【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ統合分科会 地域の公共の力を探求する

日高管内各町における北海道からの権限移譲の実態と課題


北海道本部/自治労北海道日高地方本部・自治研推進委員会

1. はじめに

 現在国は、地方分権改革推進委員会において、「国から都道府県へ・都道府県から市町村へ」の権限移譲の議論を進めており、「分権改革」「道州制」「市町村合併」が関連付けされながら進められている。そのような状況で北海道においても、現在道州制と併せ地域のことは地域で決めることができる「地域主権型社会」を目指しており、その一環として地方自治法に基づく条例による事務処理の特例制度(地方分権一括法により創設)を活用し、国が進める地方分権改革を先取りした権限移譲を2006年度より進めている。
 合併新法や地方分権改革推進法が失効を迎える2010年3月以降の小規模市町村(概ね人口1万人以下)のあり方は、現在第29次地方制度調査会において議論されているが、依然として不透明な状況である。「このままでいい」としている訳ではないが、「一律ではなく多様性」こそが自治体に求められるべきとも考えられる。そのようななかで市町村・都道府県の実情を省みず「自主・自立」「地域の裁量を高める」といった御旗のもとに一方的な権限移譲が行われつつ、基礎自治体である市町村が合併新法失効後にいわゆる「西尾私案」に掲げる「特例町村制」のような「事務配分の限定」「都道府県や近隣市町村による事務の代行」がされるようなことがあれば、市町村・都道府県ともに職場の混乱や結果として住民サービスの低下も懸念されるところである。
 一連の流れは北海道が進める「支庁制度改革」とも密接に関連してくる。支庁制度改革について北海道は「市町村の体制が整うまでの間において、過渡的に取り組む改革であり、今後、更なる市町村への事務・権限移譲や市町村合併の進展などに伴い、いろいろな市町村のかたちが想定されることから、支庁は、それまでの間、市町村をしっかりサポートして参ります」としているが、具体的な体制整備には言及しておらず、「権限移譲に関するフォローアップ報告書」においても同様の現状である。受ける市町村はもちろん北海道としても課題が山積しているといえるのではないだろうか。
 日高地本自治研推進委員会としては北海道が進める権限移譲に関するアンケート調査を各単組向けに実施し、すでにスタートしている権限移譲の問題点やメリット、管内各町間の温度差等をできるだけ現場段階から整理・検証していくこととした。

2. アンケート項目について


Ⅰ 権限移譲までの経過について
 ①検討のキッカケ  ②担当課での検討状況  ③職員への理解や移譲に係る準備
Ⅱ 移譲された権限の行使状況
 ①項目数  ②行使回数
Ⅲ 現状と課題について
 ①権限移譲のメリット&デメリット  ②今後移譲が必要と思われる項目  ③権限移譲における率直な考え方

 項目数は敢えて少なくしつつ、別途考え方のヒントを示しながら自由記入をメインにするようにした(実のところ回答内容についてはある程度予想されたが…)。結果については道のフォローアップ報告書と付け合わせることとした。

3. 多くの権限を受けている町担当者の見解

 アンケートとは別に、町村では全道で一番権限移譲を受けている新ひだか町について、移譲に係る窓口である企画課担当者(前書記長)に全庁舎的な状況や今後の課題を伺ったところ、次のとおり本音ともいえる率直な見解が出された。


★町長のトップダウンにより移譲を積極的に受けていくこととなったが、実際には課長職の考え方に温度差があり、そのことが受ける項目数の課ごとの差異につながっている。基礎自治体として本当に必要な権限と思われるものを移譲できた訳ではない。
★多くの権限移譲を受けているが、他町が受け入れていつつも当町では受けていないものもある。例えば農地法関係は開発行為が多い地域事情を勘案し、敢えて移譲を受けていない。町とは一段違う立場での判断を道に求めている。
★浄化槽(単独・合併)保守点検関係等、道が地域実情(対象数や町の業務体制)を考えず一方的に下してくる事例がある。担当課では本来受けたくても、町の体制がとれないことで再検討のうえ断念したものもある。
★パスポート発給については、当初総合支所での発給ができず、一部住民について支障が出た。現在は総合支所でも発給しているが、事務量自体は総体として若干重みを感じている。権限移譲後は当町住民分は当町のみが発給できる制度となっているため、当町だけではなく道のパスポートセンター(札幌)でも発給ができるようなシステムが望ましい。これは札幌へ就学している子どもが住民票を移していない実態による。
★道は事例自体が少ない権限を町村へ積極的に移譲しようとしており、当町も「少ないなら」という観点で受け入れているものもあるが、実際に権限を行使する事例が発生した場合に町としての判断材料やノウハウが乏しく、正しい権限行使に不安がある。道によるフォローアップについても不透明な要素が多い。特に町村・道双方ともに担当者が異動した際のリスクにどう対処するか。職員研修を強化したとしても結果として判断の遅れや誤った対応につながってしまう可能性は否定できない。また、権限について関連業者が関わってくる場合は、「業者におんぶに抱っこ」という事態がやむをえず発生してしまう可能性がある。
★2006年に多くの権限移譲を受けた際は、同時に行われた2町合併の関係もあり若干のハレーションもあったが、多くの権限は事例が少ないこともあり大きな混乱を招くには至らなかった。移譲については一段落したと考えている。
★道より交付金措置がされているが、単純に「1回の事務×時間×単価」のような考え方を中心として算定されており、権限によっては町の業務執行上の実情に合っているとは言えない。特にパスポート発給は顕著である。
★実際に移譲を受けた権限についての検証はどこかの段階で必要である。特に人員数も減らされてきているなかで引き続き対応しきれるのか。
★現在の道の移譲メニューにない権限で移譲を希望するものを各課に対して募ってもなかなか出てこない。職員数を減らされ職場状況が厳しくなるなか、各課ともすでに受けた権限について手一杯・手探りの状態ではないか。

