【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

小樽市立病院の現在と新築統合へ向けた動きについて


北海道本部/自治労小樽市役所職員労働組合・市立小樽病院職員組合

1. 二つの市立病院

 小樽市には現在、市立小樽病院・市立小樽第二病院の2市立病院が存在する。もしかしたら、2つあること自体は珍しいことではないのかもしれないが、それぞれに存在する診療科をみると「なぜ?」という想いがどこまでもついてまわる。
 市立小樽病院は1928(昭和3)年開設であり、戦前から総合病院としての役割を果たしてきた。小樽市史によれば市立小樽病院は、1912(明治45)年7月に設立した株式会社私立病院病舎を譲り受け、開設された。逐次患者の増加により病舎狭小となったため度々改築計画が立てられたが1935(昭和10)年代以降の戦争下にあっては改築は困難であった。戦後になり1953(昭和28)年に第一新館病棟(市立小樽病院に現存する最古の建物)、1958(昭和33)年に第二新館病棟が完成した。その後も改築する計画であったのだが、財源の見込みが無く大幅に遅延された。残されたA棟・B棟の工事は1969(昭和44)年にようやく完成している。最終的に許可病床550床(うちオープン病床37床)、鉄筋コンクリート6階建の病院が完成した。それと同時に建て増しを繰り返したことによる非効率さが後々まで指摘されることとなる。
 一方の市立小樽第二病院はその設立経過から見ても極めて特殊であると言える。当時「市立小樽病院」以外に存在した市立小樽静和病院(精神科)・市立小樽市民病院(内科・外科・眼科・理学診療科)・市立小樽療養所(結核病棟・伝染病棟)・市立小樽長橋病院(伝染病棟)・その他小規模診療所が統合されて市立小樽第二病院は設置された。会計面ではすでに1957(昭和32)年に統合されていたが、現在、小樽市長橋3丁目11番1号に存在する箱物として統合された施設としての「市立小樽第二病院」は1974(昭和49)年9月に完成している。その時にどのような議論が展開されたのか、今となっては定かではないが、従来は無かった新しい診療科であり高度医療でもある脳神経外科と心臓血管外科(当時、胸部外科・1976(昭和51)年~)も設けられ、この脳神経外科・心臓血管外科に従来からある精神科・内科と伝染病棟が併設された精神科150床(のち200床)・一般科150床・伝染病床45床(のち感染病床2床)の病院として運営されていくことになる。
 本来であれば、脳神経外科・心臓血管外科のような診療科は総合病院である市立小樽病院に開設されてしかるべきであったはずだが、結果的に総合的な診療を行うはずの市立病院の機能は完全に二つに分けられてしまうこととなった。一方が総合病院、一方が精神科と結核・伝染を専門に扱うというのであれば、機能分担を求めることはできたかもしれない。しかし今となっては、完全に2つに分けられたことによる非効率性が、病院経営の悪化の一因であることも含めて、問題となっている。
 そして現在、小樽市はこの二つの病院を統合し新築することを計画している。

2. 小樽市が両病院の新築統合を考えた理由

 2006年6月号「広報おたる」に以下の様に記載されている。


現在の病院の老朽化と狭さの解消

 小樽病院の建物は、最も古い部分で昭和28年、第二病院は49年に建設されたもので、かなり老朽化が進んでいます。特に電気・給排水・暖房などの設備関係は、補修の繰り返しで何とか維持している状況です。また、新しい耐震対策や、消防設備の改善も課題となっています。
 そして、老朽化ばかりではなく両院が大変狭いことも、利用する方に不便を掛けることになっています。最近建設されたほかの病院との比較は下の表1のとおりです。利用者の方々からは、医療環境の整った病院を1日も早く建ててほしいとの強い要望が寄せられています。そのほか、狭くて非効率的な施設は、医療を提供する側、看護する側にとっても働きにくい環境となっており、医師等の確保を困難にしている1つの要因にもなっています。
 これらを解消することにより、快適で安心な医療環境を整備することが強く望まれています。

医師確保の問題

 医師の確保は、新しい医師研修制度の影響もあり、全国的な問題となっています。「医師に選ばれる病院」でなければ医師の確保は困難になっており、今後その傾向はますます強くなってきます。施設の老朽化は医師を確保する上でも大変不利な条件となっており、両院の医師はこの2年間で59人から44人に減少しています。
 そのため、1日も早く新病院の建設に着手し、医療環境を整え、医師の確保に取り組む必要があります。

