【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

たんぽぽサービスから見た社会貢献活動


島根県本部/松江市職員ユニオン・社会福祉協議会支部

1. はじめに

 松江市社会福祉協議会では、松江市の委託を受け、1999年度から高齢者・障害者移送ボランティアサービス「たんぽぽサービス」を実施してきた。
 たんぽぽサービスの運営においては、ボランティアとして松江市職員ユニオンからの支援が、大きな力となっている。
 こうした高齢者や障害者のための移送サービスは、全国的にも広がっており、身体的又は地理的にも、自身での移動手段を持たない高齢者や障害者にとって、欠かせない移動手段となっている。また、加速する高齢社会の進展とあわせ、今後ますます移送サービスのニーズが増え続けることが予想される。
 こうした背景の中で、国も法整備を進めてきているが、松江市における「たんぽぽサービス」も、新たな対応を求められる局面に差し掛かっている。
 本レポートの中で、「たんぽぽサービス」の現状と取り巻く情勢を切り口として、今後の社会貢献活動のあり方と、問題提起を行いたい。

2. 第1章 交通弱者の移動手段の必要性

(1) たんぽぽサービスについて
  たんぽぽサービスは、1999年度から高齢者や障害者の通院・通所や、日常的な社会参加を支援し、自立と社会参加を促進することを目的にスタートをした。また、担い手となる運転ボランティアとして、「市民の参加による福祉のまちづくりを推進する」という面も持っている。
 利用者は、要介護1以上の高齢者又は身体障害者手帳1・2級の障害者であり、車椅子や歩行補助用具等を利用し、外出時に付き添いが必要な方である。たんぽぽサービスでは、利用者の自宅から目的地まで、ドア・ツー・ドアのサービスを行っている。
 たんぽぽサービスの稼動状況は、2003年度の約700件をピークに下降し、2006年では約530件となっている。利用者数も、2004年度の141人をピークに減少し、2006年度では55人となっている。こうした減少は、2004年度に出された国交省通知「福祉有償運送及び過疎地域有償運送に係る道路運送法第80条第1項による許可の取り扱いについて」(通称ガイドライン<資料1>)により、サービスの利用対象者が、限定されたことによるものである。
 一方で、運転ボランティアとして実際に活動をしている協力者の人数は、2002年以降から減少傾向が続き、2006年度では48人となっている。

(2) 潜在的な対象者
 利用者数の減少傾向があることは、先に述べた通りである。しかし、松江市内の要介護認定者は、2007年3月31日現在で5,523人ある。また、身体障害者手帳所持者は、2007年3月31日現在で2,118人(肢体不自由者)となっている。
 もちろん、このすべての人がたんぽぽサービスを必要としている人ではないが、現在の利用者数から見れば、たんぽぽサービスの潜在的なニーズはあるものと思われる。

(3) 利用者の声
  利用者の中には、身体的な要因に加え、自宅から公共交通機関へのアクセスが出来ず、経済的にもタクシーなどの利用が困難な方もある。
 ある一人暮らしの高齢利用者の方は、「バス停に出るまでにだいぶあって、タクシーを使うと、病院に行くにも片道5,000円もかかります。年金生活だと、交通費が出せません。かといって、近所の人の車に乗せてもらっても、お礼をしないといけないと思い、だんだん頼みづらくて……。このたんぽぽサービスで助かっています。」といっている。この言葉からも、高齢者の移動手段の確保は、身体的な問題と経済的な問題、さらに地理的環境の問題など、複合的に絡み合った課題をもっていることがわかる。

(4) たんぽぽ号
 現在、松江市社会福祉協議会には4台の車両がある。そのうち陸運局登録車両は、3台である。
 1台目は委託事業で松江市社会福祉協議会が購入した車両
 2台目は松江市職員労働組合結成50周年記念で贈呈された車両
 3台目は故宮岡元松江市長のご家族から寄贈された車両
 4台目は松江市職員ユニオン結成60周年記念で贈呈された車両
である。

