【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

公立病院のあり方WG
~地域医療を守るために~

三重県本部/自治研「公立病院のあり方」ワーキンググループ

1. はじめに

 私たち公立病院を取り巻く環境が一層の厳しさを増している。
 医療費抑制、財政再建という点から公立病院運営への圧力が増しており、「民間で提供できるサービスは民間に委ねる」という考え方は医療の分野でも例外ではなく、全国の公立病院は存続か廃止かを賭けた苦闘が続いている。
 このような状況の中、地方公営企業法の全部適用、地方独立行政法人化や指定管理者制度、民間移譲など経営形態を見直す事例も見られ、運営主体の異なる病院間の統合による「合理化」等をめざす公立病院改革ガイドラインも示されているところである。
 一方、PFI制度を活用した病院の経営難が報じられるなど民間手法にも限界があることが露呈されている。
 こうした中で私たちが取り組むべき課題は、まずは、自らの病院の財政面を含めた現状を分析し、問題がどこにあるかを全職員が把握することである。そして、公立病院の担うべき機能・役割、さらには地域における公立病院の機能・役割を明確にし、病院職員、地域住民、医師が一体となり、地域医療を守る運動につなげていくことである。
 今回の「公立病院のあり方WG」では、結論を見出すことはできなかったものの、①大きな意味での公立病院の担うべき機能・役割について議論し、実情の異なるそれぞれの地域における公立病院の担うべき機能・役割についての情報共有・意思統一②財政分析による病院経営の問題点の把握―に一定寄与したと考えている。

2. 各病院の情報共有と経営分析

 WGでの議論から共通していえることは、①経営状況を民間病院等と比較し病院のあり方が問われている、②医師不足と医師の激務、③看護師の不足(採用が退職に追いつかない)-などで全国的な問題点とも共通している。また、合併による病院の運営形態の見直しもWGでは報告された。
 公立病院問題を議論する場合、他会計繰入金が話題になるが、当WGでは次のように位置づけた。他会計繰入金とは、不採算医療、高度・特殊医療など、性質上病院事業の収入をもって充てることが適当でない経費及び病院事業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入をもって充てることが客観的に困難であると認められる経費について、一般会計が負担する金額である。つまり、法的に赤字部門を支えていることによる計算に基づいたもの、あるいは、その地域の特性に応じて自治体が決めているものである。ただし、他会計繰入金があるからといって、漫然と業務をこなし経費を使用するのではなく、コスト意識を持って医療を行っていくことが病院職員にも求められるものである。
 また、ことさらに人件費が高いことに固執した議論もあるが、医師不足や医療制度改革による診療報酬の引き下げによって、医業収益が減少したため、人件費比率の上昇につながっていることも認識し、訴えていかなければならない。

