【自主レポート】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅰ-③分科会 雇用の質と公共・行政・労組の役割とは |
|
1. はじめに 私たち、富山県職員労働組合の平和・地方自治推進センターは、2006年10月に沖縄で開催された第31回地方自治研究全国大会をはじめ、「富山県の財政」について、研究成果を県内外に発信してきた。 |
2005.12 |
県は、「2007年4月に県立流杉老人ホームを民間移管し、これに伴う職員の身分取扱いについて県職労に提案。介護職員45名は、退職か転職かを迫られる事実上の首切り提案。 |
||
2006.1 |
新聞広告「命の砦を守って下さい」で県民署名呼びかけ 県が、「民間移管方針は政策」と労使協議に応じないため、支援労組や民間団体と「県民福祉を守る富山県民会議(草嶋連合会長が議長)」を設立し、流杉老人ホームをはじめとした県立社会福祉施設の存続を県民に問う取り組みとして、「県立社会福祉施設の存続を求める」県民署名を開始。 家族会の立ち上げ |
||
2006.2 |
110,211筆の「県立社会福祉施設の存続を求める署名」を石井知事に提出。知事は「入所者の理解を得る努力をする」と2月県議会への流杉老人ホーム廃止条例提案を断念。 |
||
2006.4 |
県民会館800人参加。 参加者アンケートでは、9割が「県の公共サービスのあり方について、県民、利用者、職員の声を十分に聞いて議論すべき」と回答、民間移管には慎重にという意見が圧倒的。 |
||
2006.6 | 6月県議会で県立流杉老人ホーム廃止条例を可決 家族会調べでは「家族の8割以上が反対」にもかかわらず、知事は6月議会で「入所者・家族の9割の同意を得た」と流杉老人ホーム廃止条例を提案。県民会議の県庁前座り込み行動や社民党等の反対も及ばず、自民・公明等の賛成多数で廃止条例成立
|
||
2006.8.2 | 家族らが流杉老人ホーム民間移管差し止めを求め提訴 介護サービスの低下を心配する入所家族30人が、県を相手に民間移管の差し止めを求め富山地方裁判所に提訴。 |
||
2006.12.6 | 提案内容を県当局の都合で覆す 昨年の提案をくつがえし、介護職員に加えて、あらたに看護師、福祉指導員の派遣提案。職転をいわれて1年間家族と思い悩みながら過ごしてきた仲間の気持ちよりも移管先法人の意向を優先。職員の意向調査を開始。 |
||
2007.2.1~6 | 意向調査で県は派遣を強要していると流杉職員から苦情相次ぐ 職員に「派遣応諾のための個別説明会」を開催。当局が派遣を強要していると多くの組合員から苦情が相次ぐ。組合は、県当局が実質的に派遣の強要をしたことに対し強く抗議し、今後の意向調査の中止を要求。2月9日に個別説明の即時中止を申し入れ。 |
||
2007.2.15~16 | 職員への説明会 移管期日が迫り、厚生部長自ら、介護職員に対し説明。実質的派遣の強要。 |
||
2007.3.27 | 仮差止め請求棄却 民間移管の仮差し止めは棄却されるも、「流杉老人ホームと利用契約を締結して入所している親族について、廃止条例により施設が廃止された場合は、利用契約を履行することは不可能となり、法的利害が侵害される」との判断が下る。 |
||
2007.4.1 | 流杉老人ホーム、民間の社会福祉法人に移管 社会福祉法人「光風会」に民間移管され、「ながれすぎ光風苑」としてスタート。 派遣の際の労働条件を改善させ、介護職員40人が派遣に応じ、入所環境激変を避ける。 |
||
2008.3.27 | 流杉老人ホーム訴訟、実質勝利「和解」 ① 県が民営化に際し、入所者や家族の一部に不安や迷惑を与えたと認めた。 ② 法の枠を超え、県の高齢福祉課長を窓口として入所者や家族の不安や要望に対応すると約束。 ③ 県は県民福祉の向上を心がけ、県民の信頼を損なうことのないよう努力すると約束。 |
<流杉老人ホーム民間移管差し止め訴訟の訴状概要> |
合理的必要性:県立流杉老人ホームを廃止する合理的理由や必要性が、全く示されていない。 現行施設の特徴:① 認知症老人処遇技術研修に指定。県内介護施設の中枢的指導的役割。 ② 入所者の人権、健康、安全確保に徹した施設運営を実施。 ③ 他施設で処遇困難な県内外の入所者の最終受け入れ機関の役割を担っている。 ④ 経験を積んだ職員による継続的な養護等を実施している。 介護サービス変容:民間移管により、上記の流杉老人ホームの特徴はすべて消失する。 損害の発生:民間移管により、退所を求められる可能性あり。入所者の症状の悪化や、生命や健康に深刻な悪影響。入所者に精神的、心理的にも影響が生じる。 |
