【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

置戸町特別養護老人ホームの経営分析


北海道本部/置戸町職員組合・自治研部

 置戸町特別養護老人ホームは、明るい環境のもとで、心身の健康を保持助長し、快適な生活と豊かな老後を楽しむことを運営方針とし、1982年に定員50人で開園しました。その後2000年度に制定された介護保険の老人福祉施設及び短期入所施設として、高齢者の自立支援や家庭復帰を目指すための機能訓練、看護、介護サービスの提供を行っており、地域住民の福祉の向上に大きな役割を果たしています。
 道内の多くの自治体において福祉施設の民営化提案がなされ、なし崩し的に民営化が図られている現状を踏まえ、自治労置戸町職員労働組合自治研部としては、「地域住民が安心して暮らせる地域づくりのため」「多様化する福祉ニーズに対応するため」にも両老人ホームの果たす役割は大きく、公営施設として事業の継続が必要と考えています。しかし置戸町特別養護老人ホームが将来にわたり町民に信頼され、安心で安全な質の高い介護を提供していくためには、公営施設としての使命と役割を改めて検証し、併せて企業会計としての経営の健全化、安定した経営基盤の確立を図り、地域住民の理解を得ることも条件のひとつと考えています。
 このような考えのもと、様々な角度から実態を把握し、全組合員でこの課題に取り組むため、2005年度より、2回に渡り現地調査を始め調査研究を行ってきました。今回は現地調査を踏まえ実際に置戸町特別養護老人ホームはどのような経営を行っているのかを検証します。

1. 経営収支概要

 置戸町特別養護老人ホームは、介護サービス事業特別会計(企業会計)において介護老人福祉施設事業及び短期入所事業(ショートステイ)を行っています。
 経営収支の状況は、両事業あわせ2005年度までは黒字で推移していましたが、2006年度に介護保険制度が始まって以来の赤字を計上しています。これは2003年度での介護報酬見直し、及び2005年度での介護保険制度の改正による収入減が大きな要因と考えられます。
 また、事業毎にみると介護老人福祉施設は若干の赤字で推移しており、特に制度改正後の2006年度では赤字額が大きく拡大しています。なお、短期入所事業は現在も若干の黒字経営を行っていますが、施設部門と同様2006年度で大きく収入減となっています。


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

介護老人福祉施設

歳入

194,941

179,380

179,068

176,617

158,330

歳出

196,676

182,215

179,319

181,641

171,875

△1,735

△2,835

△251

△5,024

△13,545

短期入所事業

歳入

23,406

26,357

28,921

26,119

20,335

歳出

16,059

22,350

21,388

19,590

19,876

7,347

4,007

7,533

6,529

459

施設計

歳入

218,347

205,737

207,989

202,736

178,665

歳出

212,735

204,565

200,707

201,231

191,751

5,612

1,172

7,282

1,505

△13,086


2. 収入構造

 収入構造を見ますと、サービス収入及び自己負担金収入が収入全体の99%を占めており、その他の収入(寄附金、委託料、預かり金管理料など)については、約1%弱となっています。また、年度別に見ますと介護報酬の改正がありました2003年度と介護保険制度の見直しのありました2005年度以降の収入が大きく減少しています。これらのことから、収入はサービスの提供数が直結していることと、介護保険制度・介護報酬単価などの改正に大きく影響を受けることが考えられます。
※2004年度より町単事業であるショートステイ事業収入を計上


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

サービス収入

186,062千円

182,496千円

184,658千円

176,270千円

151,503千円

自己負担金収入

21,153千円

21,714千円

21,392千円

24,413千円

25,395千円

その他の収入

1,532千円

1,527千円

1,939千円

2,053千円

1,767千円

町 債

9,600千円

千円

千円

千円

千円

218,347千円

205,737千円

207,988千円

202,736千円

178,665千円


3. 支出構造

 支出構造を見ますと、人件費及び賃金が全支出の約77%、施設の維持管理費が4%、入所者に係る経費が残りの約19%となっています。また、年度別に見ますと全体の支出としては約2億円前後で推移していますが、人件費・賃金はここ数年減少してきています。
 なお、人件費比率の北海道平均は約64%となっており、約13%ほど高いが、これは洗濯業務や清掃業務など他施設では維持管理経費計上している部門を賃金職員で行っていることなどが大きな要因として考えられます。


