1. 公共民間労組組織化の経緯
伏見清掃労組が誕生したのは、1990年に従業員の一方的な解雇問題が勃発したことからでした。当時の七飯地区労への駆け込み相談がきっかけとなり、センター地区労や公共民間労組の組織化に先駆的な役割を果たしていた函館市職労のアドバイスを受けて、町内のごみ収集運搬委託業務をしていた(有)伏見清掃の従業員6人で労働組合を結成し、単独組合として当時の七飯地区労に加盟することになりました。運動としては、地区労の組織内地域に結集しながら劣悪な賃金を少しでも上げようと、賃金労働条件の改善から進めてきました。しかし、会社の経営は町からの委託料に大きく依存していることから、従業員の賃金労働条件は町からの委託料によって左右され、会社との労使交渉によって利益を従業員に分配させるだけでは一定の上限があり、限界が生じてきました。
このため、毎年12月から始まる町の新年度予算編成時において、地区労から町に対して、委託料の特に人件費等の適正な算出を求めた要求書を提出し、委託料総体を少しずつではありますが増額しながら、一方では伏見清掃労組と会社との労使交渉によって、従業員の賃金労働条件の改善を図ってきました。
このような状況の時に、自治労が公共サービス民間労働者の組織化方針を掲げたことで産別上部団体を持たないことによる組織・運動・財政の限界性を克服し、あわせて職場は異なるものの、同じ地域で共に公共サービスを担っている労働者という立場から労連形式での自治労加盟を単組内部で議論し、1995年の町職労定期大会において提起しました。
定期大会では、町職労組合員から様々な意見が出されました。定期大会終了予定時刻を大幅に超えながらも議論は延々と続きました。公務員の組合では、首切り・解雇問題に直面した経験は無く、民間労働者の直面する解雇問題にどこまで我々の組合が責任を持ち対処できるのか。安直に加入させることは無責任ではないかという議論が続きました。このままでは何時まで掛かるか予想もつかない事態となったとき、ある一人の組合員から「町内で同じ公共サービスの仕事をしているのに劣悪な賃金労働条件で働いている仲間がいることをはじめて知った。見て見ないふりではなく、知った以上は改善するために町職労として取り組むのは当然ではないか。今、ここに困っている人がいるのであれば、みんなで力を合わせよう!」という発言がありました。
この一言からネガティブだった会場全体の雰囲気がポジティブに変わり、この時、新たな課題に向かっての自治労七飯町労働組合連合会(七飯町労連)が誕生しました。
2. 臨時非常勤職員組織化の経緯
1996年に町立養護老人ホーム「好日園」は老朽化による建替え計画が進められていました。運営経費の節減から建替え後には民間委託が予定され、正職員の退職不補充、臨時職員による定数確保が行われていました。
当時、全職員34人のうち臨時職員が半数を占めていましたが、法人への運営委託計画の進展にともなって臨時職員に雇用不安が募り、1997年3月に町労連に臨時職員がはじめて加入することになりました。
このような状況で、町労連は運営委託反対、直営堅持を基本に数度にわたり当局と交渉を行ってきましたが、運営委託を阻止することは困難であるという苦渋の決断をすることとなり、今いる臨時職員の雇用を守ることに方針転換し交渉を進めました。
結果として、今いる臨時職員について、①受託法人の職員として優先的に採用されるよう町として側面的に支援する。②役場正職員のうち、寮母・調理員・栄養士・看護師については、異動の有無について本人の意向を尊重するという二点の最終回答を得て、運営委託を認め1998年7月1日に社会福祉法人ななえ福祉会に身分移行しました。臨時職員は、同日をもって全員受託法人の正職員として採用となりました。
職員の雇用主としての責任は役場から受託法人である「ななえ福祉会」となったため、同日夜、ななえ福祉会職員で自治労ななえ福祉会労働組合を結成し、あわせて賃金労働条件が措置費や補助金等、国や町の政策に大きく左右されることから七飯町労連への加盟を決定し、町労連の定期大会で加盟承認されました。
当初、賃金労働条件、職場環境改善等に町職労から執行部三役も入り、団体交渉しておりましたが、今では自分たちだけで当局との交渉もできるようになりました。
2005年には、指定管理者制度移行の検討・協議もされましたが、町労連としての団体交渉と平行して、執行委員長が職員代表として委員になっている行政改革推進委員会での協議・検討を重ねた結果、指定管理者制度の対象施設から外すことで決着し、町から施設(建物)を譲渡され、2006年4月1日より運営委託から完全独立した純民間施設となりました。ななえ福祉会労組は引き続いて七飯町労連として運動を続けています。
七飯町労連は、伏見清掃労組、ななえ福祉会労組の公共民間労組と労連を組むことで、地域における信頼関係が構築され、以降一部事務組合である南渡島衛生センター労組、社会福祉協議会労組を組織化し、直営の給食センターの町臨時職員にあっては町職労への組合加入を勧め組織拡大を図ってきました。
