【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-①分科会 子育て支援と児童虐待

松江市の未来のために


島根県本部/松江市職員ユニオン・ユース部

1. はじめに

 子育て世帯への経済的支援や、出産・育児後も安心して働ける環境整備などを始めとする少子高齢化への対策は喫緊の課題として早急な対策の充実が求められている。
 この背景については、わが国の合計特殊出生率は人口を維持することができる人口置換水準(合計特殊出生率2.07~2.08)を大きく下回る状態が続いている。2005年には1.25となり、人口動態統計によると初めて人口が自然減(対前年(2004年)比マイナス2万1,266人)したとの結果が出ている(1899年以降、統計の得られていない1944年から1946年を除く)。島根県では1.50と全国で3番目に高い数値ではあったが、少子化が進んでいることに変わりはない。
 2007年5月、国立社会保障・人口問題研究所において発表された『日本の都道府県別将来推計人口』では、各都道府県の2005年~2035年まで5年ごと30年間の人口の推移が年齢別に推計されている。
 島根県は次のとおり2005年の人口約74万人が30年後の2035年には約55万人にまで減少する。年齢層の割合で見ると64歳以上の高齢者の割合が約27%から約37%まで10%も増加する反面、20歳未満の人口の割合は約18.7%から約13.7%へ5%減少している。このことからも、島根県は人口減少及び超高齢化問題に直面していることが改めて実感できる内容となっている。


(単位:1,000人)


 少子高齢化に歯止めをかけるため、2007年4月には3歳未満の乳幼児の養育者に対する児童手当の額を第1子及び第2子について倍増し、出生順位にかかわらず一律月1万円に引き上げられた。松江市においても不妊治療助成(年間3万円を上限に2年間)や保険診療医療費の3歳未満の無料化、妊婦検診の7回までの公費負担、赤ちゃん訪問、訪問型子育てサポート事業など様々な取り組みが行われている。
 一方で、自治体ごとの取り組みには財政事情、住民の意見などから差が生じ、財源が限られる中で創意工夫し有効に事業展開することが求められる。島根県では財政支出ではなく企業から協力を得る形でサービスを提供する「しまね子育て応援パスポート(こっころ)事業」をスタートさせたところである。
 子育て環境にも目を向けてみると、現代の男女共同参画時代における女性の就労、核家族化の進展により、保育所に入所する乳幼児が増えている。一方で、幼稚園では入園者数が年々減少傾向にあるものの、子どもが通園している保育所の入所状況及び幼稚園の通園状況をみると、46保育所に乳幼児数4,290人(2006年4月1日現在)いる。また、幼稚園在園者数2,136人(2006年5月1日現在)いる。幼稚園と保育所の合計で、6,426人となる。


保育所の概況(各年4月1日現在(単位:人))

年次

保育所数

保育士数

その他職員数

乳幼児数

平成18

46

828

234

4290

注)その他の職員数には所長、調理員、栄養士、看護師を含む。資料:松江市子育て課「保育所概況」より一部抜粋

幼稚園の概況(毎年5月1日現在)

園数

在園者数

総数

総数

3才

4才

5才

総数

18年

34

2,136

1,122

1,014

247

204

410

387

465

423

資料:島根県政策企画局統計調査課「学校基本調査結果報告書」より一部抜粋

 これは、松江市の0~5歳までの年齢区分の人口が10,112人(2006年9月30日現在)であることから、0~5歳までの約63.5%が保育所・幼稚園に入所・通園していることとなる。また、松江市次世代育成支援行動計画によると、3歳までには約78%の子どもが保育所か幼稚園に入所(園)し、4歳までには、この割合は約97%になる。以上のように、今日の社会情勢においては、子育てをするにあたり幼稚園・保育所は不可欠な存在である。
 もちろん、そこで働く保育士・幼稚園職員も専門職として楽しく、安心して子どもが幼稚園や保育所に通うことができるよう良質な行政サービスを提供することを求められる。そして、良質なサービスを提供するためには、子どもと常に向き合う現場の職員の専門的能力や経験は非常に重要なものであることは容易に想像がつくことであり、こうした能力、経験を持つ人材の確保が欠かせない。


年齢(各歳)・男女別人口(2006年9月30日現在)

