【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

行政におけるリハビリテーションサービスの検討


島根県本部/松江市職員ユニオン・病院支部

1. はじめに

 現在、松江市保健福祉総合センターは、市立病院に併設して整備され、保健福祉の統合型拠点施設の役割を担っている。その中で、2階部分の渡り廊下は市立病院とつながり、連携の架け橋となっている。しかし、保健福祉総合センターには行政におけるリハビリテーションサービスはなく、既存の5つの事業(保健センター、子育て支援センター等)は、市立病院とは孤立した状態で、相互連携も希薄である。今回、保健福祉総合センターにおいて行政におけるリハビリテーションサービスを導入することで、連携の強化を図ると共に、さらなる地域リハビリテーション推進活動に努めていきたいと考える。

2. 目 的

① 行政サービスとしてのリハビリテーションサービス検討
  直接援助・組織化活動・啓発教育活動
② 地域リハビリテーションの拠点施設としての検討
  施策づくり・情報の統合・専門機関への支援
③ 住環境整備(福祉用具導入、住宅改造、相談業務)などの在宅支援
④ 市民の活用できる市民の為の施設への検討イベントの企画
  ・全てのライフステージに対応した施設へ
⑤ 障害児者・患者会・家族会・ボランティアの活発な活動が出来る施設への検討
⑥ リハ的立場から併設されている市立病院との連携を図る

3. 北九州市(福岡)、箕面市(大阪)における地域リハビリテーション推進活動の実態

(1) リハビリテーションシステム
① 北九州市におけるリハビリテーションシステム~北九州方式~
  北九州市は高齢化社会にむけ1993年4月「北九州市高齢化社会対策総合計画」策定、高齢化社会の課題を「北九州方式」とも言うべき「住民との協働による新しい地域福祉システム」構築、保健・医療・福祉の一体的サービスを実現した。この仕組みは高齢化社会対策のみではなく、障害者や児童・母子福祉対策等をも含まれる。
② 箕面市におけるリハビリテーションシステム
  箕面市は国のゴールドプランに先行する形で、1989年に学術的提言「明日にはばたくライフプラザ計画」を策定し、1991年に「ライフプラザ基本計画構想」において施策を推進してきた。さらに1993年に策定した箕面市保健福祉計画において、「リハビリテーション」に対する市レベルの方向性を示すこととなった。

