【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-③分科会 雇用の質と公共・行政・労組の役割とは

職業訓練の灯を消すな
地域を支える職業訓練を守る市民シンポジウムの取り組み

北海道本部/全北海道庁労働組合・滝川高等技術専門学院支部

1. はじめに

 公共事業削減や、景気回復の遅れにより疲弊する地域経済。厳しい経営環境の中、人材育成に手が回らない企業が大半を占める。北海道における民間職業訓練機関である事業内職業訓練校は減少の一途をたどり、公共職業訓練機関である北海道立高等技術専門学院は、定員割れや民間との役割分担という基本方針のもとに策定された、「高等技術専門学院中長期ビジョン中期構想」により科目の廃止や地方校の統廃合という方向が示された。
 地方には後継人材の確保や育成、また若い人材の流出などによる技能伝承形態の崩壊を危ぶむ声が後を絶たない。これは単に産業界だけの問題ではない。「人を育てる」「技能を伝承する」、地域そのものが成立するための課題である。
 大きな転機にある北海道の職業訓練。雇用情勢の厳しい中空知・滝川において、公共として責任を持って地域の職業訓練を継承して行くために、「職業訓練の灯を消すな」を合い言葉として、滝川高等技術専門学院支部と民間職業訓練機関である滝川地方職業訓練協会が主催し、滝川市、滝川市教育委員会、滝川商工会議所、業界団体や市民団体、そして労働組合が一致団結し、オール滝川として取り組んだ市民シンポジウム「職業訓練の現在(いま)~技能の伝承は人づくりから」について成果と反省点を検証し、地域における労働組合のあり方についても考えてみたい。

2. 高等技術専門学院中長期ビジョン中期構想と滝川高等技術専門学院の役割

 滝川高等技術専門学院は、新卒者や求職者など、新たなスキルアップを目指す人材を対象とした公共職業訓練施設で、全道に10学院ある道立高等技術専門学院の一つである。1960年に滝川職業訓練所として開設されて以来、4,500人を超える修了生を送り出してきた。一方、1958年に開設された滝川共同職業訓練所(現テクノカレッジ滝川)は、在職者に対し職業訓練を実施する民間職業訓練施設で、滝川を中心とする中空知の人材育成は、官民が両輪となり支えてきた。「高等技術専門学院中長期ビジョン(2007年6月正式協議)」の中期構想(2008年3月策定)は、古くから、「手仕事の街」として職業訓練が継承されてきたこの街に大きな衝撃を与えた。この「中期構想」は2008年度からおおむね10年間の技術専門学院の新しい推進体制が示されている。全道にある10学院の応募・入学状況を検証し、少子高齢化や人口減少、景気回復の遅れや労働需給のミスマッチなど、雇用環境が激しく変化する中で、「質の高い若手技能者の育成や多様な能力開発の機会を提供する」ことを基本とし、産業、雇用の両側面から人材育成を進めることを目標としている。
 さらに、道の切迫した財政事情を踏まえた形で、「限られた財源で技術専門学院の人的、物的資源を最大限に活用」するため、直轄の施設内訓練においては「ものづくり」関連科目に集中して科目を整理している。その中で滝川高等技術専門学院は札幌圏の学院へ統合されることが示された。「滝川市から歴史ある公共職業訓練施設が消える」ことになる。

3. 旧産炭地域を抱える中空知・滝川

 旧産炭地を抱える中空知は、道内でも雇用情勢が大変厳しい地域である。長引く不況の影響を受け、有効求人倍率は5ヶ月連続で0.45を下回り地域経済は疲弊している【Fig.1】
 また、少子高齢化の顕著な地域でもある【Fig.2】。産業別に就労者の分布を調べると、いわゆる第二次産業と呼ばれる建設業・製造業に従事している人が全就労者の20%を超えている【Fig.3】。これらにより、明らかに産業の後継者や将来の担い手不足に直面した地域であることがわかる。
 滝川は1958年に市政が施行され、近隣産炭地からの物資輸送が活発になった。人の行き来も多くなり交通の要衝として発展の基礎を築いた。駅前には洋服仕立屋をはじめ、たくさんの手仕事の店が並び、子どもたちはものを作る職人の姿を見て育った。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」と同じ情景、人を大切にする職人気質がこの街を温かく育み、職業訓練の土壌が耕された。この時期に公共と民間の職業訓練施設が作られ、長い間、必要な人材技能者を育成し、雇用の確保並びにセーフティーネット機能としての役割を担ってきた。