年齢区分

総数

1,658

867

791

1,562

760

802

1,631

851

780

1,714

908

806

1,715

887

828

0~4

8,280

4,273

4,007

1,832

968

864

1,811

927

884

資料:市市民課(住民基本台帳登録数)より一部抜粋

 以上のことから、我々も松江市として低コストで何か新しいことができないか、また、子育てを担える有能な人材の確保に向けて実施できることはないかという視点で改善策を提案する。

2. 提案内容

(1) 出生祝い品制度
① 出生祝い品制度の概要
  松江市では、年間約1,700人の赤ちゃんが生まれている。しかしながら、少子化、核家族化、子どもと地域社会のつながりの希薄化する中で、子育てに不安や負担を多くの子育て家庭が抱いている。このような子育ての不安や負担を少しでも解消できるように、松江市でも様々な施策を行っているが、更なる市民サービス向上のため低コストで行政としてできることを一つ提案する。
  提案するのは、出生祝い品(記念品)を贈呈することである。内容としては、出生時に祝い品を贈呈することで、出生という人生の節目において、両親と一緒に松江市もお祝いするという気持ちを伝え、また、贈呈してもらう品を民間からも提供してもらい官民あげての施策とするものである。更に、贈呈するものによっては、松江市の特産品や観光地を子育て世帯にも知ってもらう機会となり、あるいは、親子で出かけにいく機会にするといった二次的な効果も期待できるというものである。
② 他市町村の取り組み状況・保護者意見を踏まえて
  この提案で重要なのは、どのような形で、どのようなものを贈呈するかということである。
  ここで、内閣府において2005年3月に報告された「地方自治体の独自子育て支援施策の実施状況調査」をみてみる。これによれば、祝い品の贈呈等について、「アルバム、フォトフレームといった誕生記念品を贈る市町村が多くなっている。次いで、絵本、苗木、観葉植物などが多いが、お米などの実用的な品を贈る市町村もみられる。2005年度からは廃止予定と記載されている事業も複数みられた。一律的な出産祝い品は各子育て家庭において有効に活用されるかどうか不明なためではないかと思われる。」と記載されている。今回の提案では、そのような他市町村の取り組み状況も踏まえて三点ほど独自の改良を加える。
  まず一点目として、贈る物については、複数の品を用意する。内閣府の調査報告にもあるとおり一律的な出産祝い品は各子育て家庭において有効に活用されるかどうか不明であり、またもらう側も選ぶ楽しさがあった方がより喜んでもらえる。例えば、カタログやチラシ方式にして選んでもらうようにするのも一つのやり方である。また、季節毎に提供できるものを変えていくと、誕生月の季節に合ったものが提供できる。
  しかし、あまりに膨大な品数にすると費用がかかりすぎる。そこで、二点目の特徴として費用を極力かけないということと、民間企業との連携である。行政が主体となる取り組みでは提供できるものが限られ、松江市全体で出生を祝おうという気運の盛り上がりが限定的となり費用もかかる。そこで民間企業等とも連携し、贈り物を基本的に無償提供して頂くのである。提供する側としても、子育て支援への自社のPRにつながるという点でメリットはある。もちろん、企業にとっても人生の節目で思い出に残るものを渡すことは大きなPRチャンスとなることを十分に伝えていく仕組みを作らなくてはならない。市としても提供企業の子育て貢献内容をホームページや市報に掲載することや、たくさん提供していただいた企業には「まつえ子育て応援賞」、ユニークな品を提供していただいた企業には「祝い品アイディア賞」などを創設して表彰を行うことなどの取り組みが必要となるだろう。あるいは、相当数の協力をしてもらえた企業に対しては、カタログの一部スペースに広告を掲載できるようにすることや、市のHPのバナー広告あるいは市バスの空き広告スペースに一定期間無償あるいは割引した金額で広報できるようにするといった手段も考えられる。
