【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

介護労働力の減少問題を考える
深刻化!! 介護労働力 減少……

島根県本部/松江市職員ユニオン・社会福祉協議会支部

1. はじめに……

 介護サービス従事者は1993年には約17万人でしたが、2000年の介護保険制度の導入により急増し、2005年には約112万人に達しています。しかし、「出生率の低下」と「平均寿命の伸長」が原因となり、「高齢者比率の上昇」が加速するなかで、昨年、厚生労働省は「団塊世代の高齢化に伴う介護ニーズをまかなうには今後10年間で介護職員を40万人-60万人増やす必要がある」との推計をまとめています。現状に比べて介護サービス従事者が4~6割増となる計算です。
 一方では、介護職場の現状は離職率が高く、人材難が深刻でもあります。また、介護福祉士の有資格者は約47万人(2005年9月末)いますが、そのうちの20万人は資格を持ちながらも介護現場で働いていない現状があります。相次ぐ制度改正で介護報酬は切り下げられ、介護職員はワーキングプア状態に陥っています。
 高齢化社会を支えるのに必要不可欠な介護職員がなぜ現場から去っていくのか。その背景には何があるのでしょうか。今後10年間で、増加必要数の人材が確保できるのでしょうか。
 そこで、介護労働の実態把握から、介護労働力の安定的確保の方策ついて検証していきたいと思います。

2. 介護労働の実態

 (財)介護労働安定センターが実施した 『平成18年度介護労働実態調査』によると、訪問介護員・介護職員の1年間(2005年9月1日から2006年8月31日まで)の採用率は29.0%で離職率は20.3%となっています。



 1年間の離職者のうち、勤務年数「1年未満の者」が42.5%、「1年以上3年未満の者」は38.3%で、離職者の8割以上が「3年未満」で離職しています。
 また、主な産業別の1年間の離職率をみると、「飲食店・宿泊業」に次いで離職率が高く、さらに全産業より2.8%高くなっています。


主な産業別の1年間の離職率
※訪問介護職員+介護職員の離職率以外は「雇用動向調査報告」厚生労働省2005年のデーターより

 次に介護労働事業所のうち、1年間の離職率階級別にみた事業所数の割合をみると、「離職率が30%以上」の事業所が25.4%で最も高く、次いで「離職率が10%未満」の事業所が20.6%となっています。


介護労働事業所のうち1年間の離職率階級別の事業所割合

 賃金においては、全体では、「月給の者」の平均賃金は213,837円、「日給の者」の平均賃金は11,986円、「時間給の者」の平均賃金は1,184円となっています。



 運営上の問題点では、「今の介護報酬では十分な賃金を払うことが出来ない」が45.9%で最も多く、次いで「介護サービス提供に関する書類作成が煩雑で、時間に追われてしまう」が43.7%、「経営(収支)が苦しく労働条件や福祉環境の改善をしたくても出来ない」が34.4%となっています。


運営上の問題点(複数回答=3件選択)


 次に、介護労働者を対象にした調査の中で仕事の満足度が高かったものは、正社員は「仕事の内容・やりがい」が55.3%、「利用者との人間関係」が46.7%、「職場の人間関係・コミュニケーション」が39.0%の順となっています。非正社員は、「仕事の内容・やりがい」が55.1%、「利用者との人間関係」が46.6%、「職場の人間関係・コミュニケーション」が43.4%と、正社員と同じ順位となっています。一方で満足度が低かったのは、正社員では「人事評価・処遇のあり方」が18.3%、「教育訓練・能力開発のあり方」が18.9%、「賃金」が21.1%の順となっています。非正社員では「福利厚生」が16.9%、「教育訓練・能力開発のあり方」が18.5%、「人事評価・処遇のあり方」が19.8%の順となっています。


仕事の満足度(正社員)

仕事の満足度(非社員)


 労働条件・仕事の負担についての悩み、不安、不満等(複数回答)では、「仕事内容のわりに賃金が低い」が40.3%、「休憩がとりにくい」が31.4%、「健康面の不安がある」が30.1%の順で多くなっています。


労働条件の悩み、不安、不満(複数回答)

 直前の仕事をやめた理由(複数回答)では、「自分・家庭の事情(結婚・出産・転勤等)」が28.3%、「待遇に不満(賃金・労働時間)」が27.2%、「職場の人間関係」が24.2%の順で多くなっています。


直前の介護の仕事をやめた理由(複数回答)

※(財)介護労働安定センター 『平成18年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査』 調査対象:全国の介護保険法で指定された介護サービス事業を実施する事業所の中から無作為に約1/2の事業所を抽出して調査を実施。(調査票配布数37,456事業所)有効回答は11,627事業所(回収率32%) 『平成18年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査』 調査対象:事業所調査の中で1事業所あたりにかかわる3人を上限に無作為に抽出した計112,368人に対して調査票を配布してアンケートを実施。有効回答は29,124人(有効回答率26.7%)