(2) 市レベルに位置する保健センターの役割
① 北九州市総合保健福祉センター(アシスト21)
概要: 総合保健福祉センターはレベルの中核施設として整備され、保健・医療・福祉に関するセンター内の様々な施設が、北九州市の三層構造による地域福祉のネットワーク全体に対して、専門的・技術的かつ広域的な立場から支援を行っている。
入居施設:  
  講堂:保健・医療・福祉関係の講習会、研修会、展示会等多目的に使用できる空間になっている。有料だが一般への貸し出しを行っている。
小倉北ふれあい保健所:一般の保育の他に、病後児保育、一時保育、夜間保育等を行っている多機能保育所である。
障害福祉センター:身体障害者及び知的障害者更生相談業務(手帳の交付、補装具の適応判定、相談など)、在宅施設を支援するためのリハビリ訓練・評価・地域リハビリテーション推進、障害程度区分認定審査会の運営、区役所などに対する技術的支援などを行っている。また、110を超えるセルフケアグループ(障害者当事者会)の情報提供・相談を行い、同じ悩みを持つ当事者の方々同士が交流したり、情報交換したり、レクリエーション的な活動をしたりなど様々なことを企画・運営されている。
健康づくりセンター:生活習慣病(成人病)予防軍に対して、運動・栄養・休養のプログラムを提供し、健康的な生活習慣の確立を支援している。また、医療機関、民間のスポーツクラブなどと提携し、市民の健康づくりを促進している。また、同階の精神保健福祉センターは、精神保健福祉に関する知識の普及啓発や研究調査、精神障害者の社会復帰支援、関連機関に対する支援や教育・研修などを行っている。
保健・医療・福祉情報センター:保健・医療・福祉に関する図書、雑誌などの閲覧や貸し出し、市立図書館ネットワークやインターネットなどを利用した情報収集・提供などを行っている。
福祉用具プラザ北九州(介護実習・普及センター):すべての市民が、住み慣れた家庭や地域で、安全で活き活きとした生活が送れるよう、ご本人や家族、施設従事者等を対象とした介護講座や研修(実習)等を行う施設である。
 福祉用具やモデル住宅の展示・体験利用、介護や福祉用具に関する相談対応、リハビリ工房での福祉用具の改良、自助具の製作・提供等の活動を行っている。
 また、「北九州ブランドの福祉用具」の開発・支援や、中途視覚障害者の歩行・パソコン・家事等の生活訓練を実施している。
 多くの関連用品の展示がされ、そのわかりやすい説明書きがなされ、介護保険の流れやサービスの分かりやすい説明の掲示、福祉に関するDVD鑑賞スペース、福祉用具資料の棚の設置などの市民に分かりやすい情報提供手段をとっていた。
② 箕面総合保健福祉センター
概  要: 箕面ライフプラザは大きく分けて総合保健福祉センター、リハビリテーションセンター、市立老人保健施設の3棟からなる。同プラザの北面には箕面市立病院と隣接し、南面には保健所箕面支所がある。このエリア全体で保健・医療・福祉サービスの相談から提供までが完結するように配置されている。総合保健福祉センターには入口を入ると2階まで吹き抜けのオープン・スペースとなり、喫茶店など一般利用者向けのスパースのほか、市の保健・福祉担当部門が運営する総合相談カウンターをはじめ、医療保健センター(総合健康診断施設)、福祉用具展示・相談コーナーなどが入っている。
入居施設: えいど工房(福祉用具展示・相談コーナー)
業務内容: 福祉用具の展示と相談、住まいの相談・住宅改造の相談、自助具製作ボランティアの育成、自助具製作や機器修理、介護知識や技術の普及、保健医療福祉関係職員に対する福祉用具や介護の研修、在宅リハビリテーション等における機器の適応と評価、福祉用具の再利用(福祉用具リサイクル)等である。
相 談 日: 月曜日の午後、理学療法士・作業療法士が行う。
ボランティアグループの関わり:自助具の作成
  例)ラップボード・車椅子用ブレーキ延長レバー・フック式リーチャー・ソックスエイド・持ちやすい箸・トランプ立て・手首防護カバー・車椅子用転落防止ベルト・ホルダー付きスプーン・ストロホルダー・台付爪切り・その他多数。
 センター内は行政の硬い感じがない空間づくりがなされ、一般貸し出し可能な会議室、各作業所と連携した喫茶店やフラワーショップ、服店、理髪店もあり、市民にとって塀の低く親近感のあるセンターづくり、市民が協力し合う場の提供がなされていた。また、ボランティアグループの製作した自助具や多くの福祉用具を展示する福祉用具展示・相談コーナーでは市民が見易いように展示が工夫され、掲示板・資料による情報提供、専門家(PT・OT)介入による相談業務など行われていた。

(3) 行政におけるリハビリスタッフの役割
① 北九州市(2007年10月1日現在)
 ア 障害福祉センター(3F)/職員数:理学療法士(以下PT)3人・作業療法士(以下OT)3人・言語聴覚士(以下ST)1人/業務内容:身体障害者更生相談所、障害認定係、地域リハ及びリハビリ支援部門(地域リハ事業、介護予防支援事業、その他)
 イ 精神保健福祉センター(5F)/職員数:OT1人/業務内容:精神障害者の社会復帰支援関連機関に対する支援や教育・研修
② 箕面市
 ア リハビリセンター/入院・外来リハ、リハ研究、早期療養事業
 イ 総合保健福祉センター/機能訓練事業(のびのび教室):40歳以上で医療修了者対象、在宅リハ:えいど工房の福祉用具を在宅へ持ち出し評価、コミュニティリハ事業:研修会・講習の開催

