【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

南檜山地域医療の現状と将来
~地域のセンター病院としてのあり方、職員として今何を求められているのか~

北海道本部/全北海道庁労働組合・檜山総支部・江差病院支部

1. はじめに

 小泉内閣の聖域なき構造改革の旗のもと立ち上げられた経済財政諮問会議・規制改革会議により、日本が世界に誇るべき国民皆保険制度は今崩壊の危機に瀕している。この裏には国の財政悪化を理由に医療費適正化などと称して公的給付を削減し、削減分を民間保険会社に任せろという自分たちの利益のみを考える経団連の思惑があります。また、この背景にはアメリカ企業の圧力により、公的医療費などを抑制し、今後増え続ける医療費などを民間に任せ利益を生みだすことが小泉・ブッシュの約束としてあったのです。この意向を受けて、医療費抑制のため医療制度改革が行われた。そのひとつが総務省から出された公立病院改革ガイドラインであり、この改革は公的医療費削減を最優先に効率・採算性のみを重視したものであり、まさに命の価値をお金と天秤にかけるという代物だ。そして今年度中にその計画策定をするように地方自治体は迫られている。
 このような流れの中でこの地域の現状を考え、その中の一公立病院職員組合として、どのような取り組みが必要なのか、何が求められているのかを改めて考え、実現するための基礎とするためにこのレポート作成に取り組んだ。

2. 現状と将来の見通し

(1) 人口推移
 総人口33,980人、うち老齢人口9,682人、高齢化率28.5%。全道平均を大きく上回っており、限界集落の割合も道内で一番高く、2年後には2.8人に1人は65歳以上の高齢者になるものと見込まれている。
 死亡者数は2003年調査で年間400人となっており、人口1千人あたり11.2人と全国・全道平均(8.1人)を大幅に上回っている。死因別にみると1位悪性新生物、2位心疾患、3位肺炎、4位脳血管疾患となっており、高齢化率が上がるに従い年々上昇していくものと思われる。心疾患が2位になる理由の一つには管内で対応できる医療機関がなく救急車で1時間はかかる渡島管内まで行かなければならないことも大きな要因と考えられる。

(2) 医療資源
 病院数4、診療所数3で、病床数は一般243床、療養94床、精神48床、感染4床。病院4のうち3施設は公立病院である。特養ホーム6、軽費ホーム1、ケアハウス1、グループホーム5、老健1施設。介護施設に至っては常に満床状態にあり、待機数は多いところで80人にも上り、他のところも50人前後となっている。老齢化率が上昇傾向にあるのだから、常に不足状態が続いているのは当然である。独居世帯や老老介護世帯も多く、社会的に入院が必要な患者数も有ることから、病院が無床診療所化されることにより行く場所を失う人も多くいるだろうことが想像できる。民間病院が現行規模で病床を残したとしても現在でもほぼ満床状態であり受け皿にはなり得ない。まさに保険有って医療・介護なしという地域となり、医療・介護難民が生まれることは明らかである。
 医師数だけをみても対10万人でみて137人とこれも全道平均の70%以下であり、このままガイドラインに基づいた改革が推し進められれば、更に医師数が減少することが想定される。現状でも不完全である二次救急体制はますますお粗末なものになるだろう。

(3) 交通事情
 主な交通機関はバス路線であり、町内の医療機関に受診するために最長で40分程度掛かっている。一部鉄道があるものの大多数がバスもしくは自家用車を利用している。
 バスの路線もないところや、あっても1日2~3本程度のところが多い。このまま人口減少が続けば、採算の合わない路線の縮小廃止は避けられず、ますます通院の便が悪くなることも考えられる。