3. 賃金労働条件改善のたたかいと入札制度
純民間職場の伏見清掃労組では、町労連加盟から5年間、町から会社への指導や町労連から委託料算出における適正な根拠をもった人件費算入の要求、町労連執行部三役も同席した会社との団体交渉などにより、給与表の公表や人勧によるベースアップ、定期昇給の確保など一定程度の改善が図られました。
しかし、時代はリサイクルの促進やダイオキシン対策、公共事業の減少によってごみ処理問題がクローズアップされ、町内にもごみ収集運搬事業への新規参入事業者が出現し、これまでの一社随意契約から2004年度には競争入札制度が導入されることになり、会社側は低価格競争を余儀なくされてしまいました。
結果、職員の月額賃金一律10%削減と年間一時金4ヶ月のうち1ヶ月分が削減されました。幸いにして委託業務は落札できたものの、小規模の中小企業で就業規則をもって社会保険加入など法令遵守している会社にとって、事業に新規参入しようと初年度の入札において破格の低価格入札競争を強いる入札制度は今や限界に達してしまった感があります。
七飯町の場合、ごみ収集運搬業務委託については、パッカー車の減価償却を5年と定め、入札をしてから後の4年間は随意契約となっておりますが、基本的に初年度に算出された人件費は据え置きで、燃料費などの変動分のみを翌年度以降見直す形となっています。ですから、職員数や職員の年齢構成が高いか低いかによって採算の厳しい会社と、そうでない会社が出てきます。そして、町が算出基準に従って算出した予定価格から競争入札によって落札額が大幅に低くなった場合は、5年間落札額を元にした人件費で据え置かれてしまうことになってしまいます。
本来、競争入札は社会的な秩序をもって法令遵守と地域性を勘案した上での公正・中立な条件の中で執行されるべきであり、労働者が生活できないような低賃金や社会保険の加入など、法令を遵守せずに低価格競争をするということはフェアではありません。
4. 自治体契約と予算の適性執行
自治体の予算については、地方自治法に定められていますが、会計年度独立の原則として、会計年度は、毎年4月1日に始まり翌年3月31日に終わるものとする。各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって、これに充てなければならないとなっています。
また、歳出予算で款項目節のうちの節を例に出しますと、1報酬から始まって、2給料、3職員手当等、4共済費、5災害補償費、6恩給及び退職年金、7賃金、8報償費、9旅費、10交際費、11需用費、12役務費、13委託料、14使用料及び賃貸料、15工事請負費、16原材料費、17公有財産購入費、18備品購入費、19負担金、補助及び交付金、20扶助費、21貸付金、22補償、補填及び賠償金、23償還金、利子及び割引料、24投資及び出資金、25積立金、26寄附金、27公課費、28繰出金というように支出する全ての理由が分類できるように区分されています。この区分された節によって予算執行の整理がされていますが、これを性質別の支出区分にすると、人件費や物件費、維持補修費、扶助費、補助費等、公債費、投資的経費etc...と分類されます。
これは地域にとって満遍なく様々な事業者・住民に、予算があらゆる事業、福祉サービス等で公正に振り分けられるように考えられたものだと思います。地域における経済循環が地方自治そのものの根幹を成しているからだと思います。
そして、それぞれの節区分で支出されたお金は、例えば人件費の2給料や物件費の7賃金、投資的経費の15工事請負費であっても、経済循環の中では、最後には労働者の賃金として人が使うお金になるのです。ですから、自治体の公契約と予算の適正執行は、経済論で考えることであり、社会経済はお金の循環によって成り立っているということを改めて考えてみるべきだと思っています。
本来、国や自治体は経済を円滑に循環させることが責務であって、仕事の上で民間職場であったとしても、公務職場であったとしても、また、正規職員だからとか、臨時非常勤職員だからといっても、生活している社会の中で役割分担しているに過ぎないだけだと思います。予算の支出科目は違っても、社会経済の持続の上では、同一労働・同一価値でなければならないものだと思います。
住民から税金という形で集めたお金を、その年度に契約して予算執行している私たち自治労組合員の仕事はとても責任が重いものです。如何にしてルールに沿った公正で公平な契約システムを構築するか。適正な予算執行ができるか。このことは自治体の公契約にとって重要な問題であり、課題でもあります。
5. 公契約条例の制定
公共サービスにおける委託業務の代表として、(有)伏見清掃のようにごみ収集運搬業務を担っている公共民間事業者は全国どこの自治体にもあると思います。