表1. 市立病院と最近建設された病院の比較
比較項目
現在の市立病院
最近建設された病院
・1病床当たりの面積
33~35平方メートル
平均71平方メートル
・病室の種類
6人部屋が中心
4人部屋と個室中心
・患者用の食堂、談話室
ない
ある
・待合室、診療室などの広さ
狭い
広い
・トイレ
病室から遠い
病室にある
・プライバシー
守られにくい
守られる


病院が二つあることの非効率性

 二つの病院で診療科が分かれているために、診療上で大変不便があることはもちろんです。また、医療機器などの設備やスタッフがそれぞれに必要なことも、経営上の大きな負担となっています。
  統合新築による診療上のメリットは図り知れません。また、経営上の非効率性の解消は、医業収支を大きく改善することになります。
 45パーセントの大幅なダウンサイジングでは、新病院の建設において、どの様な見直しがされているのでしょう。次に新病院の概要を説明します。
 かつて、両院には合わせて800人近い方が入院していた時期もありました。しかし、人口の減少などにより入院患者は減少してきています。そこで、新病院では下の表2のとおり、両院合わせた現在の892床から493床へと45パーセントの大幅なダウンサイジング(規模縮小)を行う予定です。
 「493床でも多いのでは?」との意見もありますが、この数は、将来の年齢別人口の推計や両院の実績などを基に算定しています。さらに患者さんの入院日数が年々短縮されることも想定して決めた数です。
 また、493床の病床があっても493人が入院できるわけではありません。急患のためのベッドや男女別、診療科別などもありますので、混合病床を増やすなど効率的な運用を行っても、実際は常時430人程しか入院できません。
 現在は医師の確保が難しいこともあり患者数が減少していますが、平成16年度の入院患者さんは1日平均約580人ですので、これでも開院時には病床が 150以上も不足します。これについては、クリニカルパス(診療計画書)の活用を進め、他の医療機関などとの連携を強めて、入院期間の短縮を図り、機能分担をして対応していくことになります。
 これ以上病床数を削減すると、せっかく新しい病院になったのに、入院できない人が出るという事態が起きると考えられます。

表2. 新病院の病床数
病床の種類
現在(両院の計)
新病院
・一般病床
643床
383床
・精神病床
200床
100床
・結核病床
47床
8床
・感染症病床
2床
2床
892床
493床


地域完結型の医療

 基本構想では、20の診療科目を予定しています。これは、ほぼ現在の診療機能を引き継ぐものですが、「民間の医療機関にある診療科を持つのは、無駄ではないか」とのご意見もあります。
 本市は高齢者の割合が多いこともあり、市内には、複数の診療科による治療が必要な患者さんが多くいます。また、小樽病院では、内科の入院患者さんの83 パーセントがほかの診療科も受診していたとの調査結果もあります。今後、新病院で2次・3次救急を充実させるためには、総合的な診療機能を持つことが、ぜひとも必要です。そのため、総合的な診療機能を維持しながら、民間の医療機関で対応の難しい分野を充実させていくことが重要と考えています。
 新病院では、他の医療機関との機能分担などにより、"地域完結型"の医療を目指します。そこで、円滑な運営ができるよう、本年4月に地域医療連携の担当者を配置し、今から取り組みを始めています。


 ここに記載されていること自体は決して間違っている訳ではない。小樽市職労・小樽病職としても地域医療を守るという観点から新病院は必要であると考えているし、持っている視点も小樽市当局と大きな差は無いと考えている。
 しかし実際には、大規模に地域住民を巻き込んだ議論(反対意見)が巻き起こり、2007小樽市長選のもっとも大きな争点の一つにもなってしまった。感情的な部分も多分にあるのだろうが、この間の議論としては大きく二つに分けられると考える。

3. 建設場所の問題

 一つが新病院建設場所の問題である。実はこの問題は本来新病院の議論とは関係ないはずの「小学校適正配置計画」の議論とリンクしてしまったため、一層複雑な議論となってしまった様に感じられる。
 小樽市の主張は以下のとおりである。(2006年6月号「広報おたる」より)


建設場所は築港地区

【新病院建設に必要な要件】
 新病院には駐車場の確保が欠かせないため、広大な面積の土地が必要です。大幅にダウンサイジングした病院でも、建物だけで、まず1万5000平方メートルの敷地が必要です。さらに駐車場を十分確保でき、なおかつ急性期の患者さんを受け入れる病院として、市民の皆さんが通いやすい場所であることが条件となりました。

