【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

地域との連携の中で都立障害施設の今後の展望を探る


東京都本部/自治労東京都庁職員労働組合・福祉保健局支部 野沢  徹

1. はじめに

 2006年4月に施行された「障害者自立支援法」は、「障害のある人が普通に暮らせる地域づくり」を目指して制定されたが、障害者等の範囲、障害者等の所得の確保、応益負担の導入、障害特性を反映しない認定調査項目等、多くの問題をはらみながら今日に至っている。
 東京都の障害者施策の動向は、①すべての都民が共に暮らす地域社会の実現、②障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現、③障害者が当たり前に働ける社会の実現を基本理念に、昨年5月、東京都障害者計画及び東京都障害福祉計画を策定し、区市町村と連携を図りながら、障害者自立支援法に基づく制度への移行を円滑に進め、引き続き各障害の特性を踏まえた独自の先進的な施策を展開するとしている。
 都立福祉施設(障害6施設、児童養護8施設)を指定管理者として運営する東京都社会福祉事業団(以下事業団)をめぐる状況は、監理団体の改革として「事業団の廃止も視野に検討」とされ、既に、都立直営の全ての障害者通所施設、東京都社会福祉事業団に運営委託していた知的障害者入所施設2箇所、児童養護施設2箇所が「優秀な民間法人」と評価された社会福祉法人に移譲されている。あわせて、来年度民間移譲が決定している知的障害者入所施設1箇所は、現在法人への「引継ぎ」期間となっている。
 その背景には、「民間にできることは民間に」という論理の下に「公の役割変更」が進行していることがある。東京都社会福祉事業団ならびに障害施設を取り巻く状況は、いまだ不確定な要素も多く予断を許さない緊迫した状況ではあるが、老朽施設の改修・利用者ニーズの変化への対応・幅広い東京の障害施策への事業団施設としての貢献への期待等、避けて通れない行政課題に将来展望を持った道筋をつけなければならないことも厳然たる事実である。
 このような状況の中で、自らの雇用問題と施設改革を一体的に運動課題としてきた事業団の知的障害者施設である東京都八王子福祉園の施設改革の歴史と今後の方向性について報告し、労働組合が主導する施設改革と市民協働の街づくりについてのレポートとする。

