【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-①分科会 子育て支援と児童虐待

院内保育所設置を目指して
~安心して子育てできる職場環境を考える~

島根県本部/松江市職員ユニオン・病院支部

1. はじめに

 私達の勤務する医療現場では、もともとの過酷な勤務環境に加え、研修医制度(注1)改革の影響による医師不足、7対1看護体制(注2の影響による慢性的な看護師不足などに伴った人員不足に起因する勤務環境の急速な悪化が深刻な問題になっている。このような厳しい環境下にあっても、診療報酬(注3)改定による診療のあり方や制度の変更に伴い業務量は増える一方で、恒常的に超過勤務を行わなければならない状況にある。また、医療安全対策や最新知識・技術を提供するために多くの研修会や委員会への出席は必須要件である。しかし、多様な勤務形態であるため、全てを勤務時間内の出席として取り扱うことは困難であり、夜勤明けや休日等の個人の時間を使って対応することも多い。医療現場スタッフは、慢性的な疲労・睡眠不足の中で「医療事故を起こしてはならない」という極限の緊張感の中で日々業務に当たっている。
 こうした病院の勤務実態の変化に伴い、女性は結婚・妊娠出産・育児をきっかけに離職し、男性はよりよい賃金・労働条件を求めて退職するなど、必要な人員が確保できないために診療科の廃止や病棟閉鎖、あるいは閉院に追い込まれる病院が増えてきている。病院の運営にとって人員の流出は死活問題であり、各医療機関は人員確保を喫緊の課題として位置付けて取り組みを始めている。松江市立病院においても、医師・看護師をはじめとする人員確保は重要な課題であり確実に対策を講ずる必要がある。
 昨年頃から、人員確保・離職防止への取り組みとして「院内保育所」が注目を浴び、すでに開設し効果を上げている病院もあることから、施設設置に乗り出す医療機関も出始めている。医療現場においては、その勤務の特殊性から、育児時間や子どもの急な病気に対応するための休暇を取得できにくい状況にある。また、超過勤務によって定時に保育所に迎えに行けず延長保育となり追加料金を支払うこともしばしばである。したがって「院内保育所」の設置は、医療現場における子育て支援としてより実効性のある対策であると考えることができる。
 そこで、松江市立病院の人員確保策として、あるいは、子育て支援や仕事と育児の両立支援策などの観点から、当院における「院内保育所設置」の有益性について、職員アンケート・視察を通して研究を行ったので以下に報告する。


2. 現 状

 島根県内では、島根大学医学部附属病院・益田地域医療センター医師会病院・出雲徳洲会病院などが最近院内保育所を設置した。
 当院でも以前から院内保育所設置を求める声はあったが、具体的な動きはなかった。3年前、新病院移転時にも設置の期待が高まったが、資金・設置場所の問題があり、具体的な検討がされないまま断念した経緯がある。
 2006年に当院の近くに夜間保育可能な保育所が開設された。他の保育所より延長保育の受け入れ時間が長いため、病院関係者だけでなく他の職業の利用者も多く、現在、当院の職員も10人程度利用している。しかし、新規の受け入れについては、他の保育所と同様に待機待ちの状態であり、利用者にとって利用しやすい保育所を探すことは容易なことではない。
 また、子どもが急に病気になった時には、さらなる苦慮が待ち受けている。当院に隣接する保健福祉総合センター内には、病後児保育(注4)「すこやか保育室」があるが、利用にあたっては、①利用定員は1日4人、②急な利用希望があっても診断書の用意など事前準備が必要である、などの不便さがある。加えて、当日の勤務変更が難しい病院職員にとっては、通っている保育所と病後児保育施設で利用を断られた場合、子どもを看るための休暇もとれず、他の解決策をみつけることは極めて困難な状況にある。

3. アンケート調査

 そこで、近年の厳しい職場環境と保育現状を踏まえ、改めて当院にも保育施設が必要であると考え職員にアンケート調査を行った。

(1) アンケート内容(資料1
 医師・看護師・コメディカル(放射線技師・検査技師・薬剤師・栄養士・リハビリスタッフ)事務職など596人に対しアンケートを配布し441人より回答が得られた。回収率73.9%。

