ目は、論文や口頭発表などの数により研究員の評価が行われていることである。実際に、Aという学術雑誌に論文が載ると何点、やや格式の劣る雑誌Bでは何点という具合に「業績」が点数化され、個人や研究室の評価が毎年行われている。この評価を高めない限り研究室に対する予算配分が減り、将来的にはその研究室自体(さらには機関そのもの)の統廃合につながるというのが「効率化」の実態である。
【人事・給料について】
 機関によるが、新規採用は「任期付き採用」が多くなっている。任期は通常5年であり、5年経過後パーマネントに移行可能である。
 給料は個人評価に応じて傾斜配分される。移行当初は評価の高い人は給料が上がったが、年々ベースが下がり、現在は移行前より低い(北海道産業総合研究所)。

5. 全道庁、空知研究評の独法化反対の取り組み

(1) 全道庁の取り組み
 2007年7月、検討会議並びに参事職の設置に伴い、全道庁・研究評は道当局並びに関係部へ以下の申し入れを行った。

① 道立試験研究機関の機能強化を図るために、問題点を早急に整理し改善策を検討すること。
② その上で、現行の直営での運営と単一法人化の総合的な比較検討を行ない、直営と法人設置の長所、短所について客観的に整理すること。
③ 道立試験研究機関の単一法人化は馴染まないことから、直営による機能強化として検討すること。

 しかし当局は、いずれも11月までに「法人制度導入に関する方針案」を策定するとして、法人化ありきの不当な回答を行ってきた。このようなことから、労使交渉だけで当局方針を跳ね返すことは非常に難しいと判断し、道民世論に訴える必要性があることから、戦術を立て直した(以下)。

① 組合員に対して、一元・法人化の問題点を認識し阻止に向けた意思統一を図るため、オルグ・勉強会を実施する。
② 関係団体に対して道立試改革問題の説明を行い、支援の輪を広げる。
③ 地域シンポジムの開催によって地元住民や関係団体への問題喚起を行い、マスコミ等を通じて世論に訴える。
④ 道議会議員へレクチャーし、議会を通じて当局側へ一定の歯止めを行ってもらう。

 当局側の動きが本格化するにつれて、道議会対策も必要と判断し、2007年9月に組織内道議が所属する民主党会派に対して要請しレクチャーを実施した。その直後の三定議会より、継続して代表質問、一般質問、各種委員会も含めて当局側の姿勢を追及してきた。並行して署名運動にも取り組んだが、問題をより多くの層に周知するために、必ずしも「反対」ではなく「知事への要請」に重点を置いた。その結果、給与独自削減等の近年行われた署名に比べても多い個人署名104,798筆、団体署名2,424筆を集約し、2007年12月に道当局に提出した。道当局とは2回の団体交渉を行って道立試の一元・法人化の問題点を追及したが、一元・法人化ありきの回答に終始する不当なものであり、同時にWGの議論が十分になされていないことが伺えた。このため各部交渉も実施し、「原案」についての認識、事業部局としての意見反映や考え方等について問いただしたが、道当局の回答を超えるものは得られなかった。
 一方で、道立試の各支部、総支部での反対運動は一部では独自の展開を見せ、市町村議会による独法化反対意見書決議、地元選出衆院議員との意見交換、情報共有をめざしたウェブサイトの開設までに広がる動きもある。

