【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-②分科会 立ちあがれ自治体職員 ― 地方自治の可能性を探る ―

「より良い地域活動を目指して」
「ふるさと越前をもっともっと知りましょう」


福井県本部/越前市職員組合・自治研推進委員長 川邉 俊博

1. はじめに

 最近、職員と地域との繋がりが希薄になってきたような気がしている。マスコミ等から浴びせられる痛烈な行政批判や厳しい公務員バッシングを嫌気して、いつの間にか職員は地域活動を敬遠し、ますます参加しなくなり、役所と家の行き帰りだけで毎日を終える人も少なくないと考える。
 職員も地域に帰れば、一住民という視点に立てば、地域と連携を深めることは、非常に重要な要素である。そこで、自治研活動を通して帰宅時等に地域への情報発信物(逆に受信物)等を、職員自らがボランティアとなって郵便活動してみてはどうかと提起したい。そうして実際に職員が行政と地域をつなぐ橋渡し役になっていければ、地元住民であるという自意識を呼び起こし、徐々に郷土を愛する精神も根付いていって、地域活動に対しても前向きに取り組めるのではないかと考えた。


2. 自治研推進委員会・執行委員会

 基本的に、委員会メンバー全員がこの活動に対して前向きに検討してもらい、活動主旨や目的意義についてもすぐに理解してくれて、今年度は「ふるさと郵便活動」の実施に向けて取り組むことを決定した。
 しかし、実際にやるとなると不安要素も多く、一部のご意見として、行政の仕事が増え続ける毎日の中で、終業時まで新たな負担感や責任感を背負わせていいのか、といったまさに本音トークの部分や、しくみや制度構築が未整備のなかで、どうやってこの活動を担保して補完させていくのか、といった懐疑的なご批判がでてきて、本格実施にこぎつけるまでには相当時間を要することを余儀なくされた。


3. 懸念される問題点として

 まずは、想定の範囲内で考えられる問題点の洗出しをしっかりと行って、いくつか具体的に例示しながら1つ1つクリアにしていこう、という結論になった。
① 土地感がなく地図把握力に乏しく、長時間を要する。
 →住んでいる場所近辺なので迷うことは少ないと考えるが、もし迷うようであれば、これを機会に「ふるさと越前」をしっかりとわかってもらう。
② ちゃんと届いたかどうかの信頼性・透明性の確保。
 →地図や隣近所の表札を参考にしながら、何度も確認を繰り返して対応する。
③ 重要文書・期限付き文書などの誤送・遅送などによる損害賠償請求。
 →上記のような文書は、原則対象外として、あくまでお知らせ的なものに限定する。
④ 猛犬・暴漢・交通事故等に対するセーフティネットづくり。
 →除雪確認のような業務としての位置づけで、補償費等は責任持って対応する。
⑤ 車代・燃料代・時間外手当等を要求する者への折衝対応。
 →基本的には、無償ボランティアという意思確認を経てから行動してもらう。


4. 期待できる効果をPR

 昔からどんなプロジェクトでも、必ず遭遇するのが「総論賛成・各論反対」の状況であり、その渦中に入り込むと、なかなか抜けられなくなり実施が大幅に遅れてしまう現実がある。いち早くこれを打開していくには、やはり問題点列記よりも期待できる効果・メリットを全面に押し出していくしかないと考え、次のとおりまとめて職員の周知徹底に努めた。
① 市役所が目指す現地現場主義の補完的役割を果たせる。
② 実際に現地に赴くことで、今まで気付かなかった地元再発見に繋がり郷土愛を醸成する呼び水になる。
③ 地域の抱える問題点がより的確に把握でき、地域住民と会話する機会づくりに貢献して、顔が見える透明な行政展開が推進できる。
④ 逆に市民からの郵便物や要望事項を市役所に再送することで、血の通った温かい行政展開が図れる。
⑤ 道路陥没等の危険箇所の早期発見や、独居老人の安否確認など様々な生きた情報を無限に体得し脳内蓄積できる。
 さまざまな議論を繰り返す中で、まずは試行から始めてみようという意見が大勢を占めて、やりながら軌道修正を加えていき、越前市オリジナルの「ふるさと郵便隊」を結成していこうという意見でまとまった。