3. 地域医療を守るために

 公立病院がへき地医療や救急医療など採算性の面で厳しい部門を担っていることはこれまでも折にふれ述べてきた。加えて、絶対的な医師・看護師不足、新医師臨床研修制度に伴う大学医局への医師の引き上げ、診療報酬改定などが病院経営をより一層厳しくしている現状がある。このような状況の中、公設民営への経営形態の変更、病院PFIの活用、独立行政法人化、民間への移譲などの手法が用いられ、公立病院が減少し、地域医療崩壊の危機的状況にある。
 このような状況下でいかに地域医療を守っていくのかが課題である。当WGでは先進地事例や失敗例を学ぶための視察は行わなかった。従って、地域医療を守るためのあるいは公立病院を存続させるための具体的処方箋を提起するにはいたらないが、先行事例については新聞・書籍等でうかがい知ることができた。
 一つ目は兵庫県丹波市にある「県立柏原病院」小児科を守った事例である。これは小児科を守る会が、署名に「コンビニ受診」をやめることを明記し住民にアピールしながら署名を集め、小児科を守ったケースである。丹波では「丹波医療再生ネットワーク」が中心となり勤務医と開業医が意見交換したとの新聞報道も目にした。
 二つ目は千葉県山武郡での千葉県立東金病院が中心となったわかしおネットワークとNPO法人「地域医療を育てる会」の取り組みで、従来ありがちな各病院、診療所という点を線から面とすべく地域医療のネットワークを構築するとともに、地域住民・先のNPO法人と協力し「医師を地域が育てる仕組み」を作り上げた取り組みである。
 いずれの事例も住民・医師との溝がなくなり、互いに協力して取り組んでいる。この取り組みが、当県の東紀州地域における産婦人科問題や志摩地域の小児科問題を克服するヒントになるのではなかろうか。
 今後、私たち医療を提供する側、医療を受ける側、住民の代表である国・地方議員、行政が一体何をすれば良いのか問題提起を行いたい。
 現在、国の医療政策の流れは診療報酬のマイナス改定や自己負担増にみられるような医療費の抑制である。これは公立病院ばかりか民間病院の経営状況にも影響を与えているが、この流れはこれまで中山間地や離島などのへき地医療や救急医療などの不採算医療をその役割としてきた多くの公立病院にとっては、特に大きな逆風となっている。「医療は誰のために、何のためにあるのか?」「公的関与の必要性は?」などについて国会議員は良く考え、また、医療問題に関し地域の実情を含めて把握し国策を変えていく必要がある。
 次に医師・看護師不足の問題である。全国では医師や看護師を集めるために立派なハコ物の建設、最先端の医療機器の導入、人材バンク制度の創設など様々な努力を行っている。しかし、一向に医師、看護師は集まってこない。この背景には、公立病院の激務があるといわれている。医療スタッフがいなければ病院はただのハコであるし、医療機器もただの鉄屑である。今望まれることは、①医師を増やしていく制度の実現、②地域が医師を育てる制度の実現、③医師や看護師をはじめとする医療スタッフが本来業務に専念できる医療体制の構築ではないであろうか。このためには、国・地方議員、行政、住民はもとより、医師、看護師、薬剤師などの医療スタッフが垣根を取り払い、まさしく本音で地域の医療には何が必要なのかを皆で考えることが大切ではなかろうか。「何のための誰のための医療なのか」真剣に考え、地域の医療を守るための取り組みを行う必要がある。
 三つ目は医療を受ける側の身になった公立病院のあり方や医療供給体制の議論を行うことである。県議会も然り、行政側のあり方検討会も然り、もっと地域医療について勉強したうえで口出しすべきである。また、病院経営に関しては、医療の専門家である医療スタッフから責任者を任命し、人事等を任せ柔軟に対応できる体制を構築するべきではないだろうか。議会や行政軽視をしているわけではなく、医療スタッフの志気の向上を図るための一策ではないだろうかとの問題提起である。
 四つ目は医療スタッフももっと住民に現状を発信すべきである。医療スタッフが団結することは非常に重要であるが、これだけでは運動そのものが行き詰まってしまうのではないだろうか。団結し運動を進めるとともに、誰もが議会や行政の理論に打ち勝てる議論ができる取り組みや、病院の現状を住民に向かって発信し理解を得て味方につける地道な取り組みも必要ではないだろうか。自治労が中心となり訴えることも大切だが、自分たちの職場を守るという固定観念が先行するがゆえに、自治労は陰でささえ医療スタッフの生の声を伝える取り組みを行ってはどうであろうか。
 五つ目は、住民自体が変わること。己が身に災難が降りかかってはじめて分かることも多い。医療供給体制の整っていない地区に住んでみてわかること。自分自身や家族が病気になり、初めて地域医療の実情に驚かされること。住民も医療に対する認識を変えなければいけない。コンビニ受診は医師や看護師などの過重労働の原因であるし、病気になれば病院任せではなく家族も治療に協力するなど相互扶助の精神を構築していく必要がある。四つ目に挙げた住民に向けた発信が、住民意識の変革につながっていくのではないだろうか。
 最後に行政の責任であるが、病院運営は行政職では分からないことが多いと運営形態を変更することにより逃避することばかり考えるのではなく、その地域にとって確保しなければならない医療を責任をもって住民に提供していくことが重要である。また、保健医療計画策定にあたっては、病院側の意見を十分聞き入れ、より実態に即したものとなるようにするとともに、ホームページでパブリックコメントを求め、それでよしとする体質も改めるべきではないだろうか。次に、赤字赤字と病院経営を責め立てることはやめるべきである。現状の医療政策から考えれば当然のことではないだろうか。公立病院の役割や「医療が誰のために」あるのかを基本に据えた政策を展開していく必要があると考える。
 以上六つにわたり問題提起をする。

