【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-①分科会 子育て支援と児童虐待

子育て・子育ち支援のあしたをめざして


大分県本部/別府市職員労働組合・保育部会

1. 別府市公立保育所再編計画にかかる取り組みについて(1)
  (2001年8月~2002年7月)

(1) 当時の別府市の公立保育所を取り巻く情勢
① 市内の保育所は、公立保育所11園(内1園公設民営)、私立認可保育所14園、その他17園の無認可保育所が点在している。
② 市立保育所のほとんどが築後30年以上経過しており、老朽化が激しい。大規模改修も行われていないため、民間に比べ現代の保育環境にふさわしくない状態となっている。
③ 保育士(正規)は、一時期の労使対立からほとんど退職不補充となっており、非常勤職員が増加するとともに正規職員の平均年齢も高くなってきている。今後、団塊世代の退職を控え、大規模な採用が必要となる。
④ 公立保育所建設に係る国県の補助は保護者のニーズに合ったもの(支援センターなどの併設)が対象となっている。
⑤ 共働き世帯の増加により、支援センターや放課後児童クラブ、児童館など拡充が求められている。また、待機児童の解消も喫緊の課題となっており、民間保育園の増築などで措置定数増を進めているが、需要に追いついていない。

(2) 当局提案の経過
① 別府市当局は2001年8月23日、別府市職労に対して「公立保育所の再編計画とそれに伴う条例の一部改正」について9月議会に上程する旨の提案を行ってきました。
【提案された公立保育所再編基本計画】
 ア 子育て支援の核として、児童健全育成の充実を図るため、保育所・児童館・子育て支援センター等の複合施設を建設する。
 イ そのため公立保育所(11園)を2006年度までに統廃合及び民間への移管を実施し、併せて住民ニーズの多い延長保育・一時保育の実施を検討する。
 ウ 具体的には、地域の拠点施設として南部、北部、西部地区に定員を増やした保育所・支援センター・児童館の機能を備えた複合施設を市直営で運営する。残り7施設は年次計画で民営化し一部は児童館に改築する。
② 市職労執行部は内容を検討した結果、以下の理由から再考を促し、一端当局に差し戻しました。
 ア 条例廃止案(民間移管)が先行している。
 イ 公設公営の複合施設建設の約束が不透明である。
 ウ 将来に渡る計画を一括して決めてしまうことは問題が多い。
 エ 市民福祉の重要な問題であり、市民・父兄・議会の合意が得られるか疑問である。
  しかし、「公立保育所の老朽化が激しく、耐震性もないため早期の建て替えが必要」「建て替えは国・県の補助事業が基本となり時間的制約がある」「入所待機児童解消のための早急な措置が必要である」などから、計画を分割した上で、2002年1月10日に第1次再編計画として再度提案がされました。

(3) 提案内容と問題点の整理
 市職労執行部は再提案された計画案を検証し、以下の問題点を整理しました。
① 第1次計画では民間移管に向けた条例改正が先行しており、新公立保育所(複合施設)建設はあくまで2年後という計画の域を出ていない。
② 民間に移管するメリット、デメリットが十分議論、検討されておらず、市民父兄の理解が得られるか不明。
③ 基幹園(公立保育所)の市内3園という根拠が薄い。
④ 委託先の決定方法が示されていない
⑤ 福祉法人とはいえ、市有地を無償貸し付けする事の是非が議論されていない。
⑥ 経営破綻もしくは放棄した時の対処方法が示されていない。

