外国人労働相談の場合は、労働問題の相談と生活相談が混在して窓口によせられます。労働問題に付随する問題としては、在留資格問題、消費者問題、家族関係(離婚、子弟の教育問題、DV等)、医療等まで幅広い内容の相談がもちこまれます。
これらは、通訳さんの日本における生活体験から身につけた経験・知識、専門相談員の法律知識、一般相談窓口との連携等で対応しています。
3. 広報手段
外国人労働相談の広報に関しては、商工労働部作成の外国人労働相談広報用のチラシを市町村等の行政機関、県内の国際交流協会、領事館、日本語学校、大学等に配布依頼しているほか、県のホームページ上に掲載しているほか、定期的に発行している県の国際課の外国籍県民向け広報紙に掲載する、外国語新聞(たとえば、インターナショナルプレス)に掲載依頼する等によって行っています。近年では、とくに中国語に関して、インターネット上の広報を見て相談依頼してくるケースが急増しています。
また、上記のような、公的な広報手段とともに、外国籍県民間の、口コミが有効です。地域社会での繋がりを把握、活用して広報に努めています。
4. 地域ユニオン/合同労組等との関係
神奈川県内には、ほぼ県内の各地域に個人加入可能な合同労組があります。外国人労働者が多く居住、就労している地域の合同労組は、外国人労働者の間では「ユニオン」として、その存在を広く知られています。ユニオンでは、通訳を置く、手配するなどして、労災、解雇等の外国人労働者の問題に積極的に取り組んでいます。
県の外国人労働相談窓口が、合同労組に外国人労働者を誘導することはありませんが、県の相談担当者と、県内各合同労組との間では、情勢交換会等を開催し、情報・意見の交換を行っています。
また、神奈川県国際課では、多言語で診療を受けられる医療機関のリストを作成し、医療通訳派遣ボランティア事業を実施しています。外国人労働者からの、労災・職業病および私傷病休職等に関する相談に際して、医療機関での言葉の問題で困っている場合には、これらのリスト、窓口を紹介しています。
なお、県内には、医療保険に加入していない外国人労働者の診療を互助的なシステムによって受け付けている診療所があり、多言語での対応が可能となっているようです。
5. 外国人労働相談の現状と問題点
(1) 外国人労働相談の変容
1992年4月に開設された神奈川県の外国人労働相談に寄せられる相談内容は、日本に来日する外国人労働者の置かれている状況に応じて、刻々と変化してきました。
相談窓口開設当初は、就労を許されない短期滞在の在留資格(いわゆる観光ビザ)や日本語学校に通うための就学生の在留資格でありながら、実は就労目的での来日で、不法就労している者などからの相談も多くありました。
その後、いわゆる日系人の受け入れがすすみ、中南米からの日系人にかかる相談が増加したことから、県はスペイン語相談窓口の増設等で対応した。日系人向けの相談窓口は地域に定着し、労働相談のみならず「よろず相談ワンストップ窓口」として機能しています。
中国語労働相談に関しては、以前は技能の在留資格の中華料理コック、国際結婚による日本人の配偶者等の在留資格で来日した者等の相談が多かったのですが、近年では、これらに加えて、外国人の研修・技能実習制度に関する相談、中国人のIT技術者(技術の在留資格)にかかる相談が急増しています。
他方、①言葉の壁にために労使間でコミュニケーションを欠いて紛争が生ずる例がすくなくないこと、②労使双方が法令・制度に関する知識・理解に乏しいことからトラブルとなっていること、③労務管理において労働者の人格権に配慮を欠く言動があって労働者が憤慨している相談などの傾向は、この間、一貫しています。
(2) ブローカー介在と人身拘束・足止策
労働基準法(以下「労基法」)第5条は強制労働を、同第6条は中間搾取をそれぞれ罰則付きで禁止している。また、職業選択の自由・転職の自由を保障するため、労働契約の期間制限(労基法第14条)、賠償予定の禁止(労基法16条)、前借金相殺の禁止(労基法第17条)、強制貯金の禁止(労基法18条)などを定める。日本人からの労働相談に関してはこれらの相談というのは必ずしも多いわけではないが、外国人労働相談においては、これら人身拘束・足止策禁止規定に関する相談が多いことは特筆すべきことです。
まず、送出国(外国人労働者にとって母国)で、いわゆるブローカーが介在し、労働者から多額の紹介手数料を取っていることが増えている。手数料は、送出国の賃金水準からすると年収の数年分におよび、ほぼ全額を借金している例が少なくない。
また、日本において2004年の労基法改正により、労働契約の期間制限が緩和され、最長1年から3年まで可となったことも影響してか、当初から3年といった継続勤務を約して来日している例も増えている(とくにIT技術者等)。さらに、中途退職等に関して、高額の違約金が母国でのブローカーとの間で規定されているケースもあります。
これらの借入金、中途退職制限にかかる約定に、それぞれ母国の家族等が保証人となっており、事実上、外国人労働者の足止め策として機能しています。
日本国内で使用者との間でこのような約定をしていれば、前述の労基法違反、あるいは職業安定法違反ということとなろうが、なにぶん、送出国側で、ブローカーとの間での約定であり、労基法の適用範囲との関係でも、これらに関して行政が、事後的に指摘・助言等を行うことが問題解決につながらないジレンマがあります。
また、母国側のブローカー役と日本国内の雇い主が密接な関連(たとえば経営者が一致していたり、子会社である等)がある場合、雇用することそのものよりブローカーとして手数料を得ることが主たる目的なのではないかと思われるケースもあります。
