【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立

救急の現状と住民意識


広島県本部/全国消防職員協議会・総合消防研究委員 岩本 展政

 救急業務が法制化されて40年が過ぎ、救急業務は現代社会の住民生活に必要不可欠なサービスとして、その役割を担っています。また、住民のニーズは年々高まり、救急出場件数の増加と救急業務の高度化がより一層求められるようになってきました。
 その一方、さまざまな問題も浮き彫りになってきています。例えば、救急出場件数の増加による現場到着時間の遅延、タクシー代わりとしての不適切な救急車利用、救急救命士の処置拡大、その地域格差などが挙げられます。
 自治労の傘下である全消協では、これら救急の諸問題について研究、取り組みを行っています。今回、自治労広島県本部のご協力により「住民」ならびに医師・看護師を中心とした「医療従事者」に意識調査(アンケート調査)を実施しました。本日は、その調査結果をもとに救急現場の現状を知って頂き、また、救急車を要請される皆様の貴重なご意見を承りたいと考えています。

1. 救急業務の現状

(1) 救急出場件数の増加
 現在、救急業務は、国民にとって必要不可欠な行政サービスとして定着するとともに、救急需要が拡大しており、1996年には337万件であった救急出場件数は、10年間で約55.3%増加し、2006年には、524万件となっています。1963年に消防機関の行う救急業務は法制化されました。当時の救急出場件数は、23万件であったのに対して2006年には524万件と2,089%の増加率となっています。

(2) 救急出場件数の増加に伴う影響
 年々増加する救急出場件数が10年間で約55.3%増加したのに対して、救急隊数は、1997年に、4,483隊であったのに対し、2007年には、4,846隊と363隊の増加、10年間で約8.1%の増加にとどまっており、救急隊の現場到着所要時間は1996年の平均6.0分に比べ、2006年では6.6分と遅延傾向にあります。

(3) 救急出場の種別及び傷病程度
 増加する救急出場件数でありますが、2006年中の搬送人員のうち60%は急病であり、全搬送人員のうち半数以上の52%は、入院の必要がなくその日のうちに帰宅する軽症でありました。また、3週間以上の入院を必要とする重症にあっては、全体の9.7%と1割に達していないのが現状です。症状は軽微だが「交通手段がない」、「どの病院に行けばよいか不明」といった理由から救急要請も少なくなく、軽症のみに限らず、必ずしも緊急性があるものばかりではなく、タクシー代わりの利用や定期的な入退院、さらに事前予約のある外来通院など救急事案に該当しない利用も少なくありません。

2. 住民に対する意識調査結果

① 問1.あなたの性別
   
男 性
282人
 
   
女 性
329人
 
   
未記入
4人
 
         
② 問2.あなたの年齢
   
10代
4人
 
   
20代
37人
 
   
30代
165人
 
   
40代
184人
 
   
50代
148人
 
   
60代
71人
 
   
70代
2人
 
   
未記入
4人
 
         
③ 問3.あなた、または家族の方が救急車を利用したことがありますか?
   
あ る
317人
 
   
な い
298人
 
    あると答えた方にお伺いします。
    救急隊の接遇(態度・言葉遣い)はどうでしたか?
   
良かった
157人
 
   
普 通
150人
 
   
悪かった
6人
 
   
未記入
4人
 
    良かった という理由
・迅速に優しく対応してもらった。
・複数の病院に断られたが、不安感を与えることなく対応してもらった。
・優しく励ましてもらって心強かった。
・迅速、的確な処置で家族は一命をとりとめ、さすがプロと感じた。
・親切で好感、安心感が持てた。
・適切な判断と対応をしてもらった。
・患者や家族の気持ちになって対応してもらった。
    悪かったという理由
・軽症で仕方ないが、怒ったような口調でいろいろ聞かれた。
・きつい口調でいろいろ聞かれてショックを受けた。
・態度・口調が横暴であった。
・たらい回しされて60分以上救急車に乗っていた。
④ 問4.救急車の有料化についてお伺いします。
 
