【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-②分科会 立ちあがれ自治体職員 ― 地方自治の可能性を探る ―

独立行政法人化に対する取り組み報告


青森県本部/青森県職員労働組合・書記次長 奥田 博英

1. はじめに

 国に続いて、地方での独立行政法人制度が2004年4月に施行されています。
 青森県においても財政危機や定数削減など合理化推進の道具としての移行が中心的に検討されています。

2. 青森県地方独立行政法人化の経緯

 本県では、当初、積極的な導入の動きは見られていませんでしたが、県の行革大綱で2008年度を目途とされ、県立保健大学については、2008年4月1日に地方独立行政法人が設立されました。
 試験研究機関においては、2007年10月、県当局は、工業総合研究センター、農林総合研究センター、水産総合研究センター及びふるさと食品研究センターを統合し、単一の一般型地方独立行政法人を2009年4月に設立するという基本方針を決定しています。

3. 青森県の経済状況

 2006年度版青森県社会経済白書によると、県内総生産は、産業構造を経済活動別総生産からみると、全国と比べ、農林水産業・建設業・政府サービス生産者の比率が高く、製造業の比率が低く、政府サービス生産者を除く第三次産業は、本県、東北地域、全国とも同程度の比率となっています。
 地域特化係数で、全国と比較してみると、農林水産業、鉱業、建設業、政府サービス生産者の係数は大きく、製造業は0.47と最も小さく、製造業全国における構成比は、20.9%と、その割合はサービス業に次いで高く、本県製造業の弱さが際立っています。
 移出入の状況を2000年産業連関表でみると、農林水産業が大きく移出超過になっていること、製造業移入超過が著しいことに特徴があり、農林水産業の県内生産額は、5,000億円に満たず全産業に占める割合も約5%にすぎないが、純移輸出額では1,000億円を超え、全産業中、最もお金を稼ぐことができる産業となっています。
 農業の特異性は、各産業の県際取引の関係から、繊維製品、化学製品、非鉄金属、電気機械、精密機械などの製造業は、移輸出率、移輸入率とも高いため「Ⅰ県際流通型」に分類されるが、農業は、移輸出率が高く、移輸入率は低いため、唯一「Ⅱ高度移輸出型」に分類されています。
 就業者1人当たり県内総生産から、本県の経済活動別労働生産性をみると、金融・保険業、運輸・通信業、政府サービスは高い生産性が高いが、農林水産業の低さは際立っており、供給、移輸出面では競争力を持ちながらも、生産性が低く弱さを表しています。
 利潤の流出は、事業所・企業統計のデータをもとに、県内民間会社のうち、本社・本店等が県外にある事業所の割合は、全体の約2割にあたる事業所が、県外会社の支社・支店等になっています。
 事業所が県外企業等の支店や子会社である場合、生み出された利潤が、本店や本社のある県外へ流出し、地域内への再投資に向けられず不利益が生じることになり、こうした流出がかなりの額に及ぶことが推測されます。
 部門別の現状は、産業経済の構造をもとに、県経済に特に影響力をもつ産業として、就業者比率が高く、移出入の活発な農林水産業、製造業、卸売・小売業、サービス業に注目し、大きなウェイトを占める農林水産業の総生産を農業、林業、水産業の別でみてみると、合計額2,168億円の約80%を農業が占めており、残り16%が水産業、4%が林業となっています。
 構成比の高い農業の品目別産出額は、米、野菜、果実、畜産の割合が均衡しており、バランスのよい生産構成となっています。それぞれの地域によって条件に適した品目が選択されてきたことによります。
 農業総生産と品目別算出額の推移は、 農業総生産は、全国で第13位にランクされ、全体に占める割合は2.8%となっているが、1994年度以降は下落傾向にあり、中間投入額を差し引かない産出額では、全国9位となっています。
 品目別産出額の推移は、米の産出額の低下が著しく、生産低下に米が大きく影響しています。
 水産業の総生産は、東北では宮城県、本県、岩手県と続き、全体的に下落傾向にあるが、2003年の漁業産出額をみると、本県は516億3,200万円と、全国で7番目となっています。
 出荷額の2割を占める食料品製造業は、2004年の製造品出荷額構成比を全国値と比較すると、食料品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、非鉄金属製造業の出荷額比率が高く、化学工業、一般機械器具製造業、輸送機械器具製造業の比率が低くなっています。
 製造業の労働生産性を産業分類別にみると、パルプ、化学工業、鉄鋼などが高くなっているが、従業者比率が低いため、製造業全体に及ぼす影響は薄まってしまう、一方、従業者比率の高い食料品、衣服・繊維製品、電子・デバイス製品の生産性は低く、こうした構造が製造業全体の生産性の低下を招いています。
 労働生産性を全国と比較(全国=100)してみると、全国よりも高い生産性を有するのは、パルプ・紙、鉄鋼、非鉄金属のみで、最も大きなウェイトを占める食料品は、60程度です。高付加価値型と言われている、一般機械、電気機械、情報通信機械、電子・デバイス等、ハイテク関連、加工組み立て型業種は、一般機械が80と比較的全国レベルに近い他は、むしろ、食料品や、衣服・繊維製品を下回る状況となっています。
 食料品製造業の細分類別出荷額を2004年工業統計表でみると、畜産食料品と水産食料品が突出しており、双方を合わせて1,764億円と、食料品製造業の総出荷額2,625億円の約7割を占めています。これを付加価値額に置き換えてみると、畜産食料品と水産食料品を合わせた割合は約5割となり、生産性の部分に弱さがあることをうかがわせます。
 農林水産業総生産では全体の8割を農業が占め、食料品製造業も、農産物を原材料とした加工品が多いことを想像させるが、実際は加工に回る地元農産物が多くはないことを示しています。
 卸売・小売業の年間商品販売額を産業分類でみると、飲食料品卸売業が9,617億円と圧倒的に高く、飲食料品卸売業の年間商品販売額構成をみると、野菜・果実3,343億円、生鮮魚介1,947億円、食料・飲料3,372億円となっています。
 構成比を全国=1とすると、野菜・果実2.5、生鮮魚介1.5と、農水産物の取り扱いが非常に高く、農水産業が、商業に波及している様子がうかがわれます。
 サービス業は、娯楽業の水準が高く、飲食店・宿泊業の生産性が全国水準並となっています。娯楽業の生産性の高さは、事業所数の大勢を占めるパチンコ店が貢献しているものと思われるが、就業者比率の大きい、飲食店・宿泊業の実態がどうなっているのかみていくと、ウェイトの大きい一般食堂が全国水準並で、さらに日本料理店、焼肉店、すし店など、飲食店の生産性が高くなっています。
 産業経済現状分析のまとめとして、移入超過の産業が多い産業の中で、農林水産業は移出超過であり、特に農業は、全産業中、唯一、高度輸出型に属する産業となっています。産品を加工する食品製造業の製造業全体に占めるウェイトは高く、県内自給率の向上により県内経済への波及が期待できる分野となっています。
 農水産業の産出額は、米、野菜、畜産物、水産物等、品目問のバランスがとれ、加工品出荷額の県内分布をみると、八戸地域、青森地域、上十三地域の水産・畜産物に偏った分布を示し、経済活性化には、農産物加工の促進、津軽地域における農産物加工の充実が期待されるところです。
 卸売業の商品販売額における野菜・果実、生鮮魚介の構成割合は、全国と比べて著しく高く、農水産物が、最終製品として流通する過程において新たな価値を生み出し、経済に波及していることがうかがわれます。