(3) 間接雇用・不安定雇用と外国人労働者
中南米からの日系人は、定住の在留資格で来日する例が多く、日本国内での活動に制限がないことから、製造業等の事業場で就労するケースが多い。この場合、業務請負会社、派遣会社経由の、いわゆる間接雇用形態で、現場に赴く例がほとんどである(相談の窓口では、真っ先に派遣会社経由かどうか確認している)。間接雇用であるがゆえに、労災隠し・労災飛ばし等のトラブルが数多く相談に持ち込まれます。
また近年増加傾向にあるIT技術者等も大半が派遣会社、業務委託会社等で雇用され、顧客の元に送り込まれて就労している。なかには数社が介在していて2重派遣どころか多重派遣となっている例もある。また、派遣先を確保しないままで来日させ、派遣先がみつかるまで研修と称して待機させている期間について、最低賃金ぎりぎり、あるいは最低賃金を大幅に割り込む賃金しか支払わない例も多い。
さらに、外国人労働者の多くは、比較的短期の有期労働契約で雇用されており、常に雇止めのリスクにさらされている。また、「有期雇用である」イコール「正社員ではない雇用形態」として、処遇も低く抑えられている。以前は、日本人に比べて処遇が低く抑えられているという労基法3条関連の相談もあったが、現在では、労働市場が日本人労働者と分断され別個のルートとなっている例も多く、国籍等を理由とする賃金差別等に関する相談はかえって減少しています。
近年、日本では、不安定雇用一般に関していわゆる「ワーキングプアー」の問題として取り上げられ、2008年のパートタイム労働法改正や、今後の派遣法改正等につながったが、外国人労働相談においては、不安定雇用、中間搾取、処遇格差の問題は、開設当初からの古くて新しい問題であるといえる。
(4) 研修・技能実習制度
入管法上、研修制度は、相手国の人材養成・社会経済の発展に貢献するため、日本の技能・技術・知識を諸外国に移転すること等を目的として設置されている。さらに、1993年4月より、研修により一定水準以上の技術等を習得している外国人について、引き続き一定の期間を就労可能とする技能実習制度が導入された。
この研修・技能実習制度が、日本におけるいわゆる3K(きつい、汚い、危険)職場の人手不足を補うものとして、本来の目的とは離れて、低廉な労働力確保策となっている。この数年来、神奈川県の外国人労働相談窓口では、研修生、技能実習生の相談が数多くよせられている。本来禁止されている研修期間中の時間外・休日労働、全期間を通じて長時間労働、研修・就業中の負傷、時間外・休日労働についての割増賃金の不払い等に関する相談が多い。
研修・技能実習にかかる相談では、県の窓口で事業主に事情を聴く「あっせん」や労働基準監督署への申告などトラブルが外部化すると、事業主・実習生受け入れ団体(事業組合等)側が直ちに研修・技能実習を打ち切って、外国人を帰国させる例があり、相談対応で悩みとなっています。
6. 今後に残された課題
(1) 啓発活動の充実
神奈川県では、毎年、労働関係の法令・制度を紹介する啓発資料として「労働手帳」「労働問題対処ノウハウ集(リーフレット)」を作成、配布していいます。
外国人労働者向けには、以前は、多言語で「外国人労働手帳」を数年毎に作成・改訂していたが、予算の関係と度重なる法令改正への対応が間に合わないことから、数年前から作成していない。その代わり、ノウハウ集の中で相談の多い事項(労働契約、賃金、解雇、雇止め、労働時間、休日、年休、懲戒、雇用保険、社会保険、労災等)について翻訳したものを配布している。労働関連法令や社会保険等に関する最新の啓発資料の作成・配付に関して、外国人労働者からは、「外国人労働手帳」の復活を望む声が多く寄せられているが、まだ実現に至っておらず、今後に残された課題です。
(2) 相談体制の維持と行政機関間の連携
行政のスリム化の流れのなかで、神奈川県の労働相談事業も拠点の統合・集約化が進んでいる。他方、中長期的な労働力不足のなかで、外国人労働者が今後も数多く来日することが見込まれることから、今後も、通訳、専門相談員を配置した外国人労働相談の相談体制の維持を図ることは重要である。
また、労働相談に当たる職員においても、外国人労働者にかかる法令、制度、相談内容の特色等を十分に理解して相談に臨むための、体系的な研修の充実等が望まれる。さらに、外国人労働相談は、労働問題のみならず在留資格や生活全般に関わるものも少なくないことから、市町村や国(労働局、ハローワーク、労働基準監督署、社会保険事務所、入国管理局)との協力、情報の共有といった連携を進めていることが危急課題となっています。
(3) 法令の整備・取り締まり強化
前項(2)で検討したように、近年、外国人労働者の就業にあたって、ブローカー介在や、強行法規違反が少なくない。これらについて、入国管理局や監督機関での取り締まり強化、強行法規違反に関しての厳罰を期したい。また、送出国においてのブローカー介在に関しては、受け入れを禁止するといった、法令の改正が望まれる。
既述の通り、外国人労働者にかかる問題の多くは、非正規雇用、間接雇用、有期の不安定雇用といった問題を背景にもつものが少なくない。同一労働同一賃金といった雇用平等の実現なしには、外国人の処遇の改善を図ることは困難である。真の雇用平等をもたらすべく、関係法令の見直しを期したい。
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