【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

医療の広域化……紋別市の現状


北海道本部/紋別市役所職員労働組合

1. 医療制度の現状

 2004年新医師臨床研修制度がスタートしましたが、その背景として、医療の高度化・専門化が進んだ結果、自分の専門分野しか分からないという医師が増えたこと、高齢化の進展などにより、一人の患者が複数の疾病を持つ場合が増え、一つの分野だけで対応することが難しい場面が多くなってきたことがありました。このような状況に対応するために、臨床研修の中で臨床医として誰もが身に付けるべき基本的なものを習得する必要があると考えられ、2年以上の臨床研修が必修となりました。


医師臨床研修制度の新旧対照表
 
新 制 度
旧 制 度
臨床研修 診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。(医師法第16条の2) 医師は、免許を受けた後も、二年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を行うように努めるものとする。(医師法第16条の2)
診療所の
開設
臨床研修修了医師でない者が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事等の許可を受けなければならない。(医療法第7条) 医師でない者が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事等の許可を受けなければならない。(医療法第7条)
病院等の
管理
病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は臨床研修修了医師に、これを管理させなければならない。(医療法第10条) 病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は医師に、これを管理させなければならない。(医療法第10条)

 この制度の実施により、これまで大学の医学部若しくは大学の附属病院で臨床研修を行っていた医師が、民間の病院でも臨床研修を行えることになり、大学病院での医師不足という状況が発生しました。大学病院の診療体制を確保するため、大学病院は医師を手放さないようになり、大学病院の派遣医師に支えられた地域医療が崩壊するという現状が生じています。


全国医学部長病院長会議が報告した地域別臨床研修修了者帰学状況
 
2002の大学残留率
2006の帰学者率
減 少 率
北海道
76.4
33.1
△56.7
東 北
63.0
30.1
△52.2
関 東
71.6
67.4
△5.9
中 部
66.4
41.4
△37.7
近 畿
74.1
53.1
△28.3
中 国
73.3
36.0
△50.9
四 国
74.0
30.2
△59.2
九 州
75.0
56.2
△25.1
全 国
71.4
50.6
△29.1

2. 道立病院の現状

 北海道立病院は、全道に8箇所(紋別市、江差町、羽幌町、音更町、網走市、苫小牧市、北見市、札幌市)あり、戦後間もなく当時の死因第1位であった結核への対策と、精神障害者への医療提供を目的として開設されました。紋別病院、江差病院、羽幌病院は住民の高齢化率が高く、民間の医療機関が少なく、公共交通機関の利便性が低下している地域において、地域センター病院としての役割を担っています。緑ヶ丘病院(音更町)、向陽ヶ丘病院(網走市)は、都道府県に設置義務がある精神科病院であり、圏域における救急や急性期医療を担うとともに、児童・思春期精神科医療を行っています。苫小牧病院は、東胆振・日高地域における結核医療および、結核後遺症患者に対する医療を担っている。北見病院は、オホーツク第3次保健医療福祉圏における循環器疾患等に対する高度・専門医療を担っています。また、出生から一貫した医療・療育を総合的に提供する道立子ども総合医療・療育センター(愛称:コドモックル)は、小児高度・専門医療を担っています。


紋別病院の経営状況
単位:千円
区      分
2002
2003
2004
2005
2006
病院事業収益
3,812,624
3,764,267
3,629,267
3,388,409
2,692,549
  医業収益
2,970,901
2,850,614
2,877,480
2,313,458
1,654,450
  うち入院費
1,947,023
1,850,162
1,865,365
1,462,935
978,818
  1人当たり収益単価(円)
30,886
31,963
33,055
30,120
32,895
うち外来収益
970,137
947,787
961,829
812,860
643,858
  1人当たり収益単価(円)
5,754
5,982
5,979
6,148
6,290
医業外収益
826,494
901,383
670,188
1,054,136
1,008,923
  うち他会計負担金
811,714
885,258
649,403
1,016,420
976,289
特別利益
15,229
12,270
81,599
20,815
29,176
病院事業費用
4,002,426
3,955,989
3,678,391
3,724,812
2,888,430
  病院費用
3,836,263
3,796,103
3,517,815
3,452,960
2,741,867
  うち給与費
1,990,923
2,128,319
1,949,826
2,132,524
1,713,906
医業外費用
139,416
138,993
133,892
137,598
117,059
特別損失
26,747
20,893
22,204
134,254
29,504
収支不足額
△189,802
△191,722
△44,644
△336,403
△195,881
病床利用率(※1
78.5
71.9
70.3
60.5
48.5
医業収支比率(※2
77.4
75.1
81.8
67.0
60.3
給与費比率(※3
67.0
74.7
67.8
92.2
103.6

地方公営企業年鑑(総務省報告)から抜粋
※1 病床利用率=年間延べ患者数÷(病床数×診療日数)×100
※2 医業収益比率=医業収益÷医業費用×100
※3 給与費比率=給与費÷医業収益×100


