(2) 当局による民営化強行をうけての逆提案
しかし、2005年9月に当局側は、「2007年4月に公立保育所2園を民営化する」と一方的な提示を行ってきた。この民営化提案は、就学前のあり方を示すこともなく、保育所のみでしか考えていない民営化であり、組合側としても反発を強めざるをえなかった。
【当局側が示した民営化のメリット】
① 多様化する保育ニーズに柔軟に対応できる。
② 待機児童の解消につながる。
③ 財政難であり、民営化する事で1園当たり1,000万円の削減につながる。
【組合側の考え方】
民営化を予定している公立保育所2園は、市内でも高層マンションの建設ラッシュや大規模宅地造成が行われ人口の急増地域に位置する公立保育所であった。また、この地域は、新しくできた街であり地域コミュニティーの構築もまだまだこれからの地域であったため、在宅の家庭では悩みを抱える親の割合が多い地域でもあった。このような地域にある公立保育所は、園庭開放等の在宅支援も積極的に行って地域との関わりも作ってきた保育所であった。このことから市民ニーズを捉え施策に反映してきたが、この公立保育所が担ってきた役割についても示されることなく、また民営化後の子育て支援ネットワークも全く示されていない状況であった。多様化する保育ニーズについても、公立保育所は「園庭開放」「延長保育」「土曜保育」「障がい児保育」等は民間以上に保育ニーズには対応しており、当局の言う「多様化する保育ニーズ」にも十分対応していた。待機児童の解消の為の民営化についても、現在の建物の床面積の増加はないままでの民営化であり、単に「建物の中に詰め込む」だけであることから、このような待機児童解消策はあり得ないと考えていた。
また、保育所だけでなく幼稚園に通う子どもや在宅の子ども達も含めての将来的な就学前のビジョンも全く示されていない。このような、民営化をすることが目的である民営化は反対であるとの考え方を交渉においても示した。
この時の当局側との交渉は、組合側が「今後の就学全体のあり方を考えた(就学前の将来ビジョン)うえでの民営化の位置付けを示せ」を主課題として交渉を行い、組織全体を考える総務部長、保育所が属する健康福祉部長、幼稚園が属する教育部長の三者と「民営化の位置付け」について話し合いを行ったが、当局側三者の話が全くかみ合わずに自分たちの置かれている各々の立場を主張するのに留まり、何一つ成果がないままに月日だけが過ぎていった。
当然組合側も「今後の就学前の将来ビジョン」について総論だけでは議論が深まらない状況があり、長年研究を積み重ねてきた成果として、具体案を示すことになりました。そして、民営化議論真っ只中の2006年1月に「本市における就学前支援体制整備に関する提案~子育て文化のルネッサンス~」を就学前に関わる組合提案第二段として提案した。この提案の基礎になったものは、「就学前を担っている保育士と幼稚園教諭が同じ視点で在宅支援も含めた取り組みを行っていく」事があった。しかし、幼保の組織一元化が組合としては提案書を作る上で課題となった。というのは、本市の給料表は保育士は行政職Ⅰ表、幼稚園教諭は教育職Ⅲ表を使っていたこともあり、この両者には差が存在していた。総論では、「保育士も幼稚園教諭も力を合わせ同じ視点で子ども達の為に在宅支援も行っていく」との考えはもちながらも、賃金問題となると、かなりの議論はありました。しかし、最終的には給料表は保育士の行政職Ⅰ表に合わせ、就学前(保育所と幼稚園)と子育て支援業務の組織の一元化をして、総合的に就学前の子ども達への施策ができる組織作りを核として提案を行った。
【提案書の主な内容】
① 基本的な考え方
・子育て支援を考えるときに保護者は、「子育ての仕方を教えてもらう」等、受身状態にならないように、『子育ては自分でやるんだ』と思えるような仕組み作り。
・親が子育てをするのが楽な事と、子どもが自ら生きる力をつけていく事とは別であるという事を考慮しながら公民協働の就学前の新たなネットワークの構築。
・この提案書の実効性を高めるために、正規職員数について基本的には増員を行わない。(欠員補充程度の増員とした)
・保育所・幼稚園を一つの就学前の施設と考え、幼保組織の一元化を行い幼保の人事交流が前提。
② 提案内容
・市内全ての保育所・幼稚園を3ブロック(中学校区)に分け、ブロック内の子育て支援関連施設と連携し、ブロック内の子育て支援の核となる施設として1園ずつ基幹型保育所として位置付ける。
→ このことによって、当局が提案をしている人口急増地域の保育所2園民営化のうち1箇所は基幹型保育所として公立として残す。
・基幹型保育所、子育てに関する各施設や関係機関との総合的な調整や企画をし、基幹型保育所ではできない事業等を行う場所として、基幹型子育て支援センター(就学前総合窓口)の設置。
・当局側の民営化のメリットとしている待機児童対策としては、私たちは民営化ではなく、各支援センターに一時保育機能を持たせる事や、本市の乳幼児の人口動態や次世代育成支援行動計画に「民間の新設保育園1箇所」と記載されていたこともあり(中長期的には待機児童は減少する)、短期的に幼稚園の空き教室を利用した幼児の幼保一元化により、待機児童の減少を図る。
・基幹型子育て支援センターの設置や基幹型保育所としての位置付け等により、正規職員の増員が必要であるが、このことについては一定の条件は付けながらの保育所1園の民営化や子ども数の減少している幼稚園の統合により、正規職員を確保。
このように、民営化や統合といった内容にまで踏み込んだ苦渋の選択をし、新たな就学前の組織の構築を行い、今まで保育所や幼稚園で培ってきた専門性等を在宅の子ども達や保護者を支援することで、園の数は減っても職域を広げる提案であった。
この提案書を提出した事で、組合側の考え方も明確に示し、交渉や要求書において当局側に「2園民営化する前に就学前のあり方を組合側に示し、我々の提案内容と突き合わせて協議すること。」と幾度となく要求したが、当局側は「提案内容は理解できるが、待機児童の解消は急務であり、民営化は進めていく」との態度は変えなかった。また、この頃になると、交渉においても内容的にも全く進展がない中で、当局側は保護者会への説明も始めた。しかし、今の公立の保育に不満のない保護者は突然の民営化話に反発を強め、この民営化の話し合いは泥沼化していった。このような状況の中で、2006年5月の横浜の民営化問題の裁判の判決もあり、当局側は民営化を1年延ばし、2008年4月、引き継ぎ保育の時間を多くとることとした。
|