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

人件費・賃金

152,915千円

159,212千円

155,866千円

153,910千円

147,723千円

施設管理費

20,491千円

9,048千円

7,897千円

12,763千円

9,395千円

利用者介護費

39,329千円

36,305千円

36,944千円

34,558千円

34,558千円

212,735千円

204,565千円

200,707千円

201,231千円

191,751千円

※全道平均値は2004年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より


4. 職員数の推移

 職員数は28人を定数として管理していますが、ここ数年若年層職員の定着率の低下から、本来退職補充時のみ雇用されるはずの定期職員が増えている傾向にあります。また、臨時介護職員をはじめ洗濯業務職員など、臨時的な雇用形態の職員が約10人程度雇用されています。なお、2007年度より看護職員の増員が図られ適正数を29人と変更しています。


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

正規職員

10人

10人

9人

9人

8人

常用職員

13人

16人

14人

16人

14人

定期職員

4人

1人

5人

5人

6人

27人

27人

28人

30人

28人


5. 職種別職員数

 職種別職員のうち介護職員以外の職種については、開園以来同じ人数で推移しており、2006年度では事務部門3人、直接介護部門26人、介助員・調理員が5人の34人体制となっています。
 なお、介護保険法による施設設置基準では、栄養士が1人、相談員が1人、看護師が2人、介護職員が看護師を含めて入所人数の3人に1人となっており、本施設では、栄養士、相談員、看護師の人員は同数となっていますが、介護職員については、人員基準より5人程度多くなっています。
 しかし、本施設の介護職員1人当たりの利用者数は、満床時(60人)2.4人ですが、全道平均は2.36人となっており、道内どの施設においても施設設置基準を上回る職員を雇用している状況にあります。これは、24時間施設ということもあり、夜間の勤務体制・日中の職員配置などを考慮し、利用者に迷惑のかかることがないよう十分な体制をとるため、どの施設においても介護職員の増員を図っているものと思われます。


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

人員基準

施設長

1人

1人

1人

1人

1人

 

事務職

1人

1人

1人

1人

1人

 

栄養士

1人

1人

1人

1人

1人

1人

相談員

1人

1人

1人

1人

1人

1人

看護職員

2人

2人

2人

2人

2人

2人

介護職員

22人

22人

23人

25人

23人

18人

介助員

1人

1人

1人

1人

1人

 

調理員

4人

4人

4人

4人

4人

 
※1 毎年度4月1日現在の職員数
 2 臨時介護職員を常勤換算5人(2人で1人)で計上
 3 人員基準のうち介護職員は看護職員と合わせ常勤換算3:1で計上
 4 全道平均値は2005年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より


6. 利用者の状況及び平均介護度

 毎月初日現在の利用者数では、50人定員のところ2006年度で48.75人と、年々減少傾向にはありますが、ほぼ、満床を確保しています。また、平均介護度をみますと年々重度化しており2006年度の平均介護度は4.19となっており、全道平均を0.5ポイント上まわっています。


 

2002年度

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

全道平均

利用人数

49.67人

49.75人

49.58人

49.08人

48.75人

 

平均介護度

3.44

3.71

3.91

4.08

4.19

3.63

※1 利用人員及び平均介護度は毎月1日現在の平均値です
 2 全道平均値は2005年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より


7. 介護報酬の推移(特養部門)

 特養部門での実利用者は、毎年延べ16,000人強で推移していましたが、年々減少傾向にあり、2006年度では14,800人弱と大きく前年を下回りました。1日の利用人数を見てみましても2002年度が45.68人であったのに対して、2006年度では40.53人と5.1人の減少となっており、利用率では10%強の減となっています。
 また、全道平均と比較しても利用率で約14%の開きがあり、低さが特に顕著に現れました。なお、それに伴い、給付費では、単価については利用者の介護度も高いことがあり上まわっていますが、総額では介護報酬等の改正があったことを考慮しても、2002年度比△33,391千円と大きく減少しています。


 

介護老人福祉施設

全道平均

備考

年間延べ

1日の利用人数

1人当たりの給付費

利用率

利用率

1人当たりの給付費

人数

給付費

2002年度

16,674人

167,167千円

45.68人

10,025円

91.36%

95.40%

8,971円

 

2003年度

16,722人

161,026千円

45.81人

9,629円

91.63%

2004年度

16,448人

160,082千円

45.06人

9,732円

90.13%

2005年度

16,167人

153,525千円

44.29人

9,496円

88.59%

2006年度

14,794人

133,776千円

40.53人

9,042円

81.06%

※全道平均は2005年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より


8. 介護報酬の推移(短期入所部門)