  三点目として、観光あるいは産業分野との連携である。こういった出生にあわせた贈り物というと、どうしても福祉的なイメージがあるが、より横断的な取り組みとして観光や産業分野も連携して取り組みを行うようにするのである。国際文化観光都市松江をその市内に住む子育て世代の方々にも具体的にどのような観光地があってどのようなものか知ってもらう機会とするのである。具体的には、市内の観光施設から入場券の提供、特産品の提供といった内容になるが、これは品数の拡大にもつなげることもできる。松江に住んでいながら行ったことのない観光地を訪れることや、食べたことのなかった特産物を知る良い機会となり、松江市の良さを再認識していただくことができる。例えば、各地域の特産品や、フォーゲルパークや遊覧船、温泉施設など市内の公共施設の入場券でもよい。また、交通局開催のバスツアーもメニューの1つに入れていくことも考えられる。バスツアー企画で座席にまだ空いた枠があればそれをうまく活用して招待するようにできればどうだろうか。交通局としても子育て世代をターゲットにしたような企画をつくるにあたっての市場調査につながる。また、これをきっかけとして公共交通の存在、現状について住民の関心が一層深まり、今後はより積極的に利用していただけることが期待できる。以上3点の改良を加えて松江市らしいものを贈呈する。
  次に、松江市次世代育成支援計画の参考資料としてニーズ調査の概要及び結果に目を向けてみる。この調査は、条件付で無作為に抽出された松江・八束に在住する就学前児童の保護者と小学校児童の保護者を対象に調査を行っている。この資料によると、特に不安に思っていることとして「子育てで出費がかさむ」といった意見が多くなっている。市町村に期待する子育て支援としては、「子連れでも出かけやすく楽しめる場所を増やして欲しい」という意見が、市内に住む就学前児童及び小学校児童の両区分保護者の意見として一番多くなっている。「子育てで出費がかさむ」ということについてであるが、多くの自治体でも少子化や過疎化対策の一環として独自に出産時や入学時等に祝い金を給付することも行われてきた。現金給付により子育て世帯に対して行政が支援しているということがダイレクトに伝わるという利点はある。企業においても、社員の子ども誕生に際し最大500万円支給する制度を創設するところも出てきた。しかし、祝い金効果によって出生数が増加したという裏づけデータも取りにくく、財政運営の厳しい中、自治体によっては見直しを図るところもある。以上のようなことも踏まえて、現金給付ではなく贈りものという形をとり、財政負担も極力ないように民間とも連携を図るのである。また、今回の提案により、様々な観光地へ招待することで「子連れでも出かけやすく楽しめる場所を増やして欲しい」いう意見の解決にも貢献する部分がある。
③ 出生祝い品制度のまとめ
  最後に、この提案は、もらった方が思い出に残る品物でなければ渡す方にもメリットが少なくなる。しかし、それは贈るものの金額の大小によって左右されるとは限らない。高価な贈り物よりも、押し花一つでも、喜ぶ場合もあり、思い出になることもある。出生という記憶に残る場面において贈るものであることから、贈ったものは普段より記憶に残りやすいと思われるが、贈る側の工夫によって様々な可能性を秘めている。子育て支援という形で生涯の思い出となるものが贈呈できれば子育てを応援しているという大きなアピールになることは間違いない。


