【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-②分科会 立ちあがれ自治体職員 ― 地方自治の可能性を探る ―

三期期間を使った食育推進について


島根県本部/松江市職員ユニオン・現業支部

1. はじめに

 いつの頃からか『食育』という言葉が世間で一般的に聞かれるようになりました。食は時代の変化に伴い、栄養価で食する栄養補給から、心と体を形成するための食へと変化してきました。食育はそうした食の大切さを学び、健全な体とともに健やかな心を育むための教育です。
 現在の飽食の時代において、子どもたちの食生活と食に対する意識はどうなっているでしょうか。ファーストフードやインスタント食品の普及、欲しいものはコンビニエンスストアで24時間販売されています。時間に追われる親の生活の中で、孤食・偏食は日常茶飯事となっています。
 こうした状況のなかで国は食育基本法を制定し、自治体と家庭での食育推進を行っていくことを法令で定めました。松江市においても、昨年度より学校給食課に食育推進係を新設し、地域・学校・行政が一体となった食育推進の第一歩を踏み出しています。

2. 学校給食と食育

 学校給食は戦後の栄養補給から食育推進へと役割を変化し、松江市においても学校訪問や親子料理教室、バイキング給食、モデル地域での食育事業など、様々な事業を行ってきました。こうした取り組みは調理師と栄養士が食育のあり方を考え、協力するなかで築きあげてきました。
 しかし、食に関する大幅な変化に十分な対応ができているとは言えないことも事実であります。文部科学省の保健体育審議会では学校給食は自校方式が望ましいと答申が出されており、学校の敷地内で毎日調理される自校方式に比べると、センター方式は食を身近に感じることができません。松江市は玉湯を除くすべての給食調理場がセンター方式であるため、オートメーションで運ばれてくる給食の溝を埋めなければなりません。食育とは頭で考える食ではありません。食を感じ、自ら興味を持ち、楽しみ、命を育むことです。
 それでは学校給食を通じた食育推進を最小限のコストで効率的に行っていくにはどのようにすればいいでしょうか。

3. 学校給食にできること

 近年の地方公務員には公務員バッシングと呼ばれる厳しい逆風が吹いており、そのなかで学校給食調理員の三期期間(春・夏・冬休み)が取り上げられています。現在、三期期間は調理機器の細かい洗浄から排水溝や壁・窓の場内大掃除、食器機材等のチェック管理を行っています。
 これまでの恒常化したルールの中では場内管理は必ずやらなければならないことでありました。しかし、掃除の頻度ややり方を見直すことでマンパワーを生み出すことは可能です。そのマンパワーを利用することで必要最小限のコストで次に示す①②③のような食育推進事業を行うことができると考えます。



4. 具体的な取り組み

(1) 手作りのイベントの実施
① 給食調理場を大開放(調理場で親子料理教室)
  三期期間の大掃除前であれば親子料理教室を給食調理場内で実施することができます。子どもたちにとって給食調理場は、自分たちの食事を特殊な機材を使って大人がつくる身近な社会科見学場です。普段は立ち入り禁止でガラス越しにしか見ることのできない給食調理場内では、お風呂のような回転釜やボートのオールのようなしゃもじ、魚をすくうような網が使われ、大きな野菜を小さく千切りにする裁断機やオートメーションの揚げ物・焼き物調理機もあります。
  現在の松江市の給食調理施設はセンター方式がほとんどであり、給食の時間になればまるでオートメーションのように給食が置いてあり、食べ終われば食器ごと目の前から消える仕組みになっています。
  こうした子どもたちに給食調理の工程を肌で感じ、自ら調理を行うことでまずは給食に興味を持って学校生活を送ってもらい、食べることを通して、それを支える人々を感じて「食べること」を大切に考えてくれるのではないでしょうか。


《実施に必要なもの》
  給食材料費……試食会参加者からの徴収
  人件費…………三期期間の利用


② 親子でメニューを考えよう(親子料理コンテスト)
  学校給食のメニューは栄養士・調理師がメニュー委員会のなかで決定しています。しかし、学校給食にこんなメニューがあったらいいなと考える子どもは少なくないのではないでしょうか。もし、自分が考えた料理、食べてみたいメニューが給食に出されたら……そんな料理コンテストに親子で参加できるのであれば、親子の会話が食のことでいっぱいになるのではないでしょうか。


《実施に必要なもの》
  給食材料費……試食会参加者からの徴収
  会 場…………公民館等および学校家庭科室の利用料
  人件費…………三期期間の利用

③ 孫といっしょに(三世代交流給食)
  これまで実施してきた親子料理教室に祖父母の方々にも参加して頂くことで、三世代の交流を深め、子どもは敬老の心を培い、祖父母は普段見ることのできない孫の姿を見ることができます。テレビゲーム世代の子どもたちに祖父母から昔の遊びを教わることで、交流により大きな広がりを持つことができます。
  また、親子だけでなく地域の高齢者の方々と交流給食を深めることで、地域の繋がりも深めることができます。核家族が増えている時代だからこそ、こうした取り組みが必要なのではないでしょうか。