4. 「地域医療を考えるシンポジウム」の開催

 このシンポジウムは、連合三重と連携し、「地域医療を考える会・連合三重」が主催し、7月13日に津・都ホテルにて開催した。「地域医療を考える会・連合三重」とは、自治労三重県本部と三重県地方自治研究センターとの共同による「公立病院のあり方WG」を母体とするもので、設立準備段階といえるものである。
 今後、地域医療を守るため、公立病院の立地する市町において、利用者の声を聴かせていただく機会もつくり、地域の実情に応じた病院づくりを目指すものである。

地域医療を考えるシンポジウム」開催要綱

1. 名称 「地域医療を考えるシンポジウム」
     ~いつでも、どこでも、誰もがよい医療を

2. 主催 「地域医療を考える会・連合三重」

3. 後援 三重県、三重県市長会、三重県町村会、三重県医師会、三重県歯科医師会、中日新聞社、三重テレビ放送、三重県地方自治研究センター

4. 開催趣旨
  地域医療を取り巻く情勢は全国的に厳しい状況にあり、三重県においても医師不足・医療従事者不足は深刻なものとなっている。さらにそのことが、病院や診療所の経営にも大きな影響を与えている。こうした背景には、2005年に政府・与党で取りまとめられた医療制度改革大綱にはじまった医療制度改革による医療提供体制の改変、診療報酬の引き下げ、臨床研修医制度改正などがあり、地方の医療は崩壊の危機に瀕している。
  このような状況の下、医療の安全確保や適切な在宅医療の提供など患者本位の質の高い医療サービスを実現し、地域のニーズに対して継続的に応えることのできる医師・医療従事者を確保することが求められている。地域医療のあり方について、シンポジウムを通じて次の観点から考える。

5. 開催日時
  2008年7月13日(日)午後2時~4時30分

6. 開催場所
  津都ホテル「伊勢の間」

7. 参加者
  組合員、地域住民  300人

8. 内容
 (1) 基調講演(40分程度)
     講師 徳島県立中央病院 永井 雅巳 院長

※地域医療の崩壊は医師不在という形で始まった。良い自治体立病院とは?比べる指標がいつの間にか経営の良い病院になっている。地域医療において、救急・精神・僻地医療・小児救急・周産期・災害など、望まれる自治体立病院のあり方について考える。

 (2) パネルディスカッション(90分程度)
     コーディネーター   児玉 克哉 三重大学人文学部教授

     パネラー
      地方議会  北川 裕之 県議会議員
      医療現場
      (医師)  永井 雅巳 徳島県立中央病院院長
      (看護師) 阿部 敬子 三重県立志摩病院看護部長
      (技師)  田中 智也 三重県本部健康福祉評議会事務局長

※今、自治体立病院に対して総務省が「公立病院改革プラン」の策定と地域医療計画の見直しを求めている。総務省のガイドラインは、公立病院の経営形態を変更させ、自治体が地域医療から撤退することを求めている。これまで、不採算部門の医療を担ってきた自治体立病院のあり方や地域医療を確立していく上で民間病院と公立病院の機能や役割について考える。

9. 事前啓発活動
 啓発ビラ(組合員配布、新聞折込)

5. おわりに

 今回の「公立病院のあり方WG」では、結論を見出すことはできなかったものの、①大きな意味での公立病院の担うべき機能・役割について議論し、実情の異なるそれぞれの地域における公立病院の担うべき機能・役割についての情報共有・意思統一、②財政分析による病院経営の問題点の把握、③シンポジウムの開催による社会的アピール―に一定寄与したと考えている。
 県内の公立病院で働く職員が、周辺からのバッシングに屈せず、明るく健康で良質な医療提供ができるよう、医療現場で働く職員はもとより、自治労組合員、国・地方議員、開業医、住民すべてが自分たちのエゴを捨て、「誰のための医療か」を考え議論し、行動に移したとき、地域医療は輝き始めるのではないだろうか。




【参考資料】
OECD Health at a Glance 2007(図表で見る医療・2007年版)
OECD Health Data 2008
総務省 地方公営企業年鑑
地域医療を守れ「わかしおネットワーク」からの提案(平山愛山・秋山美紀〔共著〕 岩波書店)
まちの病院がなくなる!?(伊関友伸〔著〕 時事通信社)
自治体病院再生への挑戦(杉本順子〔著〕 中央経済社)
地域力の再生(事業再生実務化協会 公企業体再生委員会〔著〕 きんざい)
誰が日本の医療を殺すのか(本田宏〔著〕 洋泉社)
医療構造改革と地域医療(日野秀逸〔著〕 自治体研究者)
公立病院の生き残りをかけて(後藤武〔著〕 じほう)