5. 文書発送課からの提案を受ける

 この活動取り組みに対して、心強い味方が現れた。それは、文書等の一括発送を担当している行政管理課からの提案であった。まずは、各区長宅に限定して郵便活動を始めてみてはどうかという打診を受けた。早速、執行委員会等に諮り、区長宅に限定して試行するという方向性で決定し、ようやく、初期段階のここまでこぎつけた。
 ただし、市側(職員課・行政管理課)と組合側とのお約束として、以下の3点ばかりを確認してからのスタートとなった。
① 毎月定期的に大量発送するに全戸配布文書等は対象外とし、あくまで緊急的に発生した連絡文書・お知らせ等に限定すること。
② 職員の方としても、どうしても都合の悪い時は断ることができること。
③ 除雪確認のような業務として位置づけるが、この活動における職員への対価(手当等)は支給しない。


6. 職場オルグ等による周知活動

 まずは、「ふるさと郵便活動」の有志者・賛同者を早急に募集する必要があるため、職場オルグ等を通して、執行委員全員一丸となって、この活動に対するご理解とご協力を呼びかけて、メンバー登録の加入促進を積極的に推進した。
 組合員の中から出てきた意見として、はっきりと断れない人が地域で限定されてしまい、結局、その特定の人だけが押し付け的に業務を強いられてしまい、負担感だけの残る活動になってしまうのではないか、といった将来を不安視する声もあった。確かにそうした予測も想定されるが、そうならないためにも、ボランティア活動への意思確認をとっているので、この趣旨についての賛同を得たものとしてご理解いただくしかないと思う。
 また、出先職場からは、参加したくても本庁舎まで経由してからの帰宅となると、遠回り帰宅や時間的ロスなどで実施は困難である、といった消極的な意見もある一方で、時間的余裕のある文書についてだったら、出先職場であっても郵送は可能だから、文書到達の期限を事前に教えてもらえれば可能になるケースもある、といった非常に前向きな意見もでてきた。


7. メンバー登録状況

 最初の職場オルグでまわった段階において、参加登録の出足は遅くて、この「ふるさと郵便活動」への反応・反響は鈍くて、非常に厳しい船出を余儀なくされた。しかし、それでも2008年3月末時点において25人前後の参加登録があった。2回目のオルグでも、執行委員の絶ゆまぬ努力や、熱心な呼びかけを繰り返すなかで、2008年6月末現在においては、登録状況は50人程度とほぼ2倍増となっていた。
 徐々にではあるが、ようやくこの活動への理解度が浸透してきており、メンバー登録者数が増加傾向にあることが非常に嬉しく、この運動を盛り上げていくうえでの大きな支えとなった。しかし、将来的には全町内(約300)に一人は配置できる体制構築を考えているため、まだまだ、道のりは遠く険しい現実がある。今後とも、1人でも多くの職員から賛同を得て登録していく必要がある。

8. いざ 試行開始

 試行開始と言うまでには、まだまだ緒に就いたばかりですが、これまでに、2回程、登録メンバーの方に声かけをして実施を試みた。
 1回目は、17地区公民館に区長連絡協議会あての文書と各区長配布用の粗品等を手提げ袋に入れて地区公民館まで搬送した。公民館までの文書配送は至って簡単で、配送数も17と非常に少なかったため、短時間で終えることができた。
 2回目は、すべての区長さんに、「越前市広報」の訂正とお詫び文書を手分けして職員が総動員体制となって配布した。さすがにこの配布については、ふるさと郵便メンバー登録者だけでは相当無理があるので、秘書広報課主導のもと、数多くの職員に声かけして全町内を搬送した。


