【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-③分科会 雇用の質と公共・行政・労組の役割とは

三重県南勢地域の雇用創出のために


三重県本部/自治研「地域雇用政策」ワーキンググループ

1. はじめに

 日本経済はサブプライムローン問題や原油高、干ばつなどの影響を受けて、食糧やガソリンを筆頭とした物価の高騰を導き、悪化の一途をたどっている。雇用情勢は、地域間での格差が非常に大きくなり、三重県内においても2008年5月の有効求人倍率は、津の1.41倍を最高に、桑名・四日市の1.17倍に対し、伊勢では0.85倍、熊野では0.65倍と南北間の格差が表れている。
 地域における雇用創出には、①効果が大きく速度も速い「企業誘致型」、②規模は大きいが、技術開発と起業の促進を目的としているため速度が遅い「クラスター型」、③規模は大きくないが速度の速い「ベンチャー型」、④規模は大きくなくある程度時間のかかる「第三セクター型」、⑤小規模ではあるが、地域の資源を活用した「コミュニティビジネス型」などがあげられる。
 地域雇用政策ワーキンググループでは、こうした雇用情勢等を踏まえ、今後の少子高齢化の進む地域では、華やかではないが内発的な「コミュニティビジネス型」が非常に有効であると考える。コミュニティビジネスは、地域の住民が主体となり、地域の資源を活用して、地域の抱える課題をビジネス的手法で解決し、コミュニティの再生を通じて、その活動で得た利益を地域に還元することが大きな目的であり、地域の活性化や新しい雇用の創出などの面からも近年脚光を浴びている。
 またコミュニティビジネスは、近年すすんできた指定管理者制度、構造改革特区、市場化テストなど規制緩和の流れとの関連性から、新しい公共の担い手として地域で期待されている存在である。社会的事業、ソーシャルビジネス、ソーシャルアントレプレナー(社会的企業家)、事業型NPO、非営利株式会社などとも近いものと捉えられている。
 そこで地域が主体となり、地域の状況を踏まえ、特徴を活かした雇用の創出を生み出している南勢地域(松阪市、伊勢市、鳥羽市、多気郡、度会郡)の企業やNPOなどの事例を検証し、またこの地域の若者たちの雇用に関するアンケート結果をもとに、これからの南勢地域の雇用回復の可能性を探ってみることとする。

2. 地域雇用政策の課題

 南勢地域のこれからの雇用政策において、次代を担う若者の考えを参考とすべく、各市町(11自治体)に2008年の成人式でのアンケートをお願いした。
 回収数は419枚で、男女の比率は、男性172(41.3%)、女性202(48.2%)、未記入44であった。

問1 あなたがお住まいの地域をお答えください。



 居住地の郡部の内訳は、多気郡については、明和町87、大台町45、多気町14、度会郡については、度会町51、玉城町38、大紀町5、南伊勢町5であった。
 全成人のうち約8割が高校卒業後も地元で生活をしており、残り約2割が県外へ出ておりそのうち東海地方48人(愛知42、岐阜6)で半数以上を占めている。
 他の内訳の主なものは関西地方31人(大阪15、京都8など)で関東地方へは8人(東京4、神奈川3など)にとどまっている。


問3 あなたの雇用形態は?



 雇用形態別では、仕事に就いているのは128人(31.6%)で、そのうち非正規の雇用者は24人(18.8%)で、居住地別では県内118人(92.2%)、県外10人(7.8%)であった。
 一方、未就職者277人のうち学生は259人(93.5%)であり、学生の居住地別の内訳は県内177人(68.3%)県外78人(30.1%)未記入4人であった。

問4-① あなたのご職業は?(就業者)



問4-② あなたの希望するご職業は?(未就業者)



 職業別形態では、就業者のうち製造・サービス・公務の3職種で85人(66.4%)を占めている。
 未就業者には、医療・福祉業、公務員、情報通信業の人気が高く、この3職種で147人(53.6%)を占めている。
 一方で、63人(31.3%)が将来の職業を決めかねている。

問5-① 地元で働くときに、どのような条件が最も必要と考えましたか?(就業者)



問5-② 地元で働くとしたら、どのような条件が最も必要と考えますか?(未就業者)



