【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅰ統合分科会 地域の公共の力を探求する

地域力を探る
~まちづくりNPOの実践~

北海道本部/別海町職員組合

1. NPO設立の背景

(1) 改革とは? 協働とは?
 全国的な地方財政難により、各自治体において「行財政改革」、「協働」という言葉が流行語のように使われるようになった。
 ところが、実際に首長が具体的な改革策を市民に充分に示せない自治体は多いのかもしれない。
 本町も例外ではない。
 2000年度をピークとするまで、豊富な予算を背景に建設事業や福祉政策に力点を置いてきた本町の職員は、補助事業や法令に沿った言わばマニュアル仕事を遵守することで仕事の質を求められてきた。
 ところが、「住民参加・協働」、「情報公開・情報共有」、「行財政改革」等といった突如現れた新たな政策ニーズに対してフレキシブルに対応するのは現実的に難しく、なかなか政策が立案されない。
 本町のような開拓から歴史の浅い地域も、先進的な自治が進む地域も、同様にメディアやインターネットを通じて、情報は提供される。
 それ故に、役場の事情とは裏腹に、具体的な施策を示せない本町が使う「行財政改革」や「協働」という言葉は、パフォーマンスの範囲であったり、単なるサービスの下請けのように町民に捉えられているのかもしれない。
 別海町は、2003年度から第2次行財政改革大綱を策定。毎年度の推進計画に沿って改革を推進している。しかし、組織が改革に向かってアクセルを踏み込んだという実感はない。
 2004年度からは「行財政改革町民会議」を設置し、2ヵ年に亘り町民からの提言が成された。ただし、議事録をみても議事の大半は行政からの説明の時間に費やされ、実質わずかな時間で各テーマを議論したものに過ぎず、お集まり頂いた会議員の経験や見識をしっかりと引き出せたのか疑問が残った。
 一方、町議会では「行財政改革特別委員会」が構成され、議会からも行政に対して具体策を求めらた。
 このとき強く感じたのが、町全体が評論や議論にとどまっているという実態であった。また、いずれの計画、提言においても「協働」という言葉が使われているが、具体策は示されなかった。
 一体、何時になったら「改革」をするのか。いまやっていることは「改善」に過ぎないのではないか。
 一体、「協働」とは何であるのか。具体的にどのように「協働」を実践するのか。
 そうしたことが私自身よくわからなかった。

(2) 違和感
 リサイクルの担当であったとき、分別説明会に奔走した。広い町内に点在する地域会館に多数の町民に来て頂き、ともにリサイクルを推進した。各自治会や女性団体、子どもたちが独自の取り組みを始めた。
 この時、「町民の力」を知り、協働のヒントを得た。
 一方で、根室管内4町は広域のごみ処理施設の建設計画に着手。建設後の膨大なランニングコストの負担が簡単に予想された。「ごみを分別すれば、町民の皆さんの負担は抑えられます」という説明は嘘にさえなる。建設反対の姿勢を貫きたく、起案もしたが無力だった。
 町民のよく分からないところで、町民に多額の負担を強いる仕組みづくりが進められる実態に強い違和感を覚えた。
 この時、住民参加の必要性を感じた。
 ある自治会から、午後10時に分別説明会に来るよう要請があった。乳質改善の勉強会の終了後、深夜にも関わらず最後まで説明を聞いてくれた。
 妻の実家は漁師であり、早朝からの仕事が続くが、頻繁に夕方、会議や研修等が開催されることもわかった。
 このように、酪農家や漁師が夜間等に経営努力を重ねる一方で、町職員はこのままでよいのだろうか。自己研鑽を重ねているだろうか。
 自分自身にも違和感を覚えた。

(3) 勉強会
 以上の背景から、若い職員を集めて1ヵ月に1度学習会を開き勉強をすることにした。皆で条例の解釈や運用を学んだり、先輩を招いて財政等の勉強をした。
 しかしながら、途中で個人のスキルアップのためには、一方的なレクチャーではなく、企画の立案や実践、成功体験等によって、意識改革や政策立案能力が促進されるのではないかと考えた。
 また、町職員の基本として、町民のニーズに対して敏感な環境が必要ではないかという議論がメンバーの一部にあった。議論の結果、民間人と一緒に活動しようという気運が高まった。

