【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-①分科会 子育て支援と児童虐待

民営化提案から公立保育所の意義を考える
―― 仙台市公立保育所民営化提案への取り組み ――

宮城県本部/仙台市職員労働組合・保育所支部 横山 美幸

1. はじめに

 2008年7月現在、仙台市内には50か所(1分園)の公立保育所と68か所の民間保育所があります。1997年までは、公立保育所52か所、民間保育所22か所でした。1997年に仙台市から、5年間(1997~2001年度)の保育整備計画が提案され、公立保育所5か所の民営化も盛り込まれていました。1998年4月八幡保育所、2000年4月長町保育所(建物は根岸保育所分園(未満児施設)として存続)、2001年4月西多賀保育所の3ヵ所が、労働組合や保護者の反対にもかかわらずそれぞれ民間に移管されましたが、高砂保育所は公設公営を守りました。長町・西多賀保育所の交渉の中で、当面の決着として、待機児童が多い中、一万人保育体制の確保までは公立保育所の民営化は行わないとの確認がなされました。その後待機児童解消のため民間保育所の増設(10年間で46か所)が図られました。
 2008年3月の統計で、仙台市全体で11,616人の児童が入所していますが、4月1日で1,087人(報道機関により740人と発表)の待機児童がいることが明らかになりました。仙台市では、2008年度予定している1か所の民間新設園の開園だけでは解消は難しいとしています。7月現在の入所・待機の状況も、入所児童数が若干増えたものの、待機児童数も増加の傾向(7月1日現在1,220人)が止まりません。保育所がまだまだ足りないのが現状です。


2. 公立保育所民営化問題

 2006年11月、仙台市社会福祉審議会児童福祉専門分科会は、「就学前児童の子育て支援における今後の保育所の役割について」と題した報告書を出し、これを元に、2007年6月、仙台市は「今後の保育施策推進のための保育所の役割について(方針)」(案)を作成、パブリックコメントを実施し、最終的な方針を決めることが明らかとなりました。
 このような情勢を受け市職労では本部支部合同の「保育所民営化対策委員会」を設置、7月20日に第1回委員会を開催し、情報収集に努めました。
 8月16日から17日にかけて①原町・大野田保育所の保護者に対し説明会を開催する通知がされた。②組合に対し8月22日の団体交渉開催の要請があった。③8月21日仙台市議会常任委員会で保育所建替えの方針が発表される。等の情報が入りました。交渉については、8月29日に変更しましたが、8月25日の保護者説明会の開催前に、その内容が準備行為に該当するかどうかの確認作業が必要だとし、8月22日に支部への説明会との形で実施されました。内容としては、民間移行が決定したとの内容では無い事が確認されたものの、説明会でのやり取りを知る必要があり、各説明会を支部・本部役員が傍聴しました。このような経過の中で8月29日第1回提案交渉が開催されました。この提案に対し、市職労は交渉の前提として、労使合意前提、見切り発車、事前準備を行わないことの確認を求め、この提案が変更の余地のない「コンプリートされた提案」でないことを確認しました。
 「原町・大野田保育所の民間移行に伴う労働条件について」と題した提案は、原町・大野田保育所を建替えに伴い廃止し、社会福祉法人に設置・運営主体を移行し、それに伴う労働条件について協議したいというもので、移行期間は2009年5月(その後10月に変更)(大野田)と10月(原町)としていました。明らかとなった方針の中には、老朽化保育所の建替えは民設民営で行うことが打ち出され、今後10年間で、22か所程度の公立保育所を民営化する方針であることが、団体交渉の中で明らかとなりました。
 方針化の過程で実施したパブリックコメントでは、民営化に反対する意見が7割あったにもかかわらず民営化ありきの提案であることを指摘しました。

