【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-②分科会 立ちあがれ自治体職員 ― 地方自治の可能性を探る ―

遊具のリスク管理とハザード除去


島根県本部/松江市職員ユニオン・現業支部

1. はじめに

 学校や公園に設置してある遊具は、子どもたちに冒険や挑戦といった遊びを提供し、その中で子どもたちは危険予知・回避を学んでいます。小学校に設置してある遊具では、1年生から6年生と大きく年代の異なる子どもたちが交わり、遊びを通じて社会性や道徳心を育む機会の場となっています。しかし、遊具には危険が伴うことも事実であり、誤った遊び方や故障によるトラブルには重大な事故につながるケースもあります。
 遊具の危険性については近年様々な議論が行われており、事故発生率が高い遊具の撤去から安全性確保の質を高める政策が求められるなか、2003年には国土交通省より『都市公園における遊具の安全確保に関する指針』が示されています。遊具における事故が発生した場合、行政など設置者にその責任が大きく課せられます。しかし、子どもたちが学ぶはずの危険予測力までも遊具とともに撤去すると遊具としての魅力までも無くなってしまいます。それでは遊具の撤去と安全管理はどのような形で求められているのでしょうか。
 本レポートでは子供たちがより安全に楽しく、更には子供たちの成長に必要な環境をつくるため、学校および公園に設置されている遊具のあり方と安全管理について提言します。

2. 学校に設置してある主な遊具

 遊具は体を動かすことで子どもたちの運動機能を向上させ、心身が健全に育成されることを目的として設置されています。松江市の学校・公園には以下のような遊具が設置されています。この他ではシーソー、タイヤ飛び、平均棒、太鼓橋などがあります。


ブランコ(揺動系遊具)
滑り台(滑降系遊具)
鉄棒
雲梯(懸垂系遊具)
ジャングルジム
のぼり棒
複合遊具
回転ジャングルジム(回転系遊具)

3. 遊具における事故発生の概要

 「遊具」と「怪我」は残念ながら切り離すことのできない関係にあります。それは遊具が体をつかって遠心力や重力、高さを楽しむものであり、その遊びとともに怪我は内存しています。以下に過去に調査された遊具の事故の内容を記載します。

(1) 年齢・男女構成
 国民生活センターが1997年から2002年まで調査した遊具に関する事故情報では、多くの事故が1歳から9歳までで発生しており、性別ではすべての世代において男性の事故件数が上回っています。



年齢別・性別件数


国民生活センター調査2003

(2) 遊具別発生件数と症状
 遊具の事故は、すべり台・ブランコ・鉄棒・ジャングルジムでの発生が多く、入院を要する重い症状についても発生件数は同じ順位となっています。
 しかし、事故の発生に対する重い症状の比率については、うんてい・シーソーが高い比率となっており、遊具の構造の違いによって変わってくると考えられます。


(3) 主な事故の発生状況

滑り台

滑り台や階段の途中から転落。頭を下にして滑り降り地面と衝突。
滑り台を逆方向から駆け上りバランスを崩して転落。

鉄棒・登り棒鉄

棒や登り棒にぶら下がっていて手が離れ落下

雲梯

雲梯にぶら下がっていて落下、雲梯の上に昇っていて転落

ブランコ

ブランコからの転落・落下。動いているブランコから飛び降りて転倒。
他の子どもが遊んでいるブランコと衝突。

ジャングルジム

ジャングルジムの上から飛び降り転倒し、足を骨折。
ジャングルジムにぶら下がっていて落下し、足を骨折。

箱型ブランコ

箱ブランコの外でブランコをこいでいたが、ブランコの勢いに付いていけなくなり転倒し、ブランコの踏み板と地面に頭や足挟まれる。
動いている箱ブランコから飛び降りようとして転倒し、踏み板と地面の
間に挟まれる。箱ブランコと支柱の間に足を挟まれる

太鼓橋

太鼓橋にぶら下がっていて落下。太鼓橋の上から転落。

トランポリン

トランポリンでジャンプしていて床に落下したり外枠に強打。

跳び箱・平均台

跳び箱から転落。平均台から落下。平均台を運んでいて足に落とす。

積み木

大型積み木に乗っていて、足を踏み外し又は積み木が崩れて落下。

厚生労働省「児童福祉施設等に設置された遊具で発生した事故調べ」


 遊具の事故の発生には様々な要因があるが、衝突・転落・挟まれることによる怪我がもっとも多くなっています。しかし、この衝突・転落・挟まれに関しても次のように分類することができます。
① 老朽化や出っ張り、動線上の衝突など構造上の物的要因
② 着衣や使用方法の間違いによる人的要因
③ その他の要因(不運等)

4. 遊具に関する危険性

 遊具での遊びにはある程度の危険性も内存しているが、その内存する危険性は子供たちの遊びの価値のひとつでもあります。
 事故の回避能力を育む危険性あるいは子どもが判断可能な危険性であるリスクと、事故に繋がる危険性あるいは子どもが判断不可能な危険性であるハザードとに区分することができます。