 自分の希望する仕事に就きたいと思う人の割合は、未就業者の49.4%で、既就業者のうち希望する仕事に就けた人は39.3%であった。
 また通勤時間の短さを必要と感じる人は就業者12.6%、未就業者6.2%と倍以上の開きがある。さらに高給を必要とする人も就業者24.4%、未就業者19.2%と5%以上の開きがあることから、就業前には、自分の希望する仕事であれば、遠くても薄給でもよいと考えるが、いざとなると地元か高給な所があれば、希望する仕事でなくても職に就きたいと思う人も1割ほどいると考えられる。

問6-① 地元で暮らすときに、どのような条件が最も必要と考えましたか?(就業者)



問6-① 地元で暮らすとしたら、どのような条件が最も必要と考えますか?(未就業者)



 ここでは、買い物や食事など日常的な生活の便利さと仕事の確保は優先するが、医療機関と福祉サービスの充実をあげた未就業者が就業者の比率に比べ多いことが見て取れる。希望する職種でも医療・福祉業はトップであったため、手に職をつけて、働くところさえあれば地元で暮らしたいという願いが伺える。

3. コミュニティビジネス視察報告

 南勢地区において、地域を重視し頑張っている施設を視察させていただいた。
【日 付】2008年5月2日(金)
【訪問先】
① ふるさと味工房 アグリ
  玉城町の「ふるさと味工房アグリ」では、1997年に地元養豚農家6戸と水稲農家1戸で会社を設立(有限会社アクトファーム)し、その後地元農家に呼びかけ現在は95戸の会員登録がある。地元の食材にこだわった産直施設、手作り体験コーナー、1年を通じての農業体験、シーズン毎に開催されるイベント、5年に1度の店内改装等の様々な取り組みにより客数を伸ばしている。また、会員農家の皆が交代制で接客をし、生産者をパネルで紹介することにより、買い手は安心して食材を購入することができ、一方生産者は直接買い手の感想を聞くことができることや、同じ品目の比較を行うことにより、買い手のニーズに即対応できる体制をとっている。現在50人弱の従業員が勤務しており、会社の営業不振がそのまま雇用につながってしまうため、会員や従業員と意見交換をしたりして運営を行っている。
② 元丈の館
  多気町の「元丈の館」では、元丈の里運営委員会(地元の波多瀬地区25人)が指定管理者制度の指定を受けて運営している。従業員数は現在13人。薬草学の先駆者野呂元丈の生誕の地でもあり、健康薬草を基本に健康・薬草・自然を前面に打ち出した運営を行っている。(薬草を使った足湯を隣接している為に1日平均で200人の来場者がある)
  経営面では、収入が少ないため従業員にとっては楽ではないが、薬草風呂、農産物の加工販売、各種イベントを通して都市部との交流、人々の情報発信の拠点として位置けられればと館長は語る。
③ まめや(農業法人せいわの里)
  同じく多気町(旧勢和村)の「せいわの里 まめや」では、豊かな自然、物作りの知恵と技など農村資源を次世代につなげる意味で旧村民の有志35人が出資をして、2003年11月に農業法人せいわの里を設立し、農村文化を継承するための拠点として2005年4月に同施設がオープンした。現在従業員数は、約40人。施設では、農村料理バイキング、大豆加工食品の製造・販売・製造体験に平日は100人、休日では150人の来場者がある。バイキングでは、旧村内で採れた旬の野菜と大豆製品からなる素朴な郷土料理が食べ放題。食材は地元から全て買い取りで、地元に還元している。地元の小学生も食材(つくし、ふきのとう)を運んでくる。地元住民や顧客とのコミュニケーションを第一に、地域資源を使用して、農業振興と地域の活性化につなげられるように運営を行っている。
【考 察】
 今回視察した三ヶ所は、地域の特色をいかした「コミュニティビジネス」の県内での実践形態であった。共通している点は、地域の基幹産業である「農業」との関わりが深いということ。また「後継者」の不足・育成・確保が共通の課題であった。これは、第一次産業を中心とする生産過程において、全国的な課題となっている担い手の高齢化と、継承する人材の不足・育成・確保という大きな課題である。そもそも、地域経済活性化、地域の特性を活かしたまちづくりを地域として継続していくためには、「次世代への継承」が必要であることは明白である。
 今回の視察先である「まめや(農業法人せいわの里)」で「子どもが採ってくる"つくし"を買い取っている」という話を聞いた。「つくし」は採取するだけでは商品にならない。「はかま」と呼ばれる節の葉を取り除く作業が必要で、とても手間がかかる。「つくし」を採ってきた子どもは家に帰って「つくし」を新聞紙に広げ、家族総出ではかまをとる作業をする。ここで家族のコミュニケーションが生まれ、学校の話しや地域の歴史文化の話しなど沢山の貴重な時間が流れる。また、自分が取ってきた「つくし」がお客さんに喜んでもらっていることを体感することで、地域の自然の豊富さを知りことにもつながっている。このような積み重ねが、地域としての農業の底上げにつながり、また農業の喜びを知ることで農業に従事する後継者の育成の一助となっているとも考えられる。
 「雇用」という切り口で考察すると、今回の三施設は新規事業創出型による間接的雇用創出政策のひとつと考えられる。その基礎となる部分は、地域の基幹産業である農業の活力回復が大きな要素であり、後継者の確保・育成が結果として「雇用」の最も大きな目的である地域への定住に通ずるものと考えられる。
 視察を通して、自分の生まれ育った地域を大切にし、自然・文化・歴史・伝統を後世に伝承しようとしていること、決して営利目的ではなく、様々な人と出会い、交流しながら地域の活性化を最優先に考えていること、自分たちで出来ることは自分たちですること、仲間とひとつのものを作るうえで完成するまでのプロセスを大切にしていること、安全安心な食を通して大切な地域を守ろうとしていることを感じた。

