【自主レポート】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立 |
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1. 二つの市立病院 小樽市には現在、市立小樽病院・市立小樽第二病院の2市立病院が存在する。もしかしたら、2つあること自体は珍しいことではないのかもしれないが、それぞれに存在する診療科をみると「なぜ?」という想いがどこまでもついてまわる。 2. 小樽市が両病院の新築統合を考えた理由 2006年6月号「広報おたる」に以下の様に記載されている。 |
現在の病院の老朽化と狭さの解消 小樽病院の建物は、最も古い部分で昭和28年、第二病院は49年に建設されたもので、かなり老朽化が進んでいます。特に電気・給排水・暖房などの設備関係は、補修の繰り返しで何とか維持している状況です。また、新しい耐震対策や、消防設備の改善も課題となっています。 医師確保の問題 医師の確保は、新しい医師研修制度の影響もあり、全国的な問題となっています。「医師に選ばれる病院」でなければ医師の確保は困難になっており、今後その傾向はますます強くなってきます。施設の老朽化は医師を確保する上でも大変不利な条件となっており、両院の医師はこの2年間で59人から44人に減少しています。 表1. 市立病院と最近建設された病院の比較
二つの病院で診療科が分かれているために、診療上で大変不便があることはもちろんです。また、医療機器などの設備やスタッフがそれぞれに必要なことも、経営上の大きな負担となっています。 表2. 新病院の病床数
基本構想では、20の診療科目を予定しています。これは、ほぼ現在の診療機能を引き継ぐものですが、「民間の医療機関にある診療科を持つのは、無駄ではないか」とのご意見もあります。 |
ここに記載されていること自体は決して間違っている訳ではない。小樽市職労・小樽病職としても地域医療を守るという観点から新病院は必要であると考えているし、持っている視点も小樽市当局と大きな差は無いと考えている。 3. 建設場所の問題 一つが新病院建設場所の問題である。実はこの問題は本来新病院の議論とは関係ないはずの「小学校適正配置計画」の議論とリンクしてしまったため、一層複雑な議論となってしまった様に感じられる。 |
建設場所は築港地区 【新病院建設に必要な要件】 【候補地二カ所を選定】 【築港地区に特定】 |
要約すると、想定している一定程度の規模の病院を建設する際、小樽市内には土地スペース的に2カ所しか候補地がない。つまり「現在の市立小樽病院と隣接する量徳小学校(適配により廃校予定)の敷地を合わせた所」か「築港地区で未利用となっている土地(ポスフール小樽の向かい側)」しか候補地がないが、小学校の適正配置が保護者の方々などの理解が得られなかったため消去法で築港地区にしたというのである。 |
【地震について】 築港地区は、既に大型商業施設やマンションなども建設されているとおり、適切な対策を取れば安全性に問題はありません。新病院では、さらに下の図の"免震構造"を取り入れることで、安全性を確保するとともに揺れに対する不安を解消します。 【建物基礎のイメージ図】 建物基礎のイメージ図(省略) 【津波について】 【液状化現象について】 【ライフラインの被害について】 |
以上の技術的な面が示され、この議論は収束していったが、その後、現在に至るまで、市立小樽病院現在地または現在地付近への建替運動が続いている。これはあとで述べる小樽市の財政状況とも密接に関わるところであるが、2007小樽市長選において現職の山田市長以外の2候補者が主張した「現病院のリフォーム」や「計画の一時白紙撤回」をも含んだものとなっている。また、市街中心部の空洞化をおそれる声も大きいのも確かである。「適正規模の病院を」という声もある。 4. 財政面から見た問題 小樽市の一般会計は2005(平成16)年度決算より実質収支が赤字となり、財政的に極めて厳しい状況が続いている。それに伴う給与等独自削減も2005(平成16)年度より行われており、2008(平成20)年度からは一時金削減にまで手を付けられた。こういう状況に陥ったのは、いわゆる三位一体改革が大きな原因の一つである。しかし、小樽市においては最近特に注目を集めているのが病院の累積赤字問題である。病院事業への繰出金は1990(平成2)年度には約11億円であったのが、徐々に増加し、1999(平成11)年度以降常に50億円を大きく超える金額となっている。また、毎年貸付金を年度末に償還し、年度初に同額以上貸しだすという、いわば借換の連続を病院会計と一般会計との間で行っていたが、いわゆる夕張問題に端を発し、この手法が「不適切な会計処理」という扱いとなってしまい、これまでに貯まった総額約44億円の"不良債務"を一般会計と病院会計で折半し2007(平成19)年度から5年間で解消することとなった。 |
統合新築により将来の市民負担が軽減 「病院の新築は、多額の借金を将来に残す」とのご意見があります。しかし、現在の病院のままで推移するより、効率的な病院を建設した方が市民負担は軽くなります。 |
小樽市当局の言うように新病院を建設したからといって直ちに医業収益が改善されるとは思わないし、少々楽観的すぎではないかと思えるが、はっきり言えるのは新病院が建たないと医師の確保もままならず、結果地域医療を守ることもできなくなるということである(現状の病院に見切りをつけて去っていく医師が非常に多くなってきているのは事実である)。財政のことだけを考えれば、現病院の事実上の自然消滅を待つことも考えられなくもないが、本当にそれでいいのだろうか(即廃止は、現在の小樽市の財政状況では退職手当の財源を手だてしきれないので不可能と言われている)。 5. 今後の見通し その後、不良債務解消計画がうまくいかずに、土地購入のための起債を申請することができず、またその後出された公立病院改革ガイドラインへの対応もあり、既に業者委託して開始していた基本設計を中止し、市立病院新築準備室も大幅縮小されるなど、新病院建設計画は現在事実上凍結された状態となっている。 |
用地購入と基本設計業務 新病院の建設には、起債の導入(資金の借り入れ)が必要です。しかし許可を得るには、病院事業会計が抱える不良債務(約43億2000万円)を5年間で解消しなければなりません。そこで市では、病院事業会計と一般会計とで解消する計画を策定。北海道へ提出し協議を進めてきましたが、本年度に入って状況が変化したため、計画を見直しました。 |
公立病院改革ガイドライン対策として、小樽市でも庁内検討プロジェクトチームを設置し、また外部有識者なども招聘し、改革プランを策定する中で新市立病院のあり方、果たすべき役割も検討されるとしている。 6. 傍論:経営悪化の理由は人件費の高止まりが原因なのか? これまで記述してきたとおり、小樽市病院事業会計には発覚当時で約44億円の累積赤字があった。現在の状況で言えば、例えば小樽病院の医師退職の補充ができず、結果として産科の休止や内科の新患受付中止などの事態を招き、それが経営悪化を招いていると言える。しかしこの44億円はそれ以前に蓄積されたものである。その理由が細かく追求されることはなく、単純に人件費比率などを見ることにより勢い人件費が集中的に攻撃されることになり、医療表(二)(三)導入を含めた議論がわき上がってくる理由にもなる。
こうしてみると市立小樽第二病院の場合は、同規模黒字病院と比べても遜色ない結果となっている。これだけ見ても、"人件費が高い"のが赤字の原因であるとは言えないのではないだろうか。確かに病床数のみを見ての比較には批判はあるが、第二病院の病床の約半数が精神科であることを考えれば相当な数字なのではないかと思う。もちろん、これだけではまったく不完全であるので今後も財務分析を進めていきたいと考えている。 |