(2) 空知研究評の取り組み
 道の考える独法化は道立試の公共性・中立性を損なうことを地域の声とするために、空知研究評も上記戦術に基づいた運動を展開している。
① 美唄市での地域シンポジウム
  美唄市は旧産炭地で農業を主とする人口2万7千人の街で、人口減少と高齢化が進んでいる。道立林業試験場はこの街の郊外にあり、林業を支え森林環境を守る研究を推進しているが、独法化が導入されれば、公益性は高いものの生産性の低い森林研究分野は縮小され、最悪の場合地域から撤退という恐れもある。道立試験研究機関が果たしてきた役割や地方独立行政法人化の問題点を市民に広く知ってもらい、地域の農林業が抱える課題と公的試験研究機関の研究・技術開発の方向などについて考えるため、「北海道の農林業を考える美唄シンポジウム」は2007年12月13日、自治労全道庁林業試験場支部が中心となり、全道庁空知総支部、美唄地区連合会、美唄市農民協議会、みねのぶ農民協議会、美唄市消費者協会の協力を得て開催された(右記事:北海道新聞(空知版)2007.12.16)。動員数に不安もあったが、各団体の働きかけや新聞折り込みチラシが功を奏し、120人の参加が得られた。また、地元紙にも集会開催の様子だけではなく、空知の道立試の研究内容を紹介する記事も後日掲載され、当初の目的はほぼ達成された。
② 市町村議会への働きかけ
  シンポジウム開催と並行し、美唄市議会においても独法化の問題点を議論してもらい「独法化反対」の意見書の採択を目指す取り組みを行った。美唄地区連合会の推薦する3人の市議会議員にレクチャーを重ね、シンポジウムにも参加してもらい、独法化が美唄市に及ぼす影響を理解していただいた。議員らの精力的な活動により「道立試験研究機関の地方独立行政法人化に反対し、引き続き存続することを求める意見書」が12月の美唄市議会にて全会一致で採択され、北海道知事と道議会議長に提出された。この取り組みの目標は、道立試のある全ての市町村での意見書採択であり、空知管内では2008年7月までに滝川市、岩見沢市でも同様の意見書が採択された。

6. まとめ……今後の取り組みの方向……

 地方独立行政法人制度は「地方公共団体自身が直接実施する必要がないもの」と規定した地方行政の実施部門のアウトソーシングを目的として導入された制度であり、最終的には財政上の理由による縮小、廃止や民営化を目指している。地方独立行政法人の組織や業務は、評価委員会による事業年度毎および「中期目標」(3~5年)期間の実績評価により見直すこととなっており、人事管理権を持つ理事長の下で組織や定数が頻繁に変更される恐れがある。また、効率的な事業運営・自主的管理の名の下で、人事や給与の面からの労務管理の強化は必至である。さらに、法人職員の身分は非公務員とされ、北海道職員の身分は剥奪される。私たちは、こうした目論見を断じて許すわけにはいかない。
 道立試に地方独立行政法人制度が持ち込まれた場合、国の試験研究機関とは研究の方向性が異なることから大きな混乱が生じることは確実である。農業や工業などさまざまな分野においてより現場に近いところにある道立試の業績は、学術的な論文投稿数などのみでは測ることはできない。
 農業試験場を例にとると、北海道農業の発展や農業施策の実現のための試験研究を行う機関であるにもかかわらず、効率化の名の下に外部予算の獲得をノルマ化するようなことでは本来の公共的役割がゆがめられるであろう。外部予算の獲得にはその時々に流行するテーマを追わざるを得ず、短期的で成果の得られる安易な研究に偏らざるを得ない。そうしなければ、予算が減らされ、その結果適切な研究ができず、成果がないと評価される悪循環に陥るからである。生産現場に密着し、一見地味な研究を積み重ね、より実用的な技術開発を行うことが道立の農業試験場の役割である。本来の役割が果たせなくなれば、その存在自体が問われかねない。
 現状の道立試のあり方に全く問題がない訳ではない。時代に対応した変化も求められており、それに応じることは大変重要である。しかし、現在検討されている地方独立行政法人化がその答えであるとは思えない。北海道の試験研究機関が果たしてきた役割、これから果たすべき役割を充分に論議し、単なるリストラという観点ではなく、試験研究に求められるあるべき姿を実現していく観点こそ不可欠である。経費削減のための道立試の地方独法化は認められない、という私たちの気持ちはゆるがない。
 2008年4月に設置された総務部行政改革局「試験研究機関改革推進室」は「2010(H22)年4月1日の独立行政法人設立」にむけたスケジュールに沿って検討を進めている。今年度(2008年度)は定款、中期目標、評価委員会に関すること、来年度(2009年度)は中期計画、法人の設立準備体制、法人化にともなう条例改正等が検討される。私たちとしては独法化反対の立場を基本に、これまで積み重ねてきた道当局との交渉をはじめ議会や地域、関係団体への働きかけなどの取り組みを、全道庁一丸となって進めていく。