(4) 視察報告まとめ
 松江市における地域リハビリテーション実践活動(保健福祉総合センター利用方法などを考えるにあたり、視察を通しキーワードとなるのがやはり『連携』であると感じる。そのポイントとして、在宅復帰意欲を低下させない計画づくりや介護指導による負担と不安を軽減するような患者家族の理解を促進する事、急性期~維持期まで一貫した患者様本位にたったサービス提供、連携業務の一本化(専従業務)・情報公開など顔の見える連携、切れ目のないサービス提供の必要性を認識させる人材育成、在宅生活を支援する関連機関とのネットワークづくりなどである。これらのポイント(連携)を考慮し、切れ目のないリハビリテーションサービスを提供するためのパートナーシップを構築し、患者・家族の希望に応じた転院や施設入所、在宅生活を支援するための協働のしくみである北九州方式は今後参考となる点が多いものである。
 しかし、北九州方式という連携システム、そして総合保健福祉センターという立派な設備がありながらも、関連機関との連携が乏しいことが問題点としてみえてきた。箕面市においても同様な事が言えるのが現状である。また、行政で勤務するPT・OTの他職種からの認識が乏しくその必要性が浸透せず雇用が少ない、またリハビリの学校教育でもその実態は示されないため希望者が少ないなどの現状がある。より良いサービスはあるが、市民へのアピール不足なのか利用が少ないサービスがあるのも課題である。やはり、設備が整っていても、サービスを市民へ広げる、自らの専門性を他職種に広げる内部的なところの充実を図り、連携を深める事が大切であることを感じた(ハードよりソフト面の強化)。

4. 松江市の現状と松江市における地域リハビリテーション実践活動の構想

(1) リハビリテーション視点からみた松江市の現状と課題
① 保健福祉総合センター
  松江市保健福祉総合センターは、新市立病院に併設して整備された松江市の保健福祉の統合型拠点施設である。建物としては、鉄筋コンクリート3階建て、延べ床面積5,126m2だが、新市立病院と2階部分が渡り廊下でつながれ、電気・ガス・水道・空調等のエネルギーセンターは病院にあり、そこからの供給を受けているので新病院との一体的な施設といえる。保健福祉総合センターの機能は、保健福祉に関する五つの機能・事業から成り立っている。
 ア 保健センター
 イ 子育て支援センター
 ウ すこやか保育室
 エ 湖南地域包括支援センター
 オ 障害者生活支援センター
② いきいきプラザ島根
  福祉と生涯学習の島根県における拠点施設として1995年7月7日にオープンした。
  最新の福祉関連機器、情報機器、映像音響機器などを備え、情報の収集・提供、人材の養成、各種相談や支援を行っている。
  いきいきプラザ島根は、多くの人が訪れ交流し、最大限に活用してはじめてその機能を発揮する。
入居施設: 1F  会館事務室、島根県介護研修センター、体育館、軽食喫茶室「びぶるⅡ」、PRコーナー
  2F  島根県立母子福祉センター、島根ふれあい環境財団21、島根いのちの電話、福祉人材センター、島根県社会福祉協議会、法人支援部・障害者福祉部、島根県立心と体の相談センター、島根県ろうあ連盟、島根県精神保健福祉会連合会、研修室
  3F  島根県聴覚障害者情報センター、島根県生涯学習推進センター、情報閲覧室・視聴覚センター、情報処理室、映像編集研修室、研修室
  4F  研修室、調理実習室、シマネスクくにびき学園事務室、談話コーナー、学生ホール
  5F  島根県社会福祉事業団、島根県運営適正化委員会、島根県社会福祉協議会、島根県共同募金会、島根県ボランティア活動振興センター
  屋外施設  園芸実習室、温室、陶芸実習室、陶芸炉、ゲートボール場、ふれあい広場
③ 松江市におけるリハビリテーションシステムの問題点
 ア テクノエイド施設の専門家(リハスタッフ)の関わりが薄いのでは?
 イ 病院退院者のフォローアップ不足(退院後の関わりが薄い)ではないか?
 ウ 関連機関との連携が乏しいのではないか?
 エ 市立病院リハビリOBの方々の声
   ⇒身近にないと利用しにくい
   ⇒中間的な年齢層には受けるサービスがない
   ⇒気軽に利用できる場所がほしい(各種教室開催など)
   ⇒病院・施設が変わると、また一からのスタートになる 等

(2) 自治体におけるリハスタッフの仕事とは
① 自治体内部で勤務するPT・OTの誕生
  1963年「老人福祉法」施行:先駆的市町村の一部の医師・保健師、PT・OTが献身的に機能訓練などを展開
  1983年「老人保健法」施行:機能訓練事業・訪問指導の保健事業などの直接的サービスを展開


民間医療機関や施設等で勤務するPT・OTとの違い
 

自治体

民 間

対  象

圏域全体の住民

限定される

サービス

施策化しサービスの普遍化可能
事業を横断的につなぐ
コミュニティの再編
⇒介護講習会・ボランティア育成など

柔軟かつ多様な提供
独創的なサービスの創出
一時的なサービス提供


② 自治体勤務のPT・OTの視点
  自治体本来の役割⇒地域住民の生活保障・生活支援
 →低い要因とは……
 ア 自治体の採用枠が少ないかまったくない

・当該職種に対する国庫補助制度がなく、さらに財政基盤の脆弱な地方都市においては、市区町村単費で人件費を賄うのが困難なこと
・市区町村などの行政機関が、当該職種を雇用する意義・目的を明確に持ち合わせていない

