7. 取り組みの成果
(1) サービス水準の確保
一部追い風もありながらこれらの取り組みの結果、力及ばず、中央乳児院の民間移譲を阻止することは出来なかった。その過程に於いて職員の意識改革、外へ向けての取り組み、そして世論への訴え、これらの取り組みがもう少し早ければ、と悔やむことしきりである。しかし、この取り組みにより引き出せた成果も多い。
○ 現在の道立中央乳児院で行われているサービス水準の確保。
○ 第三者評価を受審し、評価結果を公表する。
○ サービス水準の維持・向上を図るため法人、道、児童相談所、里親会関係者、選定委員会のメンバーなどを構成員とし、定期的に協議する場を設ける。 |
上記が、北海道との確認の中で約束された項目である。また、新たに乳児院を運営することとなった福祉法人でも「現在の乳児院のサービスの質を下げることのないようにやっていきたい」としている。
社会的養護を必要とする子どもの問題は、特別な子どもの問題なのではなく、核家族化、少子化、地域社会の脆弱化、精神疾患の増加、薬物依存、貧困、格差社会……と言う現代社会が抱えている問題そのものである。「考える会」を通してのこの取り組みは、健全で他者を思いやれる子どもを育てることは、明日の社会を創ることであり、そのために大人はあらゆる知恵を出し合う義務があり、かつ行政はその旗振り役にならなければいけないと言うことであった。そのための投資が必要であり、人もお金もかけなければならないのだと言うことである。
(2) 考える会について
設立当初は、中央乳児院の道立道営を継続することを目的に、里親をはじめとする関係者の支援をよりどころとし、「北海道における乳幼児の社会的養護を考える会」のシンポジウムを開催した。その中で、多くの子どもの養育にかかわる人たちからの意見を頂き、「会」の存続を求められた。また、新聞報道やテレビによる報道で、より社会的養護に対する道民の関心が高まっていた。そこで、乳幼児に限定せず、広く子どもに視点を当てた社会的養護を考える活動が求められていることから、「北海道における子どもの社会的養護を考える会」に名称変更をした。
(3) 考える会の会員と事業
子どもの養育にかかわる人たちの広範さから、施設グループ・里親グループ・子育て支援グループ・有識者グループの4グループ制を取り入れることとした。さらに、各グループに数名のリーダーを置き、その中から代表・事務局などを選出することとした。そして、先ずはグループ内での活動報告・声を会報を通して共有し合い、相互理解につとめる事業を展開している。
現在中央乳児院は、施設グループにおける中央乳児院チームとして活動しており、事務局もつとめている。2008年3月31日現在、総会員数は101人となっており、地域別では札幌市が7割を占めているが、全道に及んでいる。
(4) ネットワーク作り
現在、様々な視点から、子どもに関する活動をしている団体が数多く存在している。しかし、大同小異ゴールは一緒と感じる。それらの活動の、横の連携の希薄さを強化する必要に対しての多くの意見があった。その役割を、「考える会」に求められていた。
そこで上記グループ制を踏まえ、子どもの養育にかかわる人たちが、普段から顔の見える関係作りを心がけ、施設職員・里親・子育て支援というような、それぞれの分野を超えて交流・情報交換をすることを通して相互理解を深め、社会的養護を必要とする子どもに愛着形成に配慮した、とぎれぬ愛とぬくもり(連続した家庭的な環境)を保障できるよう、幅広いネットワーク作りに重点を置くこととした。
(5) 考える会の課題
社会的養護を額面通り考えていくと、ネーミングの大きさから膨大な事業展開を要求され収拾が付かなくなる。そこで、社会的養護の範囲を一度整理し、身の丈にあったモノにする必要がある。また、現在事務局運営は、中央乳児院グループが担っている。しかし、本年度をもって移譲が決定しており、事務局としての拠点が無くなることと職員が分散してしまうと言う問題を抱えている。
一組合活動の延長として出発した市民活動に対し、我々自治体職員として何処まで責任を果たせばよいのかという岐路に立たされているのも事実である。ネットワークの必要性と、そのコーディネートが主な役割であることが見えてきた「考える会」ではあるが、それも事務局という拠点があったればこそのこと。やはりここでも、自分たちの職域を守るだけ、という誤解だけは避けなければならないと考えている。
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