【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-①分科会 子育て支援と児童虐待

私たちがめざす公立保育所の役割


島根県本部/斐川町職員組合

1. 公立保育所の民営化をめぐる情勢

 2007年4月現在の全国の保育所数は約23,000か所で、このうち、公立保育所は約51%、私立は約49%という状況です。また、前年同月と比較すると、公立保育所は250か所減少しましたが、私立保育所は約400か所増加しており、政府の民営化政策と市町村合併等の影響により保育所民営化の流れは続いています。斐川町においては、公立保育所3所の内1所が2005年4月から指定管理者による運営となり、2008年4月現在では、公立保育所2所、法人保育園5園という状況です。

2. 指定管理者制度から見える問題点の検証

(1) これまでの経緯
 2001年2月、当時の町長から「公立保育所1所を法人する」という一方的な通告が斐川町職員組合にありました。町職としては、保育所法人化阻止と当局の不当労働行為に対し、初めての経験となる地労委闘争を2度も取り組みながら総力を挙げてたたかいました。そして、2002年7月18日、1年7ヶ月に及ぶ闘争の到達点として、「該当保育所法人化の是非については、検討委員会による結論に労使が委ねる」旨の確認書を当局と締結し、最善とは言えないものの、この問題について一定の整理をつけた形となりました。
 その後、確認書に基づき設置された「就学前保育計画検討委員会」から、2003年10月に「斐川町におけるより良い保育計画について(答申)」が提出され、該当保育所の運営形態については「法人化すべき」ということ「将来的には町立保育所は町内1所」との考えが示されました。この答申を踏まえ当局は「斐川町就学前保育実施計画」を策定し、指定管理に向けた条例改正と指定管理者の募集、選定を進め、2005年4月から指定管理者による運営が開始されました。
 2008年4月からこの保育所は、指定管理制度を継続せず施設の無償貸与による社会福祉法人による運営となっています。

(2) 民営化方針の決定について
 民営化は大きく分けて2つの方式のいずれかで行われています。1つは、経営を民間に「委託」する公設民営化方式、もう1つは、経営を民間に「移管」する民設民営化方式です。
 このうち前者は設置者が自治体で、保育所の建物や土地の管理、基本財産などは自治体が負担し、実際の保育所の経営だけを民間の法人や企業が担うというもので、行政からの指示や方向付け、チェックなどが行っていけます。これが指定管理制度に該当します。それに対して民設民営化は、土地や建物を無償で貸与し、文字通り法人立や企業立となることを意味します。
 国は「民間にできることは民間で」をスローガンに、規制緩和による民間の参入機会を広げ行政業務の民間委託・開放を推進する施策をとっています。そして民間委託をすることで、財政上メリットがあるような仕掛けを取り入れています。
 しかし、民営化方針の決定にあたっての判断は、公立と法人立との優劣の問題ではありません。また財政の問題が第一義であってもいけません。町として保育、子育てに対しどのように関わっていくべきかという視点が最優先されなければいけません。

(3) 保育の比較について
 公立と指定管理者との保育の比較については下表のとおりです。
保育時間については、指定管理者になってから開所時間を15分早め、延長保育を45分延長していることから弾力的な運営という面で評価ができます。また特別保育事業の、延長保育事業、一時保育事業、乳児保育事業、障碍児保育事業、地域活動事業はそれぞれ継続して実施されており格差はない状況です。
 しかし、常勤保育士の人数については差がありませんでしたが、常勤職員を支える臨時・パート・代替職員数については公立時が充実していました。このことは職員の働く環境が整備されており、保育を受ける子どもや保護者に対してよりよいサービスを提供できていたと考えます。
 今回の移行に際しては、公立と指定管理者による共同保育が3ヶ月間行われたことや、臨時職員の多くがそのまま指定管理者に採用されたことで、スムーズに引継ぎをすることができました。また保護者会と指定管理者、町で構成する運営協議会を設置し、保育所運営や保育内容について話し合いの場を設けたことで、より円滑な運営が行えたと考えます。


【公立と指定管理者との保育の比較】

項   目 公立(2004) 指定管理者(2007.6)
体  制 設置主体 斐川町 (同左)
決定機関 斐川町 理事会
入  所 定 員 120人 (同左)
受入年齢 生後2ヶ月~就学前まで (同左)
入所児童数 144人 130人
保育時間 開所時間 7:30~18:30 7:15~19:15
保育時間 8:30~16:30 8:30~16:30
事  業 特別保育 延長保育、乳児保育、一時保育、障碍児保育、地域活動事業 (同左)
職員配置 保育士 24人(正規6、臨時18)
11人(代替・パート)
正職平均年齢44歳
21人(園長1、正規4、常勤16)
3人(代替・パート)
正職平均年齢42歳
看護師 0人 1人(正規)
栄養士・
調理師
4人(正規1、臨時3、代替1) 3人(常勤)


(4) 財政の比較について
 当局は、子育て支援の充実を大義名分として公立保育所の指定管理制度導入を行いましたが、実質の目的は財政上の理由であると言わざるを得ません。2001年の法人化通告の時点では、1,000万円の歳出削減が可能であるとしていました。このことがどれだけ検討されたものであったか、指定管理制度導入前後の保育所への負担の比較について検証を行いました。

