【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ-③分科会 雇用の質と公共・行政・労組の役割とは

地域と連携した金型技術者教育の取り組みについて


岩手県/岩手県立宮古高等技術専門校・金型技術科 三浦 公嗣

1. はじめに

図1 宮古市の位置
 岩手県宮古市は、首都圏から約600km、新幹線とバスを乗り継いで約4時間30分の距離にある人口約6万の本州最東端の街で、世界3大漁場の一つである三陸沖有数の港町として、江戸時代から豊富な漁業資源を活用した水産加工業が盛んであった。
 昭和初期からは、銅の精錬や過リン酸石灰の生産により工業の近代化が進み、戦後は石膏プラスタの製造で地域の発展を支えてきた。
 また、1937年に東北で最初の合板工場がの操業し、1968年には神林地区に木材港が整備された。これにより、合板企業の集積が進み東北では石巻市、秋田市に次ぐ生産拠点となっている。
 1974年、電子コネクターメーカーのヒロセ電機が東北ヒロセ電機を設立し、それにともなって首都圏からの中小の部品加工業者の進出や地元事業者による創業が相次ぎ、現在では隣接する山田町等を含めた宮古・下閉伊地区に30社従業員約1,800人(製造業就業人口の約35%)の日本有数の精密コネクター産地が出来上がった。
 2004年から2006年までの岩手県のコネクター出荷額は総額で、大阪、東京につぐ974.4億円(全国出荷額の約7.3%)となっており、また、2005年の宮古市と山田町の電子部品製造業の出荷額は約360億円となっている。
 金型関連企業の集積が進む中で、2001年8月に関連企業15社によって宮古金型研究会が発足し、ライバル関係にある同業種が共同で人材育成の取り組みを始めた。
 産学官連携のための環境づくりや組織づくりも進められ、岩手大学と宮古市が①産業振興へ向けての共同研究の推進、②生涯学習社会における諸課題への対応、③環境問題における諸課題への対応、④福祉問題における諸課題への対応を内容とする相互友好協力協定の締結(2001年10月)や、宮古・下閉伊モノづくりネットワーク(2001年11月)、宮古・下閉伊地域産業人材確保・育成会議(2005年4月)が組織化された。
 2003年11月からスタートした「宮古・下閉伊モノづくりが出来る人づくり 寺子屋」は、宮古・下閉伊モノづくりネットワーク工業部会の支援を受けてスタートしたもので、企業の枠を超えて、共同で企業が現場で抱える課題をもとに人材育成プログラムをつくり、時間をかけて、じっくりと人材を育てていくことを理念として、毎週1回3時間の講座を12回ないし10回実施し、昨年まで9期305人が修了している。
 こうした実績を積み上げていく中で、宮古市、宮古商工会議所及び当地域の金型・コネクター企業で構成する「宮古金型研究会」等から、2005年2月岩手県に対して宮古高等技術専門校に金型や生産技術の専門的技能者養成学科新設の要望がなされた。
 岩手県では、職業能力開発施設のあり方について5カ年間の中期計画を策定して施策を進めてきたが、2005年度は、次期5カ年計画の策定年度にあたっており、宮古市等の要望を取り入れた形で計画が検討され、2006年2月に策定された次期5カ年計画の中に、2007年4月宮古高等技術専門校に高卒1年過程の金型関連学科(入校定員10人)を設置することが盛り込まれた。
 職業能力開発施設のあり方については、既存学科の統廃合によって時代や地域のニーズに対応する形で進められ、ともすれば地域の拠点施設が縮小するというイメージを与えてきたが、今回の金型技術科の設置は、新規の学科開設ということで、地元自治体や産業界の期待に大きく応えるものとなった。

2. 訓練内容の検討

 次期5カ年計画の策定を受けて、2006年3月に金型関連学科設置検討委員会を立ち上げ、訓練課の名称、職員配置、カリキュラム、広報・募集、設備・機器整備等の項目について各委員が分担して素案作りにあたり、2ヶ月に1回のペースで進捗状況の報告と今後の進め方の検討を行った。この間、実際の生産現場を見学するとともに地元企業・自治体との意見交換を重ね、企業が求める仕上がり像の把握に努めるとともに訓練期間や設備機器、企業からの講師派遣の可能性などの検討を進めた。
 訓練内容については、この地域で生産されるコネクタが、プレス加工によって生産された金属端子を射出成形によって生産された筐体に組み込む形態が多いことから、「プレス金型とプラスチック射出成形金型の製作ができる人材の養成」を柱に据えて、職業能力開発促進法に定める普通過程の普通職業訓練、機械系精密加工科の基準に沿って学科および実技内容の検討を行った。
 カリキュラムは、総訓練時間が1,560時間(45分を1時間として計算)で、そのうち学科4割、実技6割の配分とした。
 特に実技では、機械加工に必要な基礎的技能の習得から金型を製作し、その金型を使って製品を成形するまでの一連の技能を習得させることを目標とした。
 企業側からは、全般的には基礎基本をしっかり教えてほしいが、生産管理や品質管理については単なる学問ではなく、生産現場で実際に取り組んでいる内容を中心にしてほしいと要望があり、また、学校で対応できない内容については、企業内の機器を使って従業員が指導する形で協力したいという申し出があった。