2. 東京都八王子福祉園の施設改革の足取り

 八王子福祉園の施設改革は、10年以上にわたる取り組みの過程があるが、大まかにその改革の軌跡をたどれば、本格的な改革議論に至る以前の改革前夜、1997年以降の従来の改革方針の転換と施設のあり方を中心とした検討段階としての第一次改革期、2000年から始まる具体的事業計画としてのレベル1事業を中心とする第二次改革期、更に、障害者自立支援法の施行と具体的改築構想を含めた検討を行っている現在を第三次改革期と考えることができる。
 それぞれの特徴的検討の方向性や事業を振り返り、都立障害者施設の今後の方向性を探ることとしたい。
 改革前夜→1995年2月 東京都福祉局(当時)内に「都立施設運営検討協議会」が設置され、①施設利用者の援助の充実(施設内完結型の援助から地域生活重視の援助へ)、②利用者の社会自立促進のための援助のあり方、の2点が重点事項として検討された。
 同年5月 局からの指示で「都立施設運営検討協議会」の現地委員会として「八王子福祉園運営検討協議会」が設置され、「施設利用者又は在宅障害者の福祉の向上を図る観点から、現行の建物設備等では対応できないと認められるときには、整備すべき設備・建物についても検討事項に含めて検討していくものとする」という条件の下、老朽施設の全面改築も視野に入れた改革プランの検討作業に入った。
 翌年5月には園内の「最終報告」がまとめられた。その内容は、個別の利用者への「総合援助計画」の策定や「花の福祉園構想」に特徴的に表れた「施設オープン化事業」を中心にした内容であり、従来の援助体制(施設規模・生活集団・職員体制など)を前提に施設内生活改善の取り組みに止まっていた。
 同年8月には、親委員会である「都立施設運営検討協議会」報告がまとめ上げられ、「地域の福祉システムと繋がるケアマネジメントの導入をはじめとする施設機能の転換と更なる地域との関係作り(地域福祉の拠点としての整備)」が課題として提起され、局検討会への「園意見(当園では地域で暮せることが可能な人はほとんどいない)」の見直しを求められた。
 第一次改革期→1996年11月、「都立施設運営検討協議会」報告に沿って「今後の八王子福祉園運営検討委員会」が設置され、局と園との方針の乖離を埋め、抜本的改革論議に着手した。
 その結果は、1997年8月の「今後の八王子福祉園の運営のあり方について」(提言)にまとめられ、全面改築に向けた基本的視点として、①個の尊重、②適正な集団規模、③介護ニーズに着目した多用な居住の場の整備(重介護棟・車椅子対応・高齢・グループホーム志向)、④訓練棟の地域デイセンター化、⑤自立援助棟の建設が盛り込まれた。
 この提言を受け、1999年3月には、「八王子福祉園整備基本構想」がまとめられ、新しい施設像として、①他施設では受け入れ困難な方を受け入れつつ、有期限の地域生活支援(生活寮を含む)を行う、②地域デイサービスの本格実施・医務科機能の充実・多様な日中活動の展開、③利用者の状況にあわせた暮らしの場の確保、④施設規模・形態の見直し、が提起された。
 同時に、1999年4月より東京都社会福祉事業団に運営委託され、東京都直営施設としての改革から、社会福祉法人たる東京都社会福祉事業団での施設改革論議に移行する。
 第二次改革期→1999年7月 局内に、「重度知的障害者施設整備基本構想検討協議会」が学識経験者や民間施設関係者を交えて設置される。
 園は、同年9月「八王子福祉園基本構想検討委員会」を設置し対応。従来との相違点は、それまでは全面改築を前提にした検討であったが、「基本構想検討委員会」は「改革なくして改築なし」を基本方針に、激変する障害福祉施策・障害施設のあり方に対し、将来展望を持った「改革・改築プログラムの策定」をテーマとした。
 具体的検討課題は、①従来型の大規模収容施設からの転換の現実的方策の提示、②援助プログラムの転換と暮らしの場の再選択の実現、③グループホーム集合型施設としての多様な暮らしの場の整備、④利用者の高齢・虚弱化に対しての具体策の提示、⑤地域の障害者への生活支援(生活寮支援・デイケア)の促進、⑥生活棟再編成実施プログラムの作成、⑦年次別施設整備計画の作成、であった。
 その結果、「レベルⅠ事業」として3年間の年次計画を作成し、園内再編成、自活訓練棟開設、デイサービス(現在の生活介護事業)の開始、個別支援計画の充実、施設からの地域移行の促進など、事業団内はもとより、民間社会福祉法人からも高い評価を受ける施設改革が進行した。
 第三次改革期→2006年、障害者自立支援法の施行に対応し、「施設改革PT」・「機能強化推進委員会」・「新たな事業展開」と検討を進め、「小規模・多機能・分散」を基本コンセプトに、全面改築に向けた長期計画を策定することになっている。

3. 「地域と共に」を合言葉に

 このような施設改革の道筋の中で、労働組合は、地域との連携を極めて重要なキーワードとして取り組んできた。その発端は、前項、改革前夜期における園管理者の「労働組合敵視」による園内協議の場の崩壊に対し、労働組合が地域の住民と共に「地域の課題と福祉園の課題を共に考え行動する場」として「ゆうやけの里・地域福祉フォーラム」(以下、フォーラム)を結成したことであった。
 フォーラムは、八王子福祉園が居を構える八王子市の恩方地区(旧・恩方村、人口約3万人、新旧住民が混在)の地域課題を住民の力で解決し、その中での都立施設の果たす新たな役割について住民と共に考えていこうというものであった。折りしも介護保険制度導入が大きな話題として巷をにぎわしていた時期でもあり、介護保険制度の学習の場を設定することから取り組みを開始した。その後、「縛らない介護」・「障害者、高齢者の地域防災」・「障害者基本計画と支援費制度」などのテーマについて話し合いの場を設定してきた。
 施設開設以来四半世紀にわたり「閉ざされた空間」であった施設が、地域住民と顔の見える関係作りに着手した瞬間であった。
 フォーラムの運営についても労組主体の運営から、地域住民から実行委員会長を選出し、組合は活動資金を助成することと担える人材を拠出することに専念し、「金は出すけど口は出さない」関係を今も続けている。
 そしてこの取り組みによる顔の見える関係は、市民協働事業としての「小田野中央公園づくり」に、町会、連合町会、住民協議会、町会自治会連合会と共にフォーラムが名を連ね、労働組合単独では成し得ない「障害のある人もない人も安心して共に暮らす町づくり」のための事業に大きく貢献している。