4. 地域雇用政策の提言

 雇用に対する成人アンケートからは、できるならば地元に残って働きたい、生活したいが、希望する職に就きたい、日常の生活にも快適さを求めたいという思いを垣間見ることができた。また、農林水産業を希望する若者は殆んどいないという現実も浮き彫りとなった。
 コミュニティビジネスの視察では、農業者にも高齢化の波がきており、後継者不足に悩みながらも、地域を大切に思う人々がいることがわかった。
 近年の機械・施設の大型化あるいは請負耕作や生産組織の進展による経営規模の拡大による農家・農村の変容により、後継者にとっては「家産」の相続と「家業」の継承が分離し、農業を継ぐことは「家業」に値するほど安定的な収入がなければ拒否されるようになった。後継者の確保育成に影響を与える要因としては、「農業と他の職業との所得格差」、「その地に定住して生活を営む運命を選ぶことへの躊躇」、「世代交代のあり方」が考えられる。世代交替のあり方は、後継者への経営権の早期移譲や部門分担をさせることが、後継者の農業に対するやる気を起こさせ、自立経営志向につながっていくことが一般的に指摘されている。
 農業の後継者は、農家の構成員であると共に集落の構成員でもあり、生産に携わる組織集団の後継者としても捉える必要がある。生産性の向上によって集落農業を発展させて農業所得を高め、「農業には魅力があり、後を継ぐのは当然」と後継者に思わせることが重要と考えられる。
 燃料や穀物の高騰による物価上昇と輸入製品の不信感による安全・安心な食品への期待感は日々増加している。国は農林水産業界へ積極的に支援することにより、生産者の生活の保障や後継者を確保するとともに食糧自給率をあげることを重点におくべきである。そのことにより後継者が増加し、組織化や役割分担などで生産性の向上も望めるのではないだろうか。
 生産者は、その地域の特色を生かした独自の商品開発や独特な趣向を凝らす工夫を若者と一緒になって創っていく努力が必要であるし、農林水産漁業に対する「つらい・しんどい・きたない」といった負のイメージを払拭していくことも重要である。
 そういった場を提供できるのは自治体であり、この南勢地域の基幹産業である観光業とのパイプ役をするのも重要な役目であると考える。さらには、市町の壁を越え南勢地域全体を見据えて大所高所から状況を把握し、雇用促進につながる情報提供や環境整備、農山漁村再生への支援や地域の資源を活用した産業振興策などを講じていくことが県の役割であると考える。
 本ワーキンググループの提案が、南勢地域の雇用回復の一助となれば幸いである。