(4) NPO設立へ
 その頃、行政は「イベントを民間主導で開催」、「特産品のブランド化や販路拡大」、「地域情報の発信」等のいくつかの政策方針を示したが、誰が民間でその役割を果たすのか、その受け皿までは確認されていなかったと思う。
 そこで、個人的には地域の情報発信活動を基本とした「まちづくりNPO」を設立し、実践主体としての活動を目的にしようと考えた。
 しかし、こうした目的は役場職員としてのNPO活動に求める目的であり、当然役場職員の中でも「勉強をしたい」として参加するものもいる。民間人にまでなれば、またNPOに求める目的はさまざまとなる。
 よって、ワークショップを行い、めいめいに活動目的等を自由に提案していただき、200近い内容を整理した。

2. NPO法人の設立

(1) 活動目的
 ワークショップを経て、整理された活動目的は、次のとおりである。(定款より抜粋)
 第3条 この法人は、別海町を含む道東地域の住民及び観光客等に対して、同地域の自然環境、特産品等の地域の魅力、並びに地域住民、行政、事業者が保有する情報を効果的に活用、発信をする事業を行い、別海町及び近隣地域のまちづくり、地域活性化、産業振興等に寄与することを目的とする。

(2) 活動内容
 特定非営利活動の種類は次のとおり。(定款より抜粋)
 第4条 この法人は、第3条の目的を達成するため、次に掲げる種類の特定非営利活動を行う。
① まちづくりの推進を図る活動
② 経済活動の活性化を図る活動
③ 情報化社会の発展を図る活動
④ 子どもの健全育成を図る活動
⑤ 環境の保全を図る活動
⑥ 保健、医療又は福祉の増進を図る活動

(3) 事業内容
 事業内容は次のとおり。(定款より抜粋)
 第5条 この法人は、第3条の目的を達成するため、特定非営利活動に係る事業として、次の事業を行う。
① 別海町ポータルサイト構築・運営事業
② 地域ブロードバンド化推進事業
③ 行政パートナーシップ推進事業
④ リサイクルタウン推進事業
⑤ 情報技術を活用した子どもの健全育成支援事業
⑥ 情報技術を活用した保健、医療、福祉サービス支援事業
⑦ まちづくりの推進に寄与する人材の育成事業
⑧ イベント開催、支援事業

(4) 法人の設立
 以上の活動目的等を掲げて2005年10月に設立総会を行い、2006年3月に認証された。当時としては別海町で2番目のNPO法人であり、根室管内では10であった。(なお、道内で本年7月末現在で1,321のNPO法人があるが、根室管内では未だ11の法人にとどまっている。)
 NPO法人の名称は、従来進められた行政中心の自治をA面とすれば、住民主体のまちづくりをB面としその空間に人々が集い協働するという運動の趣旨から「Collabo'B'Space」とした。

3. 活動の状況

(1) ブロードバンド整備事業
 NPO法人設立後、すぐに着手したのがブロードバンド整備事業であった。
 所謂、ディジタルディバイド地域であった別海町は、光回線等を町内一円に敷設すると40億円近い事業費が試算され、足踏みしていた。
 しかし、高速無線LAN方式の登場により1億円の事業費での整備が可能であることがわかったため、役場担当課は2004年度に事業要望をしていた。事業査定でニーズがわからないという理由で保留となっていた。
 2005年度になってもニーズ調査の様子がないため、NPOで調査を行った。
 早急に行った理由は、事業査定に間に合わせたいためであり、この辺りは役場職員でなければ、わかりにくい役所の事情であり、役場職員が市民運動に携わるメリットと言えるのかもしれない。
 さて、私達は調査時に単なるニーズ調査としなかった。
 事業費とランニングコストについて、説明してから、アンケートの設問に入るようにした。事業費が高額であることをしっかり説明した。
 2005年12月1日に、役場を表敬訪問し、農村や学校現場の悩みを説明し、ニーズ結果を報告した。
 結果、別海町は事業化を決定。
 2006年7月に総務省の交付金の交付が決定した。決定の理由に、当法人がデザインしたポータルサイトの先見性が評価され、ブロードバンド整備後の地域の利活用の促進が期待された。運動の効果は、これにとどまらず、小規模市街地にADSLが整備され、別海市街に光回線が整備された。

(2) ポータルサイト構築事業
 2005年10月の設立総会時に大手通信キャリアの開発部門のエンジニアが手弁当で参加された。当法人が考案したポータルサイトデザインに関心を寄せていただいた。
 しかし、そのエンジニアによると事業費が高額になるとのことであり、補助事業を活用し、構築しようと考えたが、申請しても採用されなかった。
 そこで、せっかく準備した企画であったため、別海町に提案することにした。
 現在の、別海町地域ポータルサイト「べつかいテレビ」の中に、当法人が提案したサイトデザイン要素が含まれており、ブログシステムがいち早く採用された。現在では、アクセス数が1日あたり900人を超え、11,000PVを超えた。