 子供たちが判断可能な危険性や子供たちの事故の回避能力を育む危険性といった遊びに必要な危険性。
物的リスク
……通常子どもが飛び降りる事のできる遊具の高さ
人的リスク
……小さな危険を伴う遊び方

 冒険や挑戦などの意欲的な遊びによる危険性(けが)リスクは、それにより重大な事故につながりそうな場合は注意を促すことも必要ですし、小さな危険を伴うリスクには容認することも大切なことであり、適切に管理することが必要となります。



  子供たちが判断不可能で、遊びに全く無関係で不必要な危険性。
物的ハザード
……遊具の不適切な配置、不十分な維持管理による遊具の不良
人的ハザード
……不適切な行動、大きな危険を伴う遊び方、不適切な服装

 リスクとは関係のないところで事故を発生させるおそれのある危険性ハザードは、我々大人の責務として未然に防ぐとともに無くしていくことが重要であり、物的ハザードについては発見しだい直ちに使用禁止にするなどの対応を行い、迅速な対応を行うことが必要です。


吊金具のずれ
着地面に露出した石

5. 今後の遊具の管理について

 遊具の管理・点検については職員で行われる施設の安全点検と、業者によって行われる遊具の総点検を実施しており、その中で、遊具の腐蝕、変形、その他の危険性を発見するように努めています。発見された危険な箇所の必要な補修等については、主に専門業者が行う修繕等で対応しています。

(1) 地域住民とともにハザード管理
 遊具の老朽化や劣化は発生時期が特定できないため、常時点検をする必要があります。しかし、実際に地域で遊具を使っている住民、学校であれば生徒からの報告があることでより迅速な対応を行うことができます。
 不適切な服装や遊び方によるハザードについても、地域住民および学校生徒の認識の向上と注意によってより高い水準での安全管理を行うことができます。そうした意味では、地域住民とともに公共スペースの安全水準を高めていくことも重要と言えます。

 


地域・公園・学校・行政の連携イメージ図


 現在、松江市の公園では市役所の電話番号看板が設置されており、問題があれば対応できる形となっていますが、地域住民の日常利用に簡単な安全点検が加われば、より多くの事故を未然に防ぐことができるのではないでしょうか。安全性を含めた遊具のあり方を地域住民とともに考え、連携を深めるなかで、遊具の日常点検の必要性や点検に必要なポイントを広めていくことが重要です。


【東京世田谷区の例】
 東京世田谷区には「自分の頭と体を使って自分の責任で自由に遊ぶ」プレーパークが設置されています。このプレーパークは子どもたちが思いきり遊べる場が欲しいと考えた親が冒険できる場を求めて「冒険遊び場運動」を起こし、実現したアスレチックパークです。


(2) 危険を知って、ハザードをリスクに
 遊具の遊び方・使い方についても子供たちは、様々な遊び方を思いつくものであり、遊具を本来の目的とは異なる遊びに用いることもあります。子供たちが使っている遊具の危険箇所の特徴をシールや看板を使って分かりやすく伝えることで重大な事故を未然に防ぎ、ハザードをリスクにすることができます。

※シール・看板であればコストをほとんどかけずに事故防止をすることができます。気付きにくいハザードを持つ遊具の落下箇所・衝突地点・挟まれ箇所に貼ることでより効果的となります。


(3) 物的ハザードは整備を
 過去に設置した遊具にはボルトやナットの一部がむき出しになっている物や硬い材質を使用している物もあり、衝突時の重大な事故へ繋がる可能性があります。そうした遊具の管理面での事故を無くすために部品の交換およびカバーで覆うなどの対策をとっていく必要があります。
 遊具からの転落・落下に備えて、地面に衝撃吸収材マットを設置することで重大な事故の発生を抑制することができます。
 松江市では新たな遊具施設で衝撃吸収剤マットが設置されていますが、ほとんどの場所で設置がされていません。物的ハザードの撤去を設置者が早期に行うことで安全性をより高めていくことができるのはないでしょうか?


6. まとめ

 遊具には子どもたちの成長を育む人的リスクと不適切な行動による人的ハザード(危険)があります。そして、構造から学ぶ物的リスクと構造上の物的ハザード(危険)があります。構造にハザードがある遊具については、改修工事あるいは撤去が必要になりますが、事故を恐れリスクまでも除去をすると遊具の魅力を失ってしまいます。遊具とはあくまで子どもたちが楽しむためのものであり、日々の安全点検、修繕や危険度に合わせた安全対策を行うことで、ほとんどの遊具は安全性の高いものとして維持できるようになります。
 遊具の維持管理については、学校の施設管理を担当する校務技師による日々の点検・管理、そして地域住民との連携を図るなかで危険箇所の早期発見に努め、地域の子どもたちの安心・安全で楽しい生活を守っていくことが重要です。