3. 提案内容に対する基本方針

 交渉で当局は、民間移行の理由として①多様な保育ニーズに対応する必要がある。②厳しい財政事情の中、効率性・柔軟性・機動力を発揮できる民間活力を活用する。としています。しかし、この提案は、①方針案策定から決定までの期間が短く、パブリックコメントで7割の反対があっても原案が変更されないなど、拙速な提案である。②来年以降の具体計画がない、行きあたりばったりの提案である。③仙台市の保育の将来展望が示されていない。④多様化する市民ニーズとはどんな内容か? また、仙台市は市民ニーズを把握しているとは言いがたい。⑤当局の考える効率性・柔軟性・機動力についてあいまい。⑥保護者のご理解を頂きながら、ご意見等を配慮しながらとあるが、どんな方法で、理解や配慮に対する了解を確認するつもりなのか? など、さまざまな問題があり、最終的には、仙台市の保育を民間に丸投げし、低賃金、不安定雇用労働者を数多く作り、保育の質をも低下させうるものであることです。
 市職労は2007年9月27日の定期大会において、「公立保育所民営化白紙撤回」の方針を決定し、その方針に基づき、取り組みを具体化してきました。①該当職場へのオルグの実施、②速報の配布、③保護者向けチラシの配布&民営化反対意見の募集、④組織内議員など市議会との連携、⑤今後の取り組みについての協議を行い、その協議に基づき、①団体交渉への多数の組合員の参加、②反対署名活動の拡大、③組合員はじめ、市職労で働く職員の学習・意見交換、④民間保育所で働く人との意見交換、⑤保護者や市民への宣伝や連携などが、それぞれ実施・準備がされました。


4. 運動の経過

(1) 団体交渉への多数の組合員の参加
 第1回提案交渉以来、延べ11回の交渉が行われました。第9回交渉までは当局提案内容の確認が行われましたが、未だ不明確なままです。第10回交渉は公募を強行しないようにとの申し入れ書の提出、第11回交渉は、当局の公募強行への抗議文の提出でした。各回、ほぼ100人規模の傍聴者が集まり、組合員の結集の姿を示すことができました。

(2) 署名活動の拡大
 2007年10月9日から「仙台市立保育所民営化の中止を求める要請書」の署名運動に、当該保育所保護者有志と共に取り組み、公立保育所の廃止・民営化の中止と、子育て予算の増額・私立保育施設への補助金の増額を訴えました。保育所各職場での職員・家族・保護者に対する取り組みをはじめとし、市職労全職場の他、労働団体等へも協力を求めました。一番町フォーラス前及び該当地域など5回の街頭宣伝を行い、2008年5月27日現在35,255筆の署名が集まり、3月7日、市長宛に保護者代表と共に提出しました。

(3) 組合員はじめ、市職労で働く職員の学習・意見交換
 ここ数年定期的に民営化学習会に取り組み、当局の提案以降は、2007年10月24日総決起集会、11月14日支部主催交流学習会、2008年2月22日民営化学習会、6月11日には抗議集会を開催してきました。また保育所職場オルグを2007年10月と2008年6月に、庁舎内交流オルグを2007年12月に実施してきました。原町・大野田保育所オルグは、2007年8月・2008年2月・4月・6月に実施、当該職場組合員との相互理解に努めてきました。

(4) 民間保育所で働く人との意見交換
 2007年11月14日の学習会への参加を呼びかけ、共に学習し、23日の「仙台市保育所民営化を考えるシンポジウム」において、意見交換を行いました。

(5) 保護者や市民への宣伝や連携
① 保育所全体の保護者との連帯
  チラシ配布を2007年9月・11月・2008年2月・3月・5月・6月に行い、仙台市当局の動きを知らせると共に、労働組合の活動を知らせる取り組みを行いました。原町・大野田保育所の地域に向けては、2月に実施しました。
② 原町・大野田保育所保護者との連携
  仙台市当局による保護者説明会に先立ち、市職労と保護者の懇談会を開催、また説明会の傍聴もしました。保護者主催の勉強会にも参加し、共に学習を進めました。両保育所保護者による市長宛の申し入れ書提出の際も、傍聴参加しました。
③ 市民への宣伝・連携
  署名活動の際チラシ配布を行い、さらに2008年7月13日、仙台市当局の事業者公募強行への抗議の主旨で宣伝行動を行いました。
  また、「公立保育所民営化を考える会」に対し、2007年11月23日の「仙台市立保育所民営化を考えるシンポジウム」に参加、2008年5月25日の「公立保育所民営化を考えるみんなのつどい」には市職労後援の形で参加しました。


