【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

医療を取巻く状況と自治労渡島地方本部の取り組み


北海道本部/自治労北海道渡島地方本部・衛生医療評議会・議長 田島  修

1. 昨今の医療政策に対しての自治労渡島地方本部の取り組み

 小泉政権以降、国のすすめる三位一体改革により地方自治体の地方交付税は大幅に減額された。また、社会保障費を年間2,200億円削減した結果、保健・医療・福祉は危機的状況に陥り、住民サービスの提供にも大きな影響を与えた。
 2007年6月に成立した「自治体財政健全化法」は自治体の一般会計、公営企業会計などを連結しての決算を義務付けた。これにより、公立病院を抱えている自治体は経営悪化による不良債務の解消を早急に迫られることになる。
 また、「経済財政改革の基本方針2007」では、公立病院の改革を進めるため総務省内に「公立病院改革懇談会」を設置し、2007年12月「公立病院改革ガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を各自治体に通知した。このガイドラインは病院経営の効率化を主としたものであり、地域における医療サービスが消えて無くなるという医療の崩壊に繋がる可能性がある。
 更に、道内の自治体病院の7割が赤字となっている状況のなか、道は独自提案として自治体病院の経営の効率化や再編などに言及した「自治体病院等広域化・連携構想(案)」を2007年8月に公表した。これらの一連の動きは地域医療サービスの更なる縮小、切り捨てともいえる。地域医療の崩壊は地域そのものの崩壊に結びつく重大な問題であり、自治労渡島地方本部としては地域住民及び関係各界と連携を深め、取り組んでいく必要がある。そこで、自治労渡島地方本部は2008年3月19日、連合渡島地協に設置された「地域医療を守る渡島地域対策委員会」に役員を配置し、道本部や地区連合、道南医療などと連携を密にして取り組みを進めている。更に、自治体財政とともに地域医療を守り、職場を守る立場から同年3月28日、自治労渡島地方本部内に「自治体病院医療問題対策本部」を設置した。この間、衛生医療評議会は地域医療に根ざした取り組みを行ってきたので報告する。

2. 国の本音

 厚生労働省は新年度から緊急の医師確保策として、全国の医師養成数を395人増やすことを認めた。しかし、これは暫定的な措置であり、単純に医師を増やしても都市圏に一極集中し、訴訟リスクが高い産科医よりリスクの少ない皮膚科や耳鼻科、眼科の医師が増えてしまう可能性がある。厚生労働省は産科医が一人でリスクの高いお産をやるようなことがないよう病院の再編も必要であるという。確かに、日本は人口10万人あたりの医師数は200人弱であり、欧州の約300人に比べると少ないことも事実である。医師確保策に対して厚生労働省は例えば、都道府県同士で知事が協議して医師をレンタル移籍してもらうとか、道庁が音頭を取って札幌圏に数多くいる医師を地方に回す仕組みを作るなど、もっと知恵を絞るべきという。更に、厚生労働省は国が医師確保を補助する予算を組んでも、都道府県が予算をつけず十分活用されていないと苦言を呈する。

3. 自治体財政健全化法・公立病院改革ガイドライン・自治体病院等広域化・連携構想(案)の戦略

(1) 自治体財政健全化法について
 自治体財政健全化法は自治体の財政破綻を未然に防ぐために、国が財政状況をより詳しく把握し、悪化した団体に対して早期に健全化を促すための法案である。2008年度の決算から、全ての会計を対象に「実質赤字比率・連結実質赤字比率・実質公債費比率・将来負担比率」の4つの指標を用いて健全度を判断する。特に病院事業会計の赤字は連結実質赤字比率に反映されるため、病院の赤字が大きい場合は自治体自体が「健全化団体」に指定される可能性が強く、自治体内での病院のあり方の議論により一層拍車がかかると予想される。