【Fig.1】 有効求人倍率の推移 
【Fig.2】 年齢別人口の地域特性

【Fig.3】 中空知地域の産業別就労者割合

4. 市民シンポジウム「職業訓練の現在(いま) ~技能の伝承は人づくりから~」

 公共職業訓練施設が消えることになれば「技能の伝承」と「人づくり」は、そして人を大切にする職人気質が支え育ててきたこの「地域」はどうなるのか。「この街から職業訓練の灯を消してはいけない、地域が抱える重たい課題に対し地域住民が意見を出し合い行動しよう」。この思いから、市民シンポジウム「職業訓練の現在(いま)~技能の伝承は人づくりから~」の開催を検討することになった。

(1) 滝川市議会への要請
 シンポジウムを効果的に開催するには、まず地域の人々に職業訓練の現状、重要性を認識してもらうことが必要と考え、自治労組織内市議を通じ滝川市議会に働きかけを行った。議員への説明後に施設を見学してもらい、真剣に訓練に取り組む学生の姿を見ていただいた。その結果、2007年9月、滝川市議会全会一致で「道立滝川高等技術専門学院存続を求める意見書」が採択された。これにより、統廃合問題を広く周知し、市民シンポジウム企画のための土台固めができた。また、今後の滝川市と北海道の事務調整や、滝川高等技術専門学院の存続を求める要望活動を、このシンポジウムが後押しをする形を整えることとなった。

(2) シンポジウム実行委員会の立ち上げ
 歴史と伝統ある職業訓練の灯を消さないために、地域の職業訓練はどうあるべきなのか、道職員として、組合員として地域のためにできることは何か。それは私達だけではなく地域住民と一緒に考えなければならないことである。私達は地域の生活基盤を築き上げるための手助けをしなければならない。多くの住民に「この街から滝川高等技術専門学院を無くすわけにはいかない」と言ってもらえなければ、公共である意味はない。そんな思いから、市民シンポジウムの開催を検討した。
 このシンポジウムは、単なる「労働組合による合理化反対運動」と捉えられてしまえば意味がなくなってしまう。そのため出来る限り労働組合色を抑え、主催団体は官民の職業訓練機関である滝川高等技術専門学院支部と滝川地方職業訓練協会とし、実行委員会制をとることにした。実行委員会のメンバーには、自治労全道庁空知総支部をはじめ、自治労滝川市職労、滝川地区連合会事務局にご苦労をいただいた。また、労働組合だけの企画とならないように民間職業訓練機関である滝川地方職業訓練協会にも加わっていただき、地域の職業訓練を守るための取り組みと位置づけた。

(3) 開かれた市民シンポジウムをめざす
 今回のシンポジウムを開催するにあたり、様々な業界団体や地方自治体、また、多くの労働組合組織と情報交換や地域のあり方について議論を重ねてきた。その中で、滝川高等技術専門学院という道立の職業訓練施設が、地域には意外と認識されていないことが浮き彫りになった。技術専門学院はどこが運営しているのか、何を訓練しているのか、入学条件に年齢などの制限があるのか等について、知らない市民も多いという指摘を受けた。
 そこで、第一に職業訓練の果たす役割と技術専門学院とは何なのか、について知ってもらうことに焦点を当てた。第二に、地方切り捨て、地域格差の拡大につながる安易な統廃合について一石を投じる事に目標を置いた。
 地元選出の北海道議会議員(中間会派所属)にも働きかけ、道議会の代表質問に取り上げてもらうなど政治的な手段も用いたが、やはり決め手となるのは地域からの生の声であり、地域一体となった運動の展開である。「職業訓練の灯を消さないために全面的に協力をしたいが、政治的母体が異なる様々な団体があり、一枚岩となるためには労働組合が主体となった運動では乗り切れない」との指摘もあり、その調整に手間取った。
 結果として、議員などの挨拶は極力避け、パネルディスカッション方式をとって、様々な意見を持ち込みあい、それぞれの立場での提言と職業訓練を守るための意見交換の場とすることで意見が一致した。
 パネリストとして、滝川高等技術専門学院訓練課長、テクノカレッジ滝川校長に参加要請し、これにより官民の職業訓練の連携が図られた。また、地域の人材育成のあり方を考える上で、滝川工業高等学校長にも協力を依頼した。さらには、滝川高等技術専門学院の修了生で、今でも地元企業で働いている修了生を加えることで、住民に滝川高等技術専門学院の必要性を認識してもらえるようなメンバーが揃うこととなった。
 人選に苦慮した基調提言については、「地域全体でこの街の職業訓練を存続させよう、政治的な思想や労働組合色を表面に打ち出さない取り組みをしよう」という考え方に理解を得て、滝川商工会議所副会頭(2008年6月会頭就任)で(社)中空知地域職業訓練センター協会前会長でもある渡邉恭久氏に承諾していただいた。その後、シンポジウム後援団体として、(社)中空知地域職業訓練センター協会や滝川板金協会などの業界団体、滝川市、市教育委員会、滝川商工会議所、滝川消費者協会などが加わった。
 また、多くの住民に会場へ足を運んでいただくために、実行委員会として広告用チラシとポスターを手作りで作成し、各官公庁や民間施設へ掲示をお願いして回った。広告用チラシは12,000枚を印刷作成し滝川市内の全戸に新聞折り込み配布を行った。近隣町内会にも役員の方を中心に積極的に声をかけ、シンポジウムの開催をPRした。
 その結果、185人の参加者を集めシンポジウムを盛会裡に開催することができた。【資料1】に掲載された新聞記事を添付する。