4. 研究開発機能の現状分析

 研究開発基盤としての、人材・研究開発機関は、地域の科学技術とイノベーションを支える人材と教育、研究機関等の状況は、大学数は全国21位と中位程度にあるものの、学部生は全国31位、大学院生は全国41位と、高度な専門知識を持つ人材ほど全国に占める割合は少なく、就業者に占める科学研究者数は東北4位、全国37位、技術者数は東北5位、全国37位となっており、県内における専門的知識や技術を持った人材は全国的にみても、東北の中においても少ない状況にあります。
 一方、公営研究機関研究者数は東北1位、全国10位、公営研究機関数は東北1位、全国2位と、全国でも上位にあり、民間研究機関数は、全国44位、東北では最下位となっており、研究開発機能として公営研究機関が担う役割は、非常に大きいことがうかがわれます。
 研究開発に係る資金の状況をみると、科学技術関係経費総額では、東北2位、全国13位、公営研究機関の使用研究費では、東北1位、全国10位となっており、研究開発に対し投じる資金は他県と比較して大きなものとなっています。
 一方、県費以外の外部資金の調達状況としては、東北3位、全国27位とほぼ全国中位であり、大学の競争的資金獲得額については東北4位、全国順位36位となっています。大学の競争的資金獲得額の東北に占める割合は3.5%と極端に少なくなっているが、全国の7割以上が、宮城県を含む旧帝大の所在する7都道府県によって占められ、地域的偏りが著しくなっています。
 研究開発・事業化支援機能をみると、総じて、東北内においても全国においても低い数字となっています。
 しかしながら、中には弁理士数のように、全体の6割以上が東京に集中するなど、地域差が著しいものもあり、事業化における地方の厳しさもうかがわれます。
 研究開発基盤の状況に対し、研究活動、成果にどう反映しているのかを全国と比較してみると、大学等の共同研究実施件数は全国32位、論文数は全国33位となっているものの、他の知的財産の創出に関わる発明者数、特許・実用新案・意匠・商標登録の出願件数は、全国最下位クラスに属しており、研究開発基盤が低い水準となっています。
 研究機関の状況は、民間の研究機関が少なく、公営研究機関が充実し、研究機関の重要な役割を担う県の試験研究機関等が有する特許等の状況は、県有特許等の発明者は、ほとんどが工業系の試験研究機関に属し、発明の内容をみると、農林水産物に由来するものがほぼ半数を占めています。

