【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

奥尻町の医療を取り巻く状況について


北海道本部/自治労奥尻町職員組合

1. 奥尻町の概況

 奥尻島は、北海道の最西端に位置し、檜山管内江差町から西北61kmの日本海に浮かぶ離島である。周囲は84km、面積は143km2と道内で2番目に大きい島である。
 2008年3月末現在で、人口は3,442人、世帯数1,658世帯である。基幹産業は水産業と観光業である。主な交通手段としては、せたな町(夏期間のみ)、江差町からフェリーが毎日2往復で運航している。
 また、1974年には、交通機関等の高速化に対処するため、奥尻空港が整備され、奥尻~函館間の空路が開設し、町民の生活路線として定着してきた。更に、2006年3月に、奥尻空港滑走路がそれまで800メートルだったものが、1,500メートルへと滑走路が延長となった。これにより離島における観光振興にも一層の期待が寄せられている。

 

当時の被災状況(時事通信社提供)

 奥尻島の古名は、イクシュンシリといい、後にイクシリと転訛したものである。これは、北海道の先住民であるアイヌの言葉である。「イク」は向こう、「シリ」は島の意で即ち「向こう島」という意味であり、享保5年(1720年)新井白石著『蝦夷誌』に初めて「奥尻」と記されている。島は寒暖二つの海流に囲まれ、豊富な漁田があるほか、初松前と呼ばれる海岸の砂丘地帯には約520年前松前藩の藩祖武田信広が奥羽各部から来島し、居城したと言われている。1869年には、国郡設定にあたり後志国奥尻郡となり、その後奥尻村に改められ、更に1961年1月には奥尻町となり、町制が施行された。
 奥尻島は1960年4月檜山道立自然公園に指定され、美しい海岸線と温泉、素朴で荒削りの風景が醸し出す多彩な観光資源に加え、1982年には、彫刻家流政之氏による彫刻『北追岬』を中心とする「北追岬公園」が整備され、訪れる観光客を魅了している。
 奥尻島への観光客は、年間約5万人であり、日本海の荒波が作り出した「なべつる岩」や「無縁島」など、変化に富んだ自然の造形美を楽しむことができる。さらに、奥尻島は水産業も盛んで、ウニ、アワビ、イカなど四季折々の魚介類、海藻の味覚がふんだんに味わえる島であるとともに、湯浜地区には神威脇温泉があり、湯につかりながら海に沈む夕日を堪能でき、観光客に喜ばれている。
 また、1993年7月12日北海道南西沖地震(M7.8)で最大29mの津波と火災による死者・行方不明者あわせて198人、公共施設等総額664億円の甚大な被害を受けたが、全国の支援により「災害に強いまちづくり」を推進し、復旧・復興がなされた。
 今年の7月12日は、その災害の年から数えて丸15年という節目の年であった。

2. 奥尻町を取り巻く医療環境について

 現在奥尻には、町営の国保病院が奥尻地区に一つと、それに連なる診療所が青苗地区に一つある。また、民間の歯科医院が青苗地区に一つある。
 国保病院の診療医師は現在3人体制(院長1人、副院長2人)となっており、青苗診療所においては、その国保病院の医師が交代で火曜日と木曜日の午後のみ診療を行っている。その他に国保病院内に歯科が併設されており、また、民間の歯科医院が青苗地区に1件ある。
 国保病院及び青苗診療所では、通常は内科診療が主であるが、月に1回程度、他の病院から医師が来島し、耳鼻咽喉科診療や眼科診療などを行っている。
 国保病院の1日の平均来院患者数は、102.28人であり、入院患者数は、5月1日現在で45人である。また、病床数は、一般病床数が22床で、療養病床数が32である。病床利用率は、83.3%である。



 外科的な治療が必要な場合は、道立江差病院や函館市立病院などへ患者を搬送している。その他に、万が一、脳梗塞や心筋梗塞などの緊急を要する重篤な患者が発生した場合、国保病院では、高度救命医療設備が整っていないことから高度救命医療施設が整備されている函館市内の病院へ搬送しなければならない。患者を搬送するためには、離島であることから北海道防災航空室へヘリコプターの派遣を要請する。この要請は、「北海道消防防災ヘリコプター運航管理要綱」並びに「北海道消防防災ヘリコプター緊急運航要領」、「ヘリコプターによる救急患者の緊急搬送手続要領」などに基づき行っているものである。
 但し、天候等などで防災航空室のヘリコプターが飛来できないときは、他機関要請ということで、国の機関へ防災航空室を通じて要請することとなる。国の機関の航空機類が飛来できない場合は、海上保安署へ依頼して巡視船などによる患者搬送ということになる。
 ちなみに、2006年度の緊急ヘリ要請件数は16件で、そのうち防災航空室が5件、海上保安部が6件、陸上自衛隊が3件、航空自衛隊1件、札幌市消防本部が1件となっている。また、2007年度については、防災航空室が3件、海上保安部が3件の計6件となっている。
(以下に、2004年度から2006年度までの内訳の一覧を掲載している。)


 
海上保安部のヘリによる患者搬送状況写真
 
航空自衛隊機による緊急搬送状況写真


 奥尻町も離島であるという地理的条件であることから、僻地であり、過疎化・高齢化がものすごいスピードですすんでいる。2008年3月31日現在の人口が3,447人で、そのうち65歳以上の人口が1,032人となっており、高齢化率はおよそ30%である。今後老齢化に伴う医療施設の充実が喫緊の課題である。

奥尻町の人口の推移(H6~H20)

