1. はじめに
この数年来、「保育園の民営化」が話題にならない日がないくらい、ブームのように「民営化」は勢力を増してきている。
民営化の流れは、地域の保育ニーズや財政状況に違いがあっても、「職員の定員削減計画」に組み込まれ、「民間の方が安くて良い仕事ができる」と理由付けされている。しかしそれは果たして本当なのか?
2007年10月に名古屋市が出した「名古屋市保育施設のあり方指針」の中で、「アセットマネジメントの考え方も採り入れ、建て替えの必要性や手法などを早急に検討し、計画的に進めていく必要がある」とあり、今後の建て替えは「民営化で」という考え方が色濃く出された。
これを受け、公立保育園を利用している保護者からの不安の声が強くなり、職員も「今後、名古屋市の保育の質が低下するのでは」という危惧を拭いきれない。
その中で、私たち保育園に働く職員は、まさに「保育の現場」にいて、「民営化の内容や影響を様々な角度から検証していく」必要性を感じている。
そこでまず、名古屋市の公立保育園の現状を再確認し、問題点や課題を見つけることが必要であると考える。
2. 名古屋市の保育園の現状
名古屋市の公立保育園は、1948年~1983年にかけて125か所開設し、昭和40年代後半からの第2次ベビーブームによる出生児童数増加に対応し、急ピッチに建築されたため、現在築30年以上の保育園が75か所となり、老朽化への対応が緊急の課題となっている。
これまで、老朽化による統廃合は1か所、2007年度に実施された則武保育園の民営化を経て2か所の減となっている。
反対に、民間保育園では特別保育の実施が優先して進められた結果、保育ニーズへの柔軟な対応が可能となり、年々数を増やしてきている。
その中で、民間保育園に対しては名古屋市が、人件費の補助を行っており、同じ年齢なら同等の給与になる制度が実施されている。
しかし、職員の勤続年数が短い実態がある。労働条件等の検証を行う必要があると思われ、併せて保育環境の整備が望まれているところである。
3. 「保育の質」とは何か?
ある学者が「民間では若い職員が頑張って『質の高い保育』を行っているが、公立では、『経験=良い保育』という見方がされているが、本当だろうか?」と新聞に書いていた。
保育の質を、特別保育の実績のみとするならば、公立保育園は「コストが高く、生産性が低い」と言えるが、保育園は乳幼児が育つ場であり、「人格形成に大きく関係する何年もの期間を過ごす生活の場所」である。
「コスト」や「生産性」を第一に考えること自体、保育を一面からしか見られていないのではないかと、強い違和感を持つ。
特別保育を「安く」実施できている民間を「生産性が高い」と「評価」しているわけであるが、「保育」を「生産性」で評価できるものだろうか? という疑問をまず感じる。もちろん、人件費をはじめとする運営費では、職員の平均年齢が高い分、コスト高になっている。また、民間保育園ならではの特色も生かしながら、頑張っているところも多い。しかし、長年、名古屋市は公民それぞれの良さを生かしながら、共存してきたと言える。もし民営化が進めば、民間保育園の職員に対する名古屋市の補助は確実に増え、単純にコスト削減ができるとは言えないわけである。
このような状況を受け止め、公立の職員は反省すべき点、改善しなくてはならない点について考え、また逆に自分たちの仕事を次代に受け継いでいくことが求められているという視点で保育に取り組むことが求められている。
4. 公立保育園の特色
「あり方指針」の中で、「新たな取り組みへの意欲の高い民間保育園があり、また民間保育園で実施可能な事業は民間を優先して進めてきた」と書かれているように、公立保育園は、特別保育事業(一時保育、休日保育、病児・病後児保育)では民間よりも実施が遅れている。
しかしながら、公立保育園も経験豊かな職員が中心となり、保護者との信頼関係を特に大切にしながら、地域の子育て家庭に対する支援を長年行ってきた。
(1) 延長保育
年々実施か所を増やしてきている(2008年度で61か所実施)。地域の中の保育園で延長保育が受けられるようになってきた。
(2) 障害児保育
民間よりも認定外の受け入れを行っているのが実態である。乳児から入所した子の発達の問題に気づき、保健所や療育センター等との関係作りや具体的な育児の方法や保護者との相談・支援等を経て3歳児から認定される。
ただし、認定人数に限りがあるため、認定を行わない子どもも年々増えてきている。せめて、専門機関の受診だけでもと思う保育士と「認めたくない」保護者との葛藤を解決するのが「信頼関係」と言える。
一時期の不安や怒りを恐れて「伝えない」ことは、子どもの発達や生活に良いはずがない。多くの親子と関わってきた経験から「やはり今明らかにしておくべきこと」に勇気を持って取り組むのが、保育園の仕事である。
統合保育の理念の基に、互いを知り、理解し、思いやりの気持ちが持てる人格形成のための様々な手立てを実践している。時には、他の子どもや保護者とのトラブルも起こるが、その機会を捉えることが重要である。ただ、無駄なけんかやケガにつながらないように、十分な配慮、目配りが必要とされる。
(3) 給食・おやつ
年間290日以上完全給食と間食(手作りおやつが多い)を実施。アレルギー児に対しては除去食の提供を行っている。
(4) 虐待関係
現在、孤立した育児環境の影響から、自分の子どもに様々な形での虐待(ネグレクトが多い)が増えてきている。
その兆候に気づくのが、保育園であることが多く、必要に応じ、関係機関(保健所、療育センター、学校、民生委員、病院等)との連携も行っている。
具体的には、根気よく保護者の問題(悩み等)に親身になって耳を傾けることが第一であり、小学校に上がった場合も、学校との連絡を取ったり、下の子を優先して受け入れ、保護者が孤立しないように見守りを強化している。
これらの仕事が年々増えてきているが、子どもたちの成長を助けるためには欠かせないこととなっている。
(5) その他
また、民間保育園や幼稚園の環境に馴染めない子どもが転園する場合もあるが(年度途中もある)丁寧に受け止め、楽しく過ごせるよう、個別の配慮を行っている。
乳幼児期には、集団と個の両面を大事にする保育が必要であり、知識や技術の習得のための研修(園内も含め)を積極的に行っている。
公立保育園では異動があり、様々な保育観や方法を学ぶ機会がある。中堅職員は若手職員に自分の経験や技術を伝えていくことが大きな役割となっている。
保育、看護関係の学生の実習、中学生の職場体験、ボランティア等の受け入れも行い、名古屋市の財産として保育園は広く活用されている。
5. 公立保育園の民営化提案出される
こうした中、2007年11月16日に、子ども青少年局から「保育所(3か所)の整備計画について」が出された。早急に移転や改築などを進める必要のある3公立保育園を社会福祉法人による整備とし、千種台保育園、山田保育園は2009年度末、苗代保育園は2010年度末までとし、民営化を図るとの方針である。
この提案を受け、民生支部として緊急に組合員の集会を行い、意見集約を行うとともに、12月3日に子ども青少年局へ「要望書」を提出した。 |