3. これからの地域の医療のあり方

 現状の町立病院を存続していくことは現在の国の医療政策の下では財政的には到底無理なことははっきりしている。しかし、公立病院改革ガイドラインに基づいた縮小が行われれば医療過疎地域となるのは明らかである。
 一つ一つの町としてではなく、地域を一つとして考えるような広域化を検討し、現在町立施設を持たないところにも財政負担を求めるなどして一体となった取り組みが必要なのではないだろうか。病院や診療所などの医療施設を手始めにして、老人ホームやグループホームなどの介護施設や事業などについても包括的に地域全体として利用状況を把握し、将来の推移なども含めて、あり方検討を行っていくことが現状から抜け出すことに繋がりこの地域を守ることになるのではないかと考える。こういう調整を率先して情報提供や指導的立場で行っていくために北海道の行政としての力が必要になるのではないだろうか。 だめだから縮小するしかないではなく、こういうことをしていけばよりよい結果が生まれるという前向きな指導・検討をするだけのリーダーシップやノウハウを発揮するためにも支庁制度改革も縮小ありきではなく、機能強化・権限強化が必要になると考える。

4. 当院の財政分析

 2006(平成18)年度決算によると単年度の赤字は1,100,509千円である。支出の部分では経費削減を徹底し、コスト意識を高めることで減少がみられている。しかし、患者数の減少と診療報酬改定による診療単価の減少により、収益が伸びていないのが現状であり、このことが赤字を生んでいる原因であると考えられる。当院の管内の医療受給率は52.1%と約半数であり、大半が隣接する渡島管内に流れている現状がある。その理由は今年行われた「道立江差病院に関するアンケート調査」報告書によると「希望の診療科がない。」「専門的な医療が受けられない。」「評判が悪く、信頼できない。」「医療水準が低いと思う。」「待ち時間が長すぎる。」の5項目がほぼ同率の10%台で並んでいることからこのことが原因であると明らかとなった。また、このことが改善できた場合の利用についての解答では66.2%が利用しても良いとしていることがわかった。この結果からも欠員の解消を行い、診療科を移転開院当初に戻すことだけでもかなりの額の収益を改善できるものと考えられ、改善を望む声が多いことも明らかになった。



5. 当院のこれからの役割・あり方

 本当の意味で地域センター病院として中核を担う役割を果たせるだけの機能強化・充実が早急に必要であり、先に述べたように地域での医療体制のリーダーとして不採算医療を行政の責任において守るためにも直営堅持がもっとも望ましいと考える。
 二次救急・災害拠点・エイズ拠点など様々な冠はあるものの、とてもその機能が果たせるとは言い難い現状にある。まず、第一に現在欠員となっている医師を完全に補充し、標榜科の診療を毎日出来るようにすること。第二に医師以外の職員の欠員も解消し、やりがいや希望の持てる職場環境に改善すること。
 地域での役割は本当の意味で拠点となることにあると考える。
 第一に検査システムの一本化、医薬材料購入の一本化、医療機器の整備及び貸し出しなど当院が中心となり、共通の財産として医療機器や材料・薬品を使用することで無駄な経費の節約・医療機器に掛かるコストの削減に繋がると考える。
 第二に人材の交流・派遣システムの構築。専門科の医師が他院にて週1回などでサテライト診療を行う。学会出席時などの代替診療を行うなど医師の派遣体制や一病院単位で確保の困難な職種の派遣制度。例えば臨床工学士が機器整備を行う、ソーシャルワーカーが複数の施設で必要時に相談業務を受ける体制を作る等。あるいは人事交流の基本でもある交流研修などを年間行事として組み入れていく。こういうことが地域で確保困難な専門職の確保や職員の質の向上、魅力有る職場環境作りにも繋がる。
 また、このようなシステムを作るためにも経営形態の見直しは重要になる。現在のように知事部局としての道立病院管理局が一括して管理していているのでは地域事情にあわせた対応ができないのはもちろんのこと、病院事業計画で言われる指定管理者制度では己の経営事情が最優先として考えられるであろうことから困難と考える。北海道が行政の役割として、地域医療に責任を持つこと、そのためには道財政再建ありきではなく、地域の先頭に立ち、ネットワーク作りをはじめとし、中心となって進めることが重要であり、このことを円滑に容易に進めていくためにも、人事権を現場に持たせ、意見反映が迅速に行える経営形態が最も望ましいだろう。この形態に一番近いのは外部から経営能力と地域医療に対する熱意を持った人材を登用する公営企業法全部適用で運営することが必要と考える。
 職員として職員組合として何が望まれているのか、何ができるのか。
 公務員である私たちは地域への貢献は当然の責務である。職員一人ひとりがその意識を持つことが第一に必要なこととなる。自分も地域の中にいる一住民としてどうあるべきか、どういう町にしたいのか、医療は・教育は・福祉は常にこういう視点で物事を見ることで利用する立場で考えることができ、また常に政策にも目が向くようになるはずである。自分たちの職場や労働条件の改善はもちろんだがその事ばかりに気を取られていては今、自分たちの職場を守り抜くことはできない。ということを一人ひとりが認識しなければならないと考える。広い視野でこの地域としてどうあるべきか、このまま何もしなければどうなるのか、自分たちが知り得る情報を住民に情報提供し、共にどうあるべきかを考えてもらうこと。まずはこのことを手始めにもっと積極的に地域に出て行くことが必要だと考えた。
 第二にもちろん職業人として信頼される人であることは当然である。このためにはそれぞれが自分の仕事に対する向上心・やる気を持ち、組織の中での役割を自覚していること常にプロ意識を持ち、主体的に学習を続けられることが大切である。また、こういう意識を持ち続けることのできる職場環境を作ることが必要になる。
 昨年度から私たちは職員組合としてできる地域貢献や情報発信の取り組みが大切になると考え、次のような活動を行っている。