3. 第2章 松江市におけるSTSの現状と課題

(1) たんぽぽサービスの状況とSTS
 なんらかのハンディにより、通常の交通機関が使えない方たちのために提供される公共交通のことを、スペシャル・トランスポート・サービス(STS)と呼んでいる。これにはタクシー、高齢者・身障者送迎バス、ドア・ツー・ドアミニバスなど、すべての高齢者・身障者用の移送形態が含まれる。たんぽぽサービスも、こうしたSTSのひとつである。

(2) たんぽぽサービスの課題
① 道路運送法改正によるボランティアの確保
  STSは、1970年代から行われるようになり、1990年代に全国的に活発化した。そのころからボランティアによる福祉移送は、「一般旅客自動車運送事業の無許可経営(通称「白タク行為」)に当たるのではないか」という指摘があった。全国的には、「公共の福祉を確保するために、やむをえない場合」と言う特例によって行われていた。当時の運輸省は「違法としての摘発はしない」との口頭見解を出し、いわゆるグレーゾーンとされてきた。こうした背景もあり、松江市では金沢方式<資料2>と呼ばれる委託事業として、松江市社会福祉協議会へ委託をしてきた経過がある。
  その後、国交省としてもSTSにおける運営のあり方や、利用に関する一定の制約が必要と考え、2004年にガイドラインが通知されたのである。
  過疎化の進行や少子高齢化の進展により、生活交通の確保が大きな課題となった。また、STSの需要が急増する中で、今後こうした移送サービスは、バスやタクシー事業者によるサービスを補完するものとして、さらに重要性をまし、全国的な広がりを見せてきた。
  2006年に道路運送法が改正され、それまでガイドラインとして出されていた通知を、法律上も明確化することとなった。中でも、ボランティアとして活動してきた運転者に、新たに2種免許又は運転者講習の受講が義務付けられることとなった。
  こうした改正により、これまでたんぽぽサービスの運転ボランティアとして活動をしてきた人材が、新たに運転者講習を受けなければ、活動を継続することが出来ないと言う問題が生じている。
② 松江市内エリアの状況
  2005年の市町村合併以前においては、市町村ごとに異なる高齢者・障害者移送サービスが実施されてきた。こうした流れが現在も続いている関係もあり、新松江市の中でも地域によって、運営、料金、利用形態などが異なる移送サービスが存在している。
  大別すると、ボランティアが運転する車両による移送サービスと、タクシー利用券の支給という形態に分かれる。また、移送サービスは年会費2,000円のほか、1回の利用につき費用負担が500円である。これに対し、タクシー利用券は、1回500円分の補助のほかは、全額自己負担となる。

4. 第3章 ワーク・ライフ・バランスと地域貢献

 前章では、たんぽぽサービスの課題として、ボランティアの確保が上げられることを述べてきた。ここでは異なる視点から、労働者の地域貢献について考えることとする。
 バブル経済の崩壊後、それまでの経済的な豊かさ優先の社会を反省し、心の豊かさや安らぎのある社会を目指そうと言う、大きな転換期を迎えた。しかし、経済の先細りや、雇用の不安定さが年々厳しくなる中で、気がつけば心の豊かさや安らぎとはかけ離れた、余裕のない生活を強いられていると言う気がしてならない。実際に体調不良やうつにより、長期療養を必要とする人が年々増えてきているという報道もされている。

(1) ワーク・ライフ・バランスに関する意識
 ワーク・ライフ・バランスとは、直訳すれば「仕事と生活の調和」である。
 ワーク・ライフ・バランスに関する調査として、2006年にインターナショナル・リサーチ・インスティチューツが、世界24カ国約1万4千人を対象に「ワーク・ライフ・バランスに関する世界意識調査」を実施した。この調査では、ワーク・ライフ・バランスについて、「全く満足していない」と感じている人の割合が、日本が16%と最も多い結果となった。また一方で「改善を試みたことがない」と答えた人の割合も、日本が66%とワースト2位の結果になった。
 こうした結果から、日本の特性として、ワーク・ライフ・バランスの満足度について高い不満を抱えながら、具体的な改善の為の行動には結びついていない傾向があるということが伺える。