 この実態調査から介護労働者の高い離職率の背景には、介護労働者の処遇問題が大きな要因となっていると言えます。
 仕事の割りに賃金水準が低く、休暇や休息がとれない過酷な労働状況から健康や体力に不安を持っている職員が多い状況です。特に賃金水準では、平均賃金は213,837円で全産業平均334,374円(「雇用動向調査報告」厚生労働省2006年)を10万円以上も下回っています。その一方では、半数以上の職員が仕事の内容に満足し、やりがいを持っています。にもかかわらず、職務に対する社会的評価・人事評価に不安や不満を持っており、一生懸命働いても評価が低く報われない現状があると言えます。
 直前の介護の仕事をやめた理由でも、自分・家庭の事情に次いで待遇の不満(賃金・労働時間)が多くなっており、この状態では介護労働者の離職も否めません。
 事業所運営上の問題点でも「今の介護報酬では十分な賃金を払うことが出来ない」「経営(収支)が苦しく労働条件や福祉環境の改善をしたくても出来ない」との答えが多く、苦しい経営状況の中、介護労働者に対する十分な処遇を確保することが難しい状況であると言えます。
 松江市職員ユニオン社会福祉協議会支部としましても、職場内の実態を把握すべく、社協介護事業従事者の実態調査を実施いたしました。(一部抜粋)
○調査対象 介護事業従事者95人 (内訳:正規 15人、嘱託 20人、臨時 11人、 パート 49人)
○回答者数 46人(回答率:48.4%)
○調査期間 2008年5月9日~5月16日



 健康状態では、健康に不安を持つ職員が3割、疲れを感じている職員にいたっては9割いることがわかりました。仕事をしていく上での不安は、健康面が4割、雇用・賃金が2割となっています。
 サービスについては、できていると答えた職員が6割近くいる一方で、できていない理由として事業の過密や業務量が多いという実態もありました。
<あなたが福祉の仕事をやって良かったと思うことは?>
・利用者さんから、喜ばれたり、楽しかったと言葉を言われたり、感謝された時。
・人と接することが好きなので、充実感がある。
・状態の悪かった高齢者が改善し、自立した生活を送れるようになった時など。
<どうしたら健康な生活、明るい職場になることがでるか?>
・信頼でき、意見が言い合える職場。
・安心と自信が得られる職場環境。
・職員同士のコミュニケーションを密にとり、思いやりの心を持てばよいのではと思う。
<介護・福祉関係の労働や利用者の処遇改善に向けた国・自治体など行政への意見>
・福祉の現場は9K(「きつい」「汚い」「危険」「休暇が取れない」「規則が厳しい」「化粧がのらない」「薬に頼って生きている」「婚期が遅い」「給料が安い」)だと知ってほしい。
・介護福祉関係に関わる者が、全体的に底上げをし、より専門性を高められるような教育を施してほしい。
・精神的にも、体力的にもかなり重労働です。もっと賃金を上げてほしい。
・高齢者の行き場が圧倒的に少ない。国は現状を分かっていない。
<労働組合への率直な意見、要望>
・残業の少ない職場。
・各休暇がもっとほしい。
・賃金の不公平を是正していただきたい。

 介護労働者は、過酷な労働条件、低賃金や健康・生計などの不安を抱えながらも、仕事に対して誇りと熱意、やりがいを持って、現在の社会を築き上げられた高齢者と寄り添いながら、高齢者のゆとりある生活を援助できるよう働いています。
 少子高齢化はさらに進んでいきます。介護は誰もがいつか直面する問題です。介護労働者の処遇改善と介護サービス事業の経営安定化に向けて、早急に具体的な対策を講じなければならないと考えます。