<参考>出産祝い品(記念品の贈呈等):地方自治体の独自子育て支援施策の実施状況調査


(2005年3月内閣府実施)
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa16/jichitai/pdf/chapter4-3.pdf
(出生祝いカタログ例)


(2) 赤ちゃん用品リサイクル事業
 家庭から捨てられる物にはまだ使える資源もたくさんある。特に赤ちゃん用品(ベビー服、おもちゃ、ベビーカー、チャイルドシート、絵本など)は使う期間がわずかであり、使用可能な状態で捨てられることや家の物置に眠ったままになっていることも多いはずである。これらの赤ちゃん用品を子育て中の世帯へ供給できれば、例えばベビーカーなど本来2~3万円程度するものが基本的に無料で受け取ることができ、大きな負担軽減となる。
 祝い品事業では企業の社会貢献やPRの一環として品物を提供していただくことを考えたが、ここでは市民の皆様に使われなくなった赤ちゃん用品の提供をいただき再利用することで子育て世帯の経済的負担を軽減する方法として提案したい。これは新聞で行われている交換広場をさらに拡大するようなものだ。
 松江市でも2000年度から家庭で不要となったチャイルドシート等の斡旋事業に取り組んでいるが、回収している品が高価であり無料では十分に集まりにくいことが課題となっている。これを踏まえ、品物の限定は行わず絵本一冊からでも気軽に持ち込んでいただけるようにし、回収窓口を公民館、保育所、幼稚園、子育て支援センターなど保護者がよく訪れ、足を運ぶのに負担とならない場所へ設置する。また、広く市民の皆様にこの事業を知っていただくため市報、ホームページへの掲載やチラシなどを通じて品物の提供と子育て支援への理解をお願いする。併せてどのような品物が集まっているかをホームページなどで随時紹介する。
 たくさんの物、珍しい物を提供していただいた方や、意中の品を受け取って喜んでいる家庭を市報などで紹介できれば町に明るい話題が生まれる。波及効果として子育て世帯には社会全体で支援してもらっているという実感が持てることでリサイクル意識の向上にも繋がる。さらに、提供していただいた方と受け取った方が、この事業をきっかけとして新たな交流が生まれるかもしれない。
 この事業では、古く使う余地のないものまで集まってしまうかもしれないため、単なるゴミの持ち込みは断る必要がある。しかし、修理して使えるものはリサイクルプラザのボランティアスタッフ等の力を借りて修理する取り組みも必要となろう。
 回収し受け渡した品物について、万一の事故などで責任を負うことは難しいので、市やNPOなど、どこが実施主体となるかなど一層の検討は必要であるが、この事業が推進できればリサイクルと子育て支援を同時に行うことができる。需要のあるものを多くの方の協力を得て適切に集められれば、幅広い分野で大きく事業が拡大し「リサイクル都市日本一」の実現にも大いに資する可能性を秘めている。

(3) 保育士、幼稚園教諭の年齢制限緩和
 現場で働く幼稚園や保育所の職員の重要性については、先に述べたとおりである。良質なサービスを提供するためには、現場の個々の職員の専門的能力や経験は非常に重要であり、職員の採用及び育成はそういう意味で決して疎かにできるものではない。そこで、まず職員の採用状況について現状をみる。


松江市職員採用試験受験状況(縦軸:人 横軸:年度)