(2) 結果(資料2-①~④
・職員の性別は84%と女性が多い。
・年齢構成は20代~30代が多く、子育て世代または子育て予備軍世代である。
・院内に保育施設が必要と考える人が88%と圧倒的に多い。
・利用については、「条件次第で考える」という人も含めると利用希望の人は56%を占める。
・利用料金については低価格を希望する人が多い。
・利用条件については、勤務時はもちろんのこと、勤務日以外の研修会やカンファレンス時、また子どもの病気時の利用希望も多かった。その他の意見として、急な呼び出しの時や普段は利用しないが都合が悪くなった時に一時的に預かってほしいなどの声もあった。
・現在保育施設を利用している人の1ヵ月の利用料金は3.6万~7.2万であった。
資料2-④より子育てしながら苦労して働いている、または辞めざるを得ないと考えている人が多いことがわかる。
 アンケートの結果より、当院において子育てしながら働くことに苦労や不安を感じている職員が多いことがわかった。
 そして院内保育所の設置を求める声は圧倒的に多く、利用内容に関して①多様な勤務形態に対応、②病児・病後児の受け入れ、③手軽な料金、④普段は利用しないが急な利用を希望する場合の受け入れ、など内容の充実を求める声も多かった。


4. 他院での取り組み

【益田地域医療センター医師会病院(注5)「さくらんぼ保育所」視察報告】
 仕事と子育ての両立支援を目的にした取り組みが各地から注目されており、現地視察を行った。

(1) 取り組みの内容
・病院敷地内に職員専用保育所を設置(定員40人)年齢別保育室あり
・リフレッシュ保育(注6)の導入
・利用料5,000円/月+食費
・病院直営での運営
・利用対象年齢0歳~6歳(夜間は学童まで対象。春・夏休み時期には学童保育を受け入れた経験あり)
・利用時間は6:45~21:55  *木・土曜日は24時間対応
 ⇒不規則な勤務形態の職員には利用しやすい時間帯。
  週2回24時間対応とすることで利用者である職員や受け入れ側の保育士が勤務調整を行いやすくなった。
・子どもの体調不良時には保育士と保護者が相談の上、利用を決定。
・セキュリティの充実(自動ロック・防犯カメラなど)

(2) 院内保育所の設置により改善したこと
① 人員の増加、離職率の低下
 ・保育所の記事・ニュースを見て就職者が増加した。なかには、今勤めている職場を退職し就職を希望してきた職員もいる。
 ・育休者の早期復職にも寄与している。
 ・夜勤への復帰、パート職から正職への登用も増加している。
② 利用者の安心感・満足感の向上
 ・子どもの様子がすぐ見に行ける。
 ・業務にあわせた利用ができる。
 ・仕事に集中できるようになった。
 ・利用時間の延長が簡単で延長保育料がないため、迎えの時間を気にしなくてよい。また研修会、勉強会などにも参加しやすい。
 ・利用料金が安価なため経済的にも安心。


5. 院内保育所設置に向けての課題

 アンケート結果より、当院でも院内保育所設置に対する要望や期待は大きい。益田地域医療センター医師会病院では院内保育所設置により人員確保・離職防止が図れ、また利用内容の充実が職員の安心感・満足感をもたらし、業務に専念できるという病院運営に有効な影響を与えていることがわかった。当院でも人員確保と職員のモチベーション維持のためにも、院内保育所の設置に向け早急に取り組みを進めるべきである。
 設置条件に欠かせない要素として以下のことを提案する。
 ① 病院に隣接
 ② 病院職員の利用しやすい利用時間
 ③ 配慮ある料金設定(延長保育料金についても)
 ④ 勤務日以外でも利用できる
 ⑤ 子どもの体調にも柔軟に対応
 ⑥ 学童保育も対象
 ⑦ 保育の質の確保
 ⑧ 安全の確保


6. まとめ

 この研究の結果、人員確保・離職防止のためには院内保育所の設置は有益であり、早急に対応すべきであるといえる。一時的に、設置に関わるコストが膨らんだとしても、長期的に展望すれば、院内保育所設置を前向きに取り組んでいく必要がある。
 そして、私たちは今回の研究結果が反映される保育所作りを目指して引き続き発言を行っていきたい。あわせて、子育てする人・見守る人、双方が互いの立場を理解し、協力し合える職場の風土作りをしていかなければならない。
 誰もが願うワーク・ライフ・バランス実現のためにも、まず子育てしやすい環境作りをみんなで目指していきましょう




