ここでは、買い物や食事など日常的な生活の便利さと仕事の確保は優先するが、医療機関と福祉サービスの充実をあげた未就業者が就業者の比率に比べ多いことが見て取れる。希望する職種でも医療・福祉業はトップであったため、手に職をつけて、働くところさえあれば地元で暮らしたいという願いが伺える。
3. コミュニティビジネス視察報告
南勢地区において、地域を重視し頑張っている施設を視察させていただいた。
【日 付】2008年5月2日(金)
【訪問先】
① ふるさと味工房 アグリ
玉城町の「ふるさと味工房アグリ」では、1997年に地元養豚農家6戸と水稲農家1戸で会社を設立(有限会社アクトファーム)し、その後地元農家に呼びかけ現在は95戸の会員登録がある。地元の食材にこだわった産直施設、手作り体験コーナー、1年を通じての農業体験、シーズン毎に開催されるイベント、5年に1度の店内改装等の様々な取り組みにより客数を伸ばしている。また、会員農家の皆が交代制で接客をし、生産者をパネルで紹介することにより、買い手は安心して食材を購入することができ、一方生産者は直接買い手の感想を聞くことができることや、同じ品目の比較を行うことにより、買い手のニーズに即対応できる体制をとっている。現在50人弱の従業員が勤務しており、会社の営業不振がそのまま雇用につながってしまうため、会員や従業員と意見交換をしたりして運営を行っている。
② 元丈の館
多気町の「元丈の館」では、元丈の里運営委員会(地元の波多瀬地区25人)が指定管理者制度の指定を受けて運営している。従業員数は現在13人。薬草学の先駆者野呂元丈の生誕の地でもあり、健康薬草を基本に健康・薬草・自然を前面に打ち出した運営を行っている。(薬草を使った足湯を隣接している為に1日平均で200人の来場者がある)
経営面では、収入が少ないため従業員にとっては楽ではないが、薬草風呂、農産物の加工販売、各種イベントを通して都市部との交流、人々の情報発信の拠点として位置けられればと館長は語る。
③ まめや(農業法人せいわの里)
同じく多気町(旧勢和村)の「せいわの里 まめや」では、豊かな自然、物作りの知恵と技など農村資源を次世代につなげる意味で旧村民の有志35人が出資をして、2003年11月に農業法人せいわの里を設立し、農村文化を継承するための拠点として2005年4月に同施設がオープンした。現在従業員数は、約40人。施設では、農村料理バイキング、大豆加工食品の製造・販売・製造体験に平日は100人、休日では150人の来場者がある。バイキングでは、旧村内で採れた旬の野菜と大豆製品からなる素朴な郷土料理が食べ放題。食材は地元から全て買い取りで、地元に還元している。地元の小学生も食材(つくし、ふきのとう)を運んでくる。地元住民や顧客とのコミュニケーションを第一に、地域資源を使用して、農業振興と地域の活性化につなげられるように運営を行っている。
【考 察】
今回視察した三ヶ所は、地域の特色をいかした「コミュニティビジネス」の県内での実践形態であった。共通している点は、地域の基幹産業である「農業」との関わりが深いということ。また「後継者」の不足・育成・確保が共通の課題であった。これは、第一次産業を中心とする生産過程において、全国的な課題となっている担い手の高齢化と、継承する人材の不足・育成・確保という大きな課題である。そもそも、地域経済活性化、地域の特性を活かしたまちづくりを地域として継続していくためには、「次世代への継承」が必要であることは明白である。
今回の視察先である「まめや(農業法人せいわの里)」で「子どもが採ってくる"つくし"を買い取っている」という話を聞いた。「つくし」は採取するだけでは商品にならない。「はかま」と呼ばれる節の葉を取り除く作業が必要で、とても手間がかかる。「つくし」を採ってきた子どもは家に帰って「つくし」を新聞紙に広げ、家族総出ではかまをとる作業をする。ここで家族のコミュニケーションが生まれ、学校の話しや地域の歴史文化の話しなど沢山の貴重な時間が流れる。また、自分が取ってきた「つくし」がお客さんに喜んでもらっていることを体感することで、地域の自然の豊富さを知りことにもつながっている。このような積み重ねが、地域としての農業の底上げにつながり、また農業の喜びを知ることで農業に従事する後継者の育成の一助となっているとも考えられる。
「雇用」という切り口で考察すると、今回の三施設は新規事業創出型による間接的雇用創出政策のひとつと考えられる。その基礎となる部分は、地域の基幹産業である農業の活力回復が大きな要素であり、後継者の確保・育成が結果として「雇用」の最も大きな目的である地域への定住に通ずるものと考えられる。
視察を通して、自分の生まれ育った地域を大切にし、自然・文化・歴史・伝統を後世に伝承しようとしていること、決して営利目的ではなく、様々な人と出会い、交流しながら地域の活性化を最優先に考えていること、自分たちで出来ることは自分たちですること、仲間とひとつのものを作るうえで完成するまでのプロセスを大切にしていること、安全安心な食を通して大切な地域を守ろうとしていることを感じた。
4. 地域雇用政策の提言
雇用に対する成人アンケートからは、できるならば地元に残って働きたい、生活したいが、希望する職に就きたい、日常の生活にも快適さを求めたいという思いを垣間見ることができた。また、農林水産業を希望する若者は殆んどいないという現実も浮き彫りとなった。
コミュニティビジネスの視察では、農業者にも高齢化の波がきており、後継者不足に悩みながらも、地域を大切に思う人々がいることがわかった。
近年の機械・施設の大型化あるいは請負耕作や生産組織の進展による経営規模の拡大による農家・農村の変容により、後継者にとっては「家産」の相続と「家業」の継承が分離し、農業を継ぐことは「家業」に値するほど安定的な収入がなければ拒否されるようになった。後継者の確保育成に影響を与える要因としては、「農業と他の職業との所得格差」、「その地に定住して生活を営む運命を選ぶことへの躊躇」、「世代交代のあり方」が考えられる。世代交替のあり方は、後継者への経営権の早期移譲や部門分担をさせることが、後継者の農業に対するやる気を起こさせ、自立経営志向につながっていくことが一般的に指摘されている。
農業の後継者は、農家の構成員であると共に集落の構成員でもあり、生産に携わる組織集団の後継者としても捉える必要がある。生産性の向上によって集落農業を発展させて農業所得を高め、「農業には魅力があり、後を継ぐのは当然」と後継者に思わせることが重要と考えられる。
燃料や穀物の高騰による物価上昇と輸入製品の不信感による安全・安心な食品への期待感は日々増加している。国は農林水産業界へ積極的に支援することにより、生産者の生活の保障や後継者を確保するとともに食糧自給率をあげることを重点におくべきである。そのことにより後継者が増加し、組織化や役割分担などで生産性の向上も望めるのではないだろうか。
生産者は、その地域の特色を生かした独自の商品開発や独特な趣向を凝らす工夫を若者と一緒になって創っていく努力が必要であるし、農林水産漁業に対する「つらい・しんどい・きたない」といった負のイメージを払拭していくことも重要である。
そういった場を提供できるのは自治体であり、この南勢地域の基幹産業である観光業とのパイプ役をするのも重要な役目であると考える。さらには、市町の壁を越え南勢地域全体を見据えて大所高所から状況を把握し、雇用促進につながる情報提供や環境整備、農山漁村再生への支援や地域の資源を活用した産業振興策などを講じていくことが県の役割であると考える。
本ワーキンググループの提案が、南勢地域の雇用回復の一助となれば幸いである。
|