(4) 当局提案に対する市職労の取り組み
① 市職労は、子育て支援センターや児童館の設置など公立保育所を中心とした機能強化を求めてきており、公立保育所の建て替えについても賛成の立場で臨んできました。
② 一方、保育士の身体の状況に応じた事務職への配置換え(本人希望がある場合のみ)や現場との調整役としての原課(児童家庭課)への異動も労使協議の上、一定程度容認してきました。
③ しかし、公立保育所の民間移管については、市民福祉、行政サービスの根幹に関わる問題であり、今回の提案についても、行政の責任回避ともなりかねないことから基本的に反対の姿勢で臨んできました。
④ また、計画の頓挫や中断を避けるため、まずは3園廃止と複合保育所施設1園を建設することまでを第1次計画案として協議の対象としました。
⑤ 提案が予測される中で、この間、保育所部会とも協議を重ね、市職労執行部と同一歩調で進めることとし、全員集会でも意思統一を図ってきました。しかし、保育士の平均年齢の上昇、これまでの職変(事務職へ)に対する不安、計画の将来への期待などから、今回の当局提案に対しては条件さえ整えば期待する声が強く、複合保育所施設建設計画をつぶしてまで民間移管に反対するとの意見はありませんでした。よって、条例改正(廃止案)だけであれば、徹底して対抗していくことを確認しました。
⑥ さらに、民間移管については父兄や地元住民の同意を条件に協議をしてきましたが、当局による説明会において多少の不安は示されたものの、明らかな反対の意志は皆無であり、具体的な反対運動も起こっていません。
⑦ 以上をふまえ、労使合意のないまま議会提案を強行させることは労使共に混乱を招くことから、保育所職場代表者を入れた闘争委員会規模での団体交渉を配置し、「複合保育所建設を含め約束を反故にした場合は県本部を挙げての闘争に発展する」との通告を行った上で、今回の第1次計画について合意しました。
 <確認事項>
  ① 計画実施にあたっては労使合意を基本とする。
  ② 今計画は人員削減や民間委託を目的とせず、あくまで子育て支援施策拡充を目的とする。
  ③ 今回の第1次計画では、最低1園の複合保育所施設を建設し、公設公営で行う。
  ④ 民間移管や施設建設についても、今後労使で継続的に協議していく。

(5) 第1次再編計画のまとめ
 今回の計画は、地域的な意味を含む再編であり、公立でしか出来ない保育(障害児保育)など、「公立保育所は各地域ごとに必要であることを当局としても認識していること」、また、「今計画によって待機児童も減少させることができ、延長保育を含む特別保育など市民ニーズに基づいた計画であると判断できること」などから、別府市職労としては合理化提案と受け止めず、自治体改革の一環として認識し今後の取り組み強化によりさらに充実した保育行政を求めていくこととしました。

2. 別府市公立保育所再編計画にかかる取り組みについて(2)
  (2003年8月~2004年7月)

(1) 若干の経過
① 第1次保育所再編計画に基づき、2004年3月に山の手・境川・青山の3園が民間の社会福祉法人に移管されました。5月には中央保育所の大規模改造工事がはじまり、7月には西部地区複合施設(新鶴見保育所)の建設も着工されました。10月には北部児童館「あすなろ館」もオープンし、再編計画の進捗と同時に別府市の保育職場は大きく様変わりしました。
② 今後の労使協議の課題として「新施設を含めた2005年度以降の保育士配置」と「第2次再編計画」があげられる中、6月7日に「第2次保育所再編計画」に関する労使協議の申し入れがありました。しかし、その直後に移管をしたばかりの山の手保育園において、保護者と園側の運営方針を巡る混乱や保育士に対する不当解雇が表面化し、移管した市が混乱の対応や指導に追われる事態に発展、労使協議そのものを一時中断せざるを得ない状況となりました。
③ 「山の手保育園」の問題は8月に入り、市が学識経験者、保護者などで構成する運営委員会と、保護者からの苦情解決などに当たるワーキンググループを設置することを提案。緊密に連携し、安心で安全な保育環境を実現することで園側と保護者側が合意、保育士の解雇も撤回され、一定の収束を見ました。
④ しかし市職労は、一連の問題は「経験のない(浅い)社会福祉法人に保育所を移管することの課題」をつきつけ、「安易な民間委託や移管への警鐘」であったと受け止めています。混乱が生じた場合に実害を受けるのは園児や保護者、さらには施設で働く職員であり、今後の労使協議にこの反省を生かしていかなければなりません。

3. 別府市公立保育所再編計画にかかる取り組みについて(3)
  (2004年8月~2005年7月)