(2) 公立病院改革ガイドラインについて
 全国的にみて病院事業が自治体の財政状況に大きな負担をかけていることから、総務省はガイドラインを示し、自治体に対して病院の経営健全化を図る公立病院改革プラン(以下『改革プラン』という)の提出を求めた。その内容とは「①当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方を明記すること、②経営の効率化を図って経営黒字を目指すこと、③二次医療圏単位で医療機関の再編・ネットワーク化を進めて統合を推進すること、更に、④人事・予算等に係る実質的権限、結果への評価・責任を経営責任者に一体化し、必要ならば、独立行政法人化(非公務員型)や指定管理者制度、診療所化等へ経営形態を見直すこと」である。②については3年を目途に、③と④については5年を目途に策定しなければならない。この期間中に達成が困難な場合は達成時期を明示することとなる。
 また、総務省は公立病院改革に対する支援措置として、改革プラン策定費、再編による医療機能整備費、再編等に伴う精算経費等の財政支援措置を講じるほか、公立病院に関する既存の地方財政措置についても見直しをはじめた。特に病院特例債については、2007年度決算で不良債務比率が10%以上で、ガイドラインに基づく改革プランを策定し、収支均衡への道筋を示したと認められる場合には不良債務の額を目途に2008年度に限り病院特例債を認めた。しかし、この病院特例債は返済を7年に引き延ばしたに過ぎない。

(3) 自治体病院広域化・連携構想(案)について
 道は道内を30区域に分けて地域医療体制の維持を図るとする自治体病院等広域化・連携構想(案)を示した。この構想案について道は「道から市町村、住民への提案」として取りまとめたものであり、今後、この構想を踏まえて地域での協議が深まり、地域自ら主体的に検討を行うことを求めている。それは、限られた人材や財源を効率的に運用し、200床程度のベッドを持つ病院を中核病院とし、それ以外の病院は規模縮小し再編を促している。各自治体病院に対し規模縮小や診療所化の方向性が示されたことは、総務省のガイドラインを強く意識したものといえる。それは、北海道を30区域に区分することはガイドラインでいう「再編・ネットワーク化」のこと、また、人材や財源の効率的な運用はガイドラインでいう「経営の効率化」のこと、中核病院とそれ以外の病院を規模縮小することはガイドラインでいう「再編・ネットワーク化と経営形態の見直し」といえる。この素案は道民のため、地域のためになるのだろうか。地域医療の確保に向けた議論に有無を言わせない一方的な押し付けともとれる。

4. 自治労渡島地方本部の活動報告

 自治労渡島地方本部衛生医療評議会のこの間の活動について報告する。

(1) 自治労渡島・檜山地方本部衛生医療評議会・道南医療合同ナースアクション
 2007年8月25日 長万部町・福祉センターにて開催。講演はパネルディスカッション形式で3人のパネラーにより「砂原国保病院民営化の教訓」と題して行われ、会場参加者と活発な意見交換をした。後に町内において白衣に着替え「地域住民に医療現場の厳しい労働環境や、安心・安全・信頼の医療の提供には、マンパワーの確保が急務である」ことを説明し、理解を求める街頭行動を行った。

(2) 道南医療第14回総会
 2007年11月10日 函館ハーバービュー・ホテルにて開催。講演は亀田病院ケースワーカー村中秀信氏により「介護保険の上手な利用の仕方」と題して行われ、会場参加者との活発な質疑応答があった。

(3) 自治労渡島・檜山地方本部衛生医療評議会・道南医療合同春季学習会
 2008年2月9日 函館ハーバービュー・ホテルにて開催。講演は自治労衛生医療評議会議長田島修が「ガイドライン・自治体病院等広域化・連携構想(案)・自治体財政健全化法について」と題して、また、自治労中央本部衛生医療評議会議長木村崇氏が「衛生医療を取り巻く状況について」と題して行われ、会場参加者と活発な意見交換をした。

(4) 地域医療を守る渡島地域対策委員会
 2008年3月21日 道南労働福祉会館にて第1回検討部会を開催。連合渡島地協は地域住民が安心・安全でどこでも受けられる医療体制の確立について、また、道の構想に対し意見反映していくことを全会一致で確認した。
 具体的な取り組み方針として
① 「地域医療を守るため」と題し、シンポジウムを函館市で開催する。
② 松前町・森町・長万部町で学習会を開催し、医療情勢を地域住民に周知していく。
③ チラシ(STOP THE 地域医療の崩壊)を作成し、配布する。