(3) フリーペーパー発行事業
 ホームページだけでは、やはり情報の発信者も受信者も限られるため、農協の青年部長を編集長として、2006年2月に情報誌の発行を始めた。
 広い町内で、町民が町民に情報を発信したい場合、町内のあちこちを走り回り、頭を下げ、ポスターを掲示するほかない。町の広報誌も気軽に情報を載せられない。また、近隣の町の民間事業者が発行するフリーペーパーが頒布されるが、本町の商工業者には広告料を負担する体力がない。
 こうした現状から、みんなが気軽に情報を出せて、かつ地域の町内消費の助けになろうという目的で、広告も記事も別海町限定というフリーペーパーを毎月発行している。
 当初は1,000部だったが、現在は5,000部発行している。

(4) イベント企画・支援事業
 メンバーの中に、当初、「イベントでまちを盛り上げたい」という意見が多数あり、イベントに積極的に参画している。
 「No Fun,No Gain」をいつも大切にしたい。
 ・別海町こどもまつりの共催
  20リットルの巨大プリンを子どもたちに披露
 ・まちづくり講演会
  自治体職員や大学教授を招き講演会を開催
 ・別海町ウキウキ 木育ランドの協力
  別海町の40以上の団体、232人のボランティアスタッフの中に参画。
 ・映画「107+1天国はつくるもの」上映
  「動けば変わる」がテーマのドキュメンタリー
 ・地場産品PR
  「別海町民が初めて知る別海の味」
 ・別海町パイロットマラソン大会の協力
  ゴール写真とラップタイムをランナーに郵送
 ・ミュージカルの開催
  劇団ふるさときゃらばん「地震カミナリ火事オヤジ」の
  公演(昨年11月26日実施)

(5) ホームページの製作
 3社のホームページを手がけた。

(6) ホワイトスイーツプロジェクト
 一昨年、牛乳の生産調整が農家に深刻な打撃を与えた。
 酪農家のメンバーから現状の説明を聞く中から、大型プリンをつくろうという企画が生まれた。
 最初は、事務所のまきストーブで実験的につくった。
 20リットルの大型プリンが完成。
 この情報を知った別海町中央公民館から、例年開催している「こどもまつり」の共催の依頼を受けた。
 当然、衛生的な調理室で再度チャレンジ。またも、大型のプリンは完成し、子どもたちは喜んで食べた。
 それまでの「もっと牛乳を飲もう」というような運動だけでなく、消費者の嗜好や食文化に合わせた運動が必要なのではないかと考えるようになった。
 そこへ、釧路港まつりを盛り上げたいという釧路市民から、ビッグプリンの噂を聞きつけて参画の依頼があった。
 ところが、法令上ビッグプリンは難しいため、法令上もクリアできる「ホワイトスイーツフェスタ」を企画した。
 根室管内7社、釧路管内1社の事業者にご参加を頂き牛乳・乳製品を原料としたスイーツ等を出品した。
 事業は成功を収めたが、翌日には釧路市内での大型店舗での開催が決定した。
 食料を扱う大型店舗の中での開催ということで、私達は、企画の質を高めたいと考え、各地に取材に走った。
 その中で、いろいろな問題が浮かび上がった。そうした課題の解決を目的に、販売だけでなく、牛乳消費運動を確かな経済効果まで結びつけるため、事業の内容の幅を広げて、「ホワイトスイーツプロジェクト」として、改めて運動を展開することとなった。
 例えば、「美味しいものだけ取り扱うこと」、「生産者や作り手のこだわりを伝えること」、「媒体資料をつくること」、「商品開発や流通にチャレンジすること」等の方針を定めて運動を続けている。
 釧路市内の大型店舗での開催は、昨年の5月の開催で3回目となっており、全体で5回フェスタを開催した。
 特に、一昨年の11月は、延べ50人のボランティアスタッフにより、7,000品の商品を販売した。
 結果的に、北海道の産消協働行動実践事例集にも紹介されることとなった。また、複数の事業者で、別海牛乳を採用頂くことができた。
 また、販売だけでなく食のブランド開発のため、北海道フードフェア2006に菓子店との共同開発によるプリンを出品した。
 現在は、販路開拓等の活動も行っている。
 当然にして、事業の課題も抱えている。今後、どのような展開をするかはまだわからない。毎回、開催後に反省が見つかるというのは、食に携わる活動としては当然なのかもしれない。

