【モデル単組】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅱ-②分科会 持続可能な医療体制の確立 |
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1. 但馬・美方郡の状況 但馬地域は、豊岡市、養父市、朝来市、香美町、新温泉町の3市2町からなり、兵庫県の北部・日本海側から内陸部まで、山間部が大半を占め、広大な面積の中に人口が点在する典型的な過疎高齢地域です。公共交通機関はJRと全但バスのみで、便数も少なく冬には積雪が多くこれらの運行も不安定になります。さらに今、全但バスの路線縮小や会社自体の身売り問題が生じています。但馬は、2005~2006年の市町合併により、豊岡市に公立病院が三つ、朝来市に二つ、養父市に一つ、香美町に二つ、新温泉町に一つ存在し、一つの2次医療圏域となっています。 2. ガイドライン先取りの「但馬の医療確保対策協議会」の再編計画 但馬には県立病院や赤十字病院がない上、民間の医療機関も少なく、市町が運営する九つの公立病院が医療の中心的役割を担っています。ところが新医師臨床研修制度が始まった2004年度から2年間で公立病院の医師が計21人も減少しました。このため、診療科の縮小や廃止、夜間救急の廃止などが相次いだため、「医師の集約化を図る必要がある」として2006年7月、県内で先陣を切って市町長や病院管理者、県の医療政策担当者で構成する「但馬の医療確保対策協議会」が設立され、2007年2月に公立病院の再編計画がまとめられました。兵庫県の養成医師は、県が学費を負担する代わりに卒業後の一定期間、へき地での勤務を義務づけられている医師で、大半が但馬に派遣されています。「医師の集約化」にあたっては、大学病院の医局から派遣を受けている医師は自由に動かせないため、県が人事権を持つ県養成医師が対象とされました。 3. 「美方郡の医療を考える会」の結成と取り組み 2004年度に新卒医師臨床研修制度がスタートして以来、香住病院、浜坂病院では医師確保が一層困難な状況に追い込まれていました。2006年4月から両病院では、病棟閉鎖、診療科の休診、夜間救急の受け入れ制限などが行われていました。また、両病院では、希望退職、勧奨退職の実施、香住病院では看護師を研修として鳥取県立中央病院と豊岡病院に派遣するなどの人員整理が行われました。新温泉町職労と香美町職はこうした事態に当局交渉を行い対応してきました。医療体制の維持が困難になる中で、2006年2月には「公立豊岡病院組合立病院のあり方検討委員会」が設置され、3月には「香美町医療体制検討委員会」が答申を出し、8月には「公立浜坂病院医療体制検討委員会」が設置されるなど、地域あげて対応策が検討されてきました。 4. 住民アンケートとシンポジウムから見えてきたもの 2008年になり地域医療を守るためには地域住民の理解・意識改革・医療スタッフとの相互理解が必要であるとの視点から、地域医療・公立病院にかかわる住民アンケートに取り組み、住民の現状に対する思いや要望を掴んだ上で住民公開のシンポジウムを開催することとしました。住民アンケートは2008年5月に取り組み、1,520人の集計を得ました。 |
<アンケート集計> |
5. 美方郡の地域医療確立にむけた「提言」 医療制度を考えるとき、まず国に対して、社会保障費の削減をやめ、増額すること。特に、公立病院に対する財政支援(交付税)を増やすこと、医師の養成数を増やすことを求めます。兵庫県に対しても、公立病院への財政支援を強化すること。県養成医師を増やすこと。今回の「但馬の医療確保対策協議会」や「兵庫県保健医療計画」を検証し、県としての改善策を早急に具体化することなど、求めていかなければなりません。 (1) 救急搬送体制の充実 (2) 総合診療科の強化 (3) 医療と福祉の連携強化 地域ケア体制の充実 (4) 豊岡病院、八鹿病院との連携強化 (5) 公立病院を住民の共有財産としての位置づけの強化 (6) 定期的な集落ごとの懇談会の開催 「患者学」の開催 (7) 健診や保健指導の受託 (8) 通院に対する支援 (9) 住民の意識改革とコンビニ受診の自粛 また、新温泉町職員労働組合は職員アンケートに取り組んだ結果から、浜坂病院に対して「いまできること」として次の提案をしてきました。 6. 最後に 公立病院改革ガイドラインでは、病院の再編・ネットワーク化の他に経営効率化・経営形態の見直しが触れられています。経営の健全性を確保する努力は必要ですが、医療の質を落とすこととなってはなりません。公立病院故に不採算部門の政策医療を担っていることからも、単年度での黒字決算にこだわるべきではないと言えます。一般会計からの繰入もどの程度までが可能なのか、住民の理解の範囲内なのか病院関係者・行政・住民が一体となって考えていくべき課題です。経営形態の見直しについても、指定管理者制度や民間譲渡は美方郡のように民間医療機関が少ない地域では難しい状況にあり、地域医療崩壊の危険性があります。地方独立行政法人化も長期的に見てその評価が判断できる段階にはありません。したがって、当面は公営企業法の全部適用を含め直営にて経営努力することを提言します。そして将来的には経営基盤の強化と連携体制の強化を目指し、但馬全域での一部事務組合化などの経営の一体化を目指すべきです。広大な面積の但馬で豊岡病院と八鹿病院を急性期病院とした場合、救急搬送で1時間程度掛かる美方郡が救急医療体制から外れていると感じ、患者・住民の不安は解消されないでしょう。その距離・時間から言えば、救急搬送体制を含めた救急体制全体の整備が必要です。ただし、その場合でも、本当に緊急な患者のみの受け入れでなければなりません。安易なコンビニ受診を無くす努力が住民側に求められるのは当然です。高齢者を多く抱える地域性からも、一つの医療機関で治療が完結しないケースが多いと思います。医療と福祉・介護の連携を図りつつ、急性期病院との連携を強化した地域医療を目指すべきと考えます。介護型療養病床の全廃と医療型療養病床の削減が進められている中で、美方郡は県下でも先行した高齢社会であり、高齢者だけの世帯や高齢者単身世帯が増加していることを鑑みるとき、在宅診療・介護を進めていくことの是非を含めた議論が必要です。そのうえで在宅を進めるのであれば、地域挙げての支援体制をとることが求められてきます。また、県養成医師以外の各公立病院直雇用の勤務医師の処遇等についても考えていかねばなりません。地域医療を支える仲間としてこの地に定着して頑張っていただくためにも、患者・住民にも意識改革が求められています。美方郡において、大都市部のような公立病院の規模・施設を求めるなら、決して財政的にもその水準には到達できません。また、地域完結で高度先進医療を求めても実現は難しいと言えます。村岡病院では遠隔画像診断システムが機能しています。このような連携体制を幅広く導入し、限られた財政や医療資源を有効に活用する、身の丈に合った地域医療の確立を目指すべきです。医師・医療スタッフと患者・住民との信頼関係・日常的な繋がりこそが美方郡における地域医療のあり方であると思います。その実現のためには医療提供側と住民そして行政のコミュニケーションを深めていくことが最も大切であると考えます。 |