(5) 自治労渡島地方本部 第3回単組総支部代表者会議
 2008年3月28日 函館国際ホテルにて第1回「自治体病院医療問題対策本部会議」を開催。具体的な取り組み方針を確認した。
① 地域医療を守る渡島地域対策委員会と連携した取り組みに役員を配置し、議論に参画していくとともに、決定した具体的な取り組み方針について積極的に対応していく。
  (ア)各自治体における意見、要求、提言を積極的に行うとともに、各級議員との連携を図り、議会内での対応について検討していく。(イ)地域医療の実情と課題、問題点を明らかにし、共有化を図る立場で学習の場を設定する。(ウ)各地区において医療を考える集会を行うなど、地域住民との対話を深めるとともに課題と方針などを周知する場を設定する。(エ)各議会において「地域医療の確保に関する意見書」の採択に取り組む。
② 自治体病院医療問題対策本部における運動の視点
  (ア)地域における医療を守る。(イ)自治体病院で働く労働者を守る。(ウ)主に赤字経営の自治体病院について運営にかかる財政確保策を考えていく。
③ 自治体病院医療問題対策本部での取り組み
  (ア)道南圏及び渡島圏の医療の現状を把握し、各自治体病院の今後の方向性を検討する。(イ)今年度予定されている各病院改革プランの策定について、委員としての参加などを行って積極的に関わり意見反映していく。(ウ)自治体財政健全化と自治体病院経営の関わりについて議論していく。

(6) 連合渡島地協地域医療対策オルグ(渡島地協・自治労渡島・道南医療)
 2008年4月14日 松前町にてオルグ活動
 副町長との会談:単年度、病院経営は黒字で病院長は頑張っている。当然、総務省のガイドライン等の考えも理解している。個人的には現状での病院存続を考えている。
 松前町連合との会議:松前町職は厳しい状況を認識している。松前町連合としても、現状のまま今の病院を維持できるよう、連合渡島・自治労・道南医療と連携し、行動する。

(7) 連合渡島地協地域医療対策オルグ(渡島地協・自治労渡島・道南医療)
 2008年4月17日 長万部町にてオルグ活動
 長万部町職及び病職との会議:病職としては出来ることは全てやっている。
 長万部町連合との会議:もし病院がなくなれば、スキー学習が出来なくなるなど学校教育にも影響する。JRからも様々な列車事故等が起きた場合に影響は生じる。そのためにも、連合傘下の組合(企業等)としても病院の存続を希望する。今回の道の地域連携構想は漠然とは知っていたが、総務省のガイドラインは無知であった。病院が無くなれば、当然地域に与える影響は途方もなく大きい。今後、連合渡島地協地域医療対策委員会が中心となり地域学習会開催等の支援をしていく。

(8) 自治労渡島地方本部 第2回「自治体病院医療問題対策本部会議」
 2008年5月10日 北斗市かなでーるにて開催。公立病院改革プランの策定スケジュールについて、また、各病院の状況と分析(2006年度決算書を用いて)を行った。
 ①累積欠損金・不良債務額について、②経常収支比率・医業収支比率・職員給与費対医業収益比率について、③材料費医業収益比率・薬品費対医業収支比率について、④病床利用率・平均在院日数・患者1人当たり診療収入について、⑤繰出基準・交付税措置額・営業助成金などについて資料を用いて分析し、対策等について協議した。

(9) 地域医療を守る渡島地域対策委員会
 2008年5月24日 道南労働福祉会館にて第2回検討部会を開催。地域医療に関する大衆行動の取り組みについての説明と街頭行動。
 地域医療に関する大衆行動の取り組み
① 地域チラシ配布について、松前町・長万部町・八雲町・木古内町・森町は7割配布・その他の地区は5割配布する。
② 個人・団体署名活動の取り扱いについて、5割を目標に行う。
③ 地域住民等を巻き込んだ学習会開催について(松前・森・長万部の3地区)の確認。
④ 松前町で住民との討論集会を6月18日に開催する予定。
⑤ 函館市本町にてチラシ配布と署名活動を行った。