【候補地二カ所を選定】
 現在の小樽病院の敷地は、立地場所としては良いのですが、使用できる面積が約7400平方メートルですので、ここに新病院の建設はできません。しかし、小学校の適正配置が予定されていましたので、小樽病院と隣接する量徳小学校の敷地を合わせると約2万2000平方メートルの面積が確保できるため、建設は可能と考えていました。また、市有地ではありませんが、築港地区で未利用となっている土地についても、必要面積の確保ができると判断しました。このほかには適地がないため、15年8月、この二カ所を候補地として決定し、新聞報道もされました。
 二カ所のうち、現在地と量徳小学校の土地については、市有地であるという大きな利点がありました。ただしこれは、小学校の適正配置が実施された結果、量徳小学校の敷地が利用できることとなって初めて可能となるため、その推移を見ることとなりました。

【築港地区に特定】
 その後、小学校の適正配置が保護者の方々などの理解が得られなかったこと、また、適正配置計画実施方針の策定後、社会情勢や教育環境が変化したことなどから見送られたため、もう一方の候補地である、築港地区での検討を行いました。
 こうして、下の図(太枠内)の築港114番の土地について検討を進めた結果、面積は約2万平方メートルですが、駐車場を2層式にすることなどにより建設が可能と判断しました。また、現在この土地は、都市計画の土地利用の基本方針により病院の建設ができないこととなっていますが、この基本方針の変更についても合わせて可能と判断し、この土地での建設を進めていくこととしました。


 要約すると、想定している一定程度の規模の病院を建設する際、小樽市内には土地スペース的に2カ所しか候補地がない。つまり「現在の市立小樽病院と隣接する量徳小学校(適配により廃校予定)の敷地を合わせた所」か「築港地区で未利用となっている土地(ポスフール小樽の向かい側)」しか候補地がないが、小学校の適正配置が保護者の方々などの理解が得られなかったため消去法で築港地区にしたというのである。
 議会で出された陳情・請願も含めて、建設場所に対する意見として、大きく3つに分けることができると考えている。
  ① 小学校適正配置計画とそれに伴う「量徳小学校」廃止反対
  ② 地質的な理由による築港地区への建設反対
  ③ 市立小樽病院現在地または現在地付近への建替運動
 時系列でいうと、議会関係の記録を見ていった時、当初小樽市は「現在の市立小樽病院と隣接する量徳小学校の敷地を合わせた」敷地での建設を考えていたことは間違いない。それと同時並行で進んでいた(しかし議論としては全く別扱いとしていた)小学校適正配置に合わせて実施しようとしていたが、当該PTAなどからみれば、小樽市の意図が実際にはどこにあろうとも、「新病院建設のために適配を進めている」としか写らなかったのは事実であろう。結果として、保護者の方々の理解を得ることができず、適正配置計画の策定そのものを見送らざるを得ない状況となった(2006年第3回定例会で白紙撤回)。残るのは「築港地区で未利用となっている土地」となり、土地取得に向けて動き出したが、今度は地質的な理由での反対の声が出た。築港地区は名前のとおり海のすぐそばで埋め立て地でもあり、建設地の海抜は4メートル程度しかなく地震などの災害時の心配が確かにあった。小樽市当局は2006年11月号「広報おたる」で以下の様に説明している。


【地震について】
 築港地区は、既に大型商業施設やマンションなども建設されているとおり、適切な対策を取れば安全性に問題はありません。新病院では、さらに下の図の"免震構造"を取り入れることで、安全性を確保するとともに揺れに対する不安を解消します。

【建物基礎のイメージ図】
 下の図のように、支持地盤と呼ばれる固い地盤にしっかり杭を打ち込むことで、建物は安定します。
 また、地震の揺れに対しては、免震構造を採用することで、大きく緩和することができます。

建物基礎のイメージ図(省略)

【津波について】
 建設地の海抜は340~370センチメートルですが、記録のある昭和6年からの小樽港の最高潮位は162センチメートルです。平成5年に発生した北海道南西沖地震の際の潮位が80センチメートルだったことからも、被害を受ける可能性は極めて少ないと考えています。しかし、基本設計の段階から、万が一の浸水に対する建物側での対応など、災害への対策を取ることにしています。

【液状化現象について】
 水分を含んだ砂質の地盤は、強い地震の揺れによって、砂が地表に噴き出したり地盤が沈下したりして、建物や周囲の道路などに被害を与えることがあります。これが"液状化現象"と呼ばれるものです。今後、新病院の建設に当たっては、事前に建設地の地質調査を行い、その結果を基に、必要に応じた対策を講じて建物の安全性を確保します。

【ライフラインの被害について】
 地震などの災害によって、電気、水道、ガスなどの供給に支障がでる事例は、これまで多くの被災地で報告され、十分な対策が必要と考えています。そこで、電気については、病院建物への2系統配線や非常用発電機を設置するなどの対策を図ります。水道、ガスについては、築港地区の供給は既に地震対策が講じられていますので、病院敷地内への配管類についても、同じく耐震化などを図ります。