3. 西紋地域の取り組み

 2004年11月「住民の医療ニーズの高度化、医師や医療技術者の不足、自治体病院の経営の悪化など地域医療を取巻く環境が大きく変化している状況を踏まえ、地域が抱える課題の把握と実情に応じた取り組みを進める。」ことを目的として、「西紋別地域医療連携検討会議」が設立されました。構成員は、関係市町村・紋別医師会・関係自治体病院・紋別保健所・道立紋別病院の実務担当者で、2006年1月、今後は西紋別地域で完結できる医療体制の確立を目指し、圏域全体の相互連携が重要であり、問題解決に向けた協議会が必要であるという内容の「西紋別地域医療連携のあり方」報告書を作成しまた。
 この報告書を受けて2006年7月、関係市町村長・紋別医師会長・関係自治体病院院長・紋別保健所長・道立紋別病院管理局長・道立紋別病院院長を構成員として「西紋別地域医療連携運営協議会」が設立され、連携のあり方について協議していくこととなりました。
 この協議会において、現在の姿のまま各病院が連携するだけでは、医師の確保・病院の経営改善などの問題を解決することはできないとして、北海道第1号となる「広域連合」の形を検討する必要があるという結論となり、2008年2月には、広域連合とした場合のコスト・形態・見通しなどの具体的な問題点を検証するために、「西紋別地域における医療の広域化検討協議会」を立ち上げ、これまで道立病院が担っていた事務局を紋別市に置く事になり、6月には道職員も派遣されています。
 2008年3月、北海道が作成した「北海道病院事業改革プラン」において、①遠紋第2次保健医療福祉圏における中核医療機関として、地域の医療機関や他の地域センター病院等との連携を図りながら、地域の医療需要に対応し得る2次医療機能確保に努める、②地域に必要な医療を安定的、効率的に提供するため、指定管理者制度の導入を基本としながら、「西紋別地域における医療の広域化検討協議会」による医療供給体制についての検討状況も踏まえ、経営形態の見直しを検討する、等の今後の方針が示されました。
 2008年4月以降、道立病院が夜間休日の2次救急を一時休止したことから、市は2次救急を遠軽厚生病院へ搬送することとし、また、夜間休日の1次救急は地元医師会と道立病院との輪番制となっている。さらには、遠軽や上湧別に行く人口透析患者に対し送迎バスを運行させるなど、地域センター病院と呼ぶには程遠い状況になっています。

4. 広域連合とは

 現行の自治体病院の形で医師不足が解消されることは無く、北海道に道立病院のあり方を委ねていると縮小となることは明らかなこと等から、自治体連携より一歩進んだ、広域連合を検討せざるを得ないのが今の状況と言えます。
 広域連合とは、道立紋別病院・滝上町国保病院・興部町国保病院・雄武町国保病院・西興部村診療所・上渚滑診療所を1つの組織(指定管理者制度が有力)とすることにより、西紋地域における1次医療・2次医療の対応等医療機関の機能分担を推進、診療情報の共有、医師の安定的な確保などを図ることを目的としています。
 しかし、「広域連合」には様々な課題があります。
① 再編・ネットワーク後の病院の姿が、国が示した「公立病院改革ガイドライン」の例にあるような「○○地区診療所」となることを、現在病院を抱える3町が受け入れてくれるだろうか。
② これまで市立病院を持たなかった紋別市が、広域連合による新たな負担にどこまで耐えられるのか、町村の負担は今よりも増えるのか減るのか、そのことを住民が受け入れてくれるのだろうか。
③ 北海道はどのような形で関わりを持つのだろうか。
④ 広域連合という地域の取り組みを大学側がどう評価し、優先的に医師を派遣してくれるのだろうか。
 多くの課題があるものの、地域の医療を確保するため、住民を巻き込んだ議論に我々がどのように関わっていけるかが大きな課題といえる。

各自治体病院の経営状況(2006年度決算)
単位:千円
区      分
道  立
紋別病院
滝 上 町
国保病院
興 部 町
国保病院
雄 武 町
国保病院
病院事業収益
2,629,549
663,430
498,095
727,358
  医業収益
1,654,450
574,379
361,293
452,954
  うち入院費
978,818
219,218
192,542
215,485
  1人当たり収益単価(円)
32,895
11,269
16,277
17,225
うち外来収益
643,858
306,443
131,987
180,413
  1人当たり収益単価(円)
6,290
6,609
5,093
5,620
医業外収益
1,008,923
89,051
136,802
274,404
  うち他会計負担金
976,289
86,061
132,080
261,687
特別利益
29,176
 
 
 
病院事業費用
2,888,430
675,277
511,984
815,845
  病院費用
2,741,867
657,480
506,438
790,557
  うち給与費
1,703,906
347,797
264,937
373,625
医業外費用
117,059
17,797
5,546
25,288
特別損失
29,504
 
 
 
収支不足額
△195,881
△11,847
△13,889
△88,487
病床利用率(※1)
48.5
98.7
49.1
67.2
医業収支比率(※2)
60.3
87.4
71.3
57.3
給与費比率(※3)
103.6
60.6
73.3
82.5

総務省:公立病院改革ガイドプランより