保育所にかかる予算は、「国基準保育所運営費」がベースとなっています。つまり町から指定管理者への歳出は、この国基準保育所運営費が該当となります。この運営費は、国が定める児童一人あたりの保育単価に入所人数を乗じて算定され、法人保育園の場合については、職員の勤務年数に応じて最高12%の民間施設給与等改善費が加算されます。
歳出における削減額については、2004年度の公立当時の実質必要経費を固定額とし、2004年度の公立当時の入所人数で、指定管理制度導入時の国基準保育所運営費を試算し、実質必要経費との差額を算出することで分かります。しかし公立当時の実質必要経費は、当時の歳出科目ごとの金額を積上げなければ正確な経費は算出できません。情報公開請求し、資料をそろえれば算出可能でありますが、現在指定管理制度から民設民営化になっているため、そこまでの検証はしていません。
指定管理者に委託する歳出削減メリットは、公立時の国基準保育所運営費が委託費となるので、実質経費との差額を町が支出しなくてよいところにあります。しかし、実際は町内の法人との足並みをそろえるため、町の裁量で民間施設給与等改善費を上乗せしています。よって公立時より国基準保育所運営費は増額し、極端な歳出削減になったとは考えられません。
次に歳入については上図に示すように、2004年度までは予算配分枠が明確になっていました。しかし、指定管理制度導入前年の2004年度以降、三位一体改革により公立保育所の運営費国庫補助金が一般財源化されました。これにより、国庫補助金分及び県負担分は地方交付税に算入され、新設された所得譲与税とあわせて財源保障されることとなりました。このような国の財政改革により地方交付税の総額は削減傾向となっています。よって公立保育所に対する国庫補助金、県費負担金は目減りしていると考えられます。
該当保育所の場合は、位置づけとしては公立保育所であるため、国庫補助金、県費負担金の歳入が目減りし、町からの歳出が増額になった可能性さえ懸念されます。
このように、公立保育所に指定管理制度を導入することで、「約1,000万円の削減効果」を目論んだ当局の思惑は、国の情勢や町内の法人保育園と歩調を合わせたことにより、歳出増となった可能性があると考えられます。
今回の財政比較については、当局が指定管理制度導入を計画した際と同様な比較方法である、該当保育所のみで比較検討を行いました。しかし、町全体の歳出削減額を比較するには、町内全ての公立・法人立で行うべきであると考えます。例えば、指定管理制度が導入されても公立保育所の職員は他の公立2所へ異動するため、人件費に変化は生じません。しかし制度を導入した保育園の人件費はプラスの歳出となるため、今回の検証結果以上に、町の歳出は増えることとなります。このように当局の試算には様々な問題があり、当局の目論んだ指定管理制度導入による歳出削減は果たされていません。
3. 公立保育所を維持発展させるために
(1) 保育事業への指定管理制度は馴染まない
指定管理制度には契約期限が存在し、3年毎に指定管理者が変わる可能性があることは入所児童・保護者にとって好ましくありません。このことは管理を委託した町としても、受託した法人も考えていたにせよ、このような前提のある制度はそもそも安定的に子どもを保育するためには、馴染まないものであったと言えます。
また、当局が公立保育所を指定管理者に委託しようとした実質の理由である町財政負担の軽減については、2. (4) 「財政の比較について」の検証でも明らかなように、当局の思惑どおりの削減効果は生まれませんでした。
(2) 保育事業における行政の果たすべき役割
斐川町の保育事業については社会情勢と共に変遷を重ねてきました。急速な社会情勢の変化と女性の就労および就労形態の変化により、保育ニーズが多様化し、保育に対する需要は増大し続けています。また入所の背景には、子育てへの不安や戸惑いを感じているから預けたいという実情もあります。安心して子どもを産み、育てることができる町づくりのためには、公立保育所が地域全体の子育ての実情を把握しつつ、次のような役割を果たしていくべきであると考えます。
① 地域の保育水準の基準としての役割
② 保育行政のアンテナとしての役割
③ 行政組織の一部としての役割
④ 民間を補う役割
⑤ 子育て支援の拠点としての役割
町が行う保育事業については、こうした点を踏まえ、単なるコスト論による民営化ではなく行政が担うべき役割を明確にし、地域で次世代を育てるという極めて公共性の高い事業には、何が求められているのかという視点で公立保育所のあり方を検討されなければなりません。
(3) 今後に向けて
現在、町当局が進めようとしている集中改革プランにおいては、「町立保育所2所のうち1か所は、2009年度を目標に指定管理制度を導入する」とされており、更に公立保育所の民営化を進めようとしています。
自治体の財政が逼迫しているとしても、行政として担うべきサービスを考える時、最も重要なことは、住民が安心して暮らせるための長期的視点に立った施策です。住民の利益には、当然「低コスト」ということも含まれますが、それのみを目的とするべきではありません。住民にとって、長期にわたって安全・安心と言える行政サービスを受けることができ、結果としてそれが低コストにつながることが理想です。その点を踏まえれば、財政上の短期的な「経済効率・効果」を優先させるのではなく、将来の斐川のまちづくりを展望しつつ長期的な視点に立った保育施策とそれに基づいた政策判断がされなければなりません。
過去に策定された、エンゼルプランや就学前保育実施計画時と比べ、年々変化していく斐川町の子育て事情に対応していくためには、まず民営化ありきではなく、あくまでも地域の子育て支援体制の充実に努めていかなければなりません。そのためには、保育職場や子育て支援センターなどの連携や、町の乳幼児数の動向、子育てへのニーズ、新しい時代に即した幼児教育の推進など、あらゆる観点から総合的に判断する必要があります。そして、行政が担うべき役割を整理・明確化し、幼稚園も含めた子育て施策全体の中で、公立保育所のあり方を位置づけていかなければなりません。
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