 以上の技術的な面が示され、この議論は収束していったが、その後、現在に至るまで、市立小樽病院現在地または現在地付近への建替運動が続いている。これはあとで述べる小樽市の財政状況とも密接に関わるところであるが、2007小樽市長選において現職の山田市長以外の2候補者が主張した「現病院のリフォーム」や「計画の一時白紙撤回」をも含んだものとなっている。また、市街中心部の空洞化をおそれる声も大きいのも確かである。「適正規模の病院を」という声もある。
 「現病院のリフォーム」については、現在の市立小樽病院が建て増しを重ねたことによる「導線」を含めた非効率性を一切考慮にいれていないし、診療を行いながらの大規模改修は非常に困難である。「計画の一時白紙撤回」にしても、再度議論したとして、現病院の対処を早くしなければならない以上、いずれにせよ現在と同じ議論に戻らざるを得ないと考えられる。
 市街中心部の空洞化の問題は、商都小樽としては見過ごせない課題である。しかし、病院は病院としての機能を果たすことが一義であり、病院として求められる機能を果たせる敷地規模を確保することがまず優先されなければならないと考える。
 「適正規模の病院を」という意見はよく考えなければならない。確かにこれから人口が減る一方であることが予想される中で、いたずらに大規模な病院は不要である。採算も一定考慮しながら適正規模が何なのかはさらに精査が必要だとは思う。しかし、それが現在地に建てることのみを目的とした議論なら本末転倒である。

4. 財政面から見た問題

 小樽市の一般会計は2005(平成16)年度決算より実質収支が赤字となり、財政的に極めて厳しい状況が続いている。それに伴う給与等独自削減も2005(平成16)年度より行われており、2008(平成20)年度からは一時金削減にまで手を付けられた。こういう状況に陥ったのは、いわゆる三位一体改革が大きな原因の一つである。しかし、小樽市においては最近特に注目を集めているのが病院の累積赤字問題である。病院事業への繰出金は1990(平成2)年度には約11億円であったのが、徐々に増加し、1999(平成11)年度以降常に50億円を大きく超える金額となっている。また、毎年貸付金を年度末に償還し、年度初に同額以上貸しだすという、いわば借換の連続を病院会計と一般会計との間で行っていたが、いわゆる夕張問題に端を発し、この手法が「不適切な会計処理」という扱いとなってしまい、これまでに貯まった総額約44億円の"不良債務"を一般会計と病院会計で折半し2007(平成19)年度から5年間で解消することとなった。
 このため、新地方財政健全化法により連結実質赤字比率という概念が導入されたことにより、小樽市は再生団体基準までにはいかないものの、早期健全化団体基準に抵触してしまうところまで至ってしまった。
 しかしながら、これはこれで過去の負債として必ず処理をしなければならないのだが、結果的に小樽市一般会計の苦しさも相まって、2007小樽市長選でのとある候補者のフレーズであった「病院建てたら小樽は第二の夕張になる」という言葉に代表されるように、過去の不良債務と新病院建設の問題が(意図的に)リンクされてしまった主張がまかり通るようになってしまった。これは現在もそうである。冷静に考えればこれらは全く別議論であることはわかるし、逆に両病院を現状のまま放置することが逆に小樽市の首を絞めることとなる。以下に小樽市の主張を記載する(2006年6月号「広報おたる」)。


統合新築により将来の市民負担が軽減

 「病院の新築は、多額の借金を将来に残す」とのご意見があります。しかし、現在の病院のままで推移するより、効率的な病院を建設した方が市民負担は軽くなります。
 新病院の建設事業費は、今後さらに圧縮できると考えていますが、起債(借金)の額は197億円で、そのうちの27.5パーセントが実質的な一般会計の負担となります。これがいわゆる市民負担と考えると、利息も含めて、34年間にわたり毎年度2億円強の償還をしていくことになります。
 市民負担について考えると、下のグラフのとおり、現在一般会計では毎年度4~6億円の実質的な負担をしていて、現行の病院のままでは、将来は約7億円の負担が続くと予測されます。また、収支が悪化すれば負担はさらに増大し、本市の財政再建にとって大きな足かせとなる可能性があります。
 一方、統合新築した場合には、医業収支は大きく改善されます。起債の償還を行い、長期で借り入れしている44億円の返済をしても、負担は毎年度4億円程度軽減されることになります。
 新病院の建設は、本市の財政再建のためにも急がれます。もちろん、漫然とした運営を行っていて、大きな収支改善を望めるわけではありません。そのため両院では、質の高い効率的な医療の提供を目指して、病院機能評価を受けるなど、診療体制の改善や意識改革など、既に取り組みを始めています。