5. 研究開発機能の現状分析のまとめ

 公営研究機関数、同研究数、同使用研究費とも全国トップクラスであり、公的な研究開発基盤は充実していますが、民間研究機関数は全国最下位レベルであるなど民間の研究活動は弱く、研究開発における公営研究機関の役割は非常に大きいことを示しています。
 特許、実用新案、意匠、商標登録等出願件数等、知的財産創出に関わる指標は、全国でも低い水準となっています。研究機関等での研究を知的財産につなげていくためには、適切な知的財産マネジメント(知的財産を創造【研究から特許出願】し、保護【特許取得】し、活用【特許を製品、事業化】していくこと)が重要です。

6. 青森県が抱える地方独立行政法人化の問題点

 農林水産業、工業の試験研究機関は、ものづくりから環境、衛生と幅広い分野で、行政、普及、研究を一体的に行われています。基礎的研究や長期のデータ収集、開発した技術の普及を行ってきた試験研究施設を財政の悪化を理由にないがしろにするようなシステムの導入が地方行政独立法人化です。
 制度の導入により今後、手数料、使用料、相談料の発生、値上げ(現在でも最低限度の徴収あり)受益者負担の原則がより一層強まる可能性があり、研究分野の縮小なども予想されます。また、基礎的研究の放棄などが挙げられます。また、運営交付金の削減(現在でも毎年の予算20%シーリング、研究費は予算全体の7~5%)により外部資金等の導入がスムーズに行かない場合は将来的に法人の廃止の議論が出され、県財政の悪化を食い止めるための単なる行政リストラ策にすぎず、法人化を進め試験研究機関を切捨てるものとなり得ます。
 独法化は設立時の初期投資や後年度負担が直営より大きくなるとの試算のため見送る自治体もあり、採算重視になりモニタリング調査、基礎的研究の取り組みが縮小し、競争資金や外部資金など、予算を獲得しやすい試験研究に偏重し、予算獲得に奔走しなければ無くなり、法人内部でも研究毎の予算争いが発生し、行政、普及との効率的連携が難しくなり、公共性と中立性が損なわれる結果となります。外部資金の獲得が強いられ、行政施策や地域のための研究より、スポンサー企業等へのサービスが重視されることも明らかです。
 よって独法化は青森県の基幹産業である農業施策や工業の発展のための行政施策には結びつかず、公的使命を持って産業発展に寄与するためには、試験研究機関の独法化は馴染まないこととなります。
 また、社会経済白書で示されたとおり、農林水産・工業試験場のような公営研究機関の存在意義を否定・独法化の実施、環境科学技術研究所のような放射線研究の推進に県として多額な交付金を拠出している現状では、最終的に県としては核技術を推進し、金になる産業以外は行わない、ということを表明しているとしか思えません。

7. 今後の取り組み

 労働組合内の取り組みとしては、研究機関職員への方針の徹底、行政、普及職員への独立行政法人化の問題点の周知、退職者の会への独立行政法人化の問題点の周知、組織内議員の活用(支持者への周知活動)。
 対外的な取り組みとしては、各試験研究機関での関連団体、企業、個人への問題点の周知、県議会対策を進める中で広く県民への周知を行うなかで、地域と連帯を強めていくこととしています。