 また、より迅速に高度救命医療施設が整備されている病院へ緊急患者を搬送するためには、現在都道府県レベルで進められているドクターヘリの設置が、絶対的に必要と思われる。北海道では、2005年4月1日に、手稲渓仁会病院救命救急センターにおいてドクターヘリを設置しているが、道内で保有するドクターヘリは現在のところこの1機だけである。北海道の広い大地を網羅するためには、1機だけでは不足であるので、今後2機、あるいは3機と増設する必要があると思われる。特に利尻・礼文という離島を抱える宗谷地方、天売・焼尻を抱える留萌地方、そして奥尻島がある檜山地方には特に配備するべきであると考える。
 このドクターヘリ事業については、次の項でも記載している「北海道へき地保健医療計画」でもその充実を掲げているところである。

3. 北海道のへき地医療について

 先述した「北海道へき地保健医療計画」によると、緊急医療の充実ということで、消防防災ヘリコプター等による患者搬送、ドクターヘリ事業の充実を掲げており、更にその中で、「ドクターヘリ事業の充実に向けた取り組みを進めます。」との文言がある。また、「へき地における医師の確保」ということで、施策の方向として掲げているのは、「離島やへき地における医師確保やへき地医療拠点病院等の医師確保を進めます。」とある。更には、北海道地域医療医振興財団ドクターバンク事業の推進ということで、「道内の過疎地等医療機関における地域医療の確保を図るため、厚生労働大臣の許可を得て医師の無料職業紹介業(常勤及び非常勤医師の紹介・あっせん)を行うほか、過疎地等に勤務する医師の定着に向け、研修会の参加や休暇の取得等を促進するため、短期診療支援医師を確保し、市町村等への紹介を行っています。」とある。
 これらのことから、医師の紹介や離島の医師の確保、ドクターヘリ事業の充実といったことを計画の中で示している以上、北海道としても、決して謳い文句だけではなく、実効性ある計画にするためにも、きちんと計画の進捗状況を検証し、へき地医療のあるべき姿を追求するべきである。またそのための制度の拡充、環境の改善など積極的に推進する必要もあると考える。
 また、北海道の「自治体病院等広域化・連携構想」(2008年1月)の中では、奥尻町の国保病院は区域の1に位置づけられ、函館市、北斗市、七飯町、鹿部町、森町とおなじグループに所属されている。財政要素から見た自治体病院の方向性としては、奥尻町国保病院は、不良債務があることから、「診療所化を含めて規模の適正化について検討する必要があると考えます。」と記載されている。
 政府のほうでも、「公立病院改革ガイドライン」が2007年12月21日に示され、その中では公立病院特例債を創設し、2008年度に限り、2003年度以降の医師不足の深刻化等により発生した不良債務が、2007年度決算においてその比率が10%以上で、改革プランを策定して、単年度収支の均衡が図られる団体に対し、長期債務に振り替える公立病院特例債を発行できることとし、不良債務の計画的な解消の支援策を打ち出している。
 また、北海道は、「広域化・連携構想」と政府のこうした動きとの整合性を強調し、広域化構想で診療所化を推し進める内容となっているが、政府の「公立病院改革ガイドプラン」でも、診療所に移行した後でも引き続き、過疎地等の「不採算地区病院」の地域要件を満たす場合、病院に準じ、特別交付税の措置があることが盛り込まれている。
 しかしながら、こうした政府の支援策でも、結局は借金の先送りや目先の方策で、長期展望した際の病院経営の収支改善のための抜本的な解決策にはなっていない。こうした一時的な特例債や、あるいは診療化すれば経費が節減できるという単純なことではなく、もっと根本的な解決方法を見出していかなければ、地域の健康・生命を預かる場としての病院が、地域から消え去ってしまうことにもなりかねない。
 よって、そうした観点から病院経営はやはり連結決算から外し、むしろ交付税の増額や診療報酬の引き上げなどの緩慢な措置を講じてもらうことが肝要である。

4. 今後の課題について

 医療は、経済性や収支だけではかれるものではなく、人の命を守るという重大な責務を負っている。このことをしっかりと踏まえて議論しないことには、地域医療については語ることができないと思う。単なる経済性合理主義とか、診療報酬の引き下げ、診療所化・人員削減・合理化などというものと、医療とは本来相容れない性格を持っていると考える。
 しかしながら、政府は、経済合理性で、2008年度から一般会計と病院会計なども含めた連結決算の指標による交付税の算定根拠を持ち出してきた。
 それでなくとも、小泉・安倍と続く政権で、交付税削減・地方切捨ての政策を取り続け、地方は疲弊している状況である。
 こうしたことから、全国の自治体病院では、いま病院経営が即ち、自治体経営の負の遺産となりつつある。また、こうした現況から、一層深刻さを増すのは末端の、高齢者を多く抱えるような過疎地、奥尻町のような自治体にしわ寄せがかかるということである。
 離島であるということは、陸続きとは違い、すべて、あらゆることを自賄で行わなければ成り立たない。それは病院経営だけではなく、自動車整備工場、町営バス、空港、発電所、環境センター、上下水道管理、公共牧野管理など、それらすべてのことを丸抱えにしていかなければならない宿命を持っている。
 それ故、一元的に公務員を減らせ、民間委託しろ、交付税を減らすなどと声高に言われても、政府が机上で考えていることと、末端の自治体の現状とがまったく乖離しているのである。
 いまやらなければならないことは、今後高齢化社会を睨み、地方の医療充実を図ることがむしろ必要不可欠である。そのためには、地方の医療機関の設備の充実はもとより、高度救命医療機関との連携強化、医師の資質の向上、過疎地への医師の派遣制度の整備拡充、ドクターヘリ事業の促進などがより一層図られなければならない。