 新卒者の採用事情に目を向けてみると、全国的には売り手市場にあると言われ、公務員人気も松江市の受験状況をみても明らかなように低下傾向にある。また、団塊の世代の大量退職により公務員でも職種によっては、人材確保に躍起なところもある。このように公務員人気が低下傾向にあるにも関わらず、幼稚園教諭・保育士共通区分では、毎年一定程度受験者数が確保されていることから、幼稚園教諭・保育士は、根強い人気職種であると言える。
 さて、その幼稚園教諭・保育士共通区分であるが、松江市の募集要項をみると年齢制限がある。具体的には、2007年度採用試験では「1978年4月2日から1988年4月1日までに生まれた者」となっている。つまり、2007年度採用試験で言えば、29歳までしか受験できないという年齢制限である。この受験資格については、松江市職員任用規則第9条にて、「受験資格は、受験の対象となる職の区分に応じ、職務の遂行に必要な最小限度の経験、学歴、年齢等について、市長がその都度定める。」と規定されている。
 次に、他市町村における受験資格の年齢制限の状況に目を向けてみる。多くの市町村で松江市同様に29歳という年齢制限を設けている。一方で、横浜市では34歳(2007年度採用試験 1973年4月2日以降に出生した人)、逗子市では35歳(2007年度採用試験 1972年4月2日以降に生まれた人)といった自治体もある。更に、市川市では、2008年4月1日現在59歳までの人(2007年度採用試験)としている。
 また、幼稚園教諭・保育士区分以外では、2007年度より国家公務員では、中途採用者選考試験(再チャレンジ試験)といったものを設けている。自治体レベルでも、近隣の周南市ではUJIターン/再チャレンジ型採用試験といった独自の試験制度を設ける自治体も出てきている。
 このように他市町村の状況をみてもわかるように必ずしも29歳にこだわってはいない。また、自治体間で扱いが異なるのは、採用試験にも自治体同士の横並びから脱し、それぞれの地方自治体のカラーが出始めているということである。そして、ここで問いかけたいのが、果たして幼稚園教諭・保育士試験において、現在の年齢制限を改良し、更なる行政サービスの向上につながるような余地はないかということである。
 まず、幼稚園教諭・保育士共通区分の年齢制限を35歳程度まで緩和した場合の利点について考えてみる。何より年齢制限を引き上げることで生まれる利点として、雇用できる人材の幅が広がるということがある。受験資格という入口部分の門戸を広げて30歳になっても幼稚園・保育所で働きたいという意欲のある人も受験できるようになる。無論採用されるかどうかは別の問題であるが、受験年齢の制限を引き上げることで、30歳以上で幼稚園・保育士として働きたいという人が松江市のみならず近隣の市町村からも応募してくることが期待できる。
 もちろん、その中にはとても有能な人材が含まれている可能性は十分にある、有能であっても年齢を理由に受験できなかった人が受験できることになる。これは、採用する市にとっても、採用にあたりよりよい人材がいる中から採用できるということになり最終的に人材確保につながる。
 それでは、具体的にどのような人が新たに受験できるかという点を考えてみる。例えば、20代を民間の保育所などで働き民間での経験がある人や、かつて幼稚園・保育所で働いていたが出産・育児を理由に一度離職し、育児が一段落し自らの育児経験を活かしたいと望む人、松江市出身で他市町村の幼稚園・保育所で働き松江市に戻って働きたいという人、現在松江市の保育所などで臨時職員等として働きながら30歳という年齢を超えてしまった経験豊かで即戦力となる人が想定できる。
 ここで、これらの例から導き出せるキーワードとして「即戦力」「民間の経験・知識」がある。民間の知識・経験を活かせる人材や臨時職員等として現在も働き、即戦力となるすばらしいダイヤモンドが29歳という年齢制限の下で眠っているのである。民間においても、必ずしも新採のみで無理に人数を確保するのではなく、即戦力ということから中途採用を重視する傾向もある。これは、公務員においても、保育士といった専門職ではこれまでの民間の経験や知識が直接活かせるという点で同様なことが言えるのではないだろうか。保育所や幼稚園といった現場では、即戦力や民間での知識・経験ということは、直接行政サービスの向上につながり、市民にとっても利益になる話である。
 一方で、採用する側にとっても別の視点からの利点がある。文部科学省では、2007年度に実施された2008年度教員採用選考試験等に係る各都道府県・指定都市教育委員会の取り組み事例を取りまとめている。そこでは、教員採用等の改善に係る取り組み事例として各都道府県・指定都市教育委員会の教員採用試験における選考方法の多様化をはじめ、選考尺度の多元化、受験年齢制限の緩和等について取りまとめられている。そこからは、試験の多様化の一層促進と受験年齢制限の緩和も島根県以外の各都道府県でも進んでいることがわかる。島根県は、2009年度公立学校教員採用試験から年齢制限を緩和した。優秀な人材の獲得競争が教員採用試験では始まっており、島根県もまた例外ではない。そして、幼稚園教諭や保育士の試験においても、専門職の大量退職と人材確保の必要性では似たようなことが言える。現在、幼稚園・保育所の職員構成は、グラフでみてわかるように50歳代が多く、その後継者となる40歳代が少ないという状況になっている。この50歳代が定年により退職するときには、その補充として多くの新規採用が必要となってくる。大量の採用が必要となる中で年齢制限を緩和しておくことは、採用する側にとっても幅広く優秀な人材確保することにつながる。団塊の世代が官民問わず大量退職時代を迎えるにあたり、松江市においても人材確保は重要であり工夫を求められるのではないだろうか。


幼稚園・保育所職員年齢構成


3. おわりに

 以上が、松江市の未来を担う子どもを育てる環境づくりについて検討した結果の一部である。実現性については難しいという意見を持たれるかもしれないが、取り組み方次第では抱えている諸問題に一筋の光をもたらす可能性を有している。財政状況の厳しさが増す中で、費用を抑えながらも松江市としての独自性をいかにして出し、市民サービスの向上に繋げるかを長期的視野に立って見た場合、人材確保は重要なものであり柔軟な姿勢で創意工夫のある施策を展開していくことが求められている。
 また、より子育てしやすい環境を作り上げていくためには行政だけでは限界があり、企業、NPO、一般市民の方などたくさんの人が協力して取り組まなくてはならないということを、アイディアを練る中で改めて感じた。今後様々な形で多方面の方々と交流を進め、真剣に議論していくことが問題解決に向けて具体的に取り組んでいくことへの第一歩である。