4. 地域生活支援型施設としての機能強化を

 以上のような施設改革に向けた検討と実践の積み上げの結果、今後目指すべき施設像として地域生活支援型施設としての機能強化のため、以下の4点を組織的に確認した。
① 利用通過の仕組み:八王子福祉園を始め多くの障害者入所施設では、一旦入所すると「終の棲家」となり、施設からの地域移行が重要なテーマであると言われつつその現状を打開する有効な手立てが見つかりにくい現状がある。その原因のうち最大のものは、「地域生活基盤の脆弱性」である。障害者の権利擁護・市民権の獲得を施設からの地域生活移行で実現させようとするならば、地域社会での安心の創造と親・家族・施設へのインセンティブが働く仕組みの確立が必要である。
 一方、施設入所待機者は700人以上とも言われ、そのうち「都立重度施設対応」の方が170人いると推計されている。
 そのような中で、都立施設である事業団施設が、利用者の地域生活移行支援を積極的に推進し、新規利用者への利用期間の明示を行い、利用通過の仕組みを確立することが求められている。併せて、入所施設としての特徴を生かした地域生活継続支援を充実し、「施設を出ても安心・施設に入らなくても安心」の構図を作る必要がある。
 また、地域移行を促進させるためにも、地域生活に近い適正な集団規模にするため、現行生活集団規模の縮小化を図ることが必要である。
② 利用目的の明確化と課題解決の実践方法:利用通過施設としての機能を充実させるためには、利用の目的を明確化し、関係者での共通の理解にすることが必要である。そしてその課題を解決するための実践方法を確立し、普遍的仕組みにすることが求められる。
 そのため、本人状況に対するアセスメントはもとより、関係機関との連携、家族状況の把握、地域資源の開拓など、地域生活移行を前提とした個別支援計画の精度を上げなければならない。また、地域生活への移行を前提にした日中活動の充実・強化を図る必要がある。更に、現実的対応としても高齢・虚弱化の進行に伴うターミナルケアの本格的実施が焦眉の課題となっている。
 このような高度で専門的支援を行う人材の育成が最も重要な課題でもあり、利用通過の仕組みを支え課題解決できる人材の育成のための研修計画・研修内容を確立し、民間への普及に取り組むことが重要である。
③ 簡素で効率的な施設運営:現在の指定管理者制度の仕組みでは、歳入・歳出の一体的管理が行われていないため、経営努力やコスト意識に欠ける面がある。派遣職員給与費(現員現給制度)の別枠管理や純粋社会福祉法人としての東京都社会福祉事業団の組織整備が求められる。
 施設収入の確保・拡大のためには、第二種社会福祉事業である短期入所・生活介護事業の収益を上げるための努力が必要である。障害者自立支援法の求める三障害統合への具体的対応や、生活集団規模の縮小化によるショートステイ受け入れ環境の整備を急ぎ、「安心して利用できる・安心して受け入れられる」体制の確立を図る必要がある。また、各事業の独立採算は当然として、入所機能別の独立採算などについての検討も必要である。利用者支援内容についても「どこまでが施設サービスとしてのスタンダードなのか」の議論は、利用者・家族の意見も踏まえ検討を要する部分である。
④ 地域福祉の拠点:地域福祉の拠点としての機能強化に関しては、現行の生活介護事業、短期入所事業、相談支援、ケアホーム開設支援などを継続すると共に、新規事業としての訪問ケアサービス(重度訪問介護)、日中一時支援事業、送迎サービスなどへの積極的取り組みが求められる。また、診療所機能を生かし、在宅障害者医療や医療的ケアを必要とする在宅障害者の日中活動の場として、生活介護事業への非常勤看護師の配置など、地域ニーズへの積極的対応が重要である。

5. おわりに

 ここにあげた八王子福祉園の施設改革の足どりは、組織内の課題に限定せず、大胆に地域の人たちと課題を共有し、地域の課題も引き取り共同の作業を行う土壌を作ってきたことが大きな意味を持っており、今後もこのスタイルを守っていく必要がある。
 この例に限らず、事業団障害施設では、民間施設で対応困難な医療的ケアの必要な最重度の障害者の方や複雑な支援を必要とする発達障害の方の受け入れを優先的に行い、また、事業団児童養護施設では、被虐待児童や反社会的行為を繰り返す高齢児童など、特別な支援を必要とする子どもの受け入れを使命としてきた。
 加えて、都庁職福祉保健局支部並びに東京都社会福祉事業団労組はこの間、「都立障がい施設の脱施設に向けた政策提言」をはじめとして東京都に対して「施設施策の抜本的な改革」を求めてきた。とりわけ現在は、先にあげたように切り売り民間移譲が強行される中、事業団のサービス水準を都基準とし、公民共通のサービス水準を確立するとともに、事業団の純粋社会福祉法人化(監理団体でない)を前提にした事業団施設の一括移譲による施設改革の継続を求め運動を強化しているところである。