 イ 自治体に勤務する意向はあるが採用年齢枠があり困難(新卒者は医療機関指向)
③ 就業内容
 ア 直接的サービスの提供(大半)→事業の消化のみに追われ、漫然と実施してしまう
 イ 対象者の記録
 ウ 関連職種・機関などとの会議(調整)


*事業(サービス提供)を通し明らかとなったニーズをいかにサービスとして施策化できるかが重要である
*主観より客観的データの蓄積(対象者数・実施回数・実施内容、アンケートなど)
  ⇒事業効果、当事者の声を整理することは施策化を考える上で重要である
*自治体事務職員に活動やサービスの重要性を常日頃アピールすることが重要である
  ⇒関連職種や機関の理解と協力なくして、縦割り行政といわれる自治体内部ではうまく運ばない


(3) 松江市における地域リハビリテーションシステムの構想
① 保健福祉総合センターと松江市立病院の業務連携
  松江市保健福祉総合センター兼務の松江市立病院リハビリテーションスタッフによる直接援助活動、組織化活動、啓発活動を展開することで、発症から在宅復帰、その後の生活まで一貫したリハサービスを提供する。




直接援助活動 …… 訪問指導事業、リハビリ相談事業、機能訓練事業の実施。テクノエイド機能と連携した住宅改造支援事業
 例)通所・訪問サービスによる医療修了者への機能訓練事業の展開を行う
 例)地域住民の相談への対応を行う
組織化活動 …… 地域リハビリテーションの実践に向けた研修会や関連機関の連携を図り地域を組織化していく活動を行う。
 例)地域レベルの関連団体、患者・家族会等の設置と運営・育成による松江圏域のネットワークを構築する
 例)地域リハビリテーション従事者への支援や研修会を行う
啓発活動 …… 公民館単位でのリハビリ教室、地域リハビリテーション祭り等の開催による一般市民への啓発活動を行う。また、家族介護講習会による介護指導やボランティアの育成を行う。
 例)介護指導などの講座を通し、患者・家族の不安や負担を軽減する
 例)ボランティア育成により地域における介護支援者の確保を行う
 業務連携において保健福祉センターと病院兼務のリハスタッフが相互業務、情報交換を行う事により連携強化を図る。また、必要があれば病院専従のリハスタッフが支援・派遣に向かう。



 具体的なスタッフの配置として、病院専従は急性~回復期・回復期リハ担当とし、回復~維持期リハ担当スタッフを維持期のリハビリテーションを担う保健福祉総合センターと兼務する。
*現在、回復期リハスタッフの大きな役割として、在宅復帰に向けた日常生活訓練にあり、在宅に近い回復期リハスタッフが兼務することで、退院前から退院後のフォローアップと一貫したサービス提供を担う




② 保健福祉総合センターと松江市立病院の役割
 ア 保健福祉総合センター
  ・介護保険の対象とならない虚弱老人を対象に保健予防的立場からのリハビリを実施する
  ・介護保険制度における介護予防事業や公民館単位でのリハビリ啓発活動
   (センター内に機能訓練スペースを設置し、また出前で公民館等に行き健康高齢者の育成を図る)
  ・訪問指導事業
  ・テクノエイドセンター機能
   (センター内に福祉用具展示・情報提供の場を設置し、専門家(リハスタッフ)の適応評価・導入、相談の窓口を担う)
  ・地域リハビリ支援センター機能
  ・ITを活用したネットワーク化と情報発信
  ・地域リハビリ事業計画を策定し、松江圏域の地域リハビリを総合的に推進する
 イ 松江市立病院
  ・急性期から回復期の入院患者のリハビリを中心に担う
  ・維持期のリハビリは退院後の外来患者で医療保険適応患者とし、最低限の機能とする
  ・介護保険適応となれば早期に移行する

5. 今後の活動と展開

 今後は引き続き、先駆施設の視察を通し、松江市における地域リハビリテーション推進を構想・実践していく。また、病院臨床場面、リハビリOB会等を通し当事者の声に耳を傾け続け、真に必要なサービスを検討していく。