5. 今後の取り組み

 保護者に向けた5回の説明会が行われ、仙台市は、保護者の「民営化反対」の声に「理解を求める」と繰り返し、事業者公募に向け、当局のスケジュール通り進めると断言。2008年5月28日、仙台市ホームページ及び県内社会福祉法人への郵送で、「公立保育所施設建替えに伴う私立認可保育所設置運営法人の募集要項」を公表し、事業者公募を強行しました。7月17・18日に公募受け付けがあり、原町3法人・大野田4法人の応募があったことが明らかになっています。公募の状況について、第6回保護者説明会が開催されましたが、情報の透明性を求める保護者に対して、難色を示し、更に「理解を求める」と繰り返す仙台市当局でした。
 市職労は、仙台市の「保育の将来像」も公立保育所職員の労働条件も、未だ不明確・不透明であり、第11回団体交渉において継続交渉を確認しており、「民設民営反対」の立場に立ち、今後も運動を進めるものとしています。また、来年度以降の提案についても、「継続交渉」の中で民設民営阻止に向け取り組みを確認しています。
 ① 民営化は安上がりな労働者を増やす大きな問題に他ならないこと。
 ② 仙台市のこれまでの保育行政をないがしろにすること。
 ③ 子どもにとって、大きな混乱や心の傷を残すことがありうること。
 ④ 保護者の保育所選択権・継続的な保育を受ける権利を侵害するものであること。
 以上のことなどをふまえ、公立保育所の存在する意義を明確化し、内部討論を行いながら、「民営化撤回」に向け、運動を進めます。


6. 最後に(公立保育所の存在する意義)

 2007年8月の当局提案以降、内部討議を重ね、団体交渉や、保護者や市民と連携した運動に取り組んできました。公立保育所民営化は、そこで働く者の労働条件だけではなく、利用者のためにある行政サービスにかかわる問題です。多様な市民ニーズに応えるため民営化が必要であると繰り返す仙台当局に対し、公立も民間もすべての保育施設が充実し、在宅の子育て支援も含め、仙台市全体の子育て予算の拡充を求め、今後も運動を進めることが必要だと考えています。
 公立保育所は、1960~70年代において、保育ニーズの増加に対応するために施設整備を進めてきました。特に障害児保育や朝夕の延長保育、児童虐待の防止、アレルギー児への対応などに先駆的に取り組み、蓄積したノウハウを、各種研修会などを通じて民間保育所に拡大してきたことをはじめ、子育て支援や地域活動へ積極的に取り組む等、全ての公立保育所で同じ水準の保育を提供するとともに市全体の保育の質の向上に役割をはたしてきました。また、必要に応じて加配等を行いながら重症のアレルギー児等の積極的な受け入れや、特別な配慮を必要とする児童一人ひとりの健全な発達を目指したきめ細かな取り組みなどを行い、現在に至るまで地域の身近な子育て支援施設として市の保育行政を進めてきました。
 ここ数年、就学前児童数は減少の一途をたどっています。しかし、保育所入所児童数は、毎年増加しており、2002年度14.8%だった入所児童の就学前児童数に対する割合は、2007年度には20.6%になっています。この間、一旦は減少傾向に転じたと思われた待機児童数も急激に増加し、2008年4月には1,000人を超えたことは、前段で述べた通りです。
 待機児童解消対策として2002年1月発足した「待機児童ゼロ対策室」も、目標値に近づいたとし、2005年3月で解消しています。しかし、対策室の解消直後からまた待機児童数は増加の一途をたどっています。このように待機児童数が増加する中、今求められるのは公立保育所の民営化ではなく、保育所を増やし待機児童を解消する対策です。
 またこの間、公立保育所の民営化を仙台市全体の子育て予算の確保の理由にしようとする仙台市当局に対し、公立保育所の果たしてきた意義を念頭に置きながら、民営化反対運動に取り組んで来ました。これまで培ってきた公立保育所の役割を再確認しながら、今後どうあるべきか討論を深めようとしているところです。その中でも私たち自身が、自分たちの保育を振り返り、周囲に向かって自信を持って発信できるよう、学習を深める必要性があります。
 10年前の経過があるとはいえ、また新たな時代背景の中での公立保育所民営化の波。私たち、子どもたちを取り巻く厳しい状況の中、地域の中で欠くことのできない存在としての子育ての拠点である公立保育所の存続を確信し、今後とも公共サービスのあり方、保育所の役割を、地域の中で市民と共に考えて行く運動を踏み出し、進めて行きたいと思います。
 保育所をめぐる問題は、民営化にとどまらず、保育所設置最低基準廃止に向けた動き、2009年度から告示化される改定保育所保育指針と、働く者だけではなく、そこで育つ子どもたちにも直接かかわる問題が次々と表面化しています。「子どもたちの笑顔輝く仙台市」を目指し、私たちも将来への希望を持ち働き続けられるよう、厳しい労働条件の改善を目指し、労働環境の整備にも取り組んでいきます。