七飯町労連は、伏見清掃労組における賃金労働条件改善のたたかいの経過を踏まえ、委託料積算から無秩序な競争入札による落札額の減、労働者への賃金抑制という悪循環が進めば、公共サービスの社会的価値や地方における経済環境に及ぼす影響は計り知れないということを痛切に感じてきました。
そのために、公契約条例の制定が必要と考え、2002年から公契約条例の検討を進めてきました。自治労における「社会的価値の実現をめざす自治体契約の提言」を参考に自治労道本部において作成された「公契約における社会的価値と賃金労働条件等確保に関する条例」制定を春闘要求として取り組みのスタートを切りました。
これを受けて、当局でも契約業務のある各担当課長による検討と課長会議による議論、町労連では地区連合推薦町議との協議等、それぞれが具体化に向かって議論を進めてきたところですが、全国でまだどこにも無い条例ということで、その議論は慎重にならざるを得ませんでした。
公契約条例の議論が進み、より現実的になってきたところで、契約や労働関係の法律との整合性、原則論など、理論と現実のギャップが大きいことに困惑してしまいました。
地域限定の入札制度もありますが、あまりに狭義にしてしまうと逆に回りの他市町村から地元の事業者が排除されてしまうことも想定されます。
6. おわりに 自治体の今後の方向は
七飯町では、2006年3月に町長選挙が行われ、七飯町職労が公共民間労組と労連結成をした当時の執行委員長であった都市建設課長が、これまでの組合運動と行政経験から、「住民の視点で、住民とともに住みたいまち、住み続けたいまち“七飯町”」をスローガンに8つの公約を掲げたたかいました。
その重点施策として、地方自治の原点である自主自立のまちづくり、住民参加・行政と住民の協働をめざした拠り所としての「まちづくり基本条例」と、地元発注・地元調達・地元雇用を優先し、地場産業の育成・地場賃金の底上げを図る「公契約条例の制定」を訴え当選しました。
法定協議会を設置して進めていた隣町との合併も破談となり、少子高齢化時代に向かってこの町をどうするのか、その方向性を新たに打ち出さなければならない状況となりました。そこで私たちは改めて地方自治の原点を見つめ直すことにしました。
そして、職員の有志によって「まちづくり公開自主講座運営委員会」を立ち上げ、「まちづくり基本条例」策定のために1年をかけて、住民と職員の自主的な学習の場(資料参照)をはじめて企画しました。役場の担当課長(管理職)が講師となって、11回のシリーズとして毎月連続開催しました。講師となる管理職も日頃の仕事ぶりが評価されますし、参加する町民や町職員は役場の担当課ごとの日頃の業務や施策など、直接意見交換できる機会となりました。また、情報の共有化を図ることで、町民とともに町としての存在価値を検証し、まちの将来ビジョンを見つめ直す場になりました。
こうした取り組みを経て、2007年に参画・協働・自律のまちづくりを進めていく「七飯町まちづくり基本条例」を制定することができました。
また、地域の経済、定住対策、まちの存続を考えるとき、どうしても必要となってくるのが、安心して暮らすための公平な公共サービスにおけるシステムの構築だと思いました。そのために、「七飯町の公共事業等の実施に関する基本条例(案)」(公契約条例)をたたき台に公契約条例策定に向けた取り組みを進めています。
庁内の課長からなる指名選考委員会をベースにした検討委員会で条例案が議論され、条例案は煮詰められてきましたが、まだ充分に地元事業者や商工会などの関係者との調整が整っていません。残念ながら説明不足の感はぬぐえない状況なのです。
当初の条例案では、社会的価値として、できれば賃金労働条件も明確に条例に盛り込みたいと考えていましたが、議論を重ねる中で具体的な実効性を鑑みたとき、やはり現行の法令や条例等を遵守する理念・志を掲げるとともに、町民・事業者が公正で公平な透明感のある入札制度は、参加する者全てがコンプライアンスを重んずることで成立するものであると再認識しました。
今、七飯町の公契約条例は、「七飯町まちづくり基本条例」とともに、町の政策・まちづくりの理念として条例提案の時期を模索しています。
私たちは、自分自身が地域住民であり、町民との連携・強化、信頼関係の創出はあたりまえのことだと思っていますし、いつでもその視点を持ち続けるために自治研活動に積極的に取り組んでいます。
これからの分権型社会を迎え、地方自治体の存続をかけ、地域での世代間・経済の循環と環境保全、そのことが安心で安定して暮らすためのまちづくりのキーポイントであると確信しています。
住民福祉の向上につながる政策は、住民であり、そして職員でもある私たち自治労組合員から発信していかなければ自治体としての存続価値はないと思っています。
今、私たちが住んでいるふるさとの優れた環境を、「次代を担う子供たちに引き継ぐこと」は何よりも大切なことではないでしょうか。 |