9. 市民(区長)の反応

 市民は、市役所の職員が「ふるさと郵便活動」をしていることを知らないから、普通に「ご苦労様」と返答して配布物を受け取る方が大半です。なかには、市に対する要望や苦情を申し出てくる市民の方もおられるが、その数はほんのわずかである。
 市民からの要望・苦情があろうとなかろうと、その家に訪問すれば、色々な情報が埋もれて眠っていると思う。行政で働く者として机上の論理で考えるのではなく、市民の暮らしぶりや生活環境を垣間見て脳裏に焼き付けるだけでも、この活動の意義や成果が上がっていると思う。
 もし、要望や苦情があれば、住民ニーズをダイレクトに受け止められるし、その後の処理も担当課への連絡・協議を通して、真摯に回答して改善やステップアップという方向性に繋がっていけば、市民との信頼関係において、またとない千載一遇の好機だと考える。


10. 苦情や要望等から学ぶ

 この活動を通して、市民に対する接遇やマナーもここで大いに勉強させられた。憤慨されている市民、或いは、行政に対して強い要望を持っている市民に対しては、次の3点に注意して行動することの大切さを学んだ。
① 規則、規則と言って杓子定規的な物言いはしてはならない。
② 行政の論理で、上意下達的な物言いも絶対してはならない。
③ うなずく様なしぐさで、常に聞く耳を持って対応し、最後まで相手の言い分をしっかりと受け止めなければならない。
 こうした、誠実な態度や謙虚な姿勢を繰り返し続けていけば、市民(住民)は、必ずや市役所にとって、かけがえのない存在(宝物)になっていくと思う。
 市民はお客様であるといった大前提を、もっと職員一人一人が念頭に入れて仕事をしなければならないと感じた。なぜなら、我々が普段獲得している生活の糧(毎月の給料)は、紛れもなく市民からの血税の一部であるという現実を忘れてはいけない。


11. ふるさと郵便活動の今後の広がり

 今は区長さん宅に限定して試行していますが、将来的には、区長さんだけでなく、民生委員さんや農家組合長など、各課で発送が予定されている「お知らせ版」のようなものも対象として、組織横断的により発展性を持たせた方が良いのではないか、といった前向きなご意見もでてきている。
 また、現在のところ、活動頻度は月に1回程度のペースで動いているが、ある程度、職員の中で浸透してきて軌道にのってくれば、毎月の回数も2回・3回と増えても良いのではないかという声も出てきている。ただ、職員の中で業務加重とならないよう、一部の人に限定されないよう、登録者数をもっと増やして何人かで1町内を回せるような工夫や努力も併せてしていかなければならない。

 これは相当先の話になると思うけど、登録者数が各地域で増えてきて、充実してきた段階で、市は登録職員を「地域発展プランナー」という位置づけで、地域活動のサポート的役割を担わせてみてはどうか、といった提案もある。
具体的には、地元要望の取り纏めや、苦情処理等を担当してもらおうと考えている。このプランナーの方々は、地元と信頼の持てあえる間柄だから、柔軟な対応が期待できるし、今後とも地域との緩衝材や、或いは接着剤となって、地域発展に寄与してくれるものと固く信じている。ただ、この提案については、行政側と協議する事項も沢山あり、まだまだ議論する余地が残されているため、将来の研究課題といたしたい。



12. 最後に

① 「市役所は民にとって最もにたつ」といった意識改革を職員・市民相互にもってもらって、より良い地域活動に繋げていってほしい。
② 職員が郵便物を配達するといった、ほんの小さな気づきの積み重ねが、市役所全体を、市民全体を明るく元気な街にしてくれると、また大きな信頼の輪で結ばれる自治体にしてくれると、信じております。
③ 公務員という漢字が「交無員」と揶揄されるようになったら、おしまいである。むしろ、「向夢員」と賞賛される存在価値であり続けたいものである。