(1) 若干の経過
 「山の手保育園問題」の影響で、昨年夏以降中断していた「第2次再編計画」について、当局より「再申し入れを行いたい」との話があり、7月20日に執行部(書記長)と保育所部会役員で提案を受けました。この提案に伴い、7月25日(月)に保育士全員集会を開催。問題点の洗い出しと交渉に臨む意思統一を図り、「第2次再編計画と2005年度人員確保」に係る交渉に臨みました。

(2) 交渉の方針
 交渉では、7月20日付けにて当局より申し入れのあった「別府市立保育所再編計画(第2次)に関する協議の申し入れ」に対しての交渉とし、再編計画が合意に達した後に、新年度の人員配置について7月27日(水)に労使交渉を行いました。
 具体的には、以下の重点事項を中心に当局の考え方を質しました。
① 第2次再編計画の基本理念と具体的計画を説明させる
② 計画の目標年次が変更した理由を質し、今後の計画的な実施を求める。
③ 再編計画は児童福祉計画の拡充であることを確認する。
  (合理化・行革・人員削減・経費節減を目的とさせない)
④ 勤務労働条件の変更が伴う事項については、今後も労使協議を行う。
⑤ 山の手保育所の問題を糧とし、再発防止の徹底と問題発生時の対応を確立させる。
⑥ 春木、野口の2園の移管後は拠点施設の整備を必ず実施させる。
⑦ 職員の適正配置を求める。

(3) 交渉の結果
① 交渉の進め方として、当局からの「第3次再編計画」の提案について協議を行い、あわせて職員採用、人員配置について交渉を進めることとしました。まず当局より以下の提案がありました。
 ア 2004年度までを第1次再編計画と位置づけて、公立の境川保育所、山の手保育所、公設民営の青山保育所を2004年4月に民間移管を行った。あわせて、鶴見保育所(ほっぺパーク)の移転新築、中央保育所の耐震補強、大規模工事を行ってきた。引き続き公立保育所の拠点化、民営化によって通常保育の拡充や延長保育など、多様な保育サービスの推進を図っていきたい。
 イ 具体的には2009年度に3園程度の拠点保育所に収斂し、2007年度に春木保育所と野口保育所の2園を民間移管したい。あわせて内竈保育所を北部地区の拠点施設として整備したい。
 ウ 「職員の適正配置」については、保育士全体に占める正規職員の割合を7割以上に設定したい。
② 冒頭、組合より「計画の目標年度」について、「当初は再編計画の最終年度は2007年度末だったはず。目標通りに実行されないことは、人員配置や財政措置等に多分な影響を与える。今後は計画通りに実施されるよう十分配慮の上、臨んで欲しい」と要請しました。
③ さらに「今回の再編計画は合理化や行革のためではなく、(ア)子育てを取り巻く環境の変化に対応するため、(イ)老朽化した施設を改善するため、(ウ)人員配置含め現状の問題を解決するためである」ということ、「今回の交渉は再編計画の骨格部分について妥結を目指すものであり、移管や拠点施設の設置に伴う全部を了承するものではない。細部については今後も労使や現場を含めた協議を行う」ことを確認し、具体的な交渉に入りました。

4. 公立保育所再編を振り返って

 市職労と保育所部会は、当局から提案された「公立保育所再編計画」について、2001年から労使協議・交渉を重ねてきました。8年に及んだ保育所再編も2009年3月の「朝日・平田・あけぼの」の民間委託と、同年7月の「新内竈保育所」の完成によって一定の収束を見ます。この間労働組合として、当局の再編計画に一定の理解を示しながら協議を進めてきた大きな理由は、次の一点に集約できると考えます。
   「限られた条件の中で、
       支えが必要な子どもや保護者のために、
          私たちが何を守り、何を作ることができるか」