3. 介護従事者の処遇改善と人材確保 国の動向

 国の動きとしては、2008年4月25日に「介護従事者処遇改善法案」(人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律案)が衆院本会議で可決されました。
 介護職員の人材確保をめぐっては、民主党が介護報酬を上乗せして職員の給与引き上げを目指す「介護労働者の人材確保に関する特別措置法案」を先に提出していました。この法案では、平均賃金の金額が一定以上となる見込の認定事業所に対して、介護報酬を3%加算することとしています。全事業所が認定事業所となった場合、2005年度の介護費用総額6兆円からみて介護報酬の3%すなわち約1,800億円の介護報酬増額となります。この増額分をすべて人件費に充当すれば、介護労働者約80万人(常勤換算)に対して、月額2万円程度の賃金引上げが可能になるとしています。現時点では、認定事業所となる事業所は全体の約50%と考えており、財源規模は900億円と推計されています。
 この財源は全額、税財源とし、介護保険料の引き上げはしないとしています。また、介護報酬の加算分は介護保険から10割給付にすることにより、認可事業所における利用負担額をアップさせないこととしています。今回、民主党はその法案を取り下げましたが、来年4月の介護報酬改定を視野に入れ全会派が共同提案する形で自民党案が可決されています。
 しかしながら、その法案条文には「介護を担う優れた人材の確保を図るため、2009年4月1日までに介護従事者等の賃金水準その他の事情を勘案し、介護従事者等の賃金をはじめとする処遇の改善に資するための施策のあり方について検討を加え、必要があると認める時はその結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」という一文のみで、具体性に乏しく抽象的な法案という指摘もあります。また、介護現場の窮状を改善するには、中身よりも法律の制定を優先させたという見方もあります。
 5月16日の参院本会議では、インドネシア人の看護師や介護福祉士の受け入れを柱としたインドネシアの経済連携協定(EPA)が承認され、7月から今後2年間で、インドネシアで一定の実務経験がある看護師400人と介護福祉士600人を受け入れることとしています。両国の仲介機関を通じて、来日希望者と求人施設とのマッチングが行われ、来日したインドネシア人は半年間、日本語等の研修を受けた後、受け入れ先の病院や施設で看護師の助手や介護職員として働くことになります。但し、ビザの有効期間中(看護師3年、介護福祉士4年)に日本の国家試験に合格しなければ帰国しなければならないということや、受け入れ施設側の手数料負担が一人当たり60万円などの条件があります。(2007年度 看護師国家試験合格者 46,342人 合格率90.3% 、介護福祉士国家試験合格者 145,946人 合格率50.4%)
 この受け入れについては、人手不足にあえぐ介護業界からは歓迎の声も上がっていますが、厚生労働省は、あくまでも「人手不足対策ではなく、労働市場の開放を求めるインドネシア側の要求に基づき、EPAで受け入れを盛り込んだことに対応した」としています。また、日本看護協会や日本介護福祉士会は門戸開放には反対しています。国内の介護労働力を確保するには、賃金をはじめとする処遇向上と潜在的な資格保有者の雇用促進・職場復帰の対策が優先であるとしています。

4. 今後の課題の整理

 まず、第一に取り組むべきことは、介護労働者の賃金等の処遇の改善であると考えます。
 そのためには、来年4月の介護報酬引上げは必須でありますが、介護報酬には訪問介護や居宅介護支援などのサービス事業ごとに、具体的に「単位」が定められ、人件費や賃料の地域格差もあることを考慮して、上乗せの「地域加算」が設けられています。したがって、それらの介護報酬水準が適正に反映されるよう、様々な角度から具体的に分析していく必要があると考えます。その分析に基づき、国も、民主党が当初提起した積極的、かつ実効性のある施策を講じなければならないと考えます。介護報酬は保険料と税金による政府の介護保険で賄われていますので、国民の合意に基づく負担の見直しも必要であると考えます。
 次に、働いている介護職の定着率向上に向けては、賃金水準だけではなく、仕事の評価(人事評価・処遇)についても改善を図る必要があります。今後、介護サービスに関する需要が増える中で、法案の条文にあるように「介護を担う優れた人材の確保」をしていくためには、専門職として介護労働者の地位・社会的評価を確立させていかなればならないと考えます。
 さらに、就業形態や能力に応じた人材配置、能力開発を促進する適正な人事労務管理を進めていく必要があると考えます。
 20万人いる「潜在有資格者」の活用については、実質的に就労可能な「潜在有資格者」の実態を把握していくことが先決であると考えます。資格を持ちながらその職に就いていないわけですから、そのうえで、具体的な対策を行わなければならないと考えます。
 外国人介護労働者の受け入れについては、十分に議論される必要があると考えます。「人員」の確保という点では、ひとつの選択肢であると言えますが、利用者や職場でのコミュニケーション・言葉や文化の違いなど様々な問題があります。介護は利用者の生命・生活・人生に関わる仕事です。
 利用者の尊厳を守るケアを行うには、文化・ライフスタイル・習慣などを十分に理解する必要があります。また、受け入れ側も、外国人労働者の文化の違いなどに配慮することが必要であり、今後受け入れのあり方についてはさらなる検討が必要であると考えます。
 介護労働力の減少問題は、一過性のものではなく長期的な対策でなければ、さらに進む超高齢化社会を支えていくことはできないと考えます。一部の関係者だけの問題ではなく、国民が理解し自分のものとして考えなければ、本当に充実した「福祉社会」の実現にはならないのではないかと考えます。

5. 組合として求められる対策

 組合としては、介護職場で働く労働者の働きがいを高め、質の高いサービスを安定的に提供することができる職場環境の支援を行っていくことが必要であると考えます。具体的には、顕在する賃金格差の是正を強く求め、労働条件の改善や安全衛生体制の促進として、時間外労働の縮減や休暇取得の推進について積極的に取り組んでいく必要があると考えます。
 また、職員の定着・能力開発を促進し、専門性やスキル形成を行うため、資格取得や継続的な研修の機会を持つよう要求していくことが必要であると考えます。利用者・介護職双方の可能性を広げる経営・事業戦略、人事管理のあり方について、当局に強く要求していく必要があると考えます。
 労使が共に、更に魅力ある職場づくり、利用者に選ばれるサービスを実現することで、職員の労働環境に還元し、さらに利用者・介護職の満足度向上・経営の安定が図れると考えます。