表1 カリキュラムの概要
分  類
科 目 名
時間
分  類
科 目 名
時間
学科
普  通
社会、体育
86
実技
基  礎
コンピュータ操作基礎実習、製図基本実習、安全衛生作業法
170
基  礎
機械工学概論、電気工学概論、力学、機械材料、製図、測定法、安全衛生
130
機械加工
測定及びけがき実習、NCプログラミング実習、切削加工及び研削加工実習、機械加工実習、精密加工実習、手仕上げ実習
316
機械加工
工作機械、機械工作法、切削加工・研削加工法、精密加工法、NC工作概論
158
金型・成形
金型工作法、プラスチック材料、プレス機械、プラスチック成形機械
106
金  型
金型設計実習、プレス金型製作実習、プラスチック金型製作実習
320
製造管理
生産工学概論、品質管理
52
総  合
職場実習、課題実習
160

 2007年度は、企業からの従業員派遣4人を含む11人の訓練生が入校し訓練を実施した。
 指導体制は、正規職員1人、非常勤専門職員(週30時間勤務)1人の2人が中心となって指導を行い、専門性や企業側の意向によって、品質管理・生産管理52Hとプラスチック金型設計20Hについて部外講師にお願いした。

3. 連携の取り組み

 宮古市では、2007年4月に宮古地域の産業を総合的に支援する「宮古市産業支援センター」を宮古市産業振興部の中に組織し、その事業の一つとして、金型技術科への地域企業による学外講師の派遣、工場施設の借用、インターンシップの実施等の支援を行うこととした。
 こうした支援を受けて、2007年度実施した内容は表2の通りである。
 さらには、宮古市民が金型技術科に入校し、卒業後に宮古・下閉伊地区の関連産業に就職した場合に、入校料と授業料の二分の一に相当する額(6万円が上限)を訓練生個人に補助する制度も新設し、2007年度卒業生11人中6人が適用を受けた。
 一方、当校でも、金型技術科が招聘した部外講師の授業内容を企業側に情報提供して従業員の参加を募るとともに、従業員の基礎教育のための夜間講習の実施や訓練用機器の貸し出しなどを、宮古市産業支援センターと連携して実施した。


表2 企業と連携して実施した授業

 また、2007年9月と2008年3月に地元自治体や企業の方々に集まっていただき、訓練状況を説明し、今後の進め方について助言をいただくなどの意見交換を行った。

4. 金型の製作とトライ

製作したプレス金型
 当初からの目標であった、金型製作に関しては、4月から11月上旬まで、測定や機械加工、NC加工の基礎的訓練を実施し、11月中旬からプレス金型製作実習に取りかかり、12月中旬に完成することができた。
 プレス金型は、3工程の順送抜き型で、構成部品の製作を11人の訓練生で分担し、1組製作した。
 さらに、訓練生個々の作業内容を毎日把握して全体の進行状況の取りまとめることや、製作が難しい部品の発注も訓練生の分担とした。

表3 進行状況一覧

 1月下旬からは、射出成形金型の製作に取りかかった。射出成形金型は、技能検定射出成形作業の課題と同形状のものが成形できる金型とし、プレス金型製作と同様に訓練生が各部品を分担して製作した。2月いっぱい製作し概ね仕上げることができたが、各部品の相対精度を調整する時間がなく製品を成形するまでには至らなかった。
 3月上旬、完成したプレス金型をプレス機械に取り付けて製品の打ち抜き加工を行った。

 
製作したプラスチック射出成形金型
 
プレス加工製品

5. 終わりに

 2007年度の訓練は、全てが手探りの状態で取りかかったが、地元自治体や企業の協力によって初期の目的であった、金型を製作し、その金型を使って製品を成形するまでの一連の技能の習得について一定の成果を得ることができたと考えている。
 また、19歳から38歳までの就職希望者6人全員が地元の金型関連企業に就職することができた。
 今年度は、実習の時間配分やスケジュールを見直し、プレス金型、射出成形金型の何れをも完成させ、製品の成形を目指すとともに、宮古市産業支援センターが企業の従業員向けに開設する講座に訓練生を参加させるなど、昨年度以上に地元自治体や企業との連携を強化して、地域ニーズにそった訓練の実施を目指したいと考えている。