注1)研修医制度:医師免許を取得後の2年間、医療現場で診療経験を積む制度。2004年4月から義務化され診療に当たる全ての医師は内科や小児科などを経験する制度に改めた。従来は研修先が大学病院に集中していたが希望に応じて決める方式が導入され、整備が整って待遇のよい民間病院などで研修する医師が増加。人手不足になった大学病院は地方の民間病院などに派遣した医師を引き上げる動きが出ており地方の医師不足の要因のひとつになっている。
注2)7対1看護体制:平均して入院患者7人に対し常時看護職員が1人勤務していること。
注3)診療報酬:治療や調剤などの医療行為ごとの公定価格。質の高い医療を国民誰もが受けられるようにするための仕組みで、診療報酬点数1点は10円。医療保険で受診した際、その対価として公的医療保険から医療機関に支払われる。2年に一回のペースで改定される。
注4)病後児保育:松江市では病気または病気回復期のため集団保育が困難な場合で保護者の勤務の都合、疾病、出産、冠婚葬祭などやむを得ない事由により家庭での保育が困難な児童(0歳~小学校3年)を対象にしている。利用には事前登録、予約制、病後児保育連絡カード(診断書)が必要である。
注5)益田地域医療センター医師会病院:診療科は内科・外科・整形外科・リハビリテーション科など8科。ベッド数は一般病床163、リハビリテーション病床44、特殊疾患病床48、療養型病床88、老人保健施設くにさき苑99など総計442床。
注6)リフレッシュ保育:夜勤明けの休日など勤務形態が不規則でフルに休めない看護現場の実情を踏まえて導入された。月2回利用可能。

資料1

松江市職員ユニオン病院支部
松江市立病院総務課
院内保育・託児施設 設置に向けてのアンケートのお願い
 現在、松江市立病院では、母性保護・育児支援・人員確保など様々な視点より院内保育・託児施設の設置に向けて具体的な取り組みを検討しています。そこで、スタッフのみなさまにご意見をお聞きしたくアンケートを実施します。ご協力をよろしくお願いします。
(当てはまる番号に○ あるいは筆記をして下さい。)
1. 性別  ①女性  ②男性
2. 年齢  ①10代  ②20代  ③30代  ④40代  ⑤50代  ⑥60代
3. 職種 
 ①看護師  ②看護助手  ③コメディカル(職種:     )  ④医師
 ⑤事務職  ⑥その他の職種(        )
4. 院内に子供を預ける施設が必要だと思いますか。
 ① 必要である
 ② 必要でない (理由:                    )
 ③ わからない
5.Ⅰ.院内に子供を預ける施設があったら利用しますか。
  ① 利用する (理由:                    )
  ② 利用しない(理由:                    )
  ③ 条件次第で利用を考える(期待する条件:          )
  ④ わからない
 Ⅱ.1ヵ月の利用料がどの程度までなら預けますか。
  ①1万円以下  ②1万~2万  ③2万~3万  ④3万~4万  ⑤4万~5万
 Ⅲ.利用条件についておたずねします。どんな場合に利用したいですか。(複数回答可)
  ①勤務時 ②土/日/祝日 ③勤務時間帯以外(休みの時・夜勤前後・研修時) ④児が病気の時
  ⑤その他(                         )
6. 現在、お子様を保育施設に預けておられる方に質問します。
 1) 現在の1ヵ月の保育料はいくらですか。(延長料除く)(  名で      円)
 2) 公立・私立、または認可・無認可のどちらですか。
   ( 公立 ・ 私立 )   ( 認可 ・ 無認可 )
 3) 当院に保育(託児)施設ができた場合、現在の保育所から変えることを希望しますか。
    希望します ・ 希望しません  
    (理由:                         )
7. 院内保育(託児)施設設置にむけてご意見があればお書きください。
8. 仕事と子育ての両立において、ご苦労されていることがあればお聞かせ下さい。
アンケート調査結果を今回の取り組み以外に使用することはありません。ご協力ありがとうございました。

資料2-①

病院職員 441人 アンケート結果




資料2-②

6. 現在、保育施設に預けている人の意見
 1) 平均保育料(預けている人数別)
預けている人数 回答数(人) 保育料
1 人 60 36,540円
2 人 17 48,530円
3 人 72,000円
 
2) 利用を希望する理由
  *すぐ連れて帰れるし、家と病院とが近いので便利
  *学童保育としての施設も必要
  *一時預かりできるようにして欲しい  一時保育的に利用したい
  *仕事に集中できる
  *近くにいると安心感がある
  *何かあればすぐ行ける 受診もできる
  *時間に余裕ができる
  *条件がよければ 条件次第
3) 利用を希望しない理由
  *現在の保育所は自宅から近く、家族の協力もあり、現在の保育所条件で満足しているから
  *今の保育園が気に入っている
  *自宅から遠いから 実家から遠い
  *今の所は問題ない 将来的にはわかりません
  *まだわからない 一時保育としては良いと思うが、住まいから離れるので、また自分以外の迎えの時は遠くて不便
  *馴染んだ保育園が子どもにとって良いから
  *あと1年だから 慣れた保育所に残る
  *金額が大きく違えば考える
  *休みの日に連れてくるのは面倒 休みの日は今のところが連れて行きやすい
  *条件による 今の保育園の方が良いと感じれば変えない
  *子どもが自由に遊べる園庭がない 子どもの環境を優先させたい 
  *同年代の子が少ないのはちょっと……
  *第2子は預けたいが、第1子は慣れてきているので
  *慣れた環境から離したくない
  *あと3年以内にできれば考える
  *迎えにいけない