請求趣旨:「富山県立流杉老人ホームを廃止する旨の処分をしてはならない」 原告の権利:養護棟利用者=養護継続権がある。特養棟利用者=本県施設利用権がある。 処分の違法性:人的物的体制が整った本県施設の廃止は、原告の上記権利を侵害している。 県の拙速性:① 県は、民間移管によるサービス等への悪影響を最小限にする措置を講じていない。 ② 県は、原告らの同意を得る努力を行っていない。 ③ 迅速な民間移管は、悪影響を最小限にする注意義務に違反している。 手続的権利侵害:民間移管は、県立施設の措置・契約の解除だが、解除の理由の説明を受けたり、意見を述べる機会もなく、原告らの手続的権利が侵害されている。 |
第1回口頭弁論 2006.9.27 |
訴状要旨の陳述 ・十分な検討なしでの民間移管決定 ・利用者・家族の意見も聞かずに一方的に民間移管を決めたこと。 ・利用者の生命健康などへの危険性 ・他の民間施設が引き受け法人決定前に求人募集を行ったことに対する求釈明の申立書の提出。 |
答弁書の提出 あり方懇談会の正当性と形式的内容に終始。「訴えを起した家族(原告)には、県が民間移管(廃止)を決定した事項について異議を唱えること自体認められない。」と請求の却下を求めたうえで、民間移管については、サービスの低下につながらないと弁明。 |
第2回口頭弁論 2006.11.15 |
原告側の反論及びこれまで入所者・家族が不安に思いなど具体的な項目について、県側に釈明を求める。 ○派遣職員の①派遣期間、②職種・人数、③勤務時間・体制、雇用形態。 ○民間移管後、サービス水準の把握方法。 ○移管先法人の募集・選定時の条件に、介護職員等の夜勤体制を維持及び入所者の自己負担額を増額しないのか。 |
次回までに報告。 |
第3回口頭弁論 |
原告側が要求していた4人の証人尋問のうち現高齢福祉課長の証人尋問を決定。 |
裁判所に対して「原告に値しない」と請求却下を要求。 |
第4回口頭弁論 |
「これまでの運営実態」「廃止の必要性」「説明と同意」「条例審議・答弁」「引き受け法人の選定」「職員の派遣人数と期間」「契約・措置の手続きの問題」などについて70分の質問。 |
答えられる質問のみ答え、都合が悪くなれば、言い訳や「前任者時代の話だからわからない」と不利な発言を避け、曖昧な答弁に終始。 |
第5回口頭弁論 |
○民営化「差し止め」請求→民営化「取り消し」請求へ変更 |
○不十分な文章で、反論する姿勢なし。 |
第6回口頭弁論 |
4月1日以降退所せず、サービスを受けているので民営化を認めたので説明義務は生じないと言うのは本末転倒。4月・5月に施設内で介護事故の多発していることは、人員確保が未確定。7月の食事中に死亡したケースは、病気だとする県に対し、施設が救急車を呼ぶなど適切な対応が取られたのかどうかの書類提出などを求める。引き続き、事実関係を知る光風会理事長及び前高齢福祉課長の証人尋問を要求。 |
『①原告1は、法律上の権限がない(入所請求権がなく、市町村に措置義務があり、身元引き受け人には何の関係もなく、市町村にも委託先を選択に関与できる立場にない)ので、説明義務は生じない』『②4/1以降サービスを受けているから黙示の承諾したので、本件処分に違法性がなく、説明義務違反も生じない』『③適宜説明を実施した。その説明会の中で民間移管を問題視する質問・意見がなかった』と主張。 |
第7回口頭弁論 |
①不法行為を行ったものの特定と損害賠償請求の根拠に、国家賠償責任に加え、債務不履行を追加。②来年4月における派遣状況に関する主張・立証が明らかになるまで弁論を終結するべきではない。③2007年7月に死亡事故に関する書面の提出を求める。マスキングなどをすればプライバシーは守れると反論。 |
③プライバシーなどを理由に拒否。 |
12・26進行協議 |
双方に和解の打診。原告側の和解案提出①原告・入所者とその家族への県の謝罪、②サービス低下などの不利益がないよう県が責任を持って対処する文言、③本件を教訓に県民福祉の向上と適正かつ公正な県政運営を行い、原告・県民の信頼回復に努める。④解決金を支払う。 |
|
1・30進行協議 |
双方に裁判所の和解案を提示。2月にもう一度進行協議で、和解するかしないか含め判断。 |
|
2・21進行協議 |
2・26議会の常任委員会で報告し、3・10追加提案、3・24議会の可決を経て和解する県のスケジュールが出る。知事と直接会うことが条件としたが、県は条件にできないと拒否。引き続き知事に対して面談を求めていくが、和解を受入れることを決断した。各原告団の皆さんに裁判所から勧告された内容で和解に応じるかどうかとその対応を原告団及び原告団長に一任する旨の同意について一軒ずつ確認した。 |
2. 最後に 私たちは、県の財政運営の付けを、医療や福祉に責任転嫁し、新幹線・新湊大橋・ダムといった県民にとって必要性に疑問がある大型公共事業ばかりを「聖域」にしてきた石井県政に対し、「削るところが違う」と訴えてきた。 |