○江差鴎島祭り「ペイロン大会」における救護班活動
 この活動を行う要点は地域住民が多く参加していること、病院職員として医療活動を行えること、住民がわかりやすく受け入れやすい内容であることである。話題になっているAED体験装置を用いて使用方法を説明しながら、機器の必要性や実際にあった事例を紹介し、産科医師の撤退でお産ができなくなっている現状を"地域医療を守れ"ビラを配布して訴えた。また、傷や火傷の処置などを通じて創傷処置方法の変化についての啓蒙も行うことができた。
○小学校での「手洗い講習・リハビリ教室」
 この活動は同じ連合傘下である教職員組合と連携を図ること。また、子どもの頃から病気にならないための予防が大切なことを知ってもらい、医療に携わる職業に関心を持ってもらうこと、病院が治療だけを行うわけでなく医療情報の発信や予防医療にも取り組んでいるということをマスメディアによって住民に周知でき、イメージアップに繋がることを目的として行った。「手洗い」という身近なことを改めて実際に体験してもらいながら、その必要性を写真や簡単な事例を紹介しながら指導するとともに理学療法士が簡単なリハビリ教室を行い、子どもたちから好評を得ることができた。
 このように病院事業として行っている地域連携事業とは別に実際に地域に出て、生の声を聞き、こちらのことも分かってもらえるような機会を増やす試みをしている。
 また、組織内の取り組みとして定期的な執行委員会の開催や全員参加の学習会の開催などを通じた意識の統一、欠員や職場での問題点の把握に努めている。

6. 終わりに

 現段階ではまだこれらの取り組みに関して、どうなのかという評価は得ることは出てきていないが、こういう取り組みを続けていくことが地域での大衆運動を起こすきっかけとなり、その大衆運動こそが地域での医療のあり方を住民全体で考える起点となり、そこから当院のあり方、必要性の議論が生まれると考える。その時に本当に当院がこの地域で必要とされるかどうかは私たち職員のこれからの職業人としての意識やあり方、公務員としての地域での働きに懸かっているのである。このことをしっかりと自覚して今できる最大限の取り組みを続け、来年には明るい未来展望をレポートとして提出できることを強く望んでいる。最後になるがこの数年の医療制度改悪を通じて、改めて政治・政策の重要性を痛感した。自分たちの未来や次世代の人たちの為にも日頃から常に関心と監視を続けていくことが必要である。生きやすい、安心して死ねる地域を作るためにも次期選挙では政権交代に向けて精一杯取り組むことを決意して、このレポートを締めたいと思う。