 小樽市当局の言うように新病院を建設したからといって直ちに医業収益が改善されるとは思わないし、少々楽観的すぎではないかと思えるが、はっきり言えるのは新病院が建たないと医師の確保もままならず、結果地域医療を守ることもできなくなるということである(現状の病院に見切りをつけて去っていく医師が非常に多くなってきているのは事実である)。財政のことだけを考えれば、現病院の事実上の自然消滅を待つことも考えられなくもないが、本当にそれでいいのだろうか(即廃止は、現在の小樽市の財政状況では退職手当の財源を手だてしきれないので不可能と言われている)。

5. 今後の見通し

 その後、不良債務解消計画がうまくいかずに、土地購入のための起債を申請することができず、またその後出された公立病院改革ガイドラインへの対応もあり、既に業者委託して開始していた基本設計を中止し、市立病院新築準備室も大幅縮小されるなど、新病院建設計画は現在事実上凍結された状態となっている。
(2008年1月号「広報おたる」)


用地購入と基本設計業務

 新病院の建設には、起債の導入(資金の借り入れ)が必要です。しかし許可を得るには、病院事業会計が抱える不良債務(約43億2000万円)を5年間で解消しなければなりません。そこで市では、病院事業会計と一般会計とで解消する計画を策定。北海道へ提出し協議を進めてきましたが、本年度に入って状況が変化したため、計画を見直しました。
 これにより、許可が年度末になる見込みで、建設用地の年度内購入は見送らざるを得ません。また解消計画の実効性、さらには国や北海道の公立病院改革の動向についても、注視する必要があります。これに伴い、基本設計業務を一時中断し、状況を見て再開することにしました。
【計画見直しの状況変化】
・病院事業で、患者の減少により上半期の収支が計画を下回ったこと
・一般会計で、国の地方交付税が予定を大きく下回ったこと
【一時中断する内容】
・用地の購入を来年度に変更
・基本設計業務を一時中断
【見極める今後の動向】
・今後の病院事業収支の推移
・病院の経営健全化への支援措置や来年度の地方交付税措置など、国の地方財政対策
・国の定める「公立病院改革ガイドライン」などの影響


 公立病院改革ガイドライン対策として、小樽市でも庁内検討プロジェクトチームを設置し、また外部有識者なども招聘し、改革プランを策定する中で新市立病院のあり方、果たすべき役割も検討されるとしている。

6. 傍論:経営悪化の理由は人件費の高止まりが原因なのか?

 これまで記述してきたとおり、小樽市病院事業会計には発覚当時で約44億円の累積赤字があった。現在の状況で言えば、例えば小樽病院の医師退職の補充ができず、結果として産科の休止や内科の新患受付中止などの事態を招き、それが経営悪化を招いていると言える。しかしこの44億円はそれ以前に蓄積されたものである。その理由が細かく追求されることはなく、単純に人件費比率などを見ることにより勢い人件費が集中的に攻撃されることになり、医療表(二)(三)導入を含めた議論がわき上がってくる理由にもなる。
 しかし本当に人件費が高いのか否かは他の自治体病院と比較して判断されるべきではないだろうか。地域医療を守るという観点からいわゆる不採算部門を抱えているのが自治体病院であり、例えば単純に"人件費比率が50%超えている"とかいう議論で判断してはならないのではなかろうか? ここではテストとして2006(平成18)年度決算における市立小樽第二病院の場合を見てみたい。なお比較対象は「18年度版地方公営企業年鑑」を参照し、これによる300床以上400床未満病院(計132病院)とした。

 
給与費(千円)
医業収益(千円)
人件費比率
①第二病院
1,919,845
÷
3,995,917
×100
48.0%
②黒字病院
69,426,963
÷
145,356,547
×100
47.8%
③赤字病院
312,584,015
÷
546,421,904
×100
57.2%
総計②+③
382,010,978
÷
691,778,451
×100
55.2%

 こうしてみると市立小樽第二病院の場合は、同規模黒字病院と比べても遜色ない結果となっている。これだけ見ても、"人件費が高い"のが赤字の原因であるとは言えないのではないだろうか。確かに病床数のみを見ての比較には批判はあるが、第二病院の病床の約半数が精神科であることを考えれば相当な数字なのではないかと思う。もちろん、これだけではまったく不完全であるので今後も財務分析を進めていきたいと考えている。