(4) 参加者アンケートから効果の検証
 参加者に対して会場アンケートを実施した。回収率は85%に上り、この種の集会では非常に高い数字を示した。また、感想や職業訓練に対する意見なども104本記入されており、関心の高さが伺える。来賓を含め185人の参加となったが、2月という極寒の時期に午後8時を過ぎるまでほとんど席を立つ人がいなかったことも、基調提言をはじめとするパネリストの提言が、身近で興味を持ちやすい話題であったものと考えられる。集計結果を【Fig.4】【Fig.5】【Fig.6】に示す。

5. 中期構想の結末とシンポジウムが残したもの

 2008年6月に中期構想は滝川高等技術専門学院の2009年度募集停止、すなわち札幌校への統合という形で決着した。多くの支援をもらい、185人の参加者を集め、地域が一体となって取り組んできた職業訓練を守るたたかいは、「合理化阻止」という観点では実らなかった。地元自治体をはじめ関係団体が繰り返し北海道知事宛に提出してきた「北海道立滝川高等技術専門学院に係る要望書」においても、当初は存続を求めるものであったが、最終的には北海道の財政や、昨今の入学状況などを勘案し、統合はやむを得ないとの判断から、「地元合意のないまま統合はしない」という北海道労働審議会答申の付帯意見を尊重し、滝川高等技術専門学院の役割や機能を地域職業訓練施設へ移転する上での支援などを求める内容に変更された。


【Fig.4】 シンポジウムをどこで知りましたか
【Fig.5】 シンポジウムの感想をお聞かせ下さい

【Fig.6】 これからの職業訓練のあり方についてどう思いますか

 シンポジウムの開催にあたり、その準備や打合せ、当日の受付、会場設営等に職場一丸となって取り組んだ滝川高等技術専門学院支部としては、全組合員が落胆の気持ちとなったことは正直否めない。
 しかしながら、2008年5月にはシンポジウム実行委員会として、「北海道立滝川高等技術専門学院に係る要望書」を北海道経済部長宛(経済部人材育成課参事対応)に提出することができた。「シンポジウムで高まった職業訓練への関心や機運を損ねることなく、歴史と伝統ある滝川から職業訓練の灯を消さないよう、推進方策の策定においては地域合意を尊重し地域要望に責任を持って応えていただきたい」という内容である。市民団体が北海道経済部長宛に意見書を手渡すという事は異例のことと聞いた。
 もちろん、統合を阻止できれば最良の結末である。しかし、地域が考え、地域が検討した結果が「滝川高等技術専門学院が統合されても、公共としての機能を何とかこの街に残したい、北海道として地域の雇用対策や雇用施策と一体化した展開を実施して欲しい、職業訓練を守りたい」という判断であった。公共職業訓練の仕組みや、滝川高等技術専門学院の役割や機能、その必要性を理解できたからこそ、公共職業訓練の機能移転にこだわった内容になったものと考える。
 その新しい仕組みとは、公共職業訓練の代替訓練として、民間職業訓練機関へ委託実施する方法である。地元のニーズや雇用の拡大につながる職種に機動的に対応する機動職業訓練の形態をとる。これを1年間あるいは6ヶ月という長期間で実施するのはこれまでにほとんど例を見ない。開設する科目は、現在滝川高等技術専門学院にある板金科、電気工事科、建築科、エクステリア技術科のうち、地域ニーズに臨機応変に対応しローテーションさせながら数科目を実施するという計画である。これによってより柔軟な対応が可能となる。その他、十分な財政的支援や、講師の派遣、また代替訓練を実施する民間職業訓練施設の労働安全衛生法登録教習機関等への登録に関する支援や、訓練に必要な設備機械の無償譲渡などが盛り込まれている。
 地域の強い要望を受け、合意が得られたため、中期構想は決着した。シンポジウムの主催団体として、地域が公共訓練にこだわり、なおかつ公共訓練の機能を長く継承して行くための要望をとりまとめたこと、そしてその要望が地域合意という形で認められたことは、「職業訓練の灯を消すな」というシンポジウムの目的は達成できたものと考える。諸先輩が、永年にわたり築きあげてきた職業訓練の土壌、そして公共職業訓練の役割を、少なからず地域に継承できたということは、取り組みの成果と考えて良いのではないか。