適 切
96人
 
 
不適切
195人
 
  どちらともいえない
314人
 
 
未記入
10人
 
    適切 という理由
・救急には、お金が掛かるので一部負担は必要。
・タクシー代わりの利用を減らす意味でも有料化は賛成。
・高額でなければ賛成。
・医師の判断で料金を決めればいいと思う。(病院での窓口払い)
    不適切 という理由
・低所得者が救急車を利用できないということがあってはならない。
・社会的不公平が生まれるので救急は無料が一番。
・救急は住民サービス。有料化にする意味がわからない。
・高齢者、生活弱者が、本当に必要な時に呼べなくなるのではないか。
・病院の支払いと救急車有料化では、生活が困る。
・病院のたらい回しがある以上、有料化は反対。
・負の連鎖につながると思う。
・親切や義務で救急車を呼べなくなるのではないか。
・救急車は公共の乗り物なので反対。
・税金の二重取りではないか。
・憲法違反。
⑤ 問5.「救急救命士」という資格について、ご存知ですか?
 
知っている
549人
 
 
知らない
63人
 
 
未記入
3人
 
⑥ 問6.現在、救急救命士は医師の指示下で、心肺停止患者に対して気管挿管や点滴、薬剤投与(アドレナリン)を実施しています。このことについてあなたはご存知ですか?
 
知っている
415人
 
 
知らない
197人
 
 
未記入
3人
 
⑦ 問7.普通救命講習(心肺蘇生法)を受講したことがありますか?
 
あ る
346人
 
 
な い
261人
 
 
未記入
8人
 
    ない と答えた方にお伺いします。
受講を
したい
187人
 
したくない
44人
 
どちらともいえない
27人
 
 
未記入
3人
 
⑧ 問8.あなたは、AED(自動体外式除細動器)を知っていますか?
 
知っている
491人
 
 
知らない
105人
 
 
未記入
19人
 
    知っている と答えた方にお伺いします。
    あなたは、AEDを適切に使用できますか?
 
できる
74人
 
 
できない
264人
 
  どちらともいえない
149人
 
 
未記入
4人
 
⑨ 問9.あなたが救急業務に望むものがあればご記入ください。
・救急車が到着するまでの時間に地域格差がないようにしてもらいたい。
・救急車を呼んで病院が決まらず、死亡してしまう社会を是正してもらいたい。
・救急の現状をもっと広報して、利用者のモラルの向上を行ってもらいたい。
・受け入れ側の病院の改善をしてほしい。
・政府や厚生労働省が病院、消防にもっと補助金を出して国民を守るべきだ。
・救急講習等をもっと増やして、受講がしやすい環境を作ってほしい。
・アメリカのパラメディクのようになればいい。
・もう少し早くきてほしい。救急車の到着が非常に遅い。
・希望の病院に運んでほしい。
    ・医師が同乗してほしい。

3. まとめ

 近年、救急要請が急増する一方で救急隊の数は微増にとどまり、需要のギャップの拡大から救急業務は崩壊寸前の状態にあります。救急有料化という方向性も示されており、一部の消防本部では、119通報時に通報内容をトリアージ(選別)して対応しています。トリアージを導入する場合には、住民合意が不可欠と考えます。この場合、本来の目的が救命率を向上させることであり、軽症患者の不搬送といったサービス切捨てではないことを示さなければなりません。また、政府の行った医療制度改革により、どの医療機関でも医師不足が発生し、地方の医療機関は特に深刻な状況に追い込まれています。昨年から今年になって、急に救急医療について全国的に問題となっています。救急受け入れ拒否、救急指定返納、常勤医師の減少に伴う救急体制の維持困難、救急医療現場のコンビニ化、救急医療は破綻寸前となっています。
 全消協としては、「救急有料化は反対」「救急は住民サービス」という立場で皆様のご協力のもと、今後も活動を行っていきます。
 本日お話をさせて頂いたことは、直接皆様の「命」にかかわることです。今後、救急業務、救急医療の崩壊を食い止めるには、皆様のご協力、皆様の声が絶対に必要と考えています。「安心・安全」な社会を目指し、明るい未来を共に築きましょう。