資料2-③

7. 保育所設置に向けた意見
 *勤務時間が長引いたとき(超過勤務時)にみてほしい
 *院内に設置(院内保育所)
 *24時間体制
 *学童保育
 *病気時の利用
 *保育方針がしっかりしていれば預けたい
 *職員配置、施設基準をよいものに
 *延長保育料なし
 *研修、カンファレンス、祝日の勤務時な一時預かりや希望時に預かってほしい
 *一般の保育園より安い保育料にしてほしい
 *入所の選定基準を明確に


資料2-④

8. 仕事と子育ての両立についての意見
  *この時代なので、夫が定時に終わることもなく、同居でない家族も多い。保育所への迎えも頼める人がいない。そうなると看護師がパートなどに変更したり、一度退職したりという状況がでてしまう。
 *子どもが病気をした時に仕事を休まなければならない。休めず子どもに無理をさせている。
 *研修に出たくても子どもがいるから出られない。院内研修はほとんどが夕方にあり、保育園だと延長料金が加算されるが、無料で託児できるところがあれば仕事と育児の両立がより効果的になる。
 *病後児保育は急なこと。朝ダメと言われても困る。
 *勤務がハード過ぎてゆっくりと子どもと関われていない。夜勤前の休みしかとれない。お互いにストレスがたまっている。子どもに向き合う時間が少ない。家事が手抜き。とても悩んでいる。
 *夕方の勉強会や研修など迎えの時間を気にして出席できなかったり早く帰ったりしないといけない。
 *託児所探しに苦労した。
 *子どもが病気の時に、仕事が休めないので学校からタクシーで家に送ってもらったりすることがある。その子を家に一人で待たせていると心配。
 *土曜日の延長は17時まで 勤務終了後(定時に終わったとしても)間に合わない。
 *保育所ではなく、個人に依頼していたため負担が大きかった。
 *時間どおりに終わる仕事・環境でないと迎えの段取り家庭がまわらない。保育園の延長時間にも限界があり仕事をあせってやってしまう。仕事も中途半端になって急いで帰らないといけない。
 *時間外労働が多く、夜早く帰られないため子どもだけで待っていることがあります。
 *疲れもあり休みの日もゆっくりと子どもとかかわることができない。
 *半日深夜入りのときは、子どもの世話でほぼ寝ずに夜勤なので仕事でミスしないか心配。
 *延長代が保育料の上にさらに15,000円(月)掛かって大変。金銭面で苦労。
 *保育所のあと、小学校入学してからが大変。保育時間が短くなり、役員など親がやることが多くなる。
 *一番困るのは、病中病後で仕事があるために診ることができない時に預けるところがあると安心だとは思うが、日頃も仕事や研修と家をあけることが多いので病気の時ぐらい親が面倒を見ることができる環境づくりが一番良いと思いますが。無理なのでしょうか。
 *超勤、夜勤、子どもが病気の時に、家人への負担が大きく、迷惑をかけていることがつらい。その家人が都合の悪い時に、勤務変更が困難だった。
 *日曜保育を行っているところが市内に2か所しかなく8時からしか預かってくれない。
 *子どもが病気になったときの仕事との板ばさみに苦労した。
 *帰りが遅くゆっくりかかわれないときがある。土日が休みなのでゆっくり過ごせない時がある。
 *仕事復帰を早くしてもらいたいと言われることがあるが、保育園に入ることができないため復帰できない。
 *小学校低学年の子どもが、児童クラブが17:15までで終わり集団下校します。自宅が一番遠いので一人で歩いて帰るところがあり迎えに行きたくても行けず、その後私が帰るまで一人で待っているので心配。
 *公開授業・面談・スポ少の送迎のための時間がとりにくい。 
 *子どもに辛抱させねばならない場面が多い 今しか関わってやれない大切な時にもっと付き合ってやりたいが忙しくてできない。子どもとの触れ合いが制限される。
 *妊娠、出産、育児が職場の中で喜んで受け入れられにくい雰囲気がある。
 *3歳までの育休が仕事の不安からとりにくい。
 *夫の両親と同居しているが、両親が若いため仕事を持っており協力も得られず、今後は別居する予定もある。自分の両親は出雲に住んでいるため遠すぎて協力依頼ができず、夫も非協力的なのでひとり不機嫌に子育て中。正職で働けたら、福利の面では臨職とは大違いなのでいいのになあといつも思う。
 *保育園の送り迎えが負担。