4. 道による前述の町へのインタビュー骨子


【町長】
★2町合併を機に職員力も強まることから、将来の自分の町の姿を想定して必要なものは積極的に受け入れることとした。
★受け入れた権限については、実際に役場内で精査して「この程度なら受けられる」という判断をした。
★職員もいろいろと仕事を覚えて対応する必要性から、視野を広く持つなど意識改革という面ではプラスになったと考える。
★他市町村ともう少し足並みを揃えるべき。特別交付税など優遇策があれば。
★産業振興や住民福祉の向上などに関して、私たちの手元で決裁や対応できる権限は数多く移譲を受けたい。「住民あっての町行政」が第一である。
★当町は管内でリーダーシップを取るべきまちであろうと思っており、そういう意味でも積極的に権限移譲を進めていきたい。
【担当部局】
★パスポート以外は少件数で、メリット・デメリットが現段階で具体的に出ていない。
★職員には事務量の増が先行的な負担感につながった面もあるが、「住民サービス向上のために」話し合い、理解を得た上で権限を受けてきた。
★パスポートについては昨年約300件の実績があり、大きなメリットがあったと考えるが、「道のパスポートセンター(札幌)でも発給を受けられるようにしてほしい」という声はある。
★真の意味で地域に密着した権限の移譲を進めるべきだと思うが、「何が本当に地域に密着した権限で市町村がやるべきなのか」という点を道と市町村とでもう少し議論しながら進めていくべきと考える。

 道によるインタビュー内容と担当者の率直な見解にはやはりというべきか若干の乖離が存在するようである。「合併を機に職員力も強まることから必要なものは積極的に受け入れる」という点と、「受け入れた権限については『この程度なら受けられる』という判断をした」という点は、ともすると相反する内容と受け止められる。
 また、「住民サービス向上のために話し合い理解を得た」とされていても、実際には「担当課の理解を得ることができた権限の移譲を受けた」ものであり、権限移譲担当部局と実際に権限行使に関わる部局との相当な温度差は、積極的に受けた町においても歴然と存在する。首長による単なるトップダウンでは担当課との温度差が埋まり切らないと思われる。この点については道が行ったフォローアップ報告書には示されていないものである。

5. アンケート結果について

(1) 権限移譲までの経過について
 道は特例条例を設ける段階で、市町村に対して移譲するメニューを提示・打診し、市町村側が受ける権限を選択し、協議した上で移譲を受けるという「手挙げ方式」を採用している。日高管内各町は打診を受けた段階で概ね総務・企画サイドが担当課に打診し、担当課が検討する形がすべての町で採られている。
 しかし、移譲そのものを積極的に捉えるか、消極的に捉えるかで移譲の状況に差が出ているようである。「道(支庁)から頼まれてることもあるし、周辺町と相談しながらとりあえずいくつか考えるか」という意識も一部の町ではあったのではないか。道に包括的な指揮監督権を留保した事務委任制度により市町村が実際に事務を担っているもの(北海道漁港管理条例等)や、すでに移譲されている権限との関連で道の強い要請により全道一斉に移譲したもの(浄化槽法や鳥獣保護及び狩猟の適正化に関する法律)について権限移譲を受けたケースがやはり圧倒的に多い。
 また、道から「事例が少ないから」と打診され、町側も「それならば」と受けたケースもあれば、逆にノウハウ不足を懸念し受け入れないとした町もある。
 担当課との事前の調整は概ね行われているが、程度には温度差がある。支庁における説明会への参加にとどまらず職場内説明会を実施した町もあれば、職員個々への説明がほとんど行われておらず十分な理解を得られたとは考えていない町もある。また、従前から行っている業務が本格的に権限移譲となった場合は特に職員理解や移譲準備自体を行っていない町が多い。
 一方、旅券法の規定に基づくパスポート発給について2町が権限移譲を受けているが、いずれの町も積極的な姿勢と議論により移譲を受けている。
 なお、権限移譲について組合として関与し当局との重点交渉課題とした単組は特にない。