 労働組合の目的は、そこで働く人々の権利と生活を守り、健康で生き生きと働くことのできる職場を作ることです。民営化や民間移管などはその目的に反するものであり、これまでは「絶対反対」の立場で臨んできました。今回の再編計画も、組合の立場からすれば「自らの首を絞め、行革に荷担する内容」だったのかもしれません。しかし、核家族や共働き世帯が当たり前となる中で、助けや支えを必要とする子どもや親が激増しています。
 子どもの豊かな成長を支える私たち保育士にとって、育児ノイローゼや児童虐待、いじめなどの問題は決して見過ごすことはできませんでした。また、待機児童が解消されない中、無認可園で痛ましい事故が報道されるたびにやるせない気持ちでした。
 また、当時私たちの職場は市の財源不足で老朽化が進み、とても子どもを保育する環境ではないような状況でした。保育士の新規採用も10年以上ストップされ、非常勤が激増し、他の自治体の民営化を耳にするたびに「このまま公立保育所はどうなるのだろう。すべて民営化されるのだろうか」との不安がつきまとっていました。
 そんなときに提案されたのが、この再編計画でした。
 当初は迷いました。11園もの公立保育所が3園までに減ってしまうのですから。
 「本当に新しい保育所なんてできるのか」「民間移管だけで終わってしまうのでは」という意見も多くありました。
 しかし、親組合や市当局と協議を重ね、何度も保育士全員で話し合った結果、
① 助けや支えを求める親子のために、支援センターや児童館を通じて私たちの経験や知識を生かせる。また、全体的な定員増で待機児童も減少する。
② 少なくとも3園は公立として残り、他の認可園のお手本として今後も頑張ることができる。また、一定の新規採用を勝ち取れば、正規職員の比率も正常に戻る。

ことなどがわかり、不安も徐々に解消されてきました。
 連日の話し合いや夜遅くまでの交渉は大変でしたが、仲間を信じて頑張ってきた結果、なんとか新しい拠点保育所も2つ完成し、わずかながら毎年正規の保育士も採用されるようになりました。児童館で生き生きとした子どもたちの姿や、支援センターでお母さんたちの相談に乗ってあげられる仲間を見るにつけ、この方向は間違っていなかったと確信できます。しかし、反省点や課題も多くあります。親組合や部会での総括はまだ行っていませんが、現時点の反省点や課題を記したいと思います。
【反省点】
 ① 「山の手保育園」では、運営や雇用の問題で、園(法人)側が保護者・保育士と対立し、大きな問題となった。移管後のトラブルを防止するために、実績のある法人に移管すべきだったし、最低でもトラブル発生時の対応を当局にきちんと作らせておくべきだった。
 ② 極端な環境の変化で子どもや保護者に不安を与えないために、「2年間は保育内容を引き継ぐ」ことになっていたが、それが守られていない園があった。
 ③ 引き継ぎの期間は一定程度あったものの、法人によっては重く受け止めてないところもあり、不十分なまま引き渡してしまったケースもあった。
 ④ 移管後の公立保育所・児童館・支援センターのあり方(保育内容・職員数・正規と非常勤の割合など)を詳しく詰めていなかったため、計画推進中にあわてて労使協議を行う場面があった。
【今後の課題】
 ① 「正規7割」を守らせるための計画的な新規採用。
 ② 認可保育所のお手本となるための、公立保育所の機能充実。
 ③ 子育て支援拡充のための、児童館・支援センターの適正な職員配置。
 ④ 給食部門を民間委託させないための、食育等の取り組み強化。
 冒頭記したように、私たちが頑張ってこれたのは、「自分たちの職場を守ること」以上に、「子どもたちのために何を守り、何を作ることができるのか」という思いでした。
 この計画を単なる行革と受け止め、職場を守ることだけに汲々としていたら、ここまでたどり着けなかったかもしれません。そして、仲間と組合を信じ、何度も何度も話し合いを重ね、納得いくまで親組合に意見をぶつけてきたことも大きいと思います。再編計画が無事に終了したこともうれしいですが、この運動の中で、仲間の信頼や若手の成長、部会の組織強化が図れたことも大きな財産となりました。
 とはいえ、現在の保育職場を取り巻く状況を見たとき、今後も決して楽観できません。これからも、財政難や行革の流れに負けることなく、子どもたちのために正々堂々と声を出し、「公立保育所」を守りながら、自治体職員としての保育士の役割を追求していきたいと思います。