(10) 地域医療を守る渡島地域対策委員会・松前地区連合会主催
 2008年6月18日 「松前の医療を考える住民の集い」を松前町ふれあい交流センターにて開催。衆議院議員逢坂誠二氏、松前町長前田一男氏らと住民との討論会を行い、住民からは「病院を残してほしい」との意見が出るなど、活発な議論となった。

(11) 連合渡島地協地域医療対策オルグ(渡島地協・自治労渡島・道南医療)
 2008年6月20日 森町にてオルグ活動
 森町連合との会議:町財政が非常に厳しいなか病院を存続させるためにはどうしたらよいか。国のすすめる医療政策や国保病院のおかれている状況を町民のみなさんに知ってもらうのが先決である。地区連合としては2008年7月26日、森町で開催される道南医療のナースアクションに積極的に取り組み、今後も自治労・道南医療と連携し、行動する。

5. 各自治体病院の改革プランの策定状況について

 自治体病院等広域化・連携構想(案)に係わる検討会議設置状況(2008年6月24日現在)について、表1を参照。渡島保健所は2008年7月頃までに検討会議を設置予定、八雲保健所は時期未定である。また、各自治体の公立病院改革プラン策定の検討スケジュールの概要について、表2を参照。函館市は2008年11月までに改革プランを策定し、議会等へ報告。2009年3月までに改革プランの成案化を目指す。松前町は2008年6月までに改革プランを策定し、同年7月には議会・住民報告。木古内町は2008年12月までに改革プランを策定し、2009年3月に議会・住民報告の予定となっている。一方、森町、八雲町、長万部町は検討中で遅れをとっている状況である。いずれにしても、改革プラン(案)の策定は同年11月末(各自治体の次年度予算策定時期)までの作業が求められる。

6. 今後の課題

 地域医療を守るとは、いわば公立自治体病院をいかに存続させていくかが重要な鍵となる。なぜなら、採算のとれない地域には民間は参入してこないからである。特に広大な北海道ではその特性は顕著に表れており、渡島地区においても例外ではない。ガイドラインや自治体病院等広域化・連携構想(案)と自治体財政健全化法は密接な関係があるといえよう。これらはいずれも財政ありき論をうたっている。今や地域公共サービスをめぐる状況は大変厳しさを増している。特に公立病院の経営や地域医療の確保は自治体の大きな課題となり、住民サービスの切捨てが一層進むものと考えられる。2005年、第76回自治労定期大会で決定した2006-2007年度運動方針案「地域の公共の力」を維持・発展させることがわれわれ自治労の使命である。先に述べた衛生医療評議会の活動には、ナースアクションでの街頭行動や各種学習会、およびチラシ配布や署名活動がある。われわれはこれらの活動を通して「安心・安全の医療・介護」を訴えてきた。ただ単なる市場万能主義に抗し、われわれはより良い社会を構築するためにも、地域住民と共同して邁進していかなくてはならないであろう。今年度中に策定しなければならない改革プランについては、①業者任せにしないで病院主導で改革プランを作成すること、②作成にあたり組合も参画すること、更には、③住民の代表を入れ、住民による住民のための病院作りを目指すべきではないだろうか。また、労働組合としては何が必要であり何が必要でないのか、残していくものは残す、身の丈にあった病院運営について指摘すべきであろう。最後に、昨今の医療改革は医療の改悪とも言われている。この改悪を正すのは政治の力が必要であることも一言付け加えたい。


表1  自治体病院等広域化・連携構想に係わる検討会議設置状況(2008年6月24日現在)
保健所名
状 況
概     要
渡島保健所 設置予定 2008年7月頃設置予定
構成員:市町長、関係病院長、医師会長、学識経験者、住民代表
八雲保健所 設置予定 時期未定
構成メンバーについては協議中
注:設置予定 検討会議設置について地推協等で了解され、設置予定のもの


表2 渡島地区における各自治体の公立病院改革プラン策定の検討スケジュールの概要について(2008年5月10日現在)