(2) 国民生活白書から見る国民の意識
 内閣府の調査では、家族とともに過ごす時間や、隣近所・職場の人との行き来をしている人ほど、精神的な安らぎを得られる確率が高いと指摘している。また、人間関係については約64%の人が「難しくなった」や「どちらかと言えば難しくなった」と答えており、その原因として「地域のつながりの希薄化」が上げられている。
 一方で、地域のもっとも身近な活動単位である自治会への参加については、51.5%が「参加していない」と回答している。また「年に数回程度」と答えた人も35.8%いる。また、NPOなどボランティアや市民活動への参加は、さらに低くなっており、81.3%が「参加していない」と回答している。
 ところが、社会貢献への意識について質問すると、62.6%が「社会のために役立ちたい」と考えており、決して低い回答ではない。また、NPOなどボランティアへの参加意識については、51.6%が「今後は参加したい」と考えており、「現在参加している」と答えた人も合わせると、61.7%の人が前向きな回答をしている。
 ではなぜ、地域活動やボランティア活動への参加が困難となるのだろうか? この問いに対しては「活動する時間がない」「参加するきっかけがない」「身近に情報がない」といった回答が、多数を占めている。

(3) 松江市職員ユニオン08春闘アンケート
 松江市職員ユニオンでは、08春闘時にアンケート調査を実施している。この中で、地域活動に関する回答では「積極的に参加している」という意見も多かった。しかし「交流していない」という意見の方が圧倒的に多かった。この理由としても、「業務が大変で、肉体的、精神的余裕がない」との回答が一番多かった。また、市の職員として役職を任されている人が多く、生活への負担になっているという意見もあった。
 労働時間に関する回答においては、「業務量が多い」という意見が圧倒的に多く、その影響が家庭へ及んでいるようであった。超勤の原因としては、「業務量の増加」とともに、「内容が多種多様になっている」や「不必要な業務が多い」ということがあげられている。
 また休暇制度に関する回答では、「休暇を取りにくい」という意見が圧倒的に多かった。その理由としては、「休むなという職場の雰囲気がある」や「業務が忙しく、休んでもフォロー体制がないため、その分が全部自分に跳ね返ってくる」ことが上げられている。また、それにあわせて、健康面での不安を感じている人も非常に多かった。とりわけ精神的ストレスを感じている人が多く、「休暇をとりリフレッシュしようとしても、そういった気分にならない」という意見もあった。
 こうした結果からは、私達の職場の
① 業務量が多く、肉体的・精神的に余裕がない
② 業務内容が多様化する一方で、不必要な業務もある
③ 休暇が取りにくい職場環境
④ ストレスが多く、健康面でも不安が多い
といった実態が見えてくる。
 第3章の冒頭で述べたとおりのことが、実際に私達の職場においても起こっているといえる。

5. 第4章 社会貢献活動への参加

(1) 国民の意識調査
 内閣府が、2004年に地方公共団体に対して実施した「コミュニティ再興に向けた協働のあり方に関するアンケート」では、自治体だけでは提供できない多様なサービスの提供に関して、NPOに高い期待が寄せられていることが分かった。また、NPOとの協働事業により、地域住民の生きがいや、つながりの醸成に期待が寄せられていると言う結果となっている。
 またNPOからは、行政との対等なパートナーシップが求められている。
 2002年に内閣府が行った調査「ソーシャルキャピタル 豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」では、実際に活動をした人がどのようなことを得たかと言う質問に、20代から70代以上のすべての年代で「地域のさまざまな人とのつながりが出来た」という回答が1位となった。

(2) 協働が生む地域の活力
 住民の自発的で多様な活動を中心とした地域の様々な組織が、地方公共団体と対等の立場で協働することで、地域の中での人と人のつながりを生み、地域内で人・物・情報のネットワークを広めることにつながる。
 それが地域の活力を高めることにつながるのではないか。

(3) ボランティア活動の社会的効果
 地域活動やボランティアといった活動は、自治体にとって「多様なサービスの提供」や「地域住民の生きがいやつながりの醸成」といった意味で、大きな期待が寄せられている。一方、こうした活動に参加をした人からは「地域のさまざまな人とのつながりが出来た」や「活動にかかわる人との絆が深まって地域への愛着が生まれた」といった声が上がっている。