4. 地域力を探る

 まちづくりNPOの実践は、地域力を探るよい機会となった。
 法人格は有していないがNPOとしての活動団体は、多数地域に存在することがわかった。
 では、自治体が今後、協働のまちづくりを進める上で従来提供していたサービスを「官から民へ」の名のもとに、素直に移行できるのかというと非常に難しい状況にあることもわかった。
 さらに、NPOの活動は資金面での不安が大きいこともわかった。例えば、当法人の活動は収支とも年間600万円弱であった。(2006年度決算)
 当法人以外の活動団体の現状もわかった。
 「子育て支援」、「環境保全」、「介護予防」等の各課題に対応する地域力がどの程度のものか確認できた。

5. コミュニティ・シンクタンクの可能性

(1) 別海町の新・ご当地グルメの研究開発
 昨年末、本町の人口が20年後に現在の2/3にまで減少する推計を確認し、青ざめた。
 全国的に人口が減少するため、何らかのアクションによって増加傾向に逆転させることはきわめて難しいことから、如何にして交流人口を維持するか、その対策は急務となっている。
 2007年末に、リクルート北海道じゃらんのヒロ中田編集長がJAべつかいの生産者組合主催の講演会に招かれた。
 2007年12月のある日、講演会の内容に刺激を受けた酪農青年から相談を受けて、別海町の新・ご当地グルメの開発を検討することとなった。
 いま思えば、決して簡単なミッションではなく、数年前の私であれば、そのような相談にのっても、どのように成功に導くか想像することができなかったと思うが、これまでのNPO法人の活動によって培われた地域内のネットワークや財源確保の手法等を活かすことで何とかできるのではないかという自信があった。
 交流人口の増加策に本腰を入れて手をうたなければならないが、近隣の自治体のように有効な政策や取り組みがみられないため、使命感のようなものすら感じていた。
 本年の1月から3月にかけて、地域の有志とともに地域活性化の手法について議論を繰り返した。
 そこで、まずもって食による地域活性化に取り組むこととなり、2008年4月24日、「別海町の新・ご当地グルメを1000人でつくろう会」を設立し、5月8日には、地域の料飲店の一部に説明会を行い、ヒロ中田氏による講話を受けた。
 2008年7月25日のデビューを控えている状況にある。

(2) 商品開発
 新・ご当地グルメの開発と同時に商品開発にも取り組んでいる。Tシャツやミルクジョッキ、また調味料や冷凍食品等の研究開発も進めている。

(3) コミュニティ・シンクタンクへ
 新・ご当地グルメの研究開発や商品開発は、NPO法人としての活動に位置付けているわけではなく、私が個人的に参加し、事務局としてキーセクションを担っている。NPO法人は、その活動の内容をフリーペーパー等によって地域に情報発信するという役割を担う。
 ボランティア要素の強い活動については、NPO法人として活動し、経済効果を狙う活動については、より経験豊富で機動力の高い人材による異業種の連携組織が必要であると感じている。
 そこで、コミュニティ・シンクタンクを今年度中に組織化する予定である。
 観光政策においては、本町は確かなデータや手法をベースに議論されることがなかった。具体的には、官民の情報交換や役割の押し付け合いに留まっていたり、「道の駅」にしても経営者同士のパワーゲームや地域間の駆け引きであった。
 よって、コンサルティング等により確かなデータを地域に公開したうえで議論を喚起する等、その中核となる働きをコミュニティ・シンクタンクが担う。

6. さいごに

 これまで馬車馬のように活動してきたが、2008年に入って、やっと地域における私自身の役割がみえてきた。
 基本的に自治体職員というのは、民間に比べると情報や人のネットワークが不足であり、地域で活動をすればするほど未熟さを思い知る。
 行政が「協働」や「行財政改革」を実践するにあたり、政策によっては、地域に受け皿が必要であったり、キーパーソンが必要であったり、さまざま地域に求めるものがあろう。いわば、地域力を探る目的で地域活動を3年前に始めたが、その目的が果たされただけでなく、思いのほか自己の成長につながった。
 当然にして、地域にはまだまだ魅力あふれる人材がいるだろうし、その出逢いによって、さらに自分を磨く機会を大切にしたい。
 地域の住民の期待に応える自治体職員になるため、今後も自己研鑽を惜しまず活動を続けていきたい。