《実施に必要なもの》
 給食材料費……試食会参加者からの徴収
 会 場…………公民館等および学校家庭科室の利用料
 人件費…………三期期間の利用

④ みんなで食にふれあう(食育フェア)
  現在、学校給食センターの試食会は平日の給食実施日に限定されています。しかし、共働きの家庭が多くなっているなか、週末の家族で訪れるイベントとして、多くの市民を対象に「食に触れ、食を考え、食に関心」を持ってもらうことを目的として毎年実施します。イベント内容は学校給食の試食会をはじめ、食材の流通経路から調理レシピ、子どもたちからの手紙展示や、食に関わるクイズや紙芝居などを行います。
※ 八雲学校給食センターは独自の取り組みとして、毎年11月に行われる八雲ふれあい文化祭に合わせて食育フェアを開催し、学校給食センターの見学と試食会を行っています。

《実施に必要なもの》
  給食材料費……試食者から徴収
  展示パネル……手作りで作成するため、用紙とマジック代
  会 場…………メッセ・体育館等の使用料
  人件費…………三期期間の利用

(2) 学童保育給食の実施
 現在、学童保育給食は八雲給食センターが夏休みのみ実施しています。八雲給食センターでは夏休みを利用して、学童の子どもたち自らが作物を栽培し、学童給食に取り入れる活動も行っています。
 地域がいっしょになって子どもたちをどのようにたくましく育てていくかを考えていかなければなりません。学校給食調理場で働く調理師の三期期間の有効活用も含めて、食材費のみの負担で実施ができるはずです。
 全国的には夏休みの学童保育の昼食問題が少しずつ表面化してきています。学童保育は学校ではないため、原則的に弁当を持参しなければなりません。弁当であれば仮に食中毒等の問題が発生したとしても責任は家庭にあります(※持参する弁当と給食ではどちらが食中毒の可能性が高いかについても一目瞭然です)。しかし、福岡県飯塚市の調査では、手作り弁当を持ってくる子どもは全体の3~4割であり、大半がカップ麺や菓子パン、購入した弁当を持参しているとの調査結果が示されています。なかには経済的な理由に限らず何も持ってこないという子どももいるそうです。
 地域に住む子どもが三期休業を家庭で過ごすことができないため、学童保育に通っています。そうした子どもたちに食育事業としての学童給食を是非実施すべきです。

《実施に必要なもの》
  給食材料費……学童児童から徴収
  給食運搬費……学童までの2往復分の燃料
  人件費…………三期期間の利用

(3) 学校給食の発展に向けた研修・学習会
① 三期期間中の他調理場研修
  旧松江市と旧八束郡7町村がそれぞれの自治体の学校給食事業を統合して5年が経過しました。それぞれの給食センターでは規模・調理機器・調理工程に違いがあり、それぞれの給食センターが食育面や衛生面、技術面、アレルギー対策などで良い部分を持ち合わせています。三期期間中の調理員の他給食センター研修を行うことで、それぞれの給食センターの良い部分を共有し、全体のレベルアップを図ることができます。

② アレルギー対策検討委員会
  アレルギー対策については、すべての旧町村給食調理場が可能な限りのアレルギー代替食を行っており、逆に旧松江市給食センターではアレルギー対応を全く行ってきませんでした。北給食センターに関しては、統廃合を行った八束・美保関給食センター区域の子どもに対してのみアレルギー対応を継続しています。
  アレルギーを持つ子どもたちは、食べられない品目があり、食べることのできない品目はクラスのじゃんけんで毎日、奪い合われているそうです。子を持つ親であれば、その状況をどのように感じるのでしょうか。
  アレルギー対策の手法については様々な方法があり、アレルゲン該当者の多い卵の除去食を実施するだけでも多くの品目が食べられるようになります。卵を入れる直前でアレルギー除去食分だけ取り出し、最後の煮込み・味付けを子鍋で調理するだけでいいのです。必要な準備はIHクッキングヒーターの設置とスペース確保、アレルギー除去食用の容器、必要であれば人員となります。
  高い安全性のなかでコストをかけずにどのようにやっていくのか、アレルギー対策の早期実施に向けた検討委員会を進めていく必要があります。

5. まとめ

 食育には「公の場の食育」と「家庭の食育」があります。食の安全や栄養、流通・調理など食の知識について学ぶ公の場の食育、そして心の発達のための家庭の食育であります。
 近年のマスコミ報道において、食品賞味期限問題や輸入食品問題、食材の使いまわしなど、日本の食の安全は崩壊しつつあります。「消費期限で無ければ問題ない」「輸入品で十分」「バレなければ使える」こうした考えはモラルだけの問題ではありません。
 オートメーションの飽食時代のなかで食生活とともに、食に対する意識も変わってきています。作物がどこにどのように実るのかを知らない、見たことがないといった子どもたちが増えています。そうした子どもたちが食を軽視することのないよう自治体は食育を伝えていく責務があります。
 食育のステージにおける学校給食調理師の責任は大きく、子どもたちのために何ができるのか、どうすれば食に興味を持ってもらえるのか、おいしく食べてもらえるのか、責任を持って取り組んでいく意識改革も必要です。
 家庭・地域・行政を結ぶ新たな一歩は待ち望んでいても始まりません。自らの一歩にみんなで応えて、みんなで作っていかなければなりません。