(4) 運転ボランティアの声
 実際に、運転ボランティアとして参加をしている松江市職員ユニオンの組合員からは、「最初は頼まれて参加しましたが、やってみると利用者さんからとても喜んでもらえて、やってよかったなと思います。運転ぐらいなら、私にもできることなので、こんなことで喜んでもらえるなら、これからも続けていこうと思います。自分だけならいいですが、利用者さんが乗っておられるので、事故にだけは気をつけるようにしています。」という感想をいただいた。
 ボランティア活動に参加をするきっかけは、いろいろあると思う。先ほどの感想にもあるように、きっかけとしては人に頼まれたのだけれども、実際に活動をしてみて様々なことを感じ「活動を継続しよう」という意欲を持つケースも少なくない。

6. 第5章 まとめ

(1) 社会貢献活動への参加
 松江市職員ユニオン08春闘アンケートにも現れているように、「業務量が多い」や「精神的・肉体的に余裕がない」といった問題は深刻なものである。
 松江市で働く私達は、公共サービスに携わる労働者である。毎日の業務自体が、市民の生活に深くかかわっている。その上で、地域社会への貢献と言うと拒絶反応があるかもしれない。また業務も複雑・高度化し、人員体制も厳しい中で、余裕がないという問題もある。もちろん、こうした問題を解消しなければ、私達が生活の中で「社会貢献活動に参加をしよう」という余裕は生まれてこないだろう。
 「ワーク・ライフ・バランスに関する世界意識調査」や「国民意識調査」、「松江市職員ユニオン08春闘アンケート」などからも伺えるように、私達は「問題解決に向けての具体的行動」や、「社会貢献活動への主体的関わりの形成」という面では、受動的である。
 しかし、私たち自身も地域社会の一員であり、地域の一住民であるということを、今一度振り返ってみる必要があるのではないだろうか。国民生活白書の中にも「社会貢献活動に参加をしている人ほど、自分が住む地域に誇りを感じている」ということが記されている。労働者としての視点に加え、生活者の視点で、地域の暮らしを見つめることも求められている。

(2) 意識の改革
  労働組合として業務改善を図るということは、職員の精神的・肉体的な負担の軽減だけではなく、職員それぞれが地域社会で主体的なつながりを求め、具体的な活動に参加していくことにもつながるとも言える。
 時間がないから社会貢献活動に参加しないという意識から、むしろ積極的に、人とのつながりを求めることが、精神の安定や人間関係を円滑にし、業務への意欲につながるのではないか。
 一人ひとりが社会貢献活動に少しでも参加するという気持ちを持ち、管理職も含めた職場全体で参加しやすい雰囲気を作ることが、業務の効率化にもつながるのではないかと考える。
 社会貢献活動への参加を促進する為には、きっかけ作りがとても大切である。前述の運転ボランティアの感想にもあるように、職場や身近な人や組織を通じて、活動に参加をするきっかけとなる声がけをしていくことも非常に有効であると思う。私たち自身も、社会貢献活動に参加することにより、安らぎや達成感を得られ、生活や労働への意欲を再生し、地域への愛着が生まれることにつながっていけば、それは松江市の地域活性化に向かって、大きな力になるのではないだろうか。

(3) たんぽぽサービスのこれから
 2006年の道路運送法改正を発端に、たんぽぽサービスはその運営に「運転ボランティアの確保」と言う大きな課題を持つこととなった。実際には、松江市職員ユニオンの仲間にも、多くのボランティア登録をしていただいている。しかし近年は業務が忙しく、活動の依頼をしても引き受けていただけない状況が出てきている。さらに、運転者講習受講の義務が始まれば、運転ボランティアの不足は、深刻なものとなることが予想される。
 社会貢献活動が持つ意義は、これまで述べてきたとおりである。今後も広く松江市民の協力を求めることはもちろんであるが、松江市職員ユニオンの仲間にも、引き続きたんぽぽサービスへの支援をいただけることを強く願っている。

(資料1) 福祉有償運送及び過疎地域有償運送に係る道路運送法第80条第1項による許可の取扱いの概要

(資料2) 金沢方式