【保育所運営経費と負担区分のしくみ】


 保育所にかかる予算は、「国基準保育所運営費」がベースとなっています。つまり町から指定管理者への歳出は、この国基準保育所運営費が該当となります。この運営費は、国が定める児童一人あたりの保育単価に入所人数を乗じて算定され、法人保育園の場合については、職員の勤務年数に応じて最高12%の民間施設給与等改善費が加算されます。
 歳出における削減額については、2004年度の公立当時の実質必要経費を固定額とし、2004年度の公立当時の入所人数で、指定管理制度導入時の国基準保育所運営費を試算し、実質必要経費との差額を算出することで分かります。しかし公立当時の実質必要経費は、当時の歳出科目ごとの金額を積上げなければ正確な経費は算出できません。情報公開請求し、資料をそろえれば算出可能でありますが、現在指定管理制度から民設民営化になっているため、そこまでの検証はしていません。
 指定管理者に委託する歳出削減メリットは、公立時の国基準保育所運営費が委託費となるので、実質経費との差額を町が支出しなくてよいところにあります。しかし、実際は町内の法人との足並みをそろえるため、町の裁量で民間施設給与等改善費を上乗せしています。よって公立時より国基準保育所運営費は増額し、極端な歳出削減になったとは考えられません。
 次に歳入については上図に示すように、2004年度までは予算配分枠が明確になっていました。しかし、指定管理制度導入前年の2004年度以降、三位一体改革により公立保育所の運営費国庫補助金が一般財源化されました。これにより、国庫補助金分及び県負担分は地方交付税に算入され、新設された所得譲与税とあわせて財源保障されることとなりました。このような国の財政改革により地方交付税の総額は削減傾向となっています。よって公立保育所に対する国庫補助金、県費負担金は目減りしていると考えられます。
 該当保育所の場合は、位置づけとしては公立保育所であるため、国庫補助金、県費負担金の歳入が目減りし、町からの歳出が増額になった可能性さえ懸念されます。
 このように、公立保育所に指定管理制度を導入することで、「約1,000万円の削減効果」を目論んだ当局の思惑は、国の情勢や町内の法人保育園と歩調を合わせたことにより、歳出増となった可能性があると考えられます。
 今回の財政比較については、当局が指定管理制度導入を計画した際と同様な比較方法である、該当保育所のみで比較検討を行いました。しかし、町全体の歳出削減額を比較するには、町内全ての公立・法人立で行うべきであると考えます。例えば、指定管理制度が導入されても公立保育所の職員は他の公立2所へ異動するため、人件費に変化は生じません。しかし制度を導入した保育園の人件費はプラスの歳出となるため、今回の検証結果以上に、町の歳出は増えることとなります。このように当局の試算には様々な問題があり、当局の目論んだ指定管理制度導入による歳出削減は果たされていません。

3. 公立保育所を維持発展させるために

(1) 保育事業への指定管理制度は馴染まない
 指定管理制度には契約期限が存在し、3年毎に指定管理者が変わる可能性があることは入所児童・保護者にとって好ましくありません。このことは管理を委託した町としても、受託した法人も考えていたにせよ、このような前提のある制度はそもそも安定的に子どもを保育するためには、馴染まないものであったと言えます。
 また、当局が公立保育所を指定管理者に委託しようとした実質の理由である町財政負担の軽減については、2. (4) 「財政の比較について」の検証でも明らかなように、当局の思惑どおりの削減効果は生まれませんでした。

(2) 保育事業における行政の果たすべき役割
 斐川町の保育事業については社会情勢と共に変遷を重ねてきました。急速な社会情勢の変化と女性の就労および就労形態の変化により、保育ニーズが多様化し、保育に対する需要は増大し続けています。また入所の背景には、子育てへの不安や戸惑いを感じているから預けたいという実情もあります。安心して子どもを産み、育てることができる町づくりのためには、公立保育所が地域全体の子育ての実情を把握しつつ、次のような役割を果たしていくべきであると考えます。
① 地域の保育水準の基準としての役割
② 保育行政のアンテナとしての役割
③ 行政組織の一部としての役割
④ 民間を補う役割
⑤ 子育て支援の拠点としての役割
 町が行う保育事業については、こうした点を踏まえ、単なるコスト論による民営化ではなく行政が担うべき役割を明確にし、地域で次世代を育てるという極めて公共性の高い事業には、何が求められているのかという視点で公立保育所のあり方を検討されなければなりません。

(3) 今後に向けて
 現在、町当局が進めようとしている集中改革プランにおいては、「町立保育所2所のうち1か所は、2009年度を目標に指定管理制度を導入する」とされており、更に公立保育所の民営化を進めようとしています。
 自治体の財政が逼迫しているとしても、行政として担うべきサービスを考える時、最も重要なことは、住民が安心して暮らせるための長期的視点に立った施策です。住民の利益には、当然「低コスト」ということも含まれますが、それのみを目的とするべきではありません。住民にとって、長期にわたって安全・安心と言える行政サービスを受けることができ、結果としてそれが低コストにつながることが理想です。その点を踏まえれば、財政上の短期的な「経済効率・効果」を優先させるのではなく、将来の斐川のまちづくりを展望しつつ長期的な視点に立った保育施策とそれに基づいた政策判断がされなければなりません。
 過去に策定された、エンゼルプランや就学前保育実施計画時と比べ、年々変化していく斐川町の子育て事情に対応していくためには、まず民営化ありきではなく、あくまでも地域の子育て支援体制の充実に努めていかなければなりません。そのためには、保育職場や子育て支援センターなどの連携や、町の乳幼児数の動向、子育てへのニーズ、新しい時代に即した幼児教育の推進など、あらゆる観点から総合的に判断する必要があります。そして、行政が担うべき役割を整理・明確化し、幼稚園も含めた子育て施策全体の中で、公立保育所のあり方を位置づけていかなければなりません。