6. 提言とまとめ

 市民シンポジウム「職業訓練の現在(いま) ~技能の伝承は人づくりから~」を終え、今回の取り組みを振り返った。最初に気づいた点は、地域における公共の役割が、必ずしも住民に十分には理解されていないという点である。付け加えて、我々の実施する公共職業訓練が滝川市や中空知のためにどのように役立っているのか、今何が望まれているか、また、不足している点は何か、などの地域ニーズについて、北海道としての調査、検討がほとんどなされていなかったように思う。炭坑離職者の職業訓練施設が、滝川高等技術専門学院のスタート地点である。平成元年に炭坑閉山によりその使命を終えた時点で、新しいニーズをとらえ、その後の科目やカリキュラムの検討をすべきであった。これは北海道としての責任である。
 また、地元自治体も、「市内の公共訓練施設で今どのようなカリキュラムが実施されているのか、職業訓練受講者はどのような活躍をしているのか、公共訓練をサポートできることはないか」など、公共施設の機能を十分に活用できていないと感じる。
 2005年、外部有識者による「技術専門学院あり方検討委員会」が設置され、様々なニーズや雇用の確保などについて調査検討が行われた。この時点で地域と連帯した取り組みができていれば、そしてこの市民シンポジウムを開催していれば、滝川高等技術専門学院の必要性について、もっと力強い「地域からの声」を上げられたのではないだろうか。そうすればこの結末を変える事ができたかもしれない。
 結果として滝川高等技術専門学院の存続は叶わず札幌学院への統合という厳しい現実が突きつけられている。さし迫った職員の処遇問題などシビアな対応が迫られることになる。また、施設の後利用など残された課題も山積している。
 人がいないから施設を無くしてしまう、公共としてのこの考えは間違っている。「いつでも、誰でも、どこでも職業訓練を受講できる」という全道庁技術専門学院評議会の活動の基本方針である公共職業訓練の平等性が根底から崩されてしまう。今回の取り組みで地方自治体、教育機関、産業界、商工会議所など幅広い方々と様々な意見を交えることができた。そして共通の課題や問題点も多々あることに気づいた。
 ある後援団体の方が話していた。「労働組合も変わった」と。変わったのではない、自治労組合員は、地域のために汗を流している。その地域が苦しんでいる今、全ての力を結集し、活力を与え、地方自治体として生き残って行くためには、「オール地域、オール滝川、オール空知」の取り組みこそが必要だ。組合色を表に出さなかったからこそ、これだけ地域の気運が高まったのも事実ともいえる。これらの実現は、「地域目線」で課題を発掘できる自治体労組でなければできない取り組みではないだろうか。そういうつながりができて、初めて労働組合運動が住民に理解され、支えられて行くと確信している。
 今回の取り組みに際して、その手段や方法に様々な意見をいただいた。しかし、「職場を守る取り組み」ではなく、「地域を守る取り組み」、「職業訓練を守る取り組み」として、その目的を最後まで忘れずにシンポジウムを開催することができた。その準備の間には地域との連帯も感じ取れた。もちろんこの取り組みがベストではないと思う。しかし、こうして広がった交友関係や、気づくことができたお互いの共通の課題など、これからの職務に活かしてゆける収穫は十分にあった。
 地域合意の下、「道立高等技術専門学院中長期ビジョン 中期構想」は決着した。しかし、「職業訓練の新しい仕組み作り」はまだ手探り状態で、地域は公共の力を頼りにしている。業界団体と連携し、公共職業訓練施設として将来を見据え、この仕組みができるだけ長く続いてゆけるようなカリキュラム作りなどにリーダーシップを発揮すること。このことが滝川高等技術専門学院として最後の地域への恩返しである。この街の職業訓練の灯を消さないために……。



注)北海道建設新聞社に引用の了承済み
【資料1】 北海道建設新聞(2008年3月1日付)

渡邉恭久氏の基調提言
「地域が育てる技能の伝承」

パネルディスカッション

185人の参加者