 短期入所部門での実利用者は、毎年延べ2,300人強で推移していましたが、2006年度では前年比350人の減少となり、大きく前年を下回りました。1日の利用人数では対前年度比△1人となっており、利用率では対前年度比△10%となっています。
 また、全道平均と比較しても利用率で約14%の開きがあり、利用率の低さが目立ちました。なお、それに伴い給付費では、対前年度比3,200千円の減となり、率では17%の減額となっています。


 

短期入所施設(ショートステイ事業)

全道平均
備考

年間延べ

1日の利用人数

1人当たりの給付費

利用率

利用率

1人当たりの給付費

人数

給付費

2002年度

2,060人

18,896千円

5.64人

9,172円

56.44%

69.6%

9,381円

 

2003年度

2,393人

21,470千円

6.56人

8,972円

65.56%

2004年度

2,483人

21,675千円

6.80人

8,729円

68.03%

2005年度

2,372人

20,094千円

6.50人

8,471円

64.99%

2006年度

2,021人

16,836千円

5.54人

8,330円

55.37%

※全道平均は2005年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より


9. 経営状況

 費用の面では人件費率が全道平均より上回っているが、掃除・洗濯業務及び調理業務などを直営で行っていることが要因と考えられ、直接介護職員数では全道の平均を下回っている状況です。
 特に経営を圧迫している原因としては、特養部門、短期入所部門とも利用率が全道平均を大きく下回っている状況のため介護報酬への依存率の高い当施設としては、大きく影響しています。


 

特別養護
老人ホーム
(2006)

全道平均
(2005)

評価

利益

収益

特養
部門

平均介護度

4.19

3.63

全道平均より0.56高い

利用者単価

9,042円

8,971円

介護度が高いため

利用率

81.06%

95.40%

全道平均に比べ大きく下回っている

短期
入所

利用者単価

8,330円

9,381円

2005年度において制度改正があったため

利用率

55.37%

69.60%

全道平均に比べ大きく下回っている

費用

人件費率

77.04%

63.60%

人件費率は高いが、洗濯業務など直営業務が多いことが要因

職員数

34人(常勤換算5人含む)

29人(人員基準)

・人員基準に比べ5人多い

介護職員1人当たりの利用者数

2.4人

2.36人

全道平均と比較すると介護職員数は多くない

※1 全道平均は2005年度介護老人福祉施設等収支状況等調査報告書より
 2 直近の全道平均値が2005年度のため年度違いでの比較となった


10. 経営分析のまとめ

(1) 経営状況
 経営収支状況としては、全体として2005年度までは黒字で推移していましたが、2006年度で大きく赤字を計上しており、歳出は毎年減少傾向にあるもののそれ以上に歳入が大きく減少しています。これには次のことが要因と考えられますが、今後とも介護報酬単価の増額は見込めないことから、そのほかの方策で収入増を図り、経営基盤の安定化を図る必要があります。
① 介護保険制度の改正によるホテルコストの導入など介護報酬単価の減額
② 特養部門、短期入所部門それぞれの施設利用率の低下

(2) 経営の特徴
① 介護報酬への依存度が高く、報酬単価に左右されやすい。
② 利用者の平均介護度、1人当たりの単価は道内平均値となっているが、利用率については特養部門、短期入所部門とも大きく道内平均値を下回っている。
③ 人件費率は全道平均を上まわっているが、掃除・洗濯業務など賃金職員による直営班で行っていることが要因。
④ 職員数では、介護職員が人員基準より多く配置されているが、全道平均と比較すると、現員どおりの配置状況となっている。

(3) 経営基盤の安定に向けて
 今回の経営分析により、介護報酬への依存度が高いことがわかりました。しかし、公営施設としての役割を果たすためには、経営基盤を安定させ経営の健全化を図る必要があります。そのために自分達でできることを具体的に下記のとおり報告し分析に変えます。
① 施設利用率の向上
 ・公営施設であることを意識し、利用者の状態に左右されないよう受け入れ態勢の整備を図る。
 ・他施設との情報交換を積極的に行い、業務効率の向上を図る。
 ・入院者の増加を防ぐため、日頃より介護予防対策を積極的に取り入れる。
② 介護報酬の増
 ・施設基準により、加算できる報酬は最大限に加算する。⇒栄養マネジメント加算など
 ・「やむを得ない措置等による定員超過の取扱」などを利用し空きベットの活用を図る。
③ 職場環境の整備
 ・職員間での意見交換を積極的に行い、既定概念にとらわれない処遇改善に努める。
 ・職種間の垣根をはずし、利用者の立場に立った処遇を全職員で行う。