(2) 移譲された権限の行使状況
 当然といえば当然であるが、パスポート発給は行使回数が多い。行っている2町ともに人口約80人に1人の割合で発給しており、明らかにサービスの向上につながっている。
 また、その他においては従来より実質事務を担ってきた権限が多く、また、ほとんど行使実例がない権限もある。
 一方、農地法関係の権限については、実例が多いと思われる町での権限移譲が行われていない。これは、開発行為が多いなどの地域事情を勘案し、基礎自治体ではない道による判断を敢えて求めていることによるものと思われる。

(3) 現状と課題について
 「住民サービスに直結するものはサービス向上に成果を得ている」というメリットが指摘されつつも、「メリットもデメリットもない」という意見が大半を占めた。前述したが従来より実質事務を担ってきた権限か、ほとんど行使実例がない権限が多く、現状で事務量が増大していないという点が理由として挙げられよう。
 パスポート発給については、権限移譲によるサービス向上が顕著に現われたが、受けた町においてはその事務量が若干重みとなっているように思われる。
 今後移譲が必要と思われる権限については、「福祉・医療分野について必要」という意見が出たものの、概ね「特にない」とされた。また、「道が道州制や地方分権にどう対応していくのか。また、道の役割や市町村へ対するフォローアップが不透明な状況では町として積極的な権限移譲の検討を進められない」という厳しい意見も見られた。
 また、多くの単組から指摘されたのは、「財政や人的体制が厳しい状況で権限移譲に次々と対応できる状況ではない」「現状の財政的・人的措置が事務量に比較する措置であると考えにくい」「事例が少ないまたは専門性が高い権限は市町村に権限を移譲する必要はない」といった点である。これは、ノウハウの蓄積不足や市町村における職場状況の悪化を背景とした不安からきているものと推察する。

6. まとめ

 全国すべての都府県で北海道と同様の特例条例による権限移譲が行われており、一部では合意形成のないままの移譲が進められていることを考えると、道が進める「手挙げ方式」は一方的とは言えないものの、市町村に対する「打診」の現状からすると今後の移譲の進め方に注目していく必要がある。
 自治労北海道本部は道が特例条例による権限移譲を具体的に進める際に道との交渉を2回配置し、「拙速な方針策定は行わず、市町村の合意形成を図ること」を申し入れてきたが、実際には道と市町村との意思疎通は図られることはなかった。単組段階でも「拙速な事務権限の移譲は要求しないこと」「移譲要望の際は組合と協議すること」という要求書提出を取り組み、市町村の態勢が不足しているなかでの一方的な移譲を許さない姿勢を基本としてきた。
 実態はというと、一部を除き各町ともに「あまり考えられていない」ままスタートし、メリット・デメリットがハッキリしないまま現状に至っているというのが、当局・組合とも実態ではなかろうか。地方分権改革や基礎自治体のあり方、支庁制度改革と関連した議論を進めることが必要である。
 退職不補充等による人員不足で職場状況が悪化するケースが増え、目前にある業務を遂行することに終始するなかで権限移譲の功罪が見えなくなっていることも考えられる。このような状況下で、現在行われている特例条例による権限移譲に加え、5月28日に地方分権改革委員会が第1次勧告で示したような権限移譲が一方的に下りてくるような状況は、市町村職場の更なる悪化を招くばかりでなく、正しい権限行使が困難となる危険性をはらむことになる。すでに指摘されているが、専門性が高く実例がほとんどないような権限行使は例え研修が行われていたとしてもノウハウ不足が行使への不安につながる。権限行使に専門業者が関わるようであれば尚更であり、業者のいい様にされてしまう可能性は否定できない。そうなれば本末転倒である。
 いわゆる「補完性の原理」を基本とした地方分権や権限移譲は必要と考える。しかし、それは分権に対応する態勢や財源に裏打ちされたものでなければならない。また、それは市町村合併だけで解決されるものではないのではないだろうか。今回のアンケートは比較的簡素なものとなったが、引き続き権限移譲をはじめ更なる検証が必要である。
 最後になるが、道職員は決して道の都合だけを考えている訳ではない。2006年度より権限移譲が進められる前段で実はさらに多くの権限移譲が検討されてきたが、その中には市町村の現状を踏まえると難しいと支庁担当課段階で判断され、メニューから削除されたものもある。いまこそ立場を超えて地方自治を考える必要がある。
 また、現在の地方分権改革推進委員会の議論からすると、市町村・都道府県・国それぞれの役割が完全に変わる方向にあり、第29次地方制度調査会で議論されている小規模市町村のあり方とも相